ペイン・リリーフ

こすもす

文字の大きさ
65 / 113
【4】エキサイトメント・シーカー

64 期待してた

しおりを挟む
 僕がむっと口を尖らせて怒れば怒るほど、文哉さんはどこか愉快げに口だけで笑う。

「一緒に寝たかったのか」
「それはそうだよ! なんだよ、キスとか手を繋いだりだとか、期待させるだけさせておいて、最後がこれじゃあ残念すぎる!」

 不満を口にした僕は膝立ちになって、文哉さんの座っている足の間に体を入れてパジャマを引っ張った。

 顔が熱くなっているのを自覚しながら、お願いをする。

「したいよ。もっと、文哉さんと……いけないこと」

 それに対しての言葉はなく、僕の言葉の続きを待っているように、文哉さんの手が僕の手に重なった。

「まだ気にしてるの? 僕に恋人がいるかもしれないだなんて」

 きっと、この人は怖いのだ。
 持ち主がいるかもしれない拾ったものを、勝手に持ち出すのは。

 文哉さんの両親のことも、すずねさんのことも、彼の中では一種のトラウマになっている。
 それを僕がいくら気にするなと言っても、彼自身が乗り越えなければ言葉を受け取れないのだろう。

 しようか、と、向こうから言われたかったけど、贅沢は言っていられない。やはりここは自分からお願いするべきだ。

 文哉さんは僕を真っ直ぐに見ながら、何かを考えているようだった。

 ……まずい。どう言ったら傷付けずに断れるだろうかと、思案している気がする。

 もちろん、セックスは2人でする行為だから、文哉さんが拒絶をするなら諦めなくちゃならないけど……諦められない僕はつい強引な手に出てしまう。

「僕を舐めないでよね」

 答えを出される前に、唇を奪った。
 観覧車の中では止まらなくなるからと自制したキスは、今じゃ止める必要がない。

 唇を割って、口の中に侵入する。
 飴玉をころがすみたいに、文哉さんの濡れた舌を絡めとった。氷のように冷たいのか、燃えるように熱いのかよく分からない感覚で、無我夢中で貪る。

 どうだ、僕はこんなにいやらしくキスができるのだと、どこか勝ち誇ったように下唇や上顎を吸った。

「ん……っ!」

 急に、なされるがままになっていた文哉さんの舌が動き出し、今度は僕の方が歯列をなぞられた。

 ぞわ、と体が疼いて頭を引こうとすると、後頭部を手で引き寄せられて固定される。

 顔の角度を変え、怯んでいる僕の舌の付け根の方を噛んだり吸ったりした。
 じゅっ、と水っぽい音が耳の奥で響いて、僕は眉根を寄せて濃厚な快感に酔いしれる。

 あっという間に反応して、下着の中が窮屈になっていた。
 ほんの少しのキスだけで、こんな風にされてしまうなんて。
 この先に進んだら、僕は一体どうなってしまうんだろう。

 ようやく唇を解放されたと思えば、濡れた唇を移動されて、左耳の付け根あたりを吸われる。
 皮膚の表面で快感が弾けて、僕はたまらず甘い声を上げた。

「あぁ……っ」

 びくびくと、体の芯を震わせる。
 あまりにも強い快感にもう達してしまいそうになり、慌てて文哉さんの胸を押すも、岩のように頑丈な体躯はビクともしない。

 大きな手でがっしりと捕らえられて逃げ場を失った僕は、先端からこぼれた先走りで、下着をますます濡らす羽目になった。ミイラ取りがミイラになってしまった。

「は……っ」
「悪い。本当は期待してた。おまえがそうやって俺に文句を言って、したいって言ってくれるのを」

 僕の唇の表面を親指で拭いながら、熱を孕んだ目でそう告げられる。
 文哉さんは僕を軽々と持ち上げて、自分の太ももの上に座らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ
BL
「他人に触られるのも、そばに寄られるのも嫌だ。……怖い」 現代ヨーロッパの小国。王子として生まれながら、接触恐怖症のため身分を隠して生活するエリオットの元へ、王宮から侍従がやって来る。ロイヤルウェディングを控えた兄から、特別な役割で式に出て欲しいとの誘いだった。 無理だと断り、招待状を運んできた侍従を追い返すのだが、この侍従、己の出世にはエリオットが必要だと言って譲らない。 しかし散らかり放題の部屋を見た侍従が、説得より先に掃除を始めたことから、二人の関係は思わぬ方向へ転がり始める。 おいおい、ロイヤルウエディングどこ行った? 世話焼き侍従×ワケあり王子の恋物語。  ※は性描写のほか、注意が必要な表現を含みます。  この小説は、投稿サイト「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」「カクヨム」で掲載しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...