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第17話 引っ越し
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リョクを社長——もとい、レイに紹介してから、僕の引っ越し作業はすぐに始まった。
レイは、まだ僕のことを完全には信用していない。
「スパイかもしれない」
その疑念は、彼の中で消えていないのだろう。だからこそ、キョウカさんという婚約者がいても、自分の監視下に置こうとするのだと思う。
初めて足を踏み入れた、レイの本当のプライベートルーム。このマンションは番になった者以外立ち入りができない、厳重なセキュリティに守られている。
ただ一人、所有者であるレイだけがその制約を免れているらしい。
そして最上階にある、彼の部屋——。
そこは、まさに「レイらしさ」の象徴だった。無駄なものがひとつもない。白と黒を基調とした空間は静謐で、どこか感情を遮るような気配すら漂っていた。
「えっと……僕の部屋は?」
恐る恐る聞いた僕に、レイは当たり前のように答えた。
「俺と一緒。」
「……え? 空いてる部屋、ありますよね?」
「うん。」
「……なのに?」
「うん。」
それ以上の説明はなかった。
「……わかりました。」
肩を落としてそう答えた僕に、レイはほんのわずかに、満足そうに微笑んだ。
——なんだろう。あの顔、ちょっとだけムカつく。
それにしても、最近のレイはずいぶんと穏やかだ。社内では「冷徹無表情の社長」と噂されている彼だけれど、二人で過ごしていると柔らかい表情を見せることもある。
荷解きをしようと腰を上げたとき、不意にレイが紙を差し出してきた。
「はい。」
一瞬で緊張が走る。それは、契約書だった。
あの夜、口頭で言われた通りの内容が記されていた。
・求めに応じること(拒否不可)/別途報酬あり
・共同生活を通して、社長の身の回りの世話をすること/別途報酬あり
・二人きりのときは「社長」ではなく「レイ」と呼ぶこと
スパイかもしれない僕を、ここまで自分のプライベートに入り込ませるのは矛盾している気もする。だけどそれはつまり、レイがそれだけ僕を「側に置きたい」と考えているということでもあるのかもしれない。
最後の項目——「レイ」と呼ぶこと。それだけは、どうにもまだ慣れない。そしてこの紙が示しているのは、関係が「契約」でしかないということ。これは仕事。義務。そして監視。
胸の奥が、少しだけざわつく。
レイは、まだ僕のことを完全には信用していない。
「スパイかもしれない」
その疑念は、彼の中で消えていないのだろう。だからこそ、キョウカさんという婚約者がいても、自分の監視下に置こうとするのだと思う。
初めて足を踏み入れた、レイの本当のプライベートルーム。このマンションは番になった者以外立ち入りができない、厳重なセキュリティに守られている。
ただ一人、所有者であるレイだけがその制約を免れているらしい。
そして最上階にある、彼の部屋——。
そこは、まさに「レイらしさ」の象徴だった。無駄なものがひとつもない。白と黒を基調とした空間は静謐で、どこか感情を遮るような気配すら漂っていた。
「えっと……僕の部屋は?」
恐る恐る聞いた僕に、レイは当たり前のように答えた。
「俺と一緒。」
「……え? 空いてる部屋、ありますよね?」
「うん。」
「……なのに?」
「うん。」
それ以上の説明はなかった。
「……わかりました。」
肩を落としてそう答えた僕に、レイはほんのわずかに、満足そうに微笑んだ。
——なんだろう。あの顔、ちょっとだけムカつく。
それにしても、最近のレイはずいぶんと穏やかだ。社内では「冷徹無表情の社長」と噂されている彼だけれど、二人で過ごしていると柔らかい表情を見せることもある。
荷解きをしようと腰を上げたとき、不意にレイが紙を差し出してきた。
「はい。」
一瞬で緊張が走る。それは、契約書だった。
あの夜、口頭で言われた通りの内容が記されていた。
・求めに応じること(拒否不可)/別途報酬あり
・共同生活を通して、社長の身の回りの世話をすること/別途報酬あり
・二人きりのときは「社長」ではなく「レイ」と呼ぶこと
スパイかもしれない僕を、ここまで自分のプライベートに入り込ませるのは矛盾している気もする。だけどそれはつまり、レイがそれだけ僕を「側に置きたい」と考えているということでもあるのかもしれない。
最後の項目——「レイ」と呼ぶこと。それだけは、どうにもまだ慣れない。そしてこの紙が示しているのは、関係が「契約」でしかないということ。これは仕事。義務。そして監視。
胸の奥が、少しだけざわつく。
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