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第11話 彼の婚約者と僕
「レイ!こっち!」
透き通るような声に振り向くと、キョウカさんが立っていた。
相変わらず人目を引く華やかさと、芯の強そうな微笑み。
今日のランチはキョウカさんと一緒だったんだ。胸の奥がチクリと痛む。
「ごめんね。クライアントに行く前に呼び出しちゃって。アオくんも、予定変更ありがと?」
「い、いえ。僕は……大丈夫です」
やわらかく微笑んだ彼女は、社長に目を向け、低くつぶやく。
「……もう少し自重したら?」
小さな声だったけれど、はっきり聞こえた。
さっき車の中でしたキスをすでに知っているのかと勘ぐってしまう言葉だった。
けれど社長は、まるで、聞こえていないかのように無表情のまま何も返さなかった。
テーブルに案内され座ろうとすると、
「こっち」
社長に袖を引かれ、隣に座らされた。キョウカさんは何の迷いもなく、僕の正面に座った。
そして彼女は、バッグから黒く細身のバングルを取り出した。
「アオくん、手、出して」
「……え?」
言われるまま手を差し出すと、彼女はそれをスッと僕の手首に巻きつける。
カチリ、と留め具が締まる。重さはないが、微かな金属の冷たさが肌に残った。
「これで、君の行動は、全部、私に筒抜けだよ。」
「……え?」
思わず、声が裏返る。
「ふふ、冗談だってば」
キョウカさんはいたずらっぽく笑っていた。
「レイの会社って、いろんな意味で外部から狙われやすいの。だからこれは、万が一のときのガード。君を守る最低限の備えってところかな」
「最低限の備え。」
何の情報が取られるんだろう。少し怖い。
「アキトも同じものつけてるから不安なことがあったらアキトに聞いてね。じゃ、レイ、私アキトのとこ行くね。頼まれてたもの届けないとだから。」
すべてを見通しているかのような笑顔で、キョウカさんは颯爽と立ち去っていった。
その背中に、僕は目を奪われたまま動けなかった。
キョウカさんは一緒にランチを食べないんだ。どこかホッとしている自分がいた。
でも、
社長が僕にしていること、キョウカさんは知ってる?
知ってて、止めない?見て見ぬふり?
その程度のことなら、許すってこと?
混乱と疑念が、ぐるぐると頭の中を巡る。
「好きなもの、頼んでいいよ」
僕が悩んでいるのも気づいていないのか、まるで何事もなかったかのように社長はメニューを差し出してくる。
キョウカさんは初めから存在しなかったみたいに。
なんかムカつく。でも反論することもできず、素直にメニューを受け取ってしまった。
婚約者がいるくせに、僕にあんなことして。
それで悪びれる様子もなく、いつも通りの顔でいられるなんて……
次は、ちゃんと拒まないと――。
キョウカさんを悲しませるようなことはしたくない。
透き通るような声に振り向くと、キョウカさんが立っていた。
相変わらず人目を引く華やかさと、芯の強そうな微笑み。
今日のランチはキョウカさんと一緒だったんだ。胸の奥がチクリと痛む。
「ごめんね。クライアントに行く前に呼び出しちゃって。アオくんも、予定変更ありがと?」
「い、いえ。僕は……大丈夫です」
やわらかく微笑んだ彼女は、社長に目を向け、低くつぶやく。
「……もう少し自重したら?」
小さな声だったけれど、はっきり聞こえた。
さっき車の中でしたキスをすでに知っているのかと勘ぐってしまう言葉だった。
けれど社長は、まるで、聞こえていないかのように無表情のまま何も返さなかった。
テーブルに案内され座ろうとすると、
「こっち」
社長に袖を引かれ、隣に座らされた。キョウカさんは何の迷いもなく、僕の正面に座った。
そして彼女は、バッグから黒く細身のバングルを取り出した。
「アオくん、手、出して」
「……え?」
言われるまま手を差し出すと、彼女はそれをスッと僕の手首に巻きつける。
カチリ、と留め具が締まる。重さはないが、微かな金属の冷たさが肌に残った。
「これで、君の行動は、全部、私に筒抜けだよ。」
「……え?」
思わず、声が裏返る。
「ふふ、冗談だってば」
キョウカさんはいたずらっぽく笑っていた。
「レイの会社って、いろんな意味で外部から狙われやすいの。だからこれは、万が一のときのガード。君を守る最低限の備えってところかな」
「最低限の備え。」
何の情報が取られるんだろう。少し怖い。
「アキトも同じものつけてるから不安なことがあったらアキトに聞いてね。じゃ、レイ、私アキトのとこ行くね。頼まれてたもの届けないとだから。」
すべてを見通しているかのような笑顔で、キョウカさんは颯爽と立ち去っていった。
その背中に、僕は目を奪われたまま動けなかった。
キョウカさんは一緒にランチを食べないんだ。どこかホッとしている自分がいた。
でも、
社長が僕にしていること、キョウカさんは知ってる?
知ってて、止めない?見て見ぬふり?
その程度のことなら、許すってこと?
混乱と疑念が、ぐるぐると頭の中を巡る。
「好きなもの、頼んでいいよ」
僕が悩んでいるのも気づいていないのか、まるで何事もなかったかのように社長はメニューを差し出してくる。
キョウカさんは初めから存在しなかったみたいに。
なんかムカつく。でも反論することもできず、素直にメニューを受け取ってしまった。
婚約者がいるくせに、僕にあんなことして。
それで悪びれる様子もなく、いつも通りの顔でいられるなんて……
次は、ちゃんと拒まないと――。
キョウカさんを悲しませるようなことはしたくない。
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