ただ、そばにいさせて。

こすもす

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56 告白の返事

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 僕はこれまでの人生を振り返ってみた。
 好きになった人とは両思いになれず、母親を悲しませて、いざ大好きな人に求められても勇気が出ずに心の中を曝け出すことができない。
 僕の心はいつまでも凪ぐことはない。
 何もかも投げ捨てて逃げたい。やり直したい。

「……僕だって、普通の人みたいな恋をしたかったんです」

 長い沈黙の末に僕の口から出たのはそんな言葉だった。
 きっと醜態を晒すことになるけど、もうどうでもいいとさえ思えた。
 森下くんの前で恥ずかしい姿なんて、何度も晒している。

「普通に女の人を好きになって、普通に恋愛して、普通に結婚して子供を作ったり……それで、母親が喜んでくれるんだったら」

 目の周りがじわりじわりと重く熱くなる。
 泣くのを耐えきれなくなった。こんなふうに本音を明かしたのは人生ではじめてだ。

「森下くんは、本来は普通の幸せが送れる人間じゃないですか。きっと後悔すると思います。今日、僕に告白をして、この後に僕も本当は君が大好きでたまらないと言われることを、未来の君はきっと」
「しないよ。絶対に大丈夫」

 濡れタオルをずらされ、目の上に被せられた。
 止めどなく溢れる雫はいくつか吸収されるけれど、隙間から漏れた涙が頬に筋をつくった。
 
「ねぇ店長」
「……はい」
「俺の人生は俺で決めるよ。だから店長も、店長自身で決めてほしい。母親とか周りの目とか、俺がこうなるべきだとか勝手に妄想するのは、もうやめてほしい。超迷惑」
「め……迷惑って」

 少し狼狽するけど、彼の声は慈愛に満ちていて、ちっとも嫌ではなかった。

「店長の母親の願いは、店長が普通の恋をして結婚して……ていうことじゃないと思うよ。店長が自分で幸せだと思う道を進んでくれること。そうしたらきっと、母親は喜んでくれると思うよ」

 昔、僕の性癖を知って泣いていた母親。
 本当にそうなのだろうか。もう昔のことすぎて、どんな風に泣いていたのか鮮明には思い出せない。
 彼女は僕の幸せを邪魔しているのではなくて、願ってくれているんだろうか。

「俺の母親だって、俺が選んだ道が幸せなんだって言えば、きっと分かってくれると思うよ。だからそんなに思い詰めんなよ。もういいんだよ、店長は幸せになって」
「いいんですか」
「いいって」
「本当に?」
「しつこ。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」

 タオルを剥がされ、もう一度キスをされた。
 舌を痺れるくらいに吸われると、腰が砕けそうになる。

 臆病な僕は、ようやく殻を破れた気がした。
 この人が大好きだと、隠さなくてもいいんだ。
 愛されたいって願っても、それが僕の幸せなのだと思ってもいいんだ。

 長いことキスをしていると、ますます熱が上がったようだった。
 そういえば僕は病人だ。こんなにキスをしたら、森下くんにうつしてしまうかも。
 顔を傾けられた隙に、僕の方から顔を引いて逃げた。

「もう、ダメです。うつしちゃいます」
「で、さっきの告白の返事は?」
「……」
「ちゃんと言ってよ。店長の思ってること、なんでも聞きたいから」

 かけ布団の上から体をぎゅっと抱きしめられ、森下くんの茶色い髪が鼻をくすぐってくしゃみが出そうになる。
 また長い沈黙の末に、僕は勇気を振り絞った。

「こちらこそ、付き合ってください。大好きです。森下くん」
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