【完結 R18版】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗

文字の大きさ
7 / 86

第7話 瞳に触れた瞬間(とき)

しおりを挟む
会社の入り口には、すでに黒い車が静かに停まっていた。

後部座席のドアを開けて、社長が乗るのを待つ。

「隣に座って」
「あっ、僕は助手席で」
「……隣」
「は……い」

その声に逆らえず、僕はおとなしく後部座席の社長の隣に腰を下ろした。社長の隣に座るなんて緊張する。助手席が良かったのに。息が詰まりそうだ。
ドアが閉まり、車が静かに発進すると、運転席との間に黒くスモークのかかった仕切りガラスが音もなくすっと降りてきた。

「えっ?」
予想外の密室感に驚いていると、社長と目が合った。

――キィィィン。

また、だ。耳の奥を突き抜ける、あの高い音。思わず身をすくめる。

社長と目が合うと耳鳴りがする?
戸惑う僕に、社長は静かに手を伸ばし、僕の髪にそっと触れた。

触れられた瞬間、嘘のように耳鳴りが止んだ。

「やっぱり」
「あっ、あの……やっぱりって……」

戸惑いのまま社長を見返すと、唇が触れ合うほどの距離に迫っていた。

「ま、待って――」
「やめてほしいなら、目をそらせばいい。そらさないなら、受け入れたってことだから」

まるで試すような声。優しく、それでいて逃げ道を与えない言葉。
次の瞬間、唇が重なった。やわらかく、でも逃れられない。

「んっ……まっ……」

息がうまく吸えない。

何かを確かめるように、社長の指が僕の耳の後ろをなぞる。

(なに……これ……? 逆らえない)

されるがままでいると、ふいに社長の唇が離れた。

戸惑う僕の顔を満足そうに見つめる社長に、戸惑いが隠せない。

「あ、の……今のって……」

僕が口を開いた瞬間、今度はより深く、より激しく、社長の舌が僕の唇を求めてきた。

「んっ、あっ……」
激しく、そして躊躇なく踏み込んでくる。舌と舌が絡み合い、否応なしに吐息が漏れる。

抵抗できないまま、その行為を受け入れている。

「着いた。……降りよう」

先ほどまでの冷たいまなざしが、ほんのわずかに柔らかくなったような気がした。

唇の温度が、まだ自分の中に残っている。自然に受け入れてしまった自分に戸惑いを覚えながら、そっと自分の唇に指を当てた。

「お待ちしておりました」
お店に入ると、今までにないくらい丁寧な接客に慌ててしまった。まるで別世界に来たみたいだ。

「こっち」

社長に促されて、フィッティングルームへ。スタッフからスーツを手渡される。

「サイズが合ってるか確認して。そこで待ってるから、終わったら来て」

「……はい」

言われるがままにフィッティングルームでスーツに袖を通した。

(え……どうして……?)

自分の体にぴったりフィットしているスーツ、靴、すべて。何もかもが把握されているかのように、完璧に合っていた。

着替えを終えて社長のもとへ向かうと、視線がまっすぐ自分に注がれた。その視線に戸惑い、どこを見ればいいのか分からなくなる。

「ん。似合ってる。首、きつくない?」

ネクタイを直されながら、低く優しい声で聞かれる。

「大丈夫です」
うつむきながら僕は答える。

「わかった。じゃ、行こう」
「え? えっ、このまま?」
「会社に戻る」
「あの……お会計は?」

その問いに返事はなく、僕は社長に手を引かれて、また車に乗り込んだ。

そして、車の中では行きと同じように、唇が重なった。

ただ、違うのは――それが甘く、深く、長く落ちてくるようなキスだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...