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最終話 今までで一番幸せな日
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姫様の結婚式を無事終え、自室に帰るなり私はベッドにダイブした。
前世から望んでいた光景を、姫様の幸せそうな表情を今この目で見てきたことが信じがたく、「もしかしてこれは夢なんじゃないか」と何度も思った。
……ベッドにダイブした時、思い切りベッドボードに頭をぶつけ、ありえないくらい痛かったので、これは夢ではないのだと身をもって実感したのだが。というかこうしている間も痛い。
と、頭を抱えてベッドの上で悶絶していると、扉をノックする音が聞こえた。
はーい、と返事をしたが、来客者は一向に入ってくる様子はない。
「入っていいですよ」
「……何度言えば分かるんですか、危機感と警戒心がなさすぎるんですよ。ここに来たのが私めでなかったら、一体どうなさるおつもりですか」
「こんな時間に訪ねてくる人間は限られてますから」
「言うようになりましたね」
苦笑しながら部屋に入ってきたのは、案の定ヴェロールだった。
「で、早々に本題に入らせていただきます」
「……返事の件ですよね」
「分かっているなら良いです。今日中に返事はいただけますか?」
「はい。……というか、ヴェロール様も気付いているでしょう、わざわざ返事しなくとも」
「気付いていますよ。ですが、それが私めの勘違いだったら嫌じゃないですか。それに、こういったことは直接言ってもらいたいものですから」
とは言っているが、ヴェロールは心配そうな顔はしていない。私が告白を断るとは思っていないのだろう。
些か悔しい話ではあるが……仕方あるまい。
「……わたくしは、」
今日こそ、言うんだ。
「ヴェロール様のことが、」
もう何も恐れるものは無い。姫様は幸せになったんだ。私がこの目で確認した。……だから、言うんだ。
「心の底からお慕いしております。……いえ、違います。そんな言葉じゃ伝えきれないくらい、大好きです」
そう言った途端、私は温もりに包まれた。
「はぁ……ようやく言ってくれましたね、アイリス。ここまで随分かかりましたが、まぁいいでしょう」
「ふふっ……すみません。わたくし、かなり前からヴェロール様のことが好きだったんです。ですが、どうにも一歩が踏み出せなくて。……待っていてくれて、ありがとうございました」
「いえ、私めの方こそ、そう言ってくださって嬉しいです。私めの思いに答えてくださって、ありがとうございます。……想いが通じ合った証に、私めのことはヴェロールと、呼んでいただけませんか」
「はい、喜んで。わたくしのことも是非、アイリと」
「分かりました、アイリ」
そう笑い合い、どちらからともなくキスをした。
姫様が幸せになった今日この日。
ハッピーエンドの裏側で、私も幸せを掴んだ。
「……愛しています、アイリ」
キスの合間に告げられたその言葉に、そして想いが通じ合った後の甘いキスに、私はただ酔いしれることしかできなかった。
翌朝。
チュンチュンという鳥の鳴き声で目を覚まし、ベッドから起き上がる。
んー、と伸びをし……隣にいるはずのない人が存在していることに、私は目をむいた。
「ななな、なんで……!」
「……ん、あぁ、おはようございます、アイリ。昨夜はとても楽しめましたね」
「ま、紛らわしい言い方はやめてください!」
「アイリは忘れてしまったんですか、残念です。……そうなれば必然、思い出させなければいけませんかね」
「いや、あの……!わたくしの身は清いままですよね!?」
「さぁどうでしょう。……昨夜のアイリはとても素直で可愛らしかったですね」
「ちょ、シャレになりませんよそれ!わたくしに一体何をなさったんですか!」
「……ふふ、冗談ですよ。アイリの身は清いままですよ、まだ」
「まだって何ですか、まだって!」
そんな恋人らしいようで、かなり頭の悪い会話をしつつ、私は起き上がって準備を始めた。
「……というか、本当に何でわたくしのベッドにいるんですか」
「恋人なら普通のことでしょう?」
「いやそうなんですけど、いつの間にって話です」
「いやぁ、私めとしたことが、今まで溜めていたものを全て吐き出してしまって……あまりの激しさに、アイリが事の最中に気絶してしまいまして。ですから、看病のために添い寝をしていたのです」
そうかなるほど、おおよその状況は掴めた。……だが。
「――さっきから言葉選びに悪意を感じるのですが」
なんだ、「事の最中」って。ただキスしただけじゃないか。……ま、まぁ確かに、そのキスが激しかったのは否定できないが。
普段はブリザードが吹き荒れていそうなほどに冷たい瞳が、昨夜ばかりは熱く燃え上がっていた。その瞳は獲物を前にした肉食獣のようだった。
全てを喰らい尽くされてしまうのではと錯覚する程に甘く、深いキス。私はそのキスに翻弄され、いつの間にか意識を手放していた。
――かなり気持ちよかった。
……って、私は一体何を思い出してるんだ。
「冷めた目を向けてきたかと思えば、急に顔を真っ赤にして。忙しい人ですね。……もしかして昨夜のこと、思い出しました?」
「~~っ、」
残念なことに、反論の言葉は出てこなかった。
気を取り直して、朝食。
「アイリ、相談があるのですが」
「はい?」
「……結婚式、したいですか」
「結婚式、ですか」
「はい。私めとしては、勿論挙式したいのですが、アイリはどう思っているのか、気になっていまして」
気を利かせて部屋の前に朝食を2セット用意しておいてくれたのは、恐らくドドリーだろう。ありがとう。
朝食を食べながら、私は考える。
結婚式、かぁ。
結婚式自体は、前世から憧れていた。
姫様がウェディングドレスを纏って、攻略対象とツーショットになっているイラストを見て、いいなぁと思っていたのだ。
それに、結婚式は乙女の夢だろう。
「……はい、結婚式はしたい、です」
「あぁ、良かった。もし万が一、アイリスが結婚式をしたくないと言ったら、今まで練ってきた計画が破綻するところでした」
「……計画?」
「結婚式は2週間後に行います。招待状は送ってありますし、ドレスの採寸も式場の確保もできています。あとはドレスのデザインを決め、当日を迎えるばかりです」
「に、2週間後!?わたくしが結婚式を挙げないという選択をしていたらどうするつもりだったんですか!?」
「その可能性は微塵も考えていませんでしたね」
その自信はどこから湧いてくるのだろうか。
軽くジト目をしながらも、内心はとても楽しみだという思いでいっぱいだった。
そして迎えた結婚式当日。
あれから私たちは大急ぎで準備――することはなかったので、ゆっくりとドレスのデザインを決めていた。
ウェディングドレスらしく、ベースは白。銀糸で縁取り、刺繍を施してもらった。パッと見は気付かないが、よく見ると繊細なデザインになっている。
そして、耳元と首元に輝くのはアメジスト。
――言わずもがな、ヴェロールを意識したデザインになっている。
想い人や夫の髪、瞳の色を身に纏うのは、自分はその人の所有物であることを示すためだとか。
そうとは知らず、ヴェロールが仕立て屋に注文した内容をぼんやりと聞いていた。――大方のデザインが決まり、帰ろうとする仕立て屋が私の耳元で「随分愛されておりますのね」と呟き、どういうことか尋ねると「その人の髪の毛、あるいは瞳の色を身に纏うということは、独占欲の現れなのですよ」と言い、またご用命の際はご贔屓に、と残して出て行った。
その後、私がヴェロールに何を言ったかは想像に難くないだろう。
「似合っていますよ、アイリ」
「ヴェロールこそ、とてもお似合いです」
白いタキシードを身に纏い、胸ポケットから見えるハンカチーフは爽やかで上品な水色、そして髪を束ねている絹のリボンは青色。――とても美しい。いやむしろ神々しい。
「……やめてください、私めを拝まないでください」
「はっ!あまりの神々しさについ……!」
今から結婚式を行うとは思えない空気感に、私は安心感を覚えた。
ヴェロールだから、こんなふうにいられるんだ。
「……さ、皆様が私めたちを待っています。行きましょう」
「はい……っ!」
私はヴェロールの手を取り、一歩踏み出した。
――今日が今までで一番、幸せな日。
前世から望んでいた光景を、姫様の幸せそうな表情を今この目で見てきたことが信じがたく、「もしかしてこれは夢なんじゃないか」と何度も思った。
……ベッドにダイブした時、思い切りベッドボードに頭をぶつけ、ありえないくらい痛かったので、これは夢ではないのだと身をもって実感したのだが。というかこうしている間も痛い。
と、頭を抱えてベッドの上で悶絶していると、扉をノックする音が聞こえた。
はーい、と返事をしたが、来客者は一向に入ってくる様子はない。
「入っていいですよ」
「……何度言えば分かるんですか、危機感と警戒心がなさすぎるんですよ。ここに来たのが私めでなかったら、一体どうなさるおつもりですか」
「こんな時間に訪ねてくる人間は限られてますから」
「言うようになりましたね」
苦笑しながら部屋に入ってきたのは、案の定ヴェロールだった。
「で、早々に本題に入らせていただきます」
「……返事の件ですよね」
「分かっているなら良いです。今日中に返事はいただけますか?」
「はい。……というか、ヴェロール様も気付いているでしょう、わざわざ返事しなくとも」
「気付いていますよ。ですが、それが私めの勘違いだったら嫌じゃないですか。それに、こういったことは直接言ってもらいたいものですから」
とは言っているが、ヴェロールは心配そうな顔はしていない。私が告白を断るとは思っていないのだろう。
些か悔しい話ではあるが……仕方あるまい。
「……わたくしは、」
今日こそ、言うんだ。
「ヴェロール様のことが、」
もう何も恐れるものは無い。姫様は幸せになったんだ。私がこの目で確認した。……だから、言うんだ。
「心の底からお慕いしております。……いえ、違います。そんな言葉じゃ伝えきれないくらい、大好きです」
そう言った途端、私は温もりに包まれた。
「はぁ……ようやく言ってくれましたね、アイリス。ここまで随分かかりましたが、まぁいいでしょう」
「ふふっ……すみません。わたくし、かなり前からヴェロール様のことが好きだったんです。ですが、どうにも一歩が踏み出せなくて。……待っていてくれて、ありがとうございました」
「いえ、私めの方こそ、そう言ってくださって嬉しいです。私めの思いに答えてくださって、ありがとうございます。……想いが通じ合った証に、私めのことはヴェロールと、呼んでいただけませんか」
「はい、喜んで。わたくしのことも是非、アイリと」
「分かりました、アイリ」
そう笑い合い、どちらからともなくキスをした。
姫様が幸せになった今日この日。
ハッピーエンドの裏側で、私も幸せを掴んだ。
「……愛しています、アイリ」
キスの合間に告げられたその言葉に、そして想いが通じ合った後の甘いキスに、私はただ酔いしれることしかできなかった。
翌朝。
チュンチュンという鳥の鳴き声で目を覚まし、ベッドから起き上がる。
んー、と伸びをし……隣にいるはずのない人が存在していることに、私は目をむいた。
「ななな、なんで……!」
「……ん、あぁ、おはようございます、アイリ。昨夜はとても楽しめましたね」
「ま、紛らわしい言い方はやめてください!」
「アイリは忘れてしまったんですか、残念です。……そうなれば必然、思い出させなければいけませんかね」
「いや、あの……!わたくしの身は清いままですよね!?」
「さぁどうでしょう。……昨夜のアイリはとても素直で可愛らしかったですね」
「ちょ、シャレになりませんよそれ!わたくしに一体何をなさったんですか!」
「……ふふ、冗談ですよ。アイリの身は清いままですよ、まだ」
「まだって何ですか、まだって!」
そんな恋人らしいようで、かなり頭の悪い会話をしつつ、私は起き上がって準備を始めた。
「……というか、本当に何でわたくしのベッドにいるんですか」
「恋人なら普通のことでしょう?」
「いやそうなんですけど、いつの間にって話です」
「いやぁ、私めとしたことが、今まで溜めていたものを全て吐き出してしまって……あまりの激しさに、アイリが事の最中に気絶してしまいまして。ですから、看病のために添い寝をしていたのです」
そうかなるほど、おおよその状況は掴めた。……だが。
「――さっきから言葉選びに悪意を感じるのですが」
なんだ、「事の最中」って。ただキスしただけじゃないか。……ま、まぁ確かに、そのキスが激しかったのは否定できないが。
普段はブリザードが吹き荒れていそうなほどに冷たい瞳が、昨夜ばかりは熱く燃え上がっていた。その瞳は獲物を前にした肉食獣のようだった。
全てを喰らい尽くされてしまうのではと錯覚する程に甘く、深いキス。私はそのキスに翻弄され、いつの間にか意識を手放していた。
――かなり気持ちよかった。
……って、私は一体何を思い出してるんだ。
「冷めた目を向けてきたかと思えば、急に顔を真っ赤にして。忙しい人ですね。……もしかして昨夜のこと、思い出しました?」
「~~っ、」
残念なことに、反論の言葉は出てこなかった。
気を取り直して、朝食。
「アイリ、相談があるのですが」
「はい?」
「……結婚式、したいですか」
「結婚式、ですか」
「はい。私めとしては、勿論挙式したいのですが、アイリはどう思っているのか、気になっていまして」
気を利かせて部屋の前に朝食を2セット用意しておいてくれたのは、恐らくドドリーだろう。ありがとう。
朝食を食べながら、私は考える。
結婚式、かぁ。
結婚式自体は、前世から憧れていた。
姫様がウェディングドレスを纏って、攻略対象とツーショットになっているイラストを見て、いいなぁと思っていたのだ。
それに、結婚式は乙女の夢だろう。
「……はい、結婚式はしたい、です」
「あぁ、良かった。もし万が一、アイリスが結婚式をしたくないと言ったら、今まで練ってきた計画が破綻するところでした」
「……計画?」
「結婚式は2週間後に行います。招待状は送ってありますし、ドレスの採寸も式場の確保もできています。あとはドレスのデザインを決め、当日を迎えるばかりです」
「に、2週間後!?わたくしが結婚式を挙げないという選択をしていたらどうするつもりだったんですか!?」
「その可能性は微塵も考えていませんでしたね」
その自信はどこから湧いてくるのだろうか。
軽くジト目をしながらも、内心はとても楽しみだという思いでいっぱいだった。
そして迎えた結婚式当日。
あれから私たちは大急ぎで準備――することはなかったので、ゆっくりとドレスのデザインを決めていた。
ウェディングドレスらしく、ベースは白。銀糸で縁取り、刺繍を施してもらった。パッと見は気付かないが、よく見ると繊細なデザインになっている。
そして、耳元と首元に輝くのはアメジスト。
――言わずもがな、ヴェロールを意識したデザインになっている。
想い人や夫の髪、瞳の色を身に纏うのは、自分はその人の所有物であることを示すためだとか。
そうとは知らず、ヴェロールが仕立て屋に注文した内容をぼんやりと聞いていた。――大方のデザインが決まり、帰ろうとする仕立て屋が私の耳元で「随分愛されておりますのね」と呟き、どういうことか尋ねると「その人の髪の毛、あるいは瞳の色を身に纏うということは、独占欲の現れなのですよ」と言い、またご用命の際はご贔屓に、と残して出て行った。
その後、私がヴェロールに何を言ったかは想像に難くないだろう。
「似合っていますよ、アイリ」
「ヴェロールこそ、とてもお似合いです」
白いタキシードを身に纏い、胸ポケットから見えるハンカチーフは爽やかで上品な水色、そして髪を束ねている絹のリボンは青色。――とても美しい。いやむしろ神々しい。
「……やめてください、私めを拝まないでください」
「はっ!あまりの神々しさについ……!」
今から結婚式を行うとは思えない空気感に、私は安心感を覚えた。
ヴェロールだから、こんなふうにいられるんだ。
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「はい……っ!」
私はヴェロールの手を取り、一歩踏み出した。
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