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考えたくない。

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次の日の朝、俺はいつもより早く家を出た。

もしかしたら…また朝のうちに上履きを盗んだりされるかもしれないし、もしも犯人を見つけたら大事になる前に説得しよう。そう決めたのだった。

しかし、俺はとんでもない事を
聞いてしまったんだ。





洗ったばかりの上履きを履き、教室に向かう。

途中、通りかかった教室にはちょうど2分の1くらいの割合で生徒がいたりいなかったり。

自分の教室の近くにきたがすぐには入らずに中の様子を伺おうとした。

誰か喋っている。

女子の声だ。

「大丈夫かな。」

ぽつりと声が聞こえる。

「今日は大丈夫よ。」

「でも、もしロッカー開けた時…」

「大丈夫よ!!全部果歩のためなんだから!!」

何の話だろう…ロッカー?佐倉?

「さてと、誰かが来る前に私たちはトイレで喋ってるかー。行こ。」

えっ!?廊下くる!?

俺はびっくりしてつい隣の教室に入ってしまった。

そこには中学の時の知り合い、谷川がいた。

「ん?佐藤、教室間違えた?」

やばいやばい聞こえる!黙って!!

俺は必死に指でしーっという仕草をした。

その時廊下にクラスの女子達の声が聞こえる。

俺は廊下側の壁を這うようにして見つからない所に隠れる。

とりあえず谷川はよくわからないという顔をしながらもこちらを見て黙ってくれている。

女子の声が小さくなって聞こえるか聞こえないかくらいになって俺は口を開いた。

「谷川、ごめんなぁ。教室入りづらくて…。」

「いいって。しかしなんかやらかしたのかと思ったよ笑」

「いやいや…笑」

「そういえば佐藤、なんか久しぶりだな。高校入ってから全然喋ってないもんな。」

「たしかに。なんか懐かしい気がする笑」

「5組どう?楽しい?」

「うーん。なんか個性的なやつが多いけど…
まぁ大変だけど楽しいかな。」

「そっか。楽しいんなら良かった。」

「うん。」

「…。」

「…じゃあ、俺そろそろ教室行くわ!ありがとな!」

「おう!また話そうな!」

「うん!!」

俺は4組を出て時計を見る。

8時17分。

いつもよりは早いけどまぁ丁度いい時間だろう。

8時25分に予鈴が鳴る。

教室には数人増えていた。

さっきの女子達は…いない。

そういえばさっきのロッカーって何の話だろう…。

もしかしてロッカーになにかあるのか…?

そう思ってロッカーを開けてみた。

しかし、特に何もされていないし何かを盗まれた感じでもない。

…勘違いか。

内心ほっとした。

あとは、佐倉のためとか言ってたっけ…。

まぁ、俺には関係ない話かな。





…昼休みも終わり、今日は特に事件も何も無くこのまま学校も終わるのかと思った。

しかし、やはり事件は起きた。

5時間目は体育。

そろそろ着替える頃だ、そう思って、机の横にいつもかけてある体育着を…と思ったんだけどな。

「…ない。体育着がない。」

俺は周囲を見渡す。

ロッカー…には俺は入れてないし…。

落ちてたり…?いやいや、落ちてたら小さいものでもないし流石にわかるって…。

そう慌てていると佐倉が何故か声をかけてきた。

「ねぇ。」

「あ、佐倉?あの…俺の…」

「これ、探してる?」

「え?」

佐倉が俺の体育着を持っている。
なんで…どういうことだ…?

「えっ…と…。それだよ。どこにあったの…?」

「あっ、えーっと…。」

「あ!もうこんな時間だ!!ありがとね!うん!」

そう言って俺はその場から逃げた。

怖かった。

佐倉はなんて言うつもりだったんだろう。

正直に…自分がずっと持ってたって言うつもりだったのかな…。

いやいや!まだ佐倉が犯人って決まってないんだった!なに考えてんだよ俺!!

佐倉がきまり悪そうな顔をしながら体育着を渡してきた表情が頭の中を渦巻いた。

俺は首を振ってもうその事は考えないようにした。

廊下を上履きで走る音が響いた。
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