義兄弟で秘密のレッスン!

こすもす

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第5章 義兄弟の運命は。

第83話 吐露したい。1つを除いて

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 翌朝、貴臣と顔を合わせたら話してみようと思ったのに会えなかった。
 貴臣の部屋からは物音1つ聞こえてこない。
 さっき玄関を見てみたら靴はちゃんとあったから、部屋にいるのは間違いない。

 たぶん、俺が出ていった頃合を見計らって出てくるんだろう。
 その意図が見え見えでムカついて、俺はわざとドタバタと音を立てて着替えや支度を始めた。
 
 これから先輩の家に行くんだ。行って、貴臣としてきたことを先輩とするのだ。それで貴臣とはもう、無駄に話さない。貴臣がそれを望んでいるみたいだから。

 本当は、仲良くしたかった。
 ずっとあんな風に笑いあって、たまに風呂に入って長話しをして、マッサージをして、夢を語り合って──

 ブンブンと首を横に振り、気を取り直して部屋を出た。階段を1段ずつ降り、折り返しのところで一旦立ち止まる。
 そういえばあの日からもう、貴臣と一緒にこの階段を上り下りしていない。これからもきっと、しない。

 ……さっきから俺は、貴臣貴臣って。
 辟易した俺は踵を返し、もう1度階段を上って貴臣の部屋の前に立った。
 その時点ですでに、視界がぼやけていた。

「貴臣。お前、言ったよな。どうして平気で殻を破ってくるのかって」

 返事はもちろん無いし、もしかしたらいないのかもしれないけれど、構わず続けた。

「お前と暮らし始める前、母さんに言われたんだ。お前と仲良くできるかって、仲良くしてくれたら嬉しいって。それもあったし、俺も単純に仲良くなりたいって思ったんだ。面倒な顔をされても拒絶されても、いつかは分かってくれるって……貴臣とだったら心を通わせられるって信じてたから」

 あの頃の自分と今の自分の状況を重ねてしまい、涙がホロっとこぼれ落ちた。
 何をどう頑張っても、貴臣はなかなか俺を見ようとしなかった。
 報われない努力。

 せっかく巻き返したのに、今も同じになってしまった。何を言っても貴臣はこっちを見てくれない。

「だって兄弟なんだから。血は繋がっていなくてもちゃんと兄弟なんだ、俺たち……お前はっ、俺の自慢の弟で……俺はダメダメな兄貴で……っ」

 幸い、声は震えずにいてくれたけれど、何を口走っているのかは分からなかった。
 喉の奥がツンと痛い。
 唾を飲み込んで、一息吐いた。
 
「お前が事故ったって聞いた時、震えが止まらなかったんだ。死んだらどうしようって……あの頃のお前、ほとんど会話してくれなかったけど、俺の命と引き換えでもいいから、生きていてくれって心から願ったんだ……」

 違う違う。これは言わなくてもいいやつだった。
 何を恥ずかしいこと言ってるんだ。
 ちゃんと話す順番をメモとかしてくるんだった。
 頭を一旦整理させて、瞼を擦る。

「何が言いたいのかというとっ、俺はお前と血が繋がってなくて良かったのかもしれないってこと! もし本物の兄弟だったら、恋愛相談なんてしなかったし、レッスンもお願いしなかった。事故の時も、あそこまで貴臣を想って泣けてたかどうかは分からない」

 血の繋がりがないからこそ、貴臣を好きになったんだ。
 その気持ちはきっと、貴臣に出会わなかったら分からなかった。
 恋をしたお陰で、こうして胸が苦しくなることを知れたんだ。

「俺の弟になってくれて、ありがとう」

 そうだ。これが1番伝えたかった。
 これで貴臣が中にいなかったら、めちゃくちゃ恥ずかしいな。
 でもそれならそれでいいや。
 俺の気持ちを言葉にして吐き出すのは、今日が最初で最後だ。

「貴臣が弟で、本当に良かった。こんな頼りない馬鹿な兄貴でごめん。もう俺は、お前の殻を破らないよ。だからお前ももう、俺の殻を破ってくんなよなっ」

 吐き捨てるように言って、逃げるように駆け出した。
 玄関で速攻で靴を履き、家を出てもなお、恥ずかしくて走り続けた。

 良かった。好きだったんだ、とか口走らなくて。
 もうこれでほんとのほんとに吹っ切れた。
 
 それでもまだ、涙が出てくるのは何故なんだろうな。
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