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番外編 小さな悩みと大きな事件①
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ヴェロールと結婚してから数週間が過ぎた。
私はここ最近、小さな悩みがあった。それは、結婚したはずなのに、ヴェロールとなかなか長い時間一緒にいられないということだ。
部屋は別で、起きる時間も勤務場所も違う。
そりゃすれ違いは起こる。
だったら会いに行けばいいじゃん、と思うだろう。
だが、ヴェロールは神官長なのだ。私の勝手な行動ひとつで、彼の仕事を邪魔することはあってはならない。
毎日、鳥――ヘ○ウィグのように、任意の相手に手紙を届けてくれる鳥だ――を飛ばして文通をしているが、やはり顔が見たいと思うことがある。
たまにお互い時間がある時に、どちらかの部屋でお茶をしたりするが、やはりそれだけの時間では足りない。
少し寂しいかな、なんて。
そんなことを考えていたある日。
朝起きて、メイド服に着替えて、姫様を起こす。それ以降は日によって色々あるが、姫様とお昼を一緒にしたり、茶会に行ってしまった姫様を想いながらひとりの時間を楽しんだり。
今日は後者――姫様が茶会に行ってしまったパターンの日だ。
しかも今回は、城で大々的に行われる茶会らしく、私は参加できなかった。
「……はー、めちゃくちゃ暇」
そう呟きながら、私は厨房に入った。そして、厨房内に用意されている私専用の椅子にドスンと腰を下ろした。
何故かって?そりゃ、厨房にいるメンツが面白い上に美味しいもの食べれるからに決まってんじゃん。それに、みんなもそれを承知して、なんなら椅子用意してくれてるんだから。
「来るたびに誰かの椅子を美食魔女に明け渡すのって面倒だよな」
「そーそー、なんで美食魔女のために椅子を明け渡さなきゃけないんだよって話だよね」
そう零したのは誰だったんだろうか。とりあえず全員腹パンしておいた。
「お、俺じゃないぞ!」
「理不尽!」
なんて声が聞こえたけど知るもんか。連帯責任だこの野郎。
「というかさぁ、城の厨房に堂々と入ってくるアイリスちゃんってすごいよね」
「そうだな、あまりに堂々と自然に入ってくるものだから、たまに俺もアイリスの存在に気づかないことがあるぞ!」
「それ、城の厨房的に大丈夫なんですか……」
仮にも料理長が侵入者の存在に気づけないなんて。この城、食品衛生的に危ないよね。毒盛られ放題じゃん。
「いや、アイリスじゃない輩だったらすぐに気づけるよ」
「わたくしの存在感のなさ!」
「違うよアイリスちゃん。アイリスちゃんにないのは、存在感じゃなくてアウェイ感」
なるほど、上手いこと言ったなカルラさんよ。
「……んで、今日はどうしたんだ。来るなり暇だーって。アイリスが暇だなんて珍しいな。いつも姫様にくっついてるじゃないか。それに、ここに来るのはお腹空いた時か仕事終わった時だろう?」
「よく分かっていますね。えぇ、いつもならそうです。しかし今日は違うんです。姫様は茶会に、姫様以外の唯一の行き先である図書館は蔵書点検があって閉館中。行き場がないんですよ」
「なるほどな。そりゃご愁傷さま」
「で、厨房に来たってわけね。……ほら、マカロンはないけどプリンならあげるよ」
「あ、オレもオレも!」
「おい抜け駆けはナシって約束だったろ!?……はい、アイリスちゃん!」
「おぉ……!ありがとうございます!」
ドドリーには慰めの言葉を、カルラには慰めのプリンを、他の料理人たちからも慰めのお菓子を貰った。
早速包みを開け、ほくほく顔でお菓子を食べていると、何かを思いついたのか、ドドリーが「あっ」と声を上げた。
「ん、どうしたんですか?」
「いや、アイリスは神官長と結婚したんだろう?」
「え……えぇ、まぁ」
私は左手の薬指で輝く白銀の指輪に触れた。
真ん中には紫色と深い青色とがグラデーションになった石が一際目をひく指輪だ。――言わずもがな、紫色はヴェロールの瞳の色。そして深い青色は、私の瞳の色。まるで私たちのために用意されたような色の石を、ヴェロールは一体どこで見つけてきたのだろうか。この指輪を貰った時からの謎である。
あぁ、ちなみに結婚前に貰った指輪は、細いチェーンに通して首からさげている。お風呂に入る時以外は、肌身離さず持っているのだ。
「なら、教会に行けばいいじゃないか。夫に会いに来たとか何とか言えば、多分普通に入れるぞ!」
「いやいやいやいや!迷惑にも程があるでしょう!それに毎日手紙のやり取りはしていますし」
「手紙ぃ!?今どき手紙のやり取りしてるなんて、ふたりとも時代遅れすぎでしょ!今どきのカップルはお互いに夜這……むぐっ、」
カルラは何を言いかけたのだろう。ドドリーがカルラの口を抑えたので、何を言おうとしていたのかは分からなかった。
「悪い、口を滑らせかけたな。……で、手紙のやり取りだけでアイリスは満足なのか?」
「……そりゃ、顔見たいなって思うことはありますけど」
「うわっ、アイリスちゃんが乙女だ!めっずらし……うぐっ」
「さっきから口を滑らせすぎだぞ、カルラ。俺はまた腹パン食らうなんて御免だからな」
「その発言も大概ですけどね」
でもまぁお菓子貰ったし腹パンは勘弁してやろう、なんて考えていると、私はあることを思い出した。今まで忘れていた私は馬鹿だ。
とりあえず厨房に「じゃ、行ってきます」と声をかけた。
「えっ、やっぱヴェロール様んとこ行くの?」
「いえ、一昨日から1週間、街でスイーツ祭りが行われているとの噂を耳にしたのを今思い出したので、パーっと食べてこようかなと」
「ひとりでか?」
「えぇ。だって、護衛なんかいなくとも、わたくしひとりで何人でも倒せますから」
「そういう問題じゃないんだがな。……まぁいいか。行ってらっしゃい」
「ごめんね、ついて行きたいのは山々なんだけど、俺らも色々仕込みとかあるからさ」
「お気になさらず。では。お菓子美味しかったですよ、またお願いしますね!」
そう残し、私は厨房を出た。
「……一応、ヴェロール様に伝えとくか」
「そうだね、腹パンもされたくないけど、それ以上に馬に蹴られたくないしね」
そんな会話がされていたことを、私は知るよしもなかった。
私はここ最近、小さな悩みがあった。それは、結婚したはずなのに、ヴェロールとなかなか長い時間一緒にいられないということだ。
部屋は別で、起きる時間も勤務場所も違う。
そりゃすれ違いは起こる。
だったら会いに行けばいいじゃん、と思うだろう。
だが、ヴェロールは神官長なのだ。私の勝手な行動ひとつで、彼の仕事を邪魔することはあってはならない。
毎日、鳥――ヘ○ウィグのように、任意の相手に手紙を届けてくれる鳥だ――を飛ばして文通をしているが、やはり顔が見たいと思うことがある。
たまにお互い時間がある時に、どちらかの部屋でお茶をしたりするが、やはりそれだけの時間では足りない。
少し寂しいかな、なんて。
そんなことを考えていたある日。
朝起きて、メイド服に着替えて、姫様を起こす。それ以降は日によって色々あるが、姫様とお昼を一緒にしたり、茶会に行ってしまった姫様を想いながらひとりの時間を楽しんだり。
今日は後者――姫様が茶会に行ってしまったパターンの日だ。
しかも今回は、城で大々的に行われる茶会らしく、私は参加できなかった。
「……はー、めちゃくちゃ暇」
そう呟きながら、私は厨房に入った。そして、厨房内に用意されている私専用の椅子にドスンと腰を下ろした。
何故かって?そりゃ、厨房にいるメンツが面白い上に美味しいもの食べれるからに決まってんじゃん。それに、みんなもそれを承知して、なんなら椅子用意してくれてるんだから。
「来るたびに誰かの椅子を美食魔女に明け渡すのって面倒だよな」
「そーそー、なんで美食魔女のために椅子を明け渡さなきゃけないんだよって話だよね」
そう零したのは誰だったんだろうか。とりあえず全員腹パンしておいた。
「お、俺じゃないぞ!」
「理不尽!」
なんて声が聞こえたけど知るもんか。連帯責任だこの野郎。
「というかさぁ、城の厨房に堂々と入ってくるアイリスちゃんってすごいよね」
「そうだな、あまりに堂々と自然に入ってくるものだから、たまに俺もアイリスの存在に気づかないことがあるぞ!」
「それ、城の厨房的に大丈夫なんですか……」
仮にも料理長が侵入者の存在に気づけないなんて。この城、食品衛生的に危ないよね。毒盛られ放題じゃん。
「いや、アイリスじゃない輩だったらすぐに気づけるよ」
「わたくしの存在感のなさ!」
「違うよアイリスちゃん。アイリスちゃんにないのは、存在感じゃなくてアウェイ感」
なるほど、上手いこと言ったなカルラさんよ。
「……んで、今日はどうしたんだ。来るなり暇だーって。アイリスが暇だなんて珍しいな。いつも姫様にくっついてるじゃないか。それに、ここに来るのはお腹空いた時か仕事終わった時だろう?」
「よく分かっていますね。えぇ、いつもならそうです。しかし今日は違うんです。姫様は茶会に、姫様以外の唯一の行き先である図書館は蔵書点検があって閉館中。行き場がないんですよ」
「なるほどな。そりゃご愁傷さま」
「で、厨房に来たってわけね。……ほら、マカロンはないけどプリンならあげるよ」
「あ、オレもオレも!」
「おい抜け駆けはナシって約束だったろ!?……はい、アイリスちゃん!」
「おぉ……!ありがとうございます!」
ドドリーには慰めの言葉を、カルラには慰めのプリンを、他の料理人たちからも慰めのお菓子を貰った。
早速包みを開け、ほくほく顔でお菓子を食べていると、何かを思いついたのか、ドドリーが「あっ」と声を上げた。
「ん、どうしたんですか?」
「いや、アイリスは神官長と結婚したんだろう?」
「え……えぇ、まぁ」
私は左手の薬指で輝く白銀の指輪に触れた。
真ん中には紫色と深い青色とがグラデーションになった石が一際目をひく指輪だ。――言わずもがな、紫色はヴェロールの瞳の色。そして深い青色は、私の瞳の色。まるで私たちのために用意されたような色の石を、ヴェロールは一体どこで見つけてきたのだろうか。この指輪を貰った時からの謎である。
あぁ、ちなみに結婚前に貰った指輪は、細いチェーンに通して首からさげている。お風呂に入る時以外は、肌身離さず持っているのだ。
「なら、教会に行けばいいじゃないか。夫に会いに来たとか何とか言えば、多分普通に入れるぞ!」
「いやいやいやいや!迷惑にも程があるでしょう!それに毎日手紙のやり取りはしていますし」
「手紙ぃ!?今どき手紙のやり取りしてるなんて、ふたりとも時代遅れすぎでしょ!今どきのカップルはお互いに夜這……むぐっ、」
カルラは何を言いかけたのだろう。ドドリーがカルラの口を抑えたので、何を言おうとしていたのかは分からなかった。
「悪い、口を滑らせかけたな。……で、手紙のやり取りだけでアイリスは満足なのか?」
「……そりゃ、顔見たいなって思うことはありますけど」
「うわっ、アイリスちゃんが乙女だ!めっずらし……うぐっ」
「さっきから口を滑らせすぎだぞ、カルラ。俺はまた腹パン食らうなんて御免だからな」
「その発言も大概ですけどね」
でもまぁお菓子貰ったし腹パンは勘弁してやろう、なんて考えていると、私はあることを思い出した。今まで忘れていた私は馬鹿だ。
とりあえず厨房に「じゃ、行ってきます」と声をかけた。
「えっ、やっぱヴェロール様んとこ行くの?」
「いえ、一昨日から1週間、街でスイーツ祭りが行われているとの噂を耳にしたのを今思い出したので、パーっと食べてこようかなと」
「ひとりでか?」
「えぇ。だって、護衛なんかいなくとも、わたくしひとりで何人でも倒せますから」
「そういう問題じゃないんだがな。……まぁいいか。行ってらっしゃい」
「ごめんね、ついて行きたいのは山々なんだけど、俺らも色々仕込みとかあるからさ」
「お気になさらず。では。お菓子美味しかったですよ、またお願いしますね!」
そう残し、私は厨房を出た。
「……一応、ヴェロール様に伝えとくか」
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