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第8話 キスの後、答えの前
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会社に戻ってドアを開けると、アキトさんとキョウカさんが並んでコーヒーを飲んでいた。
僕に気づいたキョウカさんが、にこっと笑って言った。
「おっ!君がアオくん?いいスーツ選んだね。似合ってるよ」
「あ……ありがとうございます」
キョウカさんは今日、グレーのパンツスーツに身を包んでいた。
相変わらずの美貌で、その笑顔も眩しい。
社長は、キョウカさんの言葉に反応もせず、無言で社長室に戻ってしまった。
「相変わらずそっけないな~。じゃ、またね、アオくん」
キョウカさんはそう言って、社長の態度を気にする様子もなく社長室に向かっていった。
アキトさんはそれを見届けてから、こちらに振り返った。
「じゃあ、仕事の説明と、アオくんの部屋の案内をするね」
部屋?アキトさんの席の後ろにあるドアの先かな。
「アオくん、荷物そのまま持ってきてくれるかな」
そう言ってアキトさんも社長室へ入っていく。
中に入ると、社長室には見慣れないデスクが増えていた。
社長とキョウカさんの姿は見当たらない。
「ここがアオくんの席ね。部屋のドアを1つずつ説明するね。まずはアオくんのデスクの後ろから。あっ、このドアの認証は社長とアオくんだけが入れるようになってるから。ここに目をかざして、ここは手を置いてね」
「目と、手?」
(僕の認証、もう取られてるの?)
ドアを開けると、思わず言葉を失った。
キッチンに、小さめのダイニングテーブル。
「えーっと、ここがトイレで、ここがシャワールーム」
「シャワーまで?」
「うん。で、中にあるドアの奥がウォークインクローゼット。毎朝ここで着替えてね。帰りも着替えてから帰っていいから。脱いだものはこの中に入れておけばOK。持ち帰らなくていいよ」
(もう住めるじゃん、これ)
「ちなみに、ウォークインクローゼットの中にドアがあるけど、レイのウォークインクローゼットと繋がってるから。あとで説明するね」
「あの、これ、本当に僕が使っても?」
「うん、ちょっと狭いけど、我慢してね」
(どこが狭いのか、本気でわからない)
「掃除は毎朝担当の人が来るから。大切なものの保管だけ自分でお願いね」
「はい」
「どうしてこんな部屋が用意されてるのか、気になる?」
戸惑う僕に気づいたアキトさんが優しく聞いてくれた。
僕は、こくりと頷く。
「そうだよね。うちの会社、いろんなデータを扱ってるのは知ってるよね?」
「はい」
「だから、外部からの持ち込みや持ち出しを極力減らしたくてね。万が一のための対策だよ」
「なるほど」
「アオくんのことを信用してないってわけじゃないから、そこは誤解しないでね」
「わかりました」
「じゃあ、一度戻ろうか」
社長室に戻って、アキトさんは続けた。
「で、この隣のドアがレイのウォークインクローゼット。ここもアオくんの認証で開けられるよ」
言われた通り、目と手を合わせるとドアが開いた。
そこには、社長のスーツや私服、時計、ベルトまで、整然と並べられていた。
「すごい」
思わず口に出てしまうほどだった。
ウォークインクローゼットの奥にもうひとつドアがあった。
手を伸ばしかけたとき、
「あ、そこはレイのプライベートルームに繋がってるよ」
その言葉で、慌てて手を引っ込めた。
(プライベートルーム……って、つまり、寝室?)
最後にもう一度社長室に戻り、アキトさんはもうひとつのドアを指さした。
「最後のドアがレイのプライベートルーム。さっきのウォークインクローゼットからも繋がっている部屋だよ。基本的には入らなくて大丈夫」
(最後……。何もないように見える、あのドアの説明はないのか……)
隠したい何かがあるのかもしれない。詳しく知るのも危険かも。
そう思い、質問は避けた。
社長とキョウカさんの姿が見えないってことは、今、社長のプライベートルームにいるってことなのかな。
婚約者なんだから当たり前だと思うものの、胸の奥が重くなる。
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
ついさっきしていた、あのキスの意味は……。
僕に気づいたキョウカさんが、にこっと笑って言った。
「おっ!君がアオくん?いいスーツ選んだね。似合ってるよ」
「あ……ありがとうございます」
キョウカさんは今日、グレーのパンツスーツに身を包んでいた。
相変わらずの美貌で、その笑顔も眩しい。
社長は、キョウカさんの言葉に反応もせず、無言で社長室に戻ってしまった。
「相変わらずそっけないな~。じゃ、またね、アオくん」
キョウカさんはそう言って、社長の態度を気にする様子もなく社長室に向かっていった。
アキトさんはそれを見届けてから、こちらに振り返った。
「じゃあ、仕事の説明と、アオくんの部屋の案内をするね」
部屋?アキトさんの席の後ろにあるドアの先かな。
「アオくん、荷物そのまま持ってきてくれるかな」
そう言ってアキトさんも社長室へ入っていく。
中に入ると、社長室には見慣れないデスクが増えていた。
社長とキョウカさんの姿は見当たらない。
「ここがアオくんの席ね。部屋のドアを1つずつ説明するね。まずはアオくんのデスクの後ろから。あっ、このドアの認証は社長とアオくんだけが入れるようになってるから。ここに目をかざして、ここは手を置いてね」
「目と、手?」
(僕の認証、もう取られてるの?)
ドアを開けると、思わず言葉を失った。
キッチンに、小さめのダイニングテーブル。
「えーっと、ここがトイレで、ここがシャワールーム」
「シャワーまで?」
「うん。で、中にあるドアの奥がウォークインクローゼット。毎朝ここで着替えてね。帰りも着替えてから帰っていいから。脱いだものはこの中に入れておけばOK。持ち帰らなくていいよ」
(もう住めるじゃん、これ)
「ちなみに、ウォークインクローゼットの中にドアがあるけど、レイのウォークインクローゼットと繋がってるから。あとで説明するね」
「あの、これ、本当に僕が使っても?」
「うん、ちょっと狭いけど、我慢してね」
(どこが狭いのか、本気でわからない)
「掃除は毎朝担当の人が来るから。大切なものの保管だけ自分でお願いね」
「はい」
「どうしてこんな部屋が用意されてるのか、気になる?」
戸惑う僕に気づいたアキトさんが優しく聞いてくれた。
僕は、こくりと頷く。
「そうだよね。うちの会社、いろんなデータを扱ってるのは知ってるよね?」
「はい」
「だから、外部からの持ち込みや持ち出しを極力減らしたくてね。万が一のための対策だよ」
「なるほど」
「アオくんのことを信用してないってわけじゃないから、そこは誤解しないでね」
「わかりました」
「じゃあ、一度戻ろうか」
社長室に戻って、アキトさんは続けた。
「で、この隣のドアがレイのウォークインクローゼット。ここもアオくんの認証で開けられるよ」
言われた通り、目と手を合わせるとドアが開いた。
そこには、社長のスーツや私服、時計、ベルトまで、整然と並べられていた。
「すごい」
思わず口に出てしまうほどだった。
ウォークインクローゼットの奥にもうひとつドアがあった。
手を伸ばしかけたとき、
「あ、そこはレイのプライベートルームに繋がってるよ」
その言葉で、慌てて手を引っ込めた。
(プライベートルーム……って、つまり、寝室?)
最後にもう一度社長室に戻り、アキトさんはもうひとつのドアを指さした。
「最後のドアがレイのプライベートルーム。さっきのウォークインクローゼットからも繋がっている部屋だよ。基本的には入らなくて大丈夫」
(最後……。何もないように見える、あのドアの説明はないのか……)
隠したい何かがあるのかもしれない。詳しく知るのも危険かも。
そう思い、質問は避けた。
社長とキョウカさんの姿が見えないってことは、今、社長のプライベートルームにいるってことなのかな。
婚約者なんだから当たり前だと思うものの、胸の奥が重くなる。
どうしてこんな気持ちになるんだろう。
ついさっきしていた、あのキスの意味は……。
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