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第1章 優しい先輩と不機嫌な先輩

照れるぼく

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「実は聖は中二の時、バスケ部の先輩を殴っちゃった事があるんだよ」
「えっ、暴力反対!」
「聖も手を出したのは悪いけど、そもそもは向こうのせいなんだ。三年の一人がレギュラー落ちしちゃって、代わりに上手な一年が入ったんだけど、次の日からそいつのバッシュが片足無くなったり、そいつの下駄箱に虫の死骸入れられたりして」
「うわぁ、典型的な嫌がらせですね」
「その三年と仲間がやったんだってみんななんとなく分かってたけど、証拠は見つからなかったんだ。俺もどうにかしたいも思いつつも何も出来ないでいたけど、聖は違った。先輩のところに直接言いにいってさ。しらばっくれる先輩にキレちゃって、気が付いたら殴ってたって後日聞いて。俺、聖のこと凄いなぁって尊敬した。部長に推薦された時、俺が聖を副部長に推薦したんだ」

 なんかとてもいい話に聞こえますけど。
 きっとその中学では有名な話なのだろう。けれど何があろうと暴力はダメだ。
 とりあえずあの人はキレたら怖い。それだけは覚えとこう。
 特に接点は無いだろうけど、高橋先輩と付き合った暁には改めてぼくを紹介してもらえるだろうし。
 家の近くまで送ってもらい、ぼくは名残り惜しくも上目遣いで先輩を見た。

「また誘ってくださいね。じゃあおやすみなさい」
「うん、今日はありがとう。また明後日学校で」

 ぼくは一度お辞儀をして、すぐに先輩に背中を向ける。
 これも作戦だ。あっさりと身を引く事で逆に気になってもらえるように。

「あ、小峰」

 案の定、先輩はぼくを引き止めた。
 しめしめ、と言ったところか。
 何故呼ばれたのかわからないという表情をして先輩を見る。

「本当にありがとうな。今日だけじゃなくて、いつも」
「え?」
「毎朝必ず笑顔で挨拶を返してくれる小峰を見ると、なんだかホッとするんだ。小峰、委員の集まりかなんかで朝早く登校した日あっただろ? あの日、変な感じだったよ。小峰と挨拶してないなぁって。だから毎朝、ちゃんと俺に挨拶してくれよ」

 先輩はそう言ってはにかんだ。
 こ、れ、は……!
 フラグ立ってんじゃないの、これ。だってイコール、先輩にとってぼくが必要って意味でしょ?
 ぼくのこれまでのアピールは、無意味じゃなかった。ちゃんと先輩に届いていたんだ。
 二人のハッピーエンドは、もう目前だ。
 ぼくはここぞとばかりに穏やかに目を細めた。

「はい。ぼくも先輩と毎日会いたいです。先輩といると楽しいですし。これからもたまに、遊びに行けると嬉しいです」
「そうだな。また誘うよ。引き止めちゃってごめん、またな」

 先輩は名残惜しそうに手を振って、そこの角を曲がっていった。
 ぼくはルンルンと鼻歌を歌いながら玄関のドアを開けて二階に上がり、姉の部屋へ入った。
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