姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

文字の大きさ
50 / 55

前世から望んでいた幸せな姿の姫様

しおりを挟む
 姫様の結婚式当日。

 誰かさんのせいで寝不足になってしまったが、遂にこの日を迎えられることの喜びで目は冴えまくっている。
 何度プレイしても迎えられなかった姫様のハッピーエンドを、画面越しではなくこの目で見届けられるのだ。幸せ以外の何物でもない。

「むふふ……」
「ちょっと、妙な笑い声を上げるのはやめてちょうだい」
「失礼しました、姫様……むふ、むひょひょ……」

 姫様の前だというのに、気持ちの悪い笑みを浮かべながら気持ちの悪い声を上げていた私。――自覚はしている、私が今相当ヤバい顔になっているということは。
 だがそれも仕方がないことだ。
 私は今、姫様の身支度をしているのだ。
 純白のウェディングドレスを纏った姫様の御髪を丁寧に結い上げ、王家に代々伝わるエメラルドのネックレスで姫様の首元を彩り、耳元にトパーズのイヤリングを付け、そしてヴェールを被せているのだ。
 そう、私の手で。

「へへ、ふへへ、うぇっへっへ……素敵ですよ、姫様……むふふ」
「え、えぇ……アイリスってすごいわよね、こんな有様でも仕事を完璧にこなせるのだから」
「だって、姫様の結婚式の身支度をするんですよ。わたくしはこの日を何年待ちわびたことでしょう……!ようやくこの日を迎えられて、わたくしは嬉しゅうございます……!」
「そ、そうなのね。でもまぁいいわ、準備は整ったのかしら」
「はい!」
「それなら結構。……式の前にひとつ、アイリスに伝えたいことがあるの」

 そう言い、姫様は私と向き合った。今私は姫様と対面している状態だ。今までで一番美しい姫様の瞳には今、私しか映っていない。……ダメだな、この言い方だとちょっと変態くさいか。

「わたしの背中を押してくれてありがとう。アイリスがいなかったら、わたしは今日この日を迎えられなかったと思っているわ」
「そもそもわたくしがいなかったら姫様はもっと苦労せずに幸せを掴み取れたような気がしますが……」
「苦労せずに掴んだ幸せなんて、苦労して掴んだこの幸せの価値に到底及ばないわ。……あなたがいてくれたから、わたしは頑張ろうと思えたの。あの人、最初はアイリスのことが好きだったのよね。でも、最終的にはわたしを選んでくれた。そこに行き着くまでに、わたしはアイリスに助けられていたのよ。花祭りとか、バレンタインとか、色々ね」
「ひめ、さま……」
「だから、ありがとう」

 そう言って姫様は、柔らかく微笑んだ。

「いえ、こちらこそありがとうございます。姫様のおかげで、毎日がキラキラ輝いていて、とても楽しかったです」
「それはこちらのセリフよ。……結婚してからも、ずっとわたしのメイドでいて欲しいの。だめ?」

 首を傾げながらそう言った姫様。……うーん、ギルティ。

「もちろん!わたくしは姫様に一生ついていくと決めましたから!」
「そう、それは嬉しいわ。ありがとう。……さ、行きましょうか」
「はい!」

 私は姫様の手を取り、衣装部屋を辞した。
 部屋の前で、正装を着た状態で待機していたディラスに姫様を預け、私はこの場を離れた。
 目指すは大広間――姫様の結婚式場だ。

「――汝、この者を愛し、この者の隣に添い続けることを誓うか」
「はい」
「汝、この者を愛し、この者を守り続けることを誓うか」
「はい」

 神官長であるヴェロールが口上を述べ、姫様とディラスはそれに答えた。

「よろしい。それでは、誓いのキスを」

 ディラスは姫様のヴェールを上げ、幸せを溢れさせんばかりに甘い笑みを浮べながら、姫様の両頬を包み込んでキスをした。
 その瞬間、会場がワッと湧いた。

「おめでとうございます、姫様……!」

 メイドとして結婚式に参列することが認められたのをいいことに、私は最前列に陣取って姫様の美しく麗しい姿を目に焼き付けた。

「ふふっ……相変わらずね、アイリス。」
「姫様!」
「……わたしがディラスと結婚できたのはアイリスのおかげよ。本当にありがとう」
「あっ、あり、がとう、ございます……っ、」

 とめどなく流れる涙のせいで、私は途切れ途切れにしか話せなかった。
 だって、前世から望んでいた幸せな姿の姫様を、今この時、この場に居合わせて見届けているんだ。
 今日この日は、私にとって最高の一日だ。

「お幸せに、姫様……!」
「えぇ、もちろん。でも、その幸せにはアイリスの助力が必要なの。どうかしら?」

 そんなふうに聞かれて、この私が否と言うはずないじゃないか。

「もちろんです、姫様。わたくしは、一生姫様についていくと決めたんですから!」
「ありがとう」

 姫様はふわりと笑った。
 すると、わたしの視界の端にディラスがいた。
 定番ともいえる、白いタキシード。……認めたくはないよだが、腹立たしいほどよく似合っている。
 ディラスはチラチラとこちらの様子を伺っているようだ。話しかけたいなら話しかければいいのに。
 確かに姫様はものすごく綺麗だから話しかけにくいが、それにしたって話しかけるのにそうオドオドしていては、これからの生活が不安だ。

「……アイリスちゃん」
「……えっ、私?」
「うん、アイリスちゃん」
「な、なんでしょう」

 思わず素が出てしまったが、幸せに浸っている姫様とディラスは、そのことに気付いた様子はなかった。

「……ありがとう。アイリスちゃんがいてくれたから、オレは……オレたちは、今日この日を迎えられたんだ」
「わたくしが、いたから……?」
「最初、アイリスちゃんに告白したのは多分気の迷いだったんだろうね。でも、アイリスちゃんがそれを断ってくれたから、姫様を見つけられた。……いや、違うな。姫様の想いに気づけたんだ。だから、ありがとう」
「……いえ、そう大したことはしていませんが、その言葉は頂いておきます」

 なんだ、コイツお礼言えたんだ、と私は感心した。
 多少聞き逃せないことを言われたような気もしたが……なんだ、私に告白したのは気の迷いって。私を前にして言うことかそれ、失礼にも程がある。

「……ところで、さ。姫様がオレのことを好きなんだって、いつ気付いたの?」
「あぁ、それはわたしも気になる話ね。わたし、そう顔に出ていたかしら?」

 ……おっと、これはマズい。非常にマズい。
 ありのままを語るならこうだ。

『この世界は前世プレイしていた乙女ゲームの世界で、姫様は主人公です。私はこのゲームについて熟知していて、さらに言えば私は姫様のことが大好きなので、姫様の心が誰の方に向いているのか見極めるのは簡単なのです』

 だが、こんなことを口走ったが最後、皆から白い目を向けられるに決まっている。というか、そもそも理解されないだろう。
 常人には理解できるはずもなく、それどころか当事者である私も理解していないのだから、きっと話さない方がいいだろう。
 そう思い、私は事実を隠した。

「女のカン、ってやつですよ」

 そう言ってニヒルに笑い――決まった。前世から1度は言ってみたかったセリフを、まさか今世言える機会が来ようとは。
 人生何が起こるかはわからないとは、まさにこのことだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...