58 / 65
56 告白の返事
しおりを挟む
僕はこれまでの人生を振り返ってみた。
好きになった人とは両思いになれず、母親を悲しませて、いざ大好きな人に求められても勇気が出ずに心の中を曝け出すことができない。
僕の心はいつまでも凪ぐことはない。
何もかも投げ捨てて逃げたい。やり直したい。
「……僕だって、普通の人みたいな恋をしたかったんです」
長い沈黙の末に僕の口から出たのはそんな言葉だった。
きっと醜態を晒すことになるけど、もうどうでもいいとさえ思えた。
森下くんの前で恥ずかしい姿なんて、何度も晒している。
「普通に女の人を好きになって、普通に恋愛して、普通に結婚して子供を作ったり……それで、母親が喜んでくれるんだったら」
目の周りがじわりじわりと重く熱くなる。
泣くのを耐えきれなくなった。こんなふうに本音を明かしたのは人生ではじめてだ。
「森下くんは、本来は普通の幸せが送れる人間じゃないですか。きっと後悔すると思います。今日、僕に告白をして、この後に僕も本当は君が大好きでたまらないと言われることを、未来の君はきっと」
「しないよ。絶対に大丈夫」
濡れタオルをずらされ、目の上に被せられた。
止めどなく溢れる雫はいくつか吸収されるけれど、隙間から漏れた涙が頬に筋をつくった。
「ねぇ店長」
「……はい」
「俺の人生は俺で決めるよ。だから店長も、店長自身で決めてほしい。母親とか周りの目とか、俺がこうなるべきだとか勝手に妄想するのは、もうやめてほしい。超迷惑」
「め……迷惑って」
少し狼狽するけど、彼の声は慈愛に満ちていて、ちっとも嫌ではなかった。
「店長の母親の願いは、店長が普通の恋をして結婚して……ていうことじゃないと思うよ。店長が自分で幸せだと思う道を進んでくれること。そうしたらきっと、母親は喜んでくれると思うよ」
昔、僕の性癖を知って泣いていた母親。
本当にそうなのだろうか。もう昔のことすぎて、どんな風に泣いていたのか鮮明には思い出せない。
彼女は僕の幸せを邪魔しているのではなくて、願ってくれているんだろうか。
「俺の母親だって、俺が選んだ道が幸せなんだって言えば、きっと分かってくれると思うよ。だからそんなに思い詰めんなよ。もういいんだよ、店長は幸せになって」
「いいんですか」
「いいって」
「本当に?」
「しつこ。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」
タオルを剥がされ、もう一度キスをされた。
舌を痺れるくらいに吸われると、腰が砕けそうになる。
臆病な僕は、ようやく殻を破れた気がした。
この人が大好きだと、隠さなくてもいいんだ。
愛されたいって願っても、それが僕の幸せなのだと思ってもいいんだ。
長いことキスをしていると、ますます熱が上がったようだった。
そういえば僕は病人だ。こんなにキスをしたら、森下くんにうつしてしまうかも。
顔を傾けられた隙に、僕の方から顔を引いて逃げた。
「もう、ダメです。うつしちゃいます」
「で、さっきの告白の返事は?」
「……」
「ちゃんと言ってよ。店長の思ってること、なんでも聞きたいから」
かけ布団の上から体をぎゅっと抱きしめられ、森下くんの茶色い髪が鼻をくすぐってくしゃみが出そうになる。
また長い沈黙の末に、僕は勇気を振り絞った。
「こちらこそ、付き合ってください。大好きです。森下くん」
好きになった人とは両思いになれず、母親を悲しませて、いざ大好きな人に求められても勇気が出ずに心の中を曝け出すことができない。
僕の心はいつまでも凪ぐことはない。
何もかも投げ捨てて逃げたい。やり直したい。
「……僕だって、普通の人みたいな恋をしたかったんです」
長い沈黙の末に僕の口から出たのはそんな言葉だった。
きっと醜態を晒すことになるけど、もうどうでもいいとさえ思えた。
森下くんの前で恥ずかしい姿なんて、何度も晒している。
「普通に女の人を好きになって、普通に恋愛して、普通に結婚して子供を作ったり……それで、母親が喜んでくれるんだったら」
目の周りがじわりじわりと重く熱くなる。
泣くのを耐えきれなくなった。こんなふうに本音を明かしたのは人生ではじめてだ。
「森下くんは、本来は普通の幸せが送れる人間じゃないですか。きっと後悔すると思います。今日、僕に告白をして、この後に僕も本当は君が大好きでたまらないと言われることを、未来の君はきっと」
「しないよ。絶対に大丈夫」
濡れタオルをずらされ、目の上に被せられた。
止めどなく溢れる雫はいくつか吸収されるけれど、隙間から漏れた涙が頬に筋をつくった。
「ねぇ店長」
「……はい」
「俺の人生は俺で決めるよ。だから店長も、店長自身で決めてほしい。母親とか周りの目とか、俺がこうなるべきだとか勝手に妄想するのは、もうやめてほしい。超迷惑」
「め……迷惑って」
少し狼狽するけど、彼の声は慈愛に満ちていて、ちっとも嫌ではなかった。
「店長の母親の願いは、店長が普通の恋をして結婚して……ていうことじゃないと思うよ。店長が自分で幸せだと思う道を進んでくれること。そうしたらきっと、母親は喜んでくれると思うよ」
昔、僕の性癖を知って泣いていた母親。
本当にそうなのだろうか。もう昔のことすぎて、どんな風に泣いていたのか鮮明には思い出せない。
彼女は僕の幸せを邪魔しているのではなくて、願ってくれているんだろうか。
「俺の母親だって、俺が選んだ道が幸せなんだって言えば、きっと分かってくれると思うよ。だからそんなに思い詰めんなよ。もういいんだよ、店長は幸せになって」
「いいんですか」
「いいって」
「本当に?」
「しつこ。俺がいいって言ってるんだからいいんだよ」
タオルを剥がされ、もう一度キスをされた。
舌を痺れるくらいに吸われると、腰が砕けそうになる。
臆病な僕は、ようやく殻を破れた気がした。
この人が大好きだと、隠さなくてもいいんだ。
愛されたいって願っても、それが僕の幸せなのだと思ってもいいんだ。
長いことキスをしていると、ますます熱が上がったようだった。
そういえば僕は病人だ。こんなにキスをしたら、森下くんにうつしてしまうかも。
顔を傾けられた隙に、僕の方から顔を引いて逃げた。
「もう、ダメです。うつしちゃいます」
「で、さっきの告白の返事は?」
「……」
「ちゃんと言ってよ。店長の思ってること、なんでも聞きたいから」
かけ布団の上から体をぎゅっと抱きしめられ、森下くんの茶色い髪が鼻をくすぐってくしゃみが出そうになる。
また長い沈黙の末に、僕は勇気を振り絞った。
「こちらこそ、付き合ってください。大好きです。森下くん」
0
あなたにおすすめの小説
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
-----------------------------------------
0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新
君と僕との泡沫は
七天八狂
BL
【ツンデレ美貌✕鈍感平凡の高校生】
品行方正才色兼備の生徒会長と、爪弾きの底辺ぼっちが親の再婚で義兄弟となった青春BLドラマ。
親の再婚で義兄弟となった正反対の二人の青春BL。
入学して以来、ずっと見つめ続けていた彼が義兄弟となった。
しかし、誰にでも親切で、みなから慕われている彼が向けてきたのは、拒絶の言葉だった。
櫻井優斗は、再婚を繰り返す母のせいで引っ越しと転校を余儀なくされ、友人をつくることを諦め、漫画を描くという趣味に没頭し、孤独に生きていた。
高校で出会った久我雅利の美貌に見惚れ、彼を主人公にした漫画を描くことに決めて、二年間観察し続けていた。
底辺ぼっちだった優斗は、周りから空気のように扱われていたから、見えない存在として、どれほど見ていても気づかれることはなかった。
そのはずが、同じ屋根の下に住む関係となり、当の本人に、絵を描いていたことまでもがバレてしまった。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる