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54 大好きでたまらない。
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僕と大沢店長は面食らい、動けなくなった。
森下くんは僕から大沢店長を半ば強引に引き剥がし、顔をぐいと近づけている。
「俺んち、すぐそこなんで」
大沢店長は表情を全く変えず、僕と森下くんを交互に見ながら様子を伺った。
そんな風に言ってくれるとは思わなくてうれしくなった反面、人の好意を無下にしている気がする森下くんに対して少々ムッとした。
大沢店長は、僕のことを心配してここまで連れてきてくれたのに。
僕が何か言おうとする前に森下くんはまた言った。
「連れていきます、俺が」
まるで決定事項だと言わんばかりの口調で言い、今度は僕の腕をガシッと持った。
確かにさっき、この人の家に行って休ませてもらえたらどれだけ楽かと想像してしまったけど、こんな形で本人がやってくるだなんて。
言い訳をする隙もないうちに、森下くんは大沢店長を真っ直ぐに見る。
「付き合ってるんで。俺たち」
ぐわんぐわんと、僕の脳がよけいに収縮した。
何を馬鹿なことを……!
事情を何も知らない大沢店長にいきなりそんなことを言って、一体どういうつもりだ。
僕は今日一番、というかここ数年で一番なくらいに大きな声を張り上げた。
「付き合ってません!」
しんとした駐車場に、僕の情けない声が虚しく反響する。
あぁ、恥ずかしくて涙が出る。
『付き合って』だなんて彼から懇願されたことなんてないし、了承もしていないのに。
それにこの人が付き合うべき人は、乃蒼さんだ。
何か言われるかと思いきや、大沢店長はそんなことは今どうでもいいといった表情だった。
「ちゃんと休んでくださいね。これからどんどん忙しくなっていくんですから。では、店長のこと宜しくお願いしますね」
前半は僕に、後半は森下くんにそう言って、大沢店長は僕らを置いて車の方へ向かっていった。
話聞いてた? と思わずツッコミたくなるが、あえて深いところまで掘り下げないところが、大沢店長なりの優しさなのだろう。
車に乗り込んだのを見届けたところで、僕は腕を引っ張られていたことに気づいて顔を上げた。
「何度?」
「え?」
「熱、何度あるの?」
「測ってないのでちょっと分かりません」
「どうしてあの人を頼って、俺のことを頼ってこなかったの? アイスティー置いたのは俺だよ?」
あれは、そういう意味だったのか?
辛いんだったら俺の家に来てもいいよっていう……
なかなか分かりづらいサインだった。
僕はゆっくりと首を横に振る。
「君にはもう、会えないと思ってましたから」
「なんでだよ……ていうか、まずは俺の家。話はそれからだよ」
森下くんは僕から一歩下がって距離を取ったかと思ったら、なぜかこちらに背を向けた。
次の瞬間には僕の両足は地面から浮き、広い背中に担がれる体勢になっていた。
「……え?!」
「ちゃんと掴まって。じゃないと頭打っちゃうよ」
彼が一歩前に踏み出すと、僕の体が後ろ斜めに傾き、言われた通り地面に落ちてしまいそうになった。
ヒュッと竦み上がり、条件反射で彼の背中にしがみつく。
これじゃ……まるで父親と子供じゃないか。
こんな大人になってから、誰かの背中に乗っかるだなんて。
森下くんは僕を気遣いながら、ゆっくりゆったり歩いてくれる。
文句を言ってもきっと無駄だろうと思い、僕は彼の首の後ろに顔を突っ伏して意識を遠くへ飛ばした。
この火照り続ける顔は、単なる熱のせいだとこじつけたい。
ひどいことをしたのに、どうしてこんなに優しいんだろう。
森下くん。
僕はやっぱり、君が好きです。
だから僕は君に、ちゃんと幸せになってほしいんです。
森下くんは僕から大沢店長を半ば強引に引き剥がし、顔をぐいと近づけている。
「俺んち、すぐそこなんで」
大沢店長は表情を全く変えず、僕と森下くんを交互に見ながら様子を伺った。
そんな風に言ってくれるとは思わなくてうれしくなった反面、人の好意を無下にしている気がする森下くんに対して少々ムッとした。
大沢店長は、僕のことを心配してここまで連れてきてくれたのに。
僕が何か言おうとする前に森下くんはまた言った。
「連れていきます、俺が」
まるで決定事項だと言わんばかりの口調で言い、今度は僕の腕をガシッと持った。
確かにさっき、この人の家に行って休ませてもらえたらどれだけ楽かと想像してしまったけど、こんな形で本人がやってくるだなんて。
言い訳をする隙もないうちに、森下くんは大沢店長を真っ直ぐに見る。
「付き合ってるんで。俺たち」
ぐわんぐわんと、僕の脳がよけいに収縮した。
何を馬鹿なことを……!
事情を何も知らない大沢店長にいきなりそんなことを言って、一体どういうつもりだ。
僕は今日一番、というかここ数年で一番なくらいに大きな声を張り上げた。
「付き合ってません!」
しんとした駐車場に、僕の情けない声が虚しく反響する。
あぁ、恥ずかしくて涙が出る。
『付き合って』だなんて彼から懇願されたことなんてないし、了承もしていないのに。
それにこの人が付き合うべき人は、乃蒼さんだ。
何か言われるかと思いきや、大沢店長はそんなことは今どうでもいいといった表情だった。
「ちゃんと休んでくださいね。これからどんどん忙しくなっていくんですから。では、店長のこと宜しくお願いしますね」
前半は僕に、後半は森下くんにそう言って、大沢店長は僕らを置いて車の方へ向かっていった。
話聞いてた? と思わずツッコミたくなるが、あえて深いところまで掘り下げないところが、大沢店長なりの優しさなのだろう。
車に乗り込んだのを見届けたところで、僕は腕を引っ張られていたことに気づいて顔を上げた。
「何度?」
「え?」
「熱、何度あるの?」
「測ってないのでちょっと分かりません」
「どうしてあの人を頼って、俺のことを頼ってこなかったの? アイスティー置いたのは俺だよ?」
あれは、そういう意味だったのか?
辛いんだったら俺の家に来てもいいよっていう……
なかなか分かりづらいサインだった。
僕はゆっくりと首を横に振る。
「君にはもう、会えないと思ってましたから」
「なんでだよ……ていうか、まずは俺の家。話はそれからだよ」
森下くんは僕から一歩下がって距離を取ったかと思ったら、なぜかこちらに背を向けた。
次の瞬間には僕の両足は地面から浮き、広い背中に担がれる体勢になっていた。
「……え?!」
「ちゃんと掴まって。じゃないと頭打っちゃうよ」
彼が一歩前に踏み出すと、僕の体が後ろ斜めに傾き、言われた通り地面に落ちてしまいそうになった。
ヒュッと竦み上がり、条件反射で彼の背中にしがみつく。
これじゃ……まるで父親と子供じゃないか。
こんな大人になってから、誰かの背中に乗っかるだなんて。
森下くんは僕を気遣いながら、ゆっくりゆったり歩いてくれる。
文句を言ってもきっと無駄だろうと思い、僕は彼の首の後ろに顔を突っ伏して意識を遠くへ飛ばした。
この火照り続ける顔は、単なる熱のせいだとこじつけたい。
ひどいことをしたのに、どうしてこんなに優しいんだろう。
森下くん。
僕はやっぱり、君が好きです。
だから僕は君に、ちゃんと幸せになってほしいんです。
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