トワイライト・クライシス

幸田 績

文字の大きさ
45 / 106
Phase:02 ガール・ミーツ・ストライカー

Side A-2 / Part 3 裏切り

しおりを挟む
Side A-2 "Mio"
* * * * *


 ぴろん、ぴろん。
 ぴろん、ぴろん。


 どれくらいの時間、気を失ってたんだろう。頭の中で反響する不気味なアラームによって、あたしは人生最悪の目覚めを迎えた。


「今の……聞き間違い、じゃないよね」


 わざと生理的な気持ち悪さを呼び起こし、緊張感を持たせる電子音。この町に住んでいれば一日一回は耳にする。夕日が街を照らす時間、黄昏時たそがれどきと呼ばれる頃に。
 ベッドから飛び起き、間仕切りの白いカーテンを開け放つ。保健室の窓から差す光は、朝よりも明らかに赤みがかっていた。
 なんでもう夕方になっているのか、あたしは本当にほぼ丸一日寝ていたのか。じっくり考えるのはあとにしよう。


『――し』


 磁気嵐警報を受信したら、やることは決まってる。まずは自分の〈Psychicサイキック〉に異常がないか確認し〝じきたん〟を起動。警報が出たのは町内のどこか、自分が対象地域に入ってないかを調べるんだ。
 それと同時並行で〝防災結界〟のチェックも忘れずに。具体的には〈Psychic〉で子機の電波を拾い、結界があるか、作動してるかどうかを確認する。

 もし、一つでも当てはまらないものがあれば、すぐに避難しないと死ぬ。


『……おい、川岸』


 XG通信――クロス・ジー、またはテン・ジーって呼ばれる〈Psychic〉専用の超高速・極大容量通信回線は、警報が出た直後でひどく混み合っていた。
 頼みの綱の〝じきたん〟も、桜の花の形をしたアイコンがくるくる回るローディング画面から動かず、なかなか検索に進んでくれない。


『川岸! 聞こえているなら返事をしろ、このグズめ!』


 しびれを切らして仮想スクリーンをぺちぺち叩いていると、急に知らない声から〈テレパス〉を通じて呼びかけられ、あたしは思わず飛び上がった。
 空中に浮かぶ仮想ディスプレイの発信者名は【1-C 葉山】。いきなりブチ切れ状態で初登場を果たした担任の先生だ。どこから連絡してるんだろう。

 ……ってか今、何つったこいつ? うちの親を通じて校長先生と教育委員会に言いつけるぞ。


「え、と……葉山、先生?」

『入学早々死なれちゃ困るんだよ。私の評価が下がるだろう』


 そしてこの発言。死なれたら困る、のくだりでやめときゃ生徒思いの先生だって誤解してやったのに、マジで何様だよクソジジイ。
 小林くん、聞こえてますか? お友達から聞いた担任の悪評、どうやらガチっぽいです。


「すみません。たった今、警報で目を覚ましたばかりで」

『なんだと? 冗談も休み休み言え』

「冗談じゃありません。本当に、起きたら夕方になってたんです」

あきれた言い訳だな。そんなに長時間気絶していたと? 正直に言え、貧血か仮病だろう!』


 うーん、この自意識過剰な被害妄想。嘘でも「仮病だよバーカ!」って返事してやりたい。
 とはいえ、相手は腐っても教師。目上の人間だ。アホ臭いと思いつつ、大人よりも大人のあたしはもう少しだけ茶番につき合ってやることにした。


『そんな不良生徒に残念なお知らせだ。保健室には誰もいない』

「でしょうね。不良じゃなくてもわかりますよ」

『だが、幸いにもそこは〝防災結界〟と物資が潤沢にある場所だ。お前独りなら一週間は籠城ろうじょうできる用意がある』


 先生のご高説を聞き流している間に検索が終わった。警報が出てるのはここ、敷地全体が結界でカバーされているはずの逢桜あさくら高校キャンパス内だ。


【局地的磁気嵐警報(レベル5・緊急避難)

 対象地域:宮城県逢桜町 宮城県立逢桜高校敷地内
 発生時刻:午後五時○三分

 甚大な被害をもたらす災害が間近に迫っています。
 急激な体調悪化、電子機器やパートナーAGIの故障に厳重な警戒をしてください。
 ただちに、命を守る行動を取ってください。
 対象地域の方は、速やかに頑丈な建物の中へ避難するか――】


 安全なはずの校内に〈モートレス〉がいる。その原因は〝じきたん〟を見てもわからなかった。町も学校も臨戦体制に入って、調査どころじゃないらしい。
 葉山先生の言うとおり、保健室は〝防災結界〟で囲まれていた。破られた構内のと併せて二重の防御になってるんだ。

 ここの結界さえ生きていれば、アイツらはあたしに気づかない。あたしはこのまま保健室にとどまり、警報解除を待てば良し。
 労せずして死亡フラグ回避、生徒に死なれたら困る担任もニッコリ。万事解決ハッピーエンド! と思ったんだけど……


『そんな安全地帯を独り占めして、皆に申し訳ないと思わないのか?』

「……なんで?」


 確かに、一度作動した〝防災結界〟は外から解除できない。人間はこの部屋の存在を認知できるけど、中にれる(はいれる)かは先客の決断次第。
 つまり、もしも誰かがここへ来たら、あたしは究極の選択を迫られる。そのことに気づいた葉山先生の放言に、あたしは言葉を失った。


『負傷した者は保健室を目指す。誰かが訪ねてきたその時、お前が化け物に見つかることを恐れ、ドアを開けなかったら?』

「そんなこと――!」

『しない、とは言い切れないだろう? 誰しも自分が一番可愛いからな。自分を厳しく律しても、最後は恐怖に負け利己的な手段を選ぶのが人間というものだ』

「……さすがですね。現代文の先生らしく嫌味ったらしい」

『ふん、何とでも言え。私は確かに注意した。忠告したぞ、川岸!』


 扉を開けない。それは、誰かを見殺しにすることを意味する。扉を開けたら、負傷した人もろとも〈モートレス〉に見つかって殺されるかもしれない。
 運よく収容できたとしても、致命傷だったらどうしようもない。いずれにせよ、尊い命がうしなわれたなら、それは自分勝手な新入生あたしのせい――。
 このクズ教師はそういうシナリオを組み立てている。自分の生徒を護るどころか「私は悪くない」「関係ない」って言い張るつもりなんだ。


『入学早々、面倒事ばかり起こしやがって。私はお前みたいな生徒が大っ嫌いだ。ああ……クソガキといえばもう一匹、生意気な頭痛の種がいて嫌になる』

「気が合いますね、あたしも先生みたいな先生は先生だと思えません。あと、正論が口答えに聞こえるなんて頭大丈夫ですか?」

『うるさい! あのバカも〝逃げ遅れた人を避難させる〟などとほざいて、自分から外に出て行った。せいぜい犬死にがオチだろうになァ!』


 目の前にいたら急所を蹴り上げてやりたくなるほどムカつく念話相手の顔を、あたしはあまりよくおぼえてない。
 でも、きっとそれでいい。憶えてたら憎しみが増すだけだろうから。


『ふ、はは……ハハハハハハハ!』


 自分は安全地帯にいるからって、好き放題言ってるな。実は今いるところの結界破れてました、ってパターンで無様に命乞いすればいいのに。
 冷静な第三者の声が割り込んできたのは、そんな呪いのフラグを立ててやる寸前まであたしの怒りが煮えたぎった時だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

処理中です...