97 / 111
第5章 ぼくの運命の先輩は。
歩太先輩と、仲良く。
しおりを挟む
その後、歩太先輩は、保健室でぼくの体にキスをして怖がらせてしまったことを謝ってきた。
僕の思った通り、聖先輩の気持ちが自分にない事を悟って、いろんな感情が渦巻いてあんな行動に出てしまったらしい。
「小峰にはてっきり、無視されるだろうなって思ってたよ。けれど今日の朝、変わらずに挨拶してきてくれただろ。本当に嬉しかった」
歩太先輩は本当に嬉しそうな表情でそう告げた。
勇気を出して話しかけて良かった。
そして歩太先輩はすぐに付け加える。
「小峰が俺のことを特別に思ってくれてたって分かって、正直嬉しいんだ。小峰はほんとうに可愛いし、ちょっと落ち着かないところもあるけど、一緒にいて楽しいし」
穏やかな陽だまりのような視線が横から突き刺さって、照れてしまう。
「どうだろう。またこれから、仲良く出来ないかな」
「仲良く、ですか」
「小峰はもう聖との関係は解消されて、自由の身だろ。俺は聖に振られたばっかりで傷心してるし、二人でまた遊んだりして、慰め合っていこうよ」
歩太先輩は勘違いしている。
ぼくが聖先輩といやいやお付き合いをしていたと思っている。
いや、それは事実だ。
初めはどうやったら穏便にお付き合いを解消できるか、そればっかり考えていた。
けれどちゃんと、好きになっていた。
そうじゃないと、この目からまたこぼれ落ちそうになっている涙は、一体どんな意味があるっていうのだろう。
でももう、聖先輩はぼくのことを消去した。
歩太先輩までも失ってしまったら、ぼくはきっと立ち直れないだろう。
弱くてずるい自分は、力なく頷いたのだった。
次の日から、ビックリするくらいに聖先輩に会わなくなった。
登校中、下校中、無意識に聖先輩の姿を探している自分がいる。
見つけたところで、声なんて掛けられないと思うのに。
その寂しさを埋めてくれるかのように、歩太先輩はぼくのことを前にも増して構ってくれるようになった。
歩太先輩は受験生なので、あまりそんな余裕は無いはずなのに、「もう少ししたら落ち着くから、夏休み中にどこかに出かけようか」とも言ってくれた。
ぼくはそう言われると、本当に嬉しくなる。
ずっと振り向いて欲しかった人が、こんなにもぼくのことを見てくれている。
なのにぼくの心は、ずっと空っぽだった。
一度だけ、正門の前で歩太先輩と聖先輩が話しているところを見たことがある。
聖先輩の視界に入ってしまったらどんな反応をされるのかが怖くて、影からこっそりと眺めていた。
格好よかった。スッと伸びた鼻筋、尖った顎、筋肉質な腕。もうあの人に、ぼくは触れられないなんて。
聖先輩が最後に呼んでくれたぼくの名前。
あの時の声がいつでも脳内再生されて、また涙が滲む。
失ってからその大切さに気づくだなんて。ぼくは本当に馬鹿だ。
中間も期末テストも、パッとした成績を残せないまま一学期が終わろうとしていた。
季節はもう夏。
クラスの周りの生徒は、どこへ旅行だ、デートだなんて騒ぎ立てている。
「小峰」
放課後、一人で帰ろうとしていたところを昇降口で歩太先輩に呼び止められた。
「はい」
「来週、またコンサートに行かないか? 申し込んでたチケット、たまたま取れたんだ。今回は場所もそんなに遠くないし、たまには俺とゆっくりデートしようよ」
まさか歩太先輩からデートだなんて事、言われると思っていなかった。
歩太先輩に促されるまま、ぼくは「ぜひ」と満面の笑みで答えた。
その日は猛暑日で、家の外に一歩踏み出しただけでも汗がじんわり滲むくらいに日差しが照りつけていた。
待ち合わせ場所に電車と徒歩で向かいながら、春の日の事を思い出していた。
春にも歩太先輩とライブに行ったが、その時の気持ちとは全く違う。その感情の差に自分でも驚いた。
こんな気持ちになっているのが申し訳なくて、すでに到着していた歩太先輩へ精一杯笑いかけた。
僕の思った通り、聖先輩の気持ちが自分にない事を悟って、いろんな感情が渦巻いてあんな行動に出てしまったらしい。
「小峰にはてっきり、無視されるだろうなって思ってたよ。けれど今日の朝、変わらずに挨拶してきてくれただろ。本当に嬉しかった」
歩太先輩は本当に嬉しそうな表情でそう告げた。
勇気を出して話しかけて良かった。
そして歩太先輩はすぐに付け加える。
「小峰が俺のことを特別に思ってくれてたって分かって、正直嬉しいんだ。小峰はほんとうに可愛いし、ちょっと落ち着かないところもあるけど、一緒にいて楽しいし」
穏やかな陽だまりのような視線が横から突き刺さって、照れてしまう。
「どうだろう。またこれから、仲良く出来ないかな」
「仲良く、ですか」
「小峰はもう聖との関係は解消されて、自由の身だろ。俺は聖に振られたばっかりで傷心してるし、二人でまた遊んだりして、慰め合っていこうよ」
歩太先輩は勘違いしている。
ぼくが聖先輩といやいやお付き合いをしていたと思っている。
いや、それは事実だ。
初めはどうやったら穏便にお付き合いを解消できるか、そればっかり考えていた。
けれどちゃんと、好きになっていた。
そうじゃないと、この目からまたこぼれ落ちそうになっている涙は、一体どんな意味があるっていうのだろう。
でももう、聖先輩はぼくのことを消去した。
歩太先輩までも失ってしまったら、ぼくはきっと立ち直れないだろう。
弱くてずるい自分は、力なく頷いたのだった。
次の日から、ビックリするくらいに聖先輩に会わなくなった。
登校中、下校中、無意識に聖先輩の姿を探している自分がいる。
見つけたところで、声なんて掛けられないと思うのに。
その寂しさを埋めてくれるかのように、歩太先輩はぼくのことを前にも増して構ってくれるようになった。
歩太先輩は受験生なので、あまりそんな余裕は無いはずなのに、「もう少ししたら落ち着くから、夏休み中にどこかに出かけようか」とも言ってくれた。
ぼくはそう言われると、本当に嬉しくなる。
ずっと振り向いて欲しかった人が、こんなにもぼくのことを見てくれている。
なのにぼくの心は、ずっと空っぽだった。
一度だけ、正門の前で歩太先輩と聖先輩が話しているところを見たことがある。
聖先輩の視界に入ってしまったらどんな反応をされるのかが怖くて、影からこっそりと眺めていた。
格好よかった。スッと伸びた鼻筋、尖った顎、筋肉質な腕。もうあの人に、ぼくは触れられないなんて。
聖先輩が最後に呼んでくれたぼくの名前。
あの時の声がいつでも脳内再生されて、また涙が滲む。
失ってからその大切さに気づくだなんて。ぼくは本当に馬鹿だ。
中間も期末テストも、パッとした成績を残せないまま一学期が終わろうとしていた。
季節はもう夏。
クラスの周りの生徒は、どこへ旅行だ、デートだなんて騒ぎ立てている。
「小峰」
放課後、一人で帰ろうとしていたところを昇降口で歩太先輩に呼び止められた。
「はい」
「来週、またコンサートに行かないか? 申し込んでたチケット、たまたま取れたんだ。今回は場所もそんなに遠くないし、たまには俺とゆっくりデートしようよ」
まさか歩太先輩からデートだなんて事、言われると思っていなかった。
歩太先輩に促されるまま、ぼくは「ぜひ」と満面の笑みで答えた。
その日は猛暑日で、家の外に一歩踏み出しただけでも汗がじんわり滲むくらいに日差しが照りつけていた。
待ち合わせ場所に電車と徒歩で向かいながら、春の日の事を思い出していた。
春にも歩太先輩とライブに行ったが、その時の気持ちとは全く違う。その感情の差に自分でも驚いた。
こんな気持ちになっているのが申し訳なくて、すでに到着していた歩太先輩へ精一杯笑いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
有能副会長はポンコツを隠したい。
さんから
BL
2.6タイトル変更しました。
この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。
こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。
ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました
拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。
昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。
タイトルを変えてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる