姫様を幸せにするために恋愛フラグを回避しまくります!

夕闇蒼馬

文字の大きさ
53 / 55

番外編 小さな悩みと大きな事件①

しおりを挟む
 ヴェロールと結婚してから数週間が過ぎた。
 私はここ最近、小さな悩みがあった。それは、結婚したはずなのに、ヴェロールとなかなか長い時間一緒にいられないということだ。

 部屋は別で、起きる時間も勤務場所も違う。
 そりゃすれ違いは起こる。
 だったら会いに行けばいいじゃん、と思うだろう。
 だが、ヴェロールは神官長なのだ。私の勝手な行動ひとつで、彼の仕事を邪魔することはあってはならない。

 毎日、鳥――ヘ○ウィグのように、任意の相手に手紙を届けてくれる鳥だ――を飛ばして文通をしているが、やはり顔が見たいと思うことがある。
 たまにお互い時間がある時に、どちらかの部屋でお茶をしたりするが、やはりそれだけの時間では足りない。

 少し寂しいかな、なんて。


 そんなことを考えていたある日。
 朝起きて、メイド服に着替えて、姫様を起こす。それ以降は日によって色々あるが、姫様とお昼を一緒にしたり、茶会に行ってしまった姫様を想いながらひとりの時間を楽しんだり。

 今日は後者――姫様が茶会に行ってしまったパターンの日だ。
 しかも今回は、城で大々的に行われる茶会らしく、私は参加できなかった。

「……はー、めちゃくちゃ暇」

 そう呟きながら、私は厨房に入った。そして、厨房内に用意されている私専用の椅子にドスンと腰を下ろした。
 何故かって?そりゃ、厨房にいるメンツが面白い上に美味しいもの食べれるからに決まってんじゃん。それに、みんなもそれを承知して、なんなら椅子用意してくれてるんだから。

「来るたびに誰かの椅子を美食魔女アイリスに明け渡すのって面倒だよな」
「そーそー、なんで美食魔女アイリスのために椅子を明け渡さなきゃけないんだよって話だよね」

 そう零したのは誰だったんだろうか。とりあえず全員腹パンしておいた。

「お、俺じゃないぞ!」
「理不尽!」

 なんて声が聞こえたけど知るもんか。連帯責任だこの野郎。

「というかさぁ、城の厨房に堂々と入ってくるアイリスちゃんってすごいよね」
「そうだな、あまりに堂々と自然に入ってくるものだから、たまに俺もアイリスの存在に気づかないことがあるぞ!」
「それ、城の厨房的に大丈夫なんですか……」

 仮にも料理長が侵入者の存在に気づけないなんて。この城、食品衛生的に危ないよね。毒盛られ放題じゃん。

「いや、アイリスじゃないやからだったらすぐに気づけるよ」
「わたくしの存在感のなさ!」
「違うよアイリスちゃん。アイリスちゃんにないのは、存在感じゃなくてアウェイ感」

 なるほど、上手いこと言ったなカルラさんよ。

「……んで、今日はどうしたんだ。来るなり暇だーって。アイリスが暇だなんて珍しいな。いつも姫様にくっついてるじゃないか。それに、ここに来るのはお腹空いた時か仕事終わった時だろう?」
「よく分かっていますね。えぇ、いつもならそうです。しかし今日は違うんです。姫様は茶会に、姫様以外の唯一の行き先である図書館は蔵書点検があって閉館中。行き場がないんですよ」
「なるほどな。そりゃご愁傷さま」
「で、厨房ここに来たってわけね。……ほら、マカロンはないけどプリンならあげるよ」
「あ、オレもオレも!」
「おい抜け駆けはナシって約束だったろ!?……はい、アイリスちゃん!」
「おぉ……!ありがとうございます!」

 ドドリーには慰めの言葉を、カルラには慰めのプリンを、他の料理人たちからも慰めのお菓子を貰った。
 早速包みを開け、ほくほく顔でお菓子を食べていると、何かを思いついたのか、ドドリーが「あっ」と声を上げた。

「ん、どうしたんですか?」
「いや、アイリスは神官長と結婚したんだろう?」
「え……えぇ、まぁ」

 私は左手の薬指で輝く白銀の指輪に触れた。
 真ん中には紫色と深い青色とがグラデーションになった石が一際目をひく指輪だ。――言わずもがな、紫色はヴェロールの瞳の色。そして深い青色は、アイリスの瞳の色。まるで私たちのために用意されたような色の石を、ヴェロールは一体どこで見つけてきたのだろうか。この指輪を貰った時からの謎である。
 あぁ、ちなみに結婚前に貰った指輪は、細いチェーンに通して首からさげている。お風呂に入る時以外は、肌身離さず持っているのだ。

「なら、教会に行けばいいじゃないか。夫に会いに来たとか何とか言えば、多分普通に入れるぞ!」
「いやいやいやいや!迷惑にも程があるでしょう!それに毎日手紙のやり取りはしていますし」
「手紙ぃ!?今どき手紙のやり取りしてるなんて、ふたりとも時代遅れすぎでしょ!今どきのカップルはお互いに夜這……むぐっ、」

 カルラは何を言いかけたのだろう。ドドリーがカルラの口を抑えたので、何を言おうとしていたのかは分からなかった。

「悪い、口を滑らせかけたな。……で、手紙のやり取りだけでアイリスは満足なのか?」
「……そりゃ、顔見たいなって思うことはありますけど」
「うわっ、アイリスちゃんが乙女だ!めっずらし……うぐっ」
「さっきから口を滑らせすぎだぞ、カルラ。俺はまた腹パン食らうなんて御免だからな」
「その発言も大概ですけどね」

 でもまぁお菓子貰ったし腹パンは勘弁してやろう、なんて考えていると、私はあることを思い出した。今まで忘れていた私は馬鹿だ。
とりあえず厨房に「じゃ、行ってきます」と声をかけた。

「えっ、やっぱヴェロール様んとこ行くの?」
「いえ、一昨日から1週間、街でスイーツ祭りが行われているとの噂を耳にしたのを今思い出したので、パーっと食べてこようかなと」
「ひとりでか?」
「えぇ。だって、護衛なんかいなくとも、わたくしひとりで何人でも倒せますから」
「そういう問題じゃないんだがな。……まぁいいか。行ってらっしゃい」
「ごめんね、ついて行きたいのは山々なんだけど、俺らも色々仕込みとかあるからさ」
「お気になさらず。では。お菓子美味しかったですよ、またお願いしますね!」

 そう残し、私は厨房を出た。


「……一応、ヴェロール様に伝えとくか」
「そうだね、腹パンもされたくないけど、それ以上に馬に蹴られたくないしね」

 そんな会話がされていたことを、私は知るよしもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...