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第7話 瞳に触れた瞬間(とき)
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会社の入り口には、すでに黒い車が静かに停まっていた。
後部座席のドアを開けて、社長が乗るのを待つ。
「隣に座って」
「あっ、僕は助手席で」
「……隣」
「は……い」
その声に逆らえず、僕はおとなしく後部座席の社長の隣に腰を下ろした。社長の隣に座るなんて緊張する。助手席が良かったのに。息が詰まりそうだ。
ドアが閉まり、車が静かに発進すると、運転席との間に黒くスモークのかかった仕切りガラスが音もなくすっと降りてきた。
「えっ?」
予想外の密室感に驚いていると、社長と目が合った。
――キィィィン。
また、だ。耳の奥を突き抜ける、あの高い音。思わず身をすくめる。
社長と目が合うと耳鳴りがする?
戸惑う僕に、社長は静かに手を伸ばし、僕の髪にそっと触れた。
触れられた瞬間、嘘のように耳鳴りが止んだ。
「やっぱり」
「あっ、あの……やっぱりって……」
戸惑いのまま社長を見返すと、唇が触れ合うほどの距離に迫っていた。
「ま、待って――」
「やめてほしいなら、目をそらせばいい。そらさないなら、受け入れたってことだから」
まるで試すような声。優しく、それでいて逃げ道を与えない言葉。
次の瞬間、唇が重なった。やわらかく、でも逃れられない。
「んっ……まっ……」
息がうまく吸えない。
何かを確かめるように、社長の指が僕の耳の後ろをなぞる。
(なに……これ……? 逆らえない)
されるがままでいると、ふいに社長の唇が離れた。
戸惑う僕の顔を満足そうに見つめる社長に、戸惑いが隠せない。
「あ、の……今のって……」
僕が口を開いた瞬間、今度はより深く、より激しく、社長の舌が僕の唇を求めてきた。
「んっ、あっ……」
激しく、そして躊躇なく踏み込んでくる。舌と舌が絡み合い、否応なしに吐息が漏れる。
抵抗できないまま、その行為を受け入れている。
「着いた。……降りよう」
先ほどまでの冷たいまなざしが、ほんのわずかに柔らかくなったような気がした。
唇の温度が、まだ自分の中に残っている。自然に受け入れてしまった自分に戸惑いを覚えながら、そっと自分の唇に指を当てた。
「お待ちしておりました」
お店に入ると、今までにないくらい丁寧な接客に慌ててしまった。まるで別世界に来たみたいだ。
「こっち」
社長に促されて、フィッティングルームへ。スタッフからスーツを手渡される。
「サイズが合ってるか確認して。そこで待ってるから、終わったら来て」
「……はい」
言われるがままにフィッティングルームでスーツに袖を通した。
(え……どうして……?)
自分の体にぴったりフィットしているスーツ、靴、すべて。何もかもが把握されているかのように、完璧に合っていた。
着替えを終えて社長のもとへ向かうと、視線がまっすぐ自分に注がれた。その視線に戸惑い、どこを見ればいいのか分からなくなる。
「ん。似合ってる。首、きつくない?」
ネクタイを直されながら、低く優しい声で聞かれる。
「大丈夫です」
うつむきながら僕は答える。
「わかった。じゃ、行こう」
「え? えっ、このまま?」
「会社に戻る」
「あの……お会計は?」
その問いに返事はなく、僕は社長に手を引かれて、また車に乗り込んだ。
そして、車の中では行きと同じように、唇が重なった。
ただ、違うのは――それが甘く、深く、長く落ちてくるようなキスだった。
後部座席のドアを開けて、社長が乗るのを待つ。
「隣に座って」
「あっ、僕は助手席で」
「……隣」
「は……い」
その声に逆らえず、僕はおとなしく後部座席の社長の隣に腰を下ろした。社長の隣に座るなんて緊張する。助手席が良かったのに。息が詰まりそうだ。
ドアが閉まり、車が静かに発進すると、運転席との間に黒くスモークのかかった仕切りガラスが音もなくすっと降りてきた。
「えっ?」
予想外の密室感に驚いていると、社長と目が合った。
――キィィィン。
また、だ。耳の奥を突き抜ける、あの高い音。思わず身をすくめる。
社長と目が合うと耳鳴りがする?
戸惑う僕に、社長は静かに手を伸ばし、僕の髪にそっと触れた。
触れられた瞬間、嘘のように耳鳴りが止んだ。
「やっぱり」
「あっ、あの……やっぱりって……」
戸惑いのまま社長を見返すと、唇が触れ合うほどの距離に迫っていた。
「ま、待って――」
「やめてほしいなら、目をそらせばいい。そらさないなら、受け入れたってことだから」
まるで試すような声。優しく、それでいて逃げ道を与えない言葉。
次の瞬間、唇が重なった。やわらかく、でも逃れられない。
「んっ……まっ……」
息がうまく吸えない。
何かを確かめるように、社長の指が僕の耳の後ろをなぞる。
(なに……これ……? 逆らえない)
されるがままでいると、ふいに社長の唇が離れた。
戸惑う僕の顔を満足そうに見つめる社長に、戸惑いが隠せない。
「あ、の……今のって……」
僕が口を開いた瞬間、今度はより深く、より激しく、社長の舌が僕の唇を求めてきた。
「んっ、あっ……」
激しく、そして躊躇なく踏み込んでくる。舌と舌が絡み合い、否応なしに吐息が漏れる。
抵抗できないまま、その行為を受け入れている。
「着いた。……降りよう」
先ほどまでの冷たいまなざしが、ほんのわずかに柔らかくなったような気がした。
唇の温度が、まだ自分の中に残っている。自然に受け入れてしまった自分に戸惑いを覚えながら、そっと自分の唇に指を当てた。
「お待ちしておりました」
お店に入ると、今までにないくらい丁寧な接客に慌ててしまった。まるで別世界に来たみたいだ。
「こっち」
社長に促されて、フィッティングルームへ。スタッフからスーツを手渡される。
「サイズが合ってるか確認して。そこで待ってるから、終わったら来て」
「……はい」
言われるがままにフィッティングルームでスーツに袖を通した。
(え……どうして……?)
自分の体にぴったりフィットしているスーツ、靴、すべて。何もかもが把握されているかのように、完璧に合っていた。
着替えを終えて社長のもとへ向かうと、視線がまっすぐ自分に注がれた。その視線に戸惑い、どこを見ればいいのか分からなくなる。
「ん。似合ってる。首、きつくない?」
ネクタイを直されながら、低く優しい声で聞かれる。
「大丈夫です」
うつむきながら僕は答える。
「わかった。じゃ、行こう」
「え? えっ、このまま?」
「会社に戻る」
「あの……お会計は?」
その問いに返事はなく、僕は社長に手を引かれて、また車に乗り込んだ。
そして、車の中では行きと同じように、唇が重なった。
ただ、違うのは――それが甘く、深く、長く落ちてくるようなキスだった。
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