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前世から望んでいた幸せな姿の姫様
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姫様の結婚式当日。
誰かさんのせいで寝不足になってしまったが、遂にこの日を迎えられることの喜びで目は冴えまくっている。
何度プレイしても迎えられなかった姫様のハッピーエンドを、画面越しではなくこの目で見届けられるのだ。幸せ以外の何物でもない。
「むふふ……」
「ちょっと、妙な笑い声を上げるのはやめてちょうだい」
「失礼しました、姫様……むふ、むひょひょ……」
姫様の前だというのに、気持ちの悪い笑みを浮かべながら気持ちの悪い声を上げていた私。――自覚はしている、私が今相当ヤバい顔になっているということは。
だがそれも仕方がないことだ。
私は今、姫様の身支度をしているのだ。
純白のウェディングドレスを纏った姫様の御髪を丁寧に結い上げ、王家に代々伝わるエメラルドのネックレスで姫様の首元を彩り、耳元にトパーズのイヤリングを付け、そしてヴェールを被せているのだ。
そう、私の手で。
「へへ、ふへへ、うぇっへっへ……素敵ですよ、姫様……むふふ」
「え、えぇ……アイリスってすごいわよね、こんな有様でも仕事を完璧にこなせるのだから」
「だって、姫様の結婚式の身支度をするんですよ。わたくしはこの日を何年待ちわびたことでしょう……!ようやくこの日を迎えられて、わたくしは嬉しゅうございます……!」
「そ、そうなのね。でもまぁいいわ、準備は整ったのかしら」
「はい!」
「それなら結構。……式の前にひとつ、アイリスに伝えたいことがあるの」
そう言い、姫様は私と向き合った。今私は姫様と対面している状態だ。今までで一番美しい姫様の瞳には今、私しか映っていない。……ダメだな、この言い方だとちょっと変態くさいか。
「わたしの背中を押してくれてありがとう。アイリスがいなかったら、わたしは今日この日を迎えられなかったと思っているわ」
「そもそもわたくしがいなかったら姫様はもっと苦労せずに幸せを掴み取れたような気がしますが……」
「苦労せずに掴んだ幸せなんて、苦労して掴んだこの幸せの価値に到底及ばないわ。……あなたがいてくれたから、わたしは頑張ろうと思えたの。あの人、最初はアイリスのことが好きだったのよね。でも、最終的にはわたしを選んでくれた。そこに行き着くまでに、わたしはアイリスに助けられていたのよ。花祭りとか、バレンタインとか、色々ね」
「ひめ、さま……」
「だから、ありがとう」
そう言って姫様は、柔らかく微笑んだ。
「いえ、こちらこそありがとうございます。姫様のおかげで、毎日がキラキラ輝いていて、とても楽しかったです」
「それはこちらのセリフよ。……結婚してからも、ずっとわたしのメイドでいて欲しいの。だめ?」
首を傾げながらそう言った姫様。……うーん、ギルティ。
「もちろん!わたくしは姫様に一生ついていくと決めましたから!」
「そう、それは嬉しいわ。ありがとう。……さ、行きましょうか」
「はい!」
私は姫様の手を取り、衣装部屋を辞した。
部屋の前で、正装を着た状態で待機していたディラスに姫様を預け、私はこの場を離れた。
目指すは大広間――姫様の結婚式場だ。
「――汝、この者を愛し、この者の隣に添い続けることを誓うか」
「はい」
「汝、この者を愛し、この者を守り続けることを誓うか」
「はい」
神官長であるヴェロールが口上を述べ、姫様とディラスはそれに答えた。
「よろしい。それでは、誓いのキスを」
ディラスは姫様のヴェールを上げ、幸せを溢れさせんばかりに甘い笑みを浮べながら、姫様の両頬を包み込んでキスをした。
その瞬間、会場がワッと湧いた。
「おめでとうございます、姫様……!」
メイドとして結婚式に参列することが認められたのをいいことに、私は最前列に陣取って姫様の美しく麗しい姿を目に焼き付けた。
「ふふっ……相変わらずね、アイリス。」
「姫様!」
「……わたしがディラスと結婚できたのはアイリスのおかげよ。本当にありがとう」
「あっ、あり、がとう、ございます……っ、」
とめどなく流れる涙のせいで、私は途切れ途切れにしか話せなかった。
だって、前世から望んでいた幸せな姿の姫様を、今この時、この場に居合わせて見届けているんだ。
今日この日は、私にとって最高の一日だ。
「お幸せに、姫様……!」
「えぇ、もちろん。でも、その幸せにはアイリスの助力が必要なの。どうかしら?」
そんなふうに聞かれて、この私が否と言うはずないじゃないか。
「もちろんです、姫様。わたくしは、一生姫様についていくと決めたんですから!」
「ありがとう」
姫様はふわりと笑った。
すると、わたしの視界の端にディラスがいた。
定番ともいえる、白いタキシード。……認めたくはないよだが、腹立たしいほどよく似合っている。
ディラスはチラチラとこちらの様子を伺っているようだ。話しかけたいなら話しかければいいのに。
確かに姫様はものすごく綺麗だから話しかけにくいが、それにしたって話しかけるのにそうオドオドしていては、これからの生活が不安だ。
「……アイリスちゃん」
「……えっ、私?」
「うん、アイリスちゃん」
「な、なんでしょう」
思わず素が出てしまったが、幸せに浸っている姫様とディラスは、そのことに気付いた様子はなかった。
「……ありがとう。アイリスちゃんがいてくれたから、オレは……オレたちは、今日この日を迎えられたんだ」
「わたくしが、いたから……?」
「最初、アイリスちゃんに告白したのは多分気の迷いだったんだろうね。でも、アイリスちゃんがそれを断ってくれたから、姫様を見つけられた。……いや、違うな。姫様の想いに気づけたんだ。だから、ありがとう」
「……いえ、そう大したことはしていませんが、その言葉は頂いておきます」
なんだ、コイツお礼言えたんだ、と私は感心した。
多少聞き逃せないことを言われたような気もしたが……なんだ、私に告白したのは気の迷いって。私を前にして言うことかそれ、失礼にも程がある。
「……ところで、さ。姫様がオレのことを好きなんだって、いつ気付いたの?」
「あぁ、それはわたしも気になる話ね。わたし、そう顔に出ていたかしら?」
……おっと、これはマズい。非常にマズい。
ありのままを語るならこうだ。
『この世界は前世プレイしていた乙女ゲームの世界で、姫様は主人公です。私はこのゲームについて熟知していて、さらに言えば私は姫様のことが大好きなので、姫様の心が誰の方に向いているのか見極めるのは簡単なのです』
だが、こんなことを口走ったが最後、皆から白い目を向けられるに決まっている。というか、そもそも理解されないだろう。
常人には理解できるはずもなく、それどころか当事者である私も理解していないのだから、きっと話さない方がいいだろう。
そう思い、私は事実を隠した。
「女のカン、ってやつですよ」
そう言ってニヒルに笑い――決まった。前世から1度は言ってみたかったセリフを、まさか今世言える機会が来ようとは。
人生何が起こるかはわからないとは、まさにこのことだ。
誰かさんのせいで寝不足になってしまったが、遂にこの日を迎えられることの喜びで目は冴えまくっている。
何度プレイしても迎えられなかった姫様のハッピーエンドを、画面越しではなくこの目で見届けられるのだ。幸せ以外の何物でもない。
「むふふ……」
「ちょっと、妙な笑い声を上げるのはやめてちょうだい」
「失礼しました、姫様……むふ、むひょひょ……」
姫様の前だというのに、気持ちの悪い笑みを浮かべながら気持ちの悪い声を上げていた私。――自覚はしている、私が今相当ヤバい顔になっているということは。
だがそれも仕方がないことだ。
私は今、姫様の身支度をしているのだ。
純白のウェディングドレスを纏った姫様の御髪を丁寧に結い上げ、王家に代々伝わるエメラルドのネックレスで姫様の首元を彩り、耳元にトパーズのイヤリングを付け、そしてヴェールを被せているのだ。
そう、私の手で。
「へへ、ふへへ、うぇっへっへ……素敵ですよ、姫様……むふふ」
「え、えぇ……アイリスってすごいわよね、こんな有様でも仕事を完璧にこなせるのだから」
「だって、姫様の結婚式の身支度をするんですよ。わたくしはこの日を何年待ちわびたことでしょう……!ようやくこの日を迎えられて、わたくしは嬉しゅうございます……!」
「そ、そうなのね。でもまぁいいわ、準備は整ったのかしら」
「はい!」
「それなら結構。……式の前にひとつ、アイリスに伝えたいことがあるの」
そう言い、姫様は私と向き合った。今私は姫様と対面している状態だ。今までで一番美しい姫様の瞳には今、私しか映っていない。……ダメだな、この言い方だとちょっと変態くさいか。
「わたしの背中を押してくれてありがとう。アイリスがいなかったら、わたしは今日この日を迎えられなかったと思っているわ」
「そもそもわたくしがいなかったら姫様はもっと苦労せずに幸せを掴み取れたような気がしますが……」
「苦労せずに掴んだ幸せなんて、苦労して掴んだこの幸せの価値に到底及ばないわ。……あなたがいてくれたから、わたしは頑張ろうと思えたの。あの人、最初はアイリスのことが好きだったのよね。でも、最終的にはわたしを選んでくれた。そこに行き着くまでに、わたしはアイリスに助けられていたのよ。花祭りとか、バレンタインとか、色々ね」
「ひめ、さま……」
「だから、ありがとう」
そう言って姫様は、柔らかく微笑んだ。
「いえ、こちらこそありがとうございます。姫様のおかげで、毎日がキラキラ輝いていて、とても楽しかったです」
「それはこちらのセリフよ。……結婚してからも、ずっとわたしのメイドでいて欲しいの。だめ?」
首を傾げながらそう言った姫様。……うーん、ギルティ。
「もちろん!わたくしは姫様に一生ついていくと決めましたから!」
「そう、それは嬉しいわ。ありがとう。……さ、行きましょうか」
「はい!」
私は姫様の手を取り、衣装部屋を辞した。
部屋の前で、正装を着た状態で待機していたディラスに姫様を預け、私はこの場を離れた。
目指すは大広間――姫様の結婚式場だ。
「――汝、この者を愛し、この者の隣に添い続けることを誓うか」
「はい」
「汝、この者を愛し、この者を守り続けることを誓うか」
「はい」
神官長であるヴェロールが口上を述べ、姫様とディラスはそれに答えた。
「よろしい。それでは、誓いのキスを」
ディラスは姫様のヴェールを上げ、幸せを溢れさせんばかりに甘い笑みを浮べながら、姫様の両頬を包み込んでキスをした。
その瞬間、会場がワッと湧いた。
「おめでとうございます、姫様……!」
メイドとして結婚式に参列することが認められたのをいいことに、私は最前列に陣取って姫様の美しく麗しい姿を目に焼き付けた。
「ふふっ……相変わらずね、アイリス。」
「姫様!」
「……わたしがディラスと結婚できたのはアイリスのおかげよ。本当にありがとう」
「あっ、あり、がとう、ございます……っ、」
とめどなく流れる涙のせいで、私は途切れ途切れにしか話せなかった。
だって、前世から望んでいた幸せな姿の姫様を、今この時、この場に居合わせて見届けているんだ。
今日この日は、私にとって最高の一日だ。
「お幸せに、姫様……!」
「えぇ、もちろん。でも、その幸せにはアイリスの助力が必要なの。どうかしら?」
そんなふうに聞かれて、この私が否と言うはずないじゃないか。
「もちろんです、姫様。わたくしは、一生姫様についていくと決めたんですから!」
「ありがとう」
姫様はふわりと笑った。
すると、わたしの視界の端にディラスがいた。
定番ともいえる、白いタキシード。……認めたくはないよだが、腹立たしいほどよく似合っている。
ディラスはチラチラとこちらの様子を伺っているようだ。話しかけたいなら話しかければいいのに。
確かに姫様はものすごく綺麗だから話しかけにくいが、それにしたって話しかけるのにそうオドオドしていては、これからの生活が不安だ。
「……アイリスちゃん」
「……えっ、私?」
「うん、アイリスちゃん」
「な、なんでしょう」
思わず素が出てしまったが、幸せに浸っている姫様とディラスは、そのことに気付いた様子はなかった。
「……ありがとう。アイリスちゃんがいてくれたから、オレは……オレたちは、今日この日を迎えられたんだ」
「わたくしが、いたから……?」
「最初、アイリスちゃんに告白したのは多分気の迷いだったんだろうね。でも、アイリスちゃんがそれを断ってくれたから、姫様を見つけられた。……いや、違うな。姫様の想いに気づけたんだ。だから、ありがとう」
「……いえ、そう大したことはしていませんが、その言葉は頂いておきます」
なんだ、コイツお礼言えたんだ、と私は感心した。
多少聞き逃せないことを言われたような気もしたが……なんだ、私に告白したのは気の迷いって。私を前にして言うことかそれ、失礼にも程がある。
「……ところで、さ。姫様がオレのことを好きなんだって、いつ気付いたの?」
「あぁ、それはわたしも気になる話ね。わたし、そう顔に出ていたかしら?」
……おっと、これはマズい。非常にマズい。
ありのままを語るならこうだ。
『この世界は前世プレイしていた乙女ゲームの世界で、姫様は主人公です。私はこのゲームについて熟知していて、さらに言えば私は姫様のことが大好きなので、姫様の心が誰の方に向いているのか見極めるのは簡単なのです』
だが、こんなことを口走ったが最後、皆から白い目を向けられるに決まっている。というか、そもそも理解されないだろう。
常人には理解できるはずもなく、それどころか当事者である私も理解していないのだから、きっと話さない方がいいだろう。
そう思い、私は事実を隠した。
「女のカン、ってやつですよ」
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