トワイライト・クライシス

幸田 績

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Phase:02 ガール・ミーツ・ストライカー

Side A-2 / Part 4 ガール・ミーツ・ストライカー

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Side A-2 "Mio"
* * * * *


『さっきから黙って聞いてりゃ……いい加減にしろよおんしゃ。ぶっさらうぞ』

「え?」

『川岸、って言ったっけ? 葉山先生の悪口はぜーんぶ録音しといたから、あとで学年主任と校長先生と町の教育委員会にダイレクトシュートお見舞いしようぜ!』

『な……!』

『バッドエンドをご所望でしたか? そいつは残念、足の速さとしぶとさにかけては定評のある俺です。二分もあればそっちに着くから、それまで静か~に待っててくれよな』


 割り込んできた念話相手はそう言うと、一方的に通信を切った。たぶん若い男の人だと思うよ、一人称も「俺」だったし。
 葉山先生が『覚えてろ、……木!』とか言ってたけど、希望を見いだすと細かいことはどうでもよくなって、すがりつきたくなるのが人間というもの。ここへ駆けつけてくれるというその言葉を、あたしは信じて待つことにした。

 担任とも連絡を絶って、あたしは内開きのドアの前に移動した。いつもなら、あっという間に過ぎる二分。カップラーメンが出来上がるよりも短い二分間が、これまでの人生で一番長く感じられた。


 ――そして。


『これで最後だ、道を空けな!』


 曇りガラスの窓がはめ込まれた扉の向こうで、青白い閃光せんこうが見えた。何か軽いものが風を切って飛ぶ音がした直後、強い衝撃と振動が建物全体を激しく揺さぶる。


「うわあああああ!」

『今だ、開けろ! 戸締まりは俺がやる!』


 ドアノブが白く光って見える。このまま扉を開けたら〝防災結界〟が解除されることを示す警告だ。
 自分のことだけ考えるなら、このまま開けずに無視すればいい。助けに来てくれた誰かの命は、あたしの行動にかかっている。

 取っ手を握る右手首を、左手でつかむ。ダメだ……手が震えて、力が入らない。
 じゃあ、やめれば? と悪魔の声が聞こえる。だってこの人、勝手に来たじゃん。あたし、助けてほしいなんて言ってないよ? と。

 目を閉じ、歯を食いしばり、首を横に振って誘惑に耐える。できる。開ける、開けろ、ひらけ。
 あたしはここで終わらない。こんなところで立ち止まれない。絶望の中で差し伸べられた、この手を取るって決めたから――!


「よーし、いい子だ!」


 開いたドアの隙間へ身体をねじ込みながら、救援者は昇降口のほうに右腕を向けた。発砲音を数発聞いて、その手に握られているのが銃だと気づく。
 急いで内側から鍵をかけ、再び結界が有効になったことを確かめると、彼は西日を背に受けるあたしの顔をじっと見つめて言った。


「独りでよく頑張ったな。締め出されるの覚悟で来てみたら、すんなり通してくれて助かったぜ。ここからは、俺がその勇気にこたえよう」


 キラキラ輝く金と黒、ツートンカラーのツーブロック。二次元じみた空色の目。四月上旬の宮城で夕方に着て歩くには、ちょっと寒そうな半袖短パン。
 年がら年中、それを仕事着かつ勝負服として身にまとう姿は、西洋のおとぎ話から抜け出してきた白馬の王子様がサッカー選手のコスプレをしているようだった。

 その王子様があたしの前にひざまずき、胸に右手を当ててこうべを垂れる。これか、二次元のイケメン騎士がよくやる跪拝きはいってやつ!
 いやー、圧巻だわこれ。この流れからのプロポーズだったら、女の子はみんな口上こうじょうを述べ始める前にOKしちゃいそう。


初めましてアンシャンテ、マドモアゼル。俺は――」


 閉ざされた世界の〝神〟にされたあたしと、アルティメットなストライカー。のちに世界を変える二人はこの日、出逢うべくして出逢いを果たした。
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