【完結 R18版】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗

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第67話 距離

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僕は会社に行かず、カナメさんの研究室で仕事をすることになった。もう2週間になる。

レイは相変わらず会社に泊まり込んで戻ってこない。スマホにメッセージを送っても、返信はほぼない。今までこんなことはなかったのに。不安になり手を止めてしまう。我に返って仕事を続ける——その繰り返しだ。

カナメさんの仕事ぶりは圧倒的で、正直に言えば、自分が必要なのかと首を傾げてしまうほどだった。僕はアタッカーとしてバグ修正や脆弱な部分を洗い出し、報告していた。

「カナメ~、アオ~。お昼できたよ~!」リョクの明るい声で、ようやく昼を過ぎていたことに気づく。

スマホを開いても、やはりレイからの連絡はなかった。

「アオ? 大丈夫?」リョクが心配そうに覗き込む。

「ん? 大丈夫だよ」

「アオ君が心配するようなことは、何も起きていない」カナメさんは淡々と断言する。

僕は笑顔でうなずいたけれど、その言葉だけでは心の不安は消えなかった。

「そうだ。今日、アキトさんに渡すものがあるんだ。アオ、届けてくれる?」リョクの提案は、救いのように聞こえた。

「でも、仕事が……」「アオ君のおかげで、いつもより早く進んでいるから大丈夫」

そう背中を押され、用意された車に乗り込んだ。胸の奥で、レイに会えるかもしれないという期待が芽生えていた。

「アキトさん、これ、リョクから預かってきました」

廊下で声をかけた瞬間、視線の先に見えた光景に足が止まった。レイが誰かにネクタイを直してもらっている。優しい微笑みを、その人に向けていた。

「神川君が届けてくれたんだ。あ、紹介するよ。今アシスタントで来てくれている高階(たかしな)トウヤ君」アキトさんが軽やかに言う。

「初めまして! 高階です!」
その青年は眩しい笑顔を浮かべ、差し出した手を握ってきた。

「……初めまして。神川です」
僕は少し戸惑いながら応じる。

「ねぇ、レイ? 今日の予定、伝えていい?」高階さんはそう言って自然にレイの肩へ手を置く。彼は皆の前でも当たり前のように「レイ」と呼んでいた。

僕は、会社では呼べないのに。

レイは、一度も僕を見てくれなかった。ズキン、と胸の奥が痛んだ。

「そうだ、神川さん。レイが『神川さんのスーツとか全部使っていい』って話してくれたんで、クローゼットの服借りてます。それで、使わない私物、持って帰ってもらえます? いいよね? レイ」上目遣いで高階さんはレイを見る。レイは静かにうなずいた。

あの場所が僕の場所では無くなっている。どうして。答えるようにもう1度レイを見ても僕の顔を見てくれない。

もう僕の場所はここにはない?どうして急に…

沈んだ気持ちでクローゼットへ足を運ぶと、高階さんもついてきた。二人きりになった瞬間、彼は小声で囁いた。

「君、もうすぐ捨てられるよ。レイは僕のこと、離したくないって言ってたから」

「えっ」

脳裏に、神宮寺の言葉が蘇る。

「どうして一条社長は、君を番だと公表しないんでしょうね」

息が詰まった。この場所にはいられなかった。気づけば、建物を飛び出していた。

いつもなら、レイが追いかけてきてくれるはずだった。きっと来てくれる。そう信じていた。

けれど、その背中は現れなかった。

レイに捨てられるかもしれない——その現実を突きつけられて、泣いてはいけないと思うのに、涙があふれた。
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