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第61話 水着選びはエロと嫉妬に包まれて…
しおりを挟む到着したのはとあるファッションビルの一画——
夏の空気に押されるように、フロアの一角は水着イベントでごった返していた。
眩しいほどカラフルな水着たちがラックから溢れんばかりに並んでいる。
その光景に圧倒されながらも、俺たち三人は笑い混じりに次々と水着を手に取って吟味していると、いつの間にか数十分が経過していた。
「ほんと色々な水着があるんだねぇ、全然決まんないよぉ~!ちなみに鷹村はどんなのが好きなの?」
「俺の好み!?それは女性もののって事か!?」
「うん、他に何があるの?男物ってどれも同じじゃん?」
まったく悪気のない声色で問いかけてくる楓に戸惑い、なんとか言葉を選ぼうとしていると横から霞が追い打ちをかけるようにさらに責め立ててきた。
「確かにそれは私も気になるわね……ね?楓?」
「うん!やっぱり女子目線と男子目線は違うし、意見は貴重だよ!」
霞……お前わざとやってないか……?ちょっと悪いお顔してるよ?
俺は眉をひそめて霞の方を見るが、彼女はまったく動じた様子もなく涼しげな顔でこちらを見返してきた。
「ほら恭介、どの水着を私と楓に着てほしいの?正直に言いなさい?」
「着てほしいって……そんなん選べるわけないだろ!?」
「どうして?もしかして……エッチなやつが好きだからかしら?や~ねぇ~楓?」
「エッチってお前!?そんなワケないだろ!?」
「鷹村エッチ感じが好きなの!?むむむっ……そっか……じゃあ……」
いまここで霞の方が遙かにスケベでエグいことを叫びたい……けどそれは無理ってもんだ。
立ち回りの上手い霞に若干の嫉妬を覚えて頭を抱えている俺の肩をポンポンと楓が叩いてくる。
「ねぇ鷹村!じゃあ、これとこれならどっちが好き!?」
気づけば楓はいつの間にか数着の水着を手に取っていて、それを自分の体に当てながらこちらに見せてきた。
一つは青ベースにキラキラした金具が着いた落ち着いた雰囲気の大人っぽい水着、そしてもう一方は……
「かっ、楓!?そのピンクの水着の方は面積少なすぎないか!?いけませんそんなの!」
「えっ!これ可愛いのにぃ……別に鷹村にしか見せないんだしいいじゃん!!今エッチなの好きって言ったじゃん!」
「言ってないだろ!?話聞いてたか!?エッチなのはダメ!!」
「そうかぁ~、残念~」
……嘘です。すいません。ぶっちゃけエッチな水着のおねぇさん好きです……
すこし頬を膨らませたかと思うと、口を尖らせて見つめてくる楓。
そんな彼女があの水着を実際に着たら……そう想像しただけでほんの少しクルものがある……男って最低…
「俺だけじゃなくてみんなに見られるんだぞ!?楓は普通にしてても可愛いんだから露出しすぎは変なのが寄ってきて危ないだろ!?青い方が似合うし可愛いからそっちにしような?な?」
「えっ!?可愛い!?………そっか……鷹村から見るとあたし可愛いんだ……♡」
顔面が茹でダコのように赤く染まる楓を見ていまさら気付く。
どうも、久々の失言タイムです。なんとも愚かな事よ。
くっそ恥ずかしい事言っちゃった……楓引いてない!?ってか誤解してないよな!?
「じゃ……じゃあこの青いやつとか、似てるやついくつか試着してこよっかなぁ~、えへっ♡えへへっ♡」
楓は話を聞いているのかもわからない、どことなくフワフワとした面持ちで独り言を呟きながらふらりと試着室へ向かっていった。まるで魂が抜けたみたいなその背中に、俺は自己嫌悪全開で目を向けるしかなかった。
そのとき、背後からひそっと耳元に声が落ちる。
「へぇ……可愛いねぇ……ふ~~~ん、浮気かしら?これは浮気かしら?ボコすぞ?」
「えっと霞さん、これは言葉のあやでして……あの、すいません、許して下さい……ボコさないで……」
明らかにプレッシャーのこもった霞の声色に背筋がゾクッと震え、次の瞬間には急激な悪寒が身体を襲う。
この状況どうすれば良かったの!?これ俺が悪い!?いや、俺が悪いわ……全部俺が悪い……
「冗談よ♡女の子にはああ言ってあげるのが正解よ。恭介、私も試着してくるからあなたも来て意見をくれるかしら」
「はいっ!もちろんです!!」
霞はスタスタと俺の手を引いて試着ブースへと引っ張っていく。
そしてブース前にある小さな椅子に座るよう促され、俺は素直にそこへ腰を下ろして彼女を待った。今は逆らってはいけない……
しばらくすると、試着室のカーテンの隙間から霞の顔だけがヌッとせり出してきた。
「恭介、ちょっと来て……そこで靴脱いで」
その一言に従って試着室の前まで歩き言われるがまま靴を脱いだ俺は、まるで食虫植物に誘われたハエよろしく、霞に手を握られズルッと試着室の中へ引きずり込まれた。
「ちょ!?………って……おまえその格好……」
視界に飛び込んできたのは眩しさすら感じる純白のビキニ姿の霞だった。
が、すぐに思考が停止する。そのビキニ、あきらかに小さすぎる。
たわわなおっぱいが今にもこぼれそうになっていて視線をどこに置けばいいかわからない。というか……先っぽあたりがもうコンニチワしてる。
あまりの急展開に、とにかくこの状況から逃げ出そうと試着室の外に出ようとする。
だがその瞬間、急に霞の壁ドンが炸裂し出口を塞がれてしまう。
えっ……壁ドンって男がやるんじゃないの!?って言ってる場合か!!
「ばっ、ばか!?何してんだよ!?」
周囲に聞こえないように声のトーンを落として俺は抵抗する。
「ねぇ恭介♡この水着どう思う?少しサイズが小さかったけど……」
「そのっ、似合ってるけど小さすぎだって!!もうちょっと隠してくれないとダメだって!」
「あら?動揺してるの?いつも見てるのに?」
「それとこれとは別!!ましてやそんな格好のお前が知らないヤツに見られるのはちょっと……てか凄い嫌なんだよ!」
その一言に霞はニヤリと満足そうな笑みを浮かべるとグイグイ俺に身体を寄せてくる。
既に俺に霞のおっぱいが正面衝突している状況に俺は思わず息を呑む。
「へぇ~、私の身体を見ていいのは恭介だけってこと?独占したいの?」
もう!この人状況分かってやってるの!?完全に満足させないと離してくれないパターンじゃん!?
俺はパニクる頭をできる限り冷静にして言葉を紡ぐ。
「そうだよ……だからもう少し控えめにしてくれ……」
「恭介がそこまで言うならいいわよ、彼氏に独占されるのは気分がいいから♡……それにしても、なんか試着室にふたりきりって……興奮するわね♡」
「急になに言ってんの!?ダメだよ急にエッチなのは!?」
「ふふっ♡流石に私もココでは何もしないわよ……これは前戯みたいなものよ?帰ったら覚悟しなさい。沢山私の事可愛いって言わせてみせるから……」
ああ……やっぱ根に持ってるじゃん……
ぺろっ♡
「っっっっ!!!!」
温かくぬるりとした感触が首筋を這い、全身に電流のような感覚が駆け抜ける。
すぐにそれが霞の舌だと理解して、俺は変な声が出そうになるのをどうにか歯を食いしばって飲み込む。
ちょっと正気か!?楓もいるんだぞ!?ってか俺もうダメかも……真っ直ぐ歩けないかも……あっ、ダメだこれ……
「じゃあ恭介、あとでね♡」
そう言って霞はふっと俺から身体を離した。
その瞬間、完全にパニック状態だった俺は試着室から飛び出すようにして逃げ出してしまった。
残った理性で辺りを見回すが幸い楓の姿はないようだった。
しかし、霞の言うとおり某所が前戯が済んだような状態になってしまっている俺は、急いでトイレへと駆け込み心を落ち着ける努力を試みるのだった——
次回:なんで俺はランジェリーショップにいるんだろう?
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