48 / 86
第48話 感情の行く先
歩く力も残っていないアオを、そっと抱き上げてバスルームへ運ぶ。
いつもの流れだが、今日は少し様子が違った。腕の中のアオは、いつもより離れようとせず、首元に甘えるように触れてくる。これまで体裁を気にして俺の首に痕をつけることはしなかったアオが、そんなことを忘れてしまったかのように、いくつもの跡をつけていた。
湯船に身を沈め、ゆっくりと温まる。アオは疲れ切っているのか、半ばまどろみながら身を預けてきた。その無防備さが、信頼の証のようにも思える。
湯上がりにバスローブを着せ、リビングのソファまで抱えて運ぶ。髪を乾かそうとしたが、アオは膝に頭をのせたまま、気持ちよさそうに寝息を立ててしまった。
そのとき、スマホが鳴った。画面には「リョク」の文字。
『レイさ~ん。部屋ありがと~。カナメが落ち着いたら帰るね。ところで、どうだった? アオ用に作ったはずなのに、さっきキョウカさんからも「同じものが欲しい」って言われたよ。カナメにもいい反応があったんだ~』
「欲しいものがあれば、用意しておく」
『おっ、ってことは良かったってことだね! じゃ、あとでリスト送る~』
通話が切れたあと、アオの髪をゆっくりと乾かす。そして再び抱き上げ、ベッドルームへ。おでこに軽く口づけを落とし、眠りを妨げないよう静かに部屋を出る。
デスクに戻り、3人が作成した設計書に目を通す。ムルの中でも特に能力が秀でた面々だけあって、抜かりはない。感心すると同時に、その力を狙う存在が現れる危険性も意識せざるを得なかった。
今のところ、世間的にはキョウカが俺の婚約者候補という情報が有効に働き、アキトを守れている。しかし、前回のような事態が再び起こる可能性もある。アキトを表立って守っているため、アオの存在は隠されているが、油断はできない。カナメも力はあるものの、リョクと離れている時が心配だ。
「……手を打たないとな」
そんなとき、再び着信音が鳴った。発信者はアキト。
『あの紋章の件だけど、ムルの力が強ければ強いほど、2つ目の紋章が現れる可能性があるみたい。ただ、これまでの事例はごくわずかで、ほとんどは「あざ」程度で終わってる。でも……アオくんは、初めて本格的に2つ目が出る可能性がある』
「つまり、アオが俺以外のルガルを受け入れることになる、という話か」
『アオくんの今の感情からすれば、そうはならないと思うけど……覚悟はしておいた方がいい』
「……わかった」
通話を終え、眠るアオの方へ視線を向ける。アオの感情が自分以外に向くなど、考えたくもない。けれど、俺にはそれを止める力はない。
——俺から離れないでほしい。そう願うしかなかった。
いつもの流れだが、今日は少し様子が違った。腕の中のアオは、いつもより離れようとせず、首元に甘えるように触れてくる。これまで体裁を気にして俺の首に痕をつけることはしなかったアオが、そんなことを忘れてしまったかのように、いくつもの跡をつけていた。
湯船に身を沈め、ゆっくりと温まる。アオは疲れ切っているのか、半ばまどろみながら身を預けてきた。その無防備さが、信頼の証のようにも思える。
湯上がりにバスローブを着せ、リビングのソファまで抱えて運ぶ。髪を乾かそうとしたが、アオは膝に頭をのせたまま、気持ちよさそうに寝息を立ててしまった。
そのとき、スマホが鳴った。画面には「リョク」の文字。
『レイさ~ん。部屋ありがと~。カナメが落ち着いたら帰るね。ところで、どうだった? アオ用に作ったはずなのに、さっきキョウカさんからも「同じものが欲しい」って言われたよ。カナメにもいい反応があったんだ~』
「欲しいものがあれば、用意しておく」
『おっ、ってことは良かったってことだね! じゃ、あとでリスト送る~』
通話が切れたあと、アオの髪をゆっくりと乾かす。そして再び抱き上げ、ベッドルームへ。おでこに軽く口づけを落とし、眠りを妨げないよう静かに部屋を出る。
デスクに戻り、3人が作成した設計書に目を通す。ムルの中でも特に能力が秀でた面々だけあって、抜かりはない。感心すると同時に、その力を狙う存在が現れる危険性も意識せざるを得なかった。
今のところ、世間的にはキョウカが俺の婚約者候補という情報が有効に働き、アキトを守れている。しかし、前回のような事態が再び起こる可能性もある。アキトを表立って守っているため、アオの存在は隠されているが、油断はできない。カナメも力はあるものの、リョクと離れている時が心配だ。
「……手を打たないとな」
そんなとき、再び着信音が鳴った。発信者はアキト。
『あの紋章の件だけど、ムルの力が強ければ強いほど、2つ目の紋章が現れる可能性があるみたい。ただ、これまでの事例はごくわずかで、ほとんどは「あざ」程度で終わってる。でも……アオくんは、初めて本格的に2つ目が出る可能性がある』
「つまり、アオが俺以外のルガルを受け入れることになる、という話か」
『アオくんの今の感情からすれば、そうはならないと思うけど……覚悟はしておいた方がいい』
「……わかった」
通話を終え、眠るアオの方へ視線を向ける。アオの感情が自分以外に向くなど、考えたくもない。けれど、俺にはそれを止める力はない。
——俺から離れないでほしい。そう願うしかなかった。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
【完結】束縛彼氏から逃げたのに、執着が想像以上に重すぎた
鱗。
BL
束縛の強い恋人、三浦悠真から逃げた風間湊。
逃げた先で出会ったのは、優しく穏やかな占い師、榊啓司だった。
心身を癒やされ、穏やかな日常を取り戻したかに見えた——はずだった。
だが再び現れた悠真の執着は、かつてとは比べ物にならないほど歪んでいて。
そして気付く。
誰のものにもなれないはずの自分が。
『壊れていく人間』にしか愛を見出せないということに。
依存、執着、支配。
三人の関係は、やがて取り返しのつかない形へと崩れていく。
——これは、『最も壊れている人間』が愛を選び取る物語。
逃げた先にあったのは、『もっと歪んだ愛』だった。
【完結済み】
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。