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55 改めて告白
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この情けない状況を誰にも見られたくなかったけどそうもいかず。
すれ違う人々から好奇の視線を向けられて、僕は隠れるように目をギュッと閉じていた。森下くんはそんな視線がささろうとも、僕を背中からおろそうとはしなかった。
家にたどり着き、なんだかよく分からないうちにベッドインされた。
しっかりと布団をかけられた後に体温計を渡され、測ってみたら九度近かった。
森下くんが濡れタオルを、僕の額に置いてくれる。
ひんやりとして心地良かった。
「……すみません」
この間から僕は、この人に謝ってばっかりだ。
情けなくって涙が出る。こんな子供以下の僕はもう放っておいてほしい。
逃げたかったが、逃げられない。
森下くんは床に腰を落ち着けて、頬杖をついて僕の顔を覗き込んでくるから。
「すごく、嫌だった。あの人とあんたが、体を寄せ合って歩いていくの」
「……大沢さんが、僕がタクシーで帰ると言ったら、家に来たらどうかって。僕のことを、心配してくれたんです」
「それは分かってるけど」
「どうして君は、大沢店長に向かってあんなことを……」
おずおずと訊くが、森下くんは何も答えなかった。
君とは、付き合っていません。
それも付け加えて言うと、思いも寄らない返答をされた。
「俺、この間乃蒼ちゃんに告白されたよ」
告白? いつ?
乃蒼さんからも何も聞かされていなかったので心底驚いたが、変に安堵もした。だったらもう、僕がそばにいる必要なんてないじゃないか。
「おめでとうございます」
「どうしてそうなるんだよ。俺と乃蒼ちゃんが付き合ってもいいの?」
そんなの嫌に決まってるじゃないか。
でも嫌といえる権利は僕にはない。
肯定も否定もできずに、体調不良のせいにして目を閉じ、僕は動かなくなった。
すると急に、僕の唇が乱暴に塞がれた。
隙間を舌で広げられ、口腔に濡れた森下くんの舌が侵入してくる。
絡めとられてじゅっと吸われてしまう。僕は森下くんの肩を押して引き剥がした。
「病人相手に何やってるんですか!」
「バカ! 何ですぐに嫌だって言わないんだよ! そんなんだったら本当に付き合っちゃうよ⁈」
「どうぞご勝手に!」
大声を出したせいで、くらくらと目眩がした。
森下くんは口の端を持ち上げながらも、心底うんざりしたような目で僕を一瞥した。
そうだ。それでいいのだ。もう僕に、手を差し伸べないでほしい。
君は乃蒼さんと幸せになったらいい。僕と一緒にいても結婚ができるわけじゃないし、家族も増えるわけじゃない。
本当の気持ちは胸の中で渦巻いているだけで、吐き出せなかった。
「こんな状況で、言うのもなんだけど」
森下くんは改まって気を落ち着けて、僕の眼鏡をそっと外した。
部屋は暗いけど、近すぎるので森下くんの顔がはっきりと見える。
「俺、手順を間違ってたのかもしれない。本来ならちゃんと告白をして、オッケーをもらえたら店長にキスしたりするべきだったんじゃないかって、ずっともやもやしてたんだ。強引に手に入れようとした自分が、恥ずかしくなった」
さっきの突然のキスで体を捩った拍子に枕に落ちてしまった濡れタオルを、森下くんは僕の額に置き直してくれた。
「だからもう一回、やり直したい。もう遅いかもしれないけど、ちゃんとさせてほしい。──俺と付き合って。店長」
彼の真っ直ぐすぎる視線に耐えきれなくなって、視線を彷徨わせた。
こんな状況でずるい。告白って、体調不良の相手と酔っ払いには本来しちゃいけないだろ。
すれ違う人々から好奇の視線を向けられて、僕は隠れるように目をギュッと閉じていた。森下くんはそんな視線がささろうとも、僕を背中からおろそうとはしなかった。
家にたどり着き、なんだかよく分からないうちにベッドインされた。
しっかりと布団をかけられた後に体温計を渡され、測ってみたら九度近かった。
森下くんが濡れタオルを、僕の額に置いてくれる。
ひんやりとして心地良かった。
「……すみません」
この間から僕は、この人に謝ってばっかりだ。
情けなくって涙が出る。こんな子供以下の僕はもう放っておいてほしい。
逃げたかったが、逃げられない。
森下くんは床に腰を落ち着けて、頬杖をついて僕の顔を覗き込んでくるから。
「すごく、嫌だった。あの人とあんたが、体を寄せ合って歩いていくの」
「……大沢さんが、僕がタクシーで帰ると言ったら、家に来たらどうかって。僕のことを、心配してくれたんです」
「それは分かってるけど」
「どうして君は、大沢店長に向かってあんなことを……」
おずおずと訊くが、森下くんは何も答えなかった。
君とは、付き合っていません。
それも付け加えて言うと、思いも寄らない返答をされた。
「俺、この間乃蒼ちゃんに告白されたよ」
告白? いつ?
乃蒼さんからも何も聞かされていなかったので心底驚いたが、変に安堵もした。だったらもう、僕がそばにいる必要なんてないじゃないか。
「おめでとうございます」
「どうしてそうなるんだよ。俺と乃蒼ちゃんが付き合ってもいいの?」
そんなの嫌に決まってるじゃないか。
でも嫌といえる権利は僕にはない。
肯定も否定もできずに、体調不良のせいにして目を閉じ、僕は動かなくなった。
すると急に、僕の唇が乱暴に塞がれた。
隙間を舌で広げられ、口腔に濡れた森下くんの舌が侵入してくる。
絡めとられてじゅっと吸われてしまう。僕は森下くんの肩を押して引き剥がした。
「病人相手に何やってるんですか!」
「バカ! 何ですぐに嫌だって言わないんだよ! そんなんだったら本当に付き合っちゃうよ⁈」
「どうぞご勝手に!」
大声を出したせいで、くらくらと目眩がした。
森下くんは口の端を持ち上げながらも、心底うんざりしたような目で僕を一瞥した。
そうだ。それでいいのだ。もう僕に、手を差し伸べないでほしい。
君は乃蒼さんと幸せになったらいい。僕と一緒にいても結婚ができるわけじゃないし、家族も増えるわけじゃない。
本当の気持ちは胸の中で渦巻いているだけで、吐き出せなかった。
「こんな状況で、言うのもなんだけど」
森下くんは改まって気を落ち着けて、僕の眼鏡をそっと外した。
部屋は暗いけど、近すぎるので森下くんの顔がはっきりと見える。
「俺、手順を間違ってたのかもしれない。本来ならちゃんと告白をして、オッケーをもらえたら店長にキスしたりするべきだったんじゃないかって、ずっともやもやしてたんだ。強引に手に入れようとした自分が、恥ずかしくなった」
さっきの突然のキスで体を捩った拍子に枕に落ちてしまった濡れタオルを、森下くんは僕の額に置き直してくれた。
「だからもう一回、やり直したい。もう遅いかもしれないけど、ちゃんとさせてほしい。──俺と付き合って。店長」
彼の真っ直ぐすぎる視線に耐えきれなくなって、視線を彷徨わせた。
こんな状況でずるい。告白って、体調不良の相手と酔っ払いには本来しちゃいけないだろ。
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