姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

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馬車を出たら、そこは

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 いやいやちょっと待て、どういうことだ。一気に色々ありすぎて意味が分からない。とりあえず整理しよう。

 姫様毒殺未遂事件の犯人が隣国アステアにいるかもしれないと目星をつける。→アステアに行こうとした時(運がいいのか悪いのか)アステアに誘拐される。(姫様と間違えられた)→誘拐犯が私に護衛(アステアの第三王子)を頼む。色々便宜を図ってくれるらしい。私は彼らと上手く通じて(もとい利用して)姫様毒殺未遂事件の犯人探しをすることにした。ちゃんちゃん。

 ――――何故こうなった!?
 言いたいことは山ほどあるが、とりあえず落ち着こう。

「……あなたたちは姫様毒殺未遂事件については何も知らないのよね?」
「知らないってばぁ」
「すまねぇな……その代わり、ちゃんと犯人探し手伝ってやるからよ」

 ふむ、やはりこのふたりではないようだ。

「……あ、でもぉ。この前チラっと噂話を耳にしたんだぁ。トリカブトがどうのこうのって。確かおたくのとこの姫様が殺されかけたのもトリカブトだったよねぇ」
「えっ……そ、そうよ。ちなみにそれ、どこで聞いたのかしら」

 隠しきれない動揺が私の胸を貫く。姫様を毒殺しようとした犯人がアステアにいるかもしれないといい恐怖なのか、犯人がすぐ見つかるかもしれないという安堵や喜びなのか。

「下町の酒場でチラッとねぇ。世間話程度にしてた話だから出処は分からなかったけどねぇ」

 たしかにこれは有力な情報だ。この国にもリエールの状況を細かく知っている人間がいるということは分かったが、まだ情報が少なすぎる。
 だが、私自らアステアに行って、護衛をしつつ王宮でメイドや使用人たちの噂話を立ち聞きくらいすれば、事件解決に一歩近づくかもしれない。

「――――本来わたくしは姫様のもとでしか動きません。しかしやむを得ません。第三王子の護衛、しかと引き受けました。最大限の便宜を図ってくださいね、ノリア、ルーノ」

 ――――斯くして、私はアステアの第三王子の護衛ないぶちょうさに行くことが決まった。

 ◆◆◆

「はーい、着いたぁ。アイリスちゃん、ここがアステアだよぉ」

 ノリアの声が遠くで聞こえる。

「……嬢ちゃん、起きろ。着いたぞ」

 ルーノが私の肩をゆさゆさと揺らしている。

「……アイリスちゃーん……?」

 耳元で聞こえたノリアの声に、私の意識は急上昇する。

「はいっ!?何事でしょうか、姫さ…………」

 寝起きなのだから意味の分からないことを口走ってしまうのも致し方がないことだろう。アレだ、学校の先生のことをお母さんと呼んでしまった時のようなものだ……これは多分ノリアに一生いじられるやつだ。

「……おはよう、アイリスちゃん。しっかし、よくもまぁ馬車の中でぐーすか寝てられるよねぇ」
「あぁ。それはもう気持ちよさそうに寝ていたな」
「……お恥ずかしい限りで」

 そう、私は第三王子の護衛をすると決まり、決意を新たにしたところで意識が途絶え――眠りについた。
 これは異世界人だから分かることなのかもしれないが、アレだ。誰かが運転している車の後部座席で眠る心地良さ。
 程よく整備された道路を走ったり止まったり、時折揺れたり。これが、人間の眠りを誘うには十分すぎる心地良さなのだ。皆さんも一度は経験があるだろう。

「とにかくぅ、もう着いたんたってばぁ。早く行くよぉ」
「あ、はい」

 ノリアに急かされ、私は馬車を出た。


 馬車を出たら、そこは異世界だった。――まぁ、この世界自体が私からしてみれば異世界なのだが。
 ここはリエールとは大きく違う――良い意味でも、悪い意味でも。

 リエールは内陸国なので海がない。しかしアステアは海に面している。馬車を降りた瞬間、ごくわずかに、ほんのりと、磯の香りがふわりと私の鼻腔をくすぐった。見える範囲に海はないが、長年海風に晒されてきた街なのだ。磯の香りが染み付いて当然だ。

 しかし……どうにも街に活気を感じない。リエールではアステアほどの絢爛豪華な雰囲気の王宮ではないが、城下町がそれなりに活気づいていた。
 しかし、アステアにはそれが感じられない。
 リエールよりも圧倒的に煌びやかなはずの王宮が、活気づいているはずの城下町が、やけにさびれているように感じる。

「この国はねぇ……ちょーっとだけまずいことになってるんだよねぇ」

 ノリアが口を開いた。

「まずいこと?」
「うん。だってぇ、リエールのお姫様を誘拐しようとしてぇ、ミスってそのメイドちゃん連れてきちゃっただけでもまずいのにぃ、その子を第三王子の護衛にしちゃうなんてさぁ。経済成長を遂げたリエールなら、アステアなんて国あっという間に潰せちゃうだろうねぇ。そうでなくともぉ、今のアステアは経済崩壊寸前でぇ、結構大変なんだよねぇ」

 珍しくノリアが長々と話した。

「お、珍しいじゃねぇか。ノリアがそこまで人と話すなんてよ」

 ルーノも同じことを思っていたらしい。私から言うのはさすがに怖いので黙ってはいたが、ルーノが言ってくれて助かった。ありがとう、と心の中だけで告げておく。

「それと、他にも困ったことがあるんだよ」
「他にも?」
「あぁ……第三王子の護衛をわざわざ隣国から来たメイドに頼んだ――頼まなくちゃいけないこの国の状況は、多分嬢ちゃんが思ってるより深刻だ」
「……確かに」

 本来なら国内で護衛なり騎士団なりが存在しているはずだし、そもそも隣国のメイドに護衛を頼む(なおメイドは主と誤って誘拐された模様)なんてこと、普通はありえない。

「何がそうさせたの?……この国を、そんなところまで追い詰めたのは何故?」

 そう問えば、ノリアが口を開いた。

「……現国王が結構お年を召しているんだけどぉ、その人がそろそろ後継者が必要だって言い出したのぉ。自分の死期でも分かるみたいにねぇ」

 それは不思議なことだ。

「そしたらまぁ、分かるよねぇ。後継者争いって言うのかなぁ?」
「正当な後継者は第一王子なんだけどよ、第一王子は国のためなら他国のことは厭わないっていう過激派でな。市民からしてみればそれは嫌なんだよ。んで、第二王子は平和主義なんだよ」
「ふぅん……じゃあ、第三王子は?その人も正当な後継者なんでしょ?」

 そう問うと、ノリアとルーノは静かに首肯した。

「でもねぇ、第三王子は何て言うか……ねぇ?」
「あぁ……なんて言ったらいいのか」

 先程までの饒舌っぷりはどこへやら。一気に大人しくなり、ごもごも言い出した。

「「性格がクソ」」

 ノリアとルーノは口を揃えてそう言った。
 普段から噛み合わなさそうなふたりが声を揃えてまで言うことだ。きっとそのクソっぷりは想像を絶するレベルなのだろう。

「だから国民は第一王子派と第二王子派……それから第三王子派に分裂したんだけど、なんせ第三王子は人気がなくってね。できれば今すぐにでも殺したいって輩がいるみたいなんだよ」
「……益々不安になる」
「大丈夫、嬢ちゃんはそう不安にならなくてもいいぞ。おれ達が愚痴なりなんなり聞いてやるからよ。それにおれ達もクラジオ様の護衛だからな、一緒にいれる時はいてやるよ」

 ……ルーノを兄貴と呼びたい。兄貴、イケメン。好き。

「でもほらぁ、よく考えてみてよぉ。普段からポーカーフェイスなアイリスちゃんが嫌悪感を表に出してるんだよぉ?オレっちとしては第三王子とどんどん関わって欲しいくらいなんだけどねぇ」

 ……ノリアはダメだ。まさか第三王子はコイツを超えるクソなのか、そうなのか?もしそうだとしたら無理だ、生理的に受け付けない。


 なんて会話をしながら、私たちは王宮に入った。

 ◆◆◆

 この時の私は気づいていなかった。
 ――前世で私がプレイすることが叶わなかった『ドキ夢』の続編、『もっと!ドキドキ!夢の花咲く王宮で』通称『もっとドキ夢』のストーリーに、私が巻き込まれているということに――。
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