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第18話 初めての夜は
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シャワーを浴びて、タオルで髪を拭きながら冷蔵庫から水を取り出す。
引っ越してまだ間もないけれど、すぐにわかった。レイは、ずっと仕事をしている。
あの社長室にベッドがあった理由も、ようやく理解できた。この部屋に帰る時間なんて、ほとんどないんだ。
「……まだ、寝ないんですか?」
思わず声をかける。
「先に寝てて」
「でも……」
心配そうに覗き込んだ僕の顔を見て、レイはふっと笑った。
「髪、乾かしてあげる。ソファに座って待ってて」
そう言って、レイは洗面台へ向かった。
――ブォォン。
ドライヤーの音が響く中、彼の指が静かに髪をすくい上げていく。気持ちいい。誰かに髪を乾かしてもらうなんて……何年ぶりだろう。
気づけば、うとうとしていつの間にかレイの胸に寄りかかっていた。
「おやすみ」
優しい声と、おでこに触れた温かな感覚だけを、かすかに覚えていた。
目が覚めたときには、もうベッドの中だった。
「おはよう。もう起きる時間だよ」
聞き慣れない優しい声に、反射的に
「ん……もうちょっと……」
と甘えた声が出てしまい――ハッとした。
ここはレイの家だった!
「す、すみませんっ!」
ガバッと跳ね起きた僕を見て、レイはクスッと笑った。
「朝ごはん、もうすぐできるから。歯を磨いて」
その声が優しすぎて、また変に照れてしまう。
「……はい」
素直に洗面所へ向かった。
リョクと暮らしていた頃は、朝食を作るのは僕の担当だった。独り暮らしを始めてからは、朝食を抜くことも多かった。
誰かに起こされて、朝ごはんを作ってもらうなんて……くすぐったくて、ちょっと嬉しい朝だった。
「カフェオレでいいよね?」
「……あっ、自分でやります!」
「大丈夫。先にごはん食べて。食べ終わったら準備して。車で一緒に出勤するから」
「……はい」
レイは、すでに完璧に身支度を終えていた。僕を待っているのがわかって、少し焦る。
クローゼットを開けると、ぴしっと整えられた新品のスーツが並んでいた。
「えっ……これ。全部僕の?」
「うん。こっちで暮らすから」
レイは当たり前のように言った。
高そうなスーツを、こんなにも簡単に準備できることに戸惑いながら、彼の言葉が続く。
「俺の身の回りの世話をしてもらう報酬だ。気にしないで」
――そう言うけれど、今のところ「お世話されてる」のは僕の方だ。
「社長……あっ。レイ?」
「ん?」
「あの……どの組み合わせがいいかわからなくて……選んでほしい……です」
短く「ん」と返事をしながら、レイは少しだけ口元を緩めた。
彼が選んでくれたスーツを身につけて、僕たちは並んで会社へ向かった。
引っ越してまだ間もないけれど、すぐにわかった。レイは、ずっと仕事をしている。
あの社長室にベッドがあった理由も、ようやく理解できた。この部屋に帰る時間なんて、ほとんどないんだ。
「……まだ、寝ないんですか?」
思わず声をかける。
「先に寝てて」
「でも……」
心配そうに覗き込んだ僕の顔を見て、レイはふっと笑った。
「髪、乾かしてあげる。ソファに座って待ってて」
そう言って、レイは洗面台へ向かった。
――ブォォン。
ドライヤーの音が響く中、彼の指が静かに髪をすくい上げていく。気持ちいい。誰かに髪を乾かしてもらうなんて……何年ぶりだろう。
気づけば、うとうとしていつの間にかレイの胸に寄りかかっていた。
「おやすみ」
優しい声と、おでこに触れた温かな感覚だけを、かすかに覚えていた。
目が覚めたときには、もうベッドの中だった。
「おはよう。もう起きる時間だよ」
聞き慣れない優しい声に、反射的に
「ん……もうちょっと……」
と甘えた声が出てしまい――ハッとした。
ここはレイの家だった!
「す、すみませんっ!」
ガバッと跳ね起きた僕を見て、レイはクスッと笑った。
「朝ごはん、もうすぐできるから。歯を磨いて」
その声が優しすぎて、また変に照れてしまう。
「……はい」
素直に洗面所へ向かった。
リョクと暮らしていた頃は、朝食を作るのは僕の担当だった。独り暮らしを始めてからは、朝食を抜くことも多かった。
誰かに起こされて、朝ごはんを作ってもらうなんて……くすぐったくて、ちょっと嬉しい朝だった。
「カフェオレでいいよね?」
「……あっ、自分でやります!」
「大丈夫。先にごはん食べて。食べ終わったら準備して。車で一緒に出勤するから」
「……はい」
レイは、すでに完璧に身支度を終えていた。僕を待っているのがわかって、少し焦る。
クローゼットを開けると、ぴしっと整えられた新品のスーツが並んでいた。
「えっ……これ。全部僕の?」
「うん。こっちで暮らすから」
レイは当たり前のように言った。
高そうなスーツを、こんなにも簡単に準備できることに戸惑いながら、彼の言葉が続く。
「俺の身の回りの世話をしてもらう報酬だ。気にしないで」
――そう言うけれど、今のところ「お世話されてる」のは僕の方だ。
「社長……あっ。レイ?」
「ん?」
「あの……どの組み合わせがいいかわからなくて……選んでほしい……です」
短く「ん」と返事をしながら、レイは少しだけ口元を緩めた。
彼が選んでくれたスーツを身につけて、僕たちは並んで会社へ向かった。
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