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57 面映ゆい朝
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目を覚ましてからしばらくボーッとした。
カーテンの隙間から、陽光が漏れている。
見慣れない天井。いつもと肌触りの違う掛け布団と漂う空気感。
上半身を起き上がらせると、額に乗っていたタオルがポトッと落ちたのでそれを拾い上げた。
壁掛け時計を見ると九時をさしていた。
どうやら僕は随分と眠っていたようだ。
森下くんの姿は見えない。
ベッドからおり、すぐそこのテーブルを見たら『今日は早番だから行ってくるね。部屋のものは好きに使っていいから』と書かれたメモと、握ったおにぎりが二つ置いてあった。
感動で胸がいっぱいになりながら、時間を掛けておにぎりを完食した。
軽くシャワーを浴びて出ると、この前の部屋着も置いてあったので、いそいそとその服に着替えた。
喉が渇いたので、蛇口を捻り、コップに水をくんで飲み干してみる。
うん、薬が効いたみたいだ。
食欲もあるし、少し体はだるいけれど格段に良くなっている。
改めて鏡で自分の姿を確認し、あっとなった。
目がものすごく腫れている。恥ずかしくなってすぐに視線をそらし、もう一度ベッドの上に腰掛けて顔を覆った。
昨日の出来事は夢ではないのだなと、再認識した。
彼が帰ってきたらどんな顔をして会えばいいのか分からないが、とにかく分かったことは一つだけ。
もう、臆病な自分は卒業だ。
胸を張る、まではいかなくとも、自分の足でしっかりと立って前を向いて歩き出すくらいのことはしていこう。
部屋を片付けたり掃除したりして待っていようかとも考えたが、逆に叱られそうだなと思い、大人しく布団の中に潜りこんで目を閉じた。
次に目を覚ましたのは、インターホンが鳴った時だった。
もしやそんなに寝てしまったのかと慌てて時計を見たが、まだ昼の一時だった。
宅配かもしれないと思い、軽く髪を整えてドアを開けると、向こう側にいた人物は宅配業者ではなく杏さんだった。
「こんにちは。具合、大丈夫ですか?」
「杏さん、どうしたんですか」
「暇だったから来ちゃいました」
そう言って部屋に上がる杏さんを見て、きっと森下くんが呼んでくれたのだろうと思い、感謝した。
杏さんは持ってきた袋の中の清涼飲料水や果物を冷蔵庫へ入れていく。
「何か食べますか? うどんとか、お粥とか。なんでも好きなもの作りますよ」
「あ……」
悪いのでいいですよ、と出そうになった言葉を、喉の奥へ流し込んだ。
こうして僕のためを思ってしてくれる気遣いを、素直に受けとってみてもバチは当たらないんじゃないか。
そう思い、僕は素直な気持ちを伝えてみた。
「では……お粥が、食べたいです」
杏さんはにっこり笑って「了解です!」と元気よく腕まくりをした。
面映い気持ちで待っていると、玉子と刻みネギと梅干しの入ったお粥が運ばれてきた。
杏さんも自分の分を茶碗によそい、二人で向かいあって手をあわせ、息を吹きかけながら口に運んだ。
口の中でふわっと醤油と鰹節の香ばしい香りが広がる。
「美味しい。出汁がきいていて」
「あぁ、良かった。まだあるのでたくさん食べてくださいね」
「わざわざ、ありがとうございます。今日は仕事お休みなんですか」
「はい。昨日あえて出勤してやったんです。お陰で家で寂しいぼっちのクリスマスを過ごさずに済みました」
杏さんによると、夏ごろから付き合い始めた彼とは今月頭に別れてしまったのだという。
「性格の不一致ですね」と明るく話すものだから、僕もつられて笑ってしまった。
「まぁ、杏さんだったらすぐにいい人が見つかりそうですけどね」
「え、そうですか?」
「うん。きっとモテるでしょう」
「全然ですよ。あ、だったら青山さん、私と付き合ってみますか?」
「えっ」
「私は青山さん、ありだなぁと思ってるんですけど」
悪戯っぽく笑うその顔が一瞬森下くんに見えて、大袈裟に声を上げてしまった。
恋人の妹にそんな風に言われて、どうしたらいいのか分からない。
僕には今、恋人がいるのでと断ろうとしたら、杏さんの方が先に口を開いた。
「なーんちゃって。ちゃんと知ってますよ。お兄ちゃんと付き合ってるんですよね」
カーテンの隙間から、陽光が漏れている。
見慣れない天井。いつもと肌触りの違う掛け布団と漂う空気感。
上半身を起き上がらせると、額に乗っていたタオルがポトッと落ちたのでそれを拾い上げた。
壁掛け時計を見ると九時をさしていた。
どうやら僕は随分と眠っていたようだ。
森下くんの姿は見えない。
ベッドからおり、すぐそこのテーブルを見たら『今日は早番だから行ってくるね。部屋のものは好きに使っていいから』と書かれたメモと、握ったおにぎりが二つ置いてあった。
感動で胸がいっぱいになりながら、時間を掛けておにぎりを完食した。
軽くシャワーを浴びて出ると、この前の部屋着も置いてあったので、いそいそとその服に着替えた。
喉が渇いたので、蛇口を捻り、コップに水をくんで飲み干してみる。
うん、薬が効いたみたいだ。
食欲もあるし、少し体はだるいけれど格段に良くなっている。
改めて鏡で自分の姿を確認し、あっとなった。
目がものすごく腫れている。恥ずかしくなってすぐに視線をそらし、もう一度ベッドの上に腰掛けて顔を覆った。
昨日の出来事は夢ではないのだなと、再認識した。
彼が帰ってきたらどんな顔をして会えばいいのか分からないが、とにかく分かったことは一つだけ。
もう、臆病な自分は卒業だ。
胸を張る、まではいかなくとも、自分の足でしっかりと立って前を向いて歩き出すくらいのことはしていこう。
部屋を片付けたり掃除したりして待っていようかとも考えたが、逆に叱られそうだなと思い、大人しく布団の中に潜りこんで目を閉じた。
次に目を覚ましたのは、インターホンが鳴った時だった。
もしやそんなに寝てしまったのかと慌てて時計を見たが、まだ昼の一時だった。
宅配かもしれないと思い、軽く髪を整えてドアを開けると、向こう側にいた人物は宅配業者ではなく杏さんだった。
「こんにちは。具合、大丈夫ですか?」
「杏さん、どうしたんですか」
「暇だったから来ちゃいました」
そう言って部屋に上がる杏さんを見て、きっと森下くんが呼んでくれたのだろうと思い、感謝した。
杏さんは持ってきた袋の中の清涼飲料水や果物を冷蔵庫へ入れていく。
「何か食べますか? うどんとか、お粥とか。なんでも好きなもの作りますよ」
「あ……」
悪いのでいいですよ、と出そうになった言葉を、喉の奥へ流し込んだ。
こうして僕のためを思ってしてくれる気遣いを、素直に受けとってみてもバチは当たらないんじゃないか。
そう思い、僕は素直な気持ちを伝えてみた。
「では……お粥が、食べたいです」
杏さんはにっこり笑って「了解です!」と元気よく腕まくりをした。
面映い気持ちで待っていると、玉子と刻みネギと梅干しの入ったお粥が運ばれてきた。
杏さんも自分の分を茶碗によそい、二人で向かいあって手をあわせ、息を吹きかけながら口に運んだ。
口の中でふわっと醤油と鰹節の香ばしい香りが広がる。
「美味しい。出汁がきいていて」
「あぁ、良かった。まだあるのでたくさん食べてくださいね」
「わざわざ、ありがとうございます。今日は仕事お休みなんですか」
「はい。昨日あえて出勤してやったんです。お陰で家で寂しいぼっちのクリスマスを過ごさずに済みました」
杏さんによると、夏ごろから付き合い始めた彼とは今月頭に別れてしまったのだという。
「性格の不一致ですね」と明るく話すものだから、僕もつられて笑ってしまった。
「まぁ、杏さんだったらすぐにいい人が見つかりそうですけどね」
「え、そうですか?」
「うん。きっとモテるでしょう」
「全然ですよ。あ、だったら青山さん、私と付き合ってみますか?」
「えっ」
「私は青山さん、ありだなぁと思ってるんですけど」
悪戯っぽく笑うその顔が一瞬森下くんに見えて、大袈裟に声を上げてしまった。
恋人の妹にそんな風に言われて、どうしたらいいのか分からない。
僕には今、恋人がいるのでと断ろうとしたら、杏さんの方が先に口を開いた。
「なーんちゃって。ちゃんと知ってますよ。お兄ちゃんと付き合ってるんですよね」
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