26 / 86
第26話 お願いごと
しおりを挟む
「今日の夜は絶対にパーティーに出席してほしいって言ったでしょ!?」
キョウカさんが、いつになく声を荒げていた。
「行かない」
どんなにイライラされても、まったく動じる気配のないレイ。淡々としたその態度に、逆にキョウカさんの怒りがヒートアップしているようだった。
──あの二人って、喧嘩するんだ。「番」になれば喧嘩なんてしないものかと思ってたけど、違うんだな。
痴話喧嘩……夫婦みたい。
胸が、ズキリと痛んだ。そんな自分をなだめながら、ふたりのやり取りを黙って見ていた。
……ぼんやりしていると、ふいにキョウカさんと目が合った。
──しまった、見てるのバレた。
慌てて目を逸らした瞬間、キョウカさんが駆け寄ってきた。
「アオくん! 今夜のパーティー、絶対に行かなきゃいけないの。お願い、レイを説得して!」
「え……僕がですか?」
「今から自分の会社に戻るから、結果はアキトに連絡して。お願いね? 絶対よ!」
そう言い残して、バタン! と社長室のドアを勢いよく閉めて出ていった。アキトさんがキョウカさんをなだめる声が遠くから聞こえる。どうやらそのまま送っていくようだった。
僕はそっとレイに声をかけた。
「社長?」
反応がない。
「……レイ? 今日の予定って、すごく大事だってアキトさんからも聞いてるよ?」
それでもレイは顔を上げない。いつになく、頑なな態度だ。
……うーん。
少し考えてから、そっとレイのそばに行き、耳元で小さく囁いた。
「レイ?」
ようやく顔を上げたレイの唇に、スタンプキスをした。ふふふ。驚いてる。
「僕がスーツ選ぶよ? だから、今日のパーティー出席して?」レイは僕がキスをすると、たいていお願いを聞いてくれる。
「……もう一回」
「え?」
不意を突かれた瞬間、頭を抱き寄せられて、そのまま深く口づけられた。舌が絡み合い、社長室に音だけが響く。
「あ…っ。ん。やっ。待って。ここだと…」
「じゃあ、向こう行く?」
「だ、だめ。今仕事中……!」
「……これも仕事」
「ま、待って。パーティーには行く?」
「…………」
「行くって約束してくれたら──」
「約束したら?」
「……今じゃなくて、今日の夜……たくさん、しよ?」
「……たくさん……?」
「今するんだったら仕事中だし、1回だけだよ。それに夜はなし」
「…………」
「どうする?」
「……パーティーに行く」
「ほんと?」
「アオ、言うこと聞くから、アオからキスして」そう言われて、レイの口にそっと自分の唇を近づけた途端、待ち構えていたように舌が絡んでくる。
「やっ…んっ。んんっ。ま‥っ」
待ってなんて言っても待ってはくれない。レイが満足するまで長い長いキスが落とされた。
*---------------
「仕事中は手加減して!」「手加減って?」いたずらっ子のように笑うレイが少し可愛く見えた。これ以上、何かを言っても無駄だと思った僕はアキトさんに連絡を入れた。
ちょうどパーティーへの出席準備が終わったところで、キョウカさんが飛び跳ねるように社長室へ戻ってきた。
まっすぐレイに抱きつくのかと思ったら──まさかの、僕に盛大なハグ。さらに頬に何度もキスまで。
「ん~っ、さすがアオくん、大好き!」
チュッ。チュッ。と音だけが響く。
あまりの勢いに、固まる僕。
その様子を見ていたレイの眉が、ほんの少しだけピクリと動いた。静かに、怒ってる。
アキトさんが慌ててキョウカさんを引き剥がして、ようやく解放された。
みんながパーティーへ出発しようとしていたそのとき、リョクが顔を出した。
「あれ? リョク、どうしたの?」
「ん? アオ、今日残業でしょ? レイさんから『アオと一緒にいて』って連絡あったんだ」
「もう、僕、ひとりでも大丈夫なのに」
「ん~。まだ完全じゃないし、不安定だからだよ」
「不安定? 何が?」
「え? あっ、仕事。仕事だよ。トラブルが来るか来ないかっていう話」
「あっ、そっか」
「じゃあ僕、前の部屋のソファでゲームしてるから。何かあったら呼んでね」
そう言って、リョクは軽く手を振って部屋を出ていった。少しだけ静かになった空間。僕はもう一度、トラップログの動きを確認する。
この静けさの裏で、何かが動き出している気がしていた。
キョウカさんが、いつになく声を荒げていた。
「行かない」
どんなにイライラされても、まったく動じる気配のないレイ。淡々としたその態度に、逆にキョウカさんの怒りがヒートアップしているようだった。
──あの二人って、喧嘩するんだ。「番」になれば喧嘩なんてしないものかと思ってたけど、違うんだな。
痴話喧嘩……夫婦みたい。
胸が、ズキリと痛んだ。そんな自分をなだめながら、ふたりのやり取りを黙って見ていた。
……ぼんやりしていると、ふいにキョウカさんと目が合った。
──しまった、見てるのバレた。
慌てて目を逸らした瞬間、キョウカさんが駆け寄ってきた。
「アオくん! 今夜のパーティー、絶対に行かなきゃいけないの。お願い、レイを説得して!」
「え……僕がですか?」
「今から自分の会社に戻るから、結果はアキトに連絡して。お願いね? 絶対よ!」
そう言い残して、バタン! と社長室のドアを勢いよく閉めて出ていった。アキトさんがキョウカさんをなだめる声が遠くから聞こえる。どうやらそのまま送っていくようだった。
僕はそっとレイに声をかけた。
「社長?」
反応がない。
「……レイ? 今日の予定って、すごく大事だってアキトさんからも聞いてるよ?」
それでもレイは顔を上げない。いつになく、頑なな態度だ。
……うーん。
少し考えてから、そっとレイのそばに行き、耳元で小さく囁いた。
「レイ?」
ようやく顔を上げたレイの唇に、スタンプキスをした。ふふふ。驚いてる。
「僕がスーツ選ぶよ? だから、今日のパーティー出席して?」レイは僕がキスをすると、たいていお願いを聞いてくれる。
「……もう一回」
「え?」
不意を突かれた瞬間、頭を抱き寄せられて、そのまま深く口づけられた。舌が絡み合い、社長室に音だけが響く。
「あ…っ。ん。やっ。待って。ここだと…」
「じゃあ、向こう行く?」
「だ、だめ。今仕事中……!」
「……これも仕事」
「ま、待って。パーティーには行く?」
「…………」
「行くって約束してくれたら──」
「約束したら?」
「……今じゃなくて、今日の夜……たくさん、しよ?」
「……たくさん……?」
「今するんだったら仕事中だし、1回だけだよ。それに夜はなし」
「…………」
「どうする?」
「……パーティーに行く」
「ほんと?」
「アオ、言うこと聞くから、アオからキスして」そう言われて、レイの口にそっと自分の唇を近づけた途端、待ち構えていたように舌が絡んでくる。
「やっ…んっ。んんっ。ま‥っ」
待ってなんて言っても待ってはくれない。レイが満足するまで長い長いキスが落とされた。
*---------------
「仕事中は手加減して!」「手加減って?」いたずらっ子のように笑うレイが少し可愛く見えた。これ以上、何かを言っても無駄だと思った僕はアキトさんに連絡を入れた。
ちょうどパーティーへの出席準備が終わったところで、キョウカさんが飛び跳ねるように社長室へ戻ってきた。
まっすぐレイに抱きつくのかと思ったら──まさかの、僕に盛大なハグ。さらに頬に何度もキスまで。
「ん~っ、さすがアオくん、大好き!」
チュッ。チュッ。と音だけが響く。
あまりの勢いに、固まる僕。
その様子を見ていたレイの眉が、ほんの少しだけピクリと動いた。静かに、怒ってる。
アキトさんが慌ててキョウカさんを引き剥がして、ようやく解放された。
みんながパーティーへ出発しようとしていたそのとき、リョクが顔を出した。
「あれ? リョク、どうしたの?」
「ん? アオ、今日残業でしょ? レイさんから『アオと一緒にいて』って連絡あったんだ」
「もう、僕、ひとりでも大丈夫なのに」
「ん~。まだ完全じゃないし、不安定だからだよ」
「不安定? 何が?」
「え? あっ、仕事。仕事だよ。トラブルが来るか来ないかっていう話」
「あっ、そっか」
「じゃあ僕、前の部屋のソファでゲームしてるから。何かあったら呼んでね」
そう言って、リョクは軽く手を振って部屋を出ていった。少しだけ静かになった空間。僕はもう一度、トラップログの動きを確認する。
この静けさの裏で、何かが動き出している気がしていた。
23
あなたにおすすめの小説
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる