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第71話 決断
アオがタクミの農園に身を寄せてから、ちょうど1ヶ月が過ぎた。
朝はいつも、シエルと散歩に出る。まだ少し冷たい風が吹く道を、シエルは楽しげに尻尾を振りながら駆け回る。時折こちらを振り返り、遅れないかと気遣うように足を止める。
散歩を終えると、タクミが用意してくれる温かな朝食を摂る。タクミとダイチとの他愛もない会話も心地よい。
朝食を終えれば、仕事の時間だ。オンラインでカナメと連絡を取り合い、積み残した案件を片づけていく。その間もシエルは傍を離れず、アオの足元に寄り添い続けてくれた。
——ピロン。
不意に通知音が鳴った。差出人は知らない名前だ。開くと、動画が添付されていた。
そこに映っていたのは、レイの姿だ。彼の隣に寄り添うように立っているのは高階。ふたりは腕を組み、レセプションパーティの会場を進んでいく。
笑顔を交わし合い、ひそやかに言葉を交わす様子は、ただの秘書と社長という関係をはるかに超えている。アオは動画を拡大し、レイの表情を食い入るように見つめてしまう。
「あ……」
レイの微笑む姿に胸が締めつけられ、思わず小さく息が漏れた。
その時、スマホが震えた。誰からかはすでに予想がついていた。
「もしもし」
「神宮寺です。プレゼントは気に入ってくれたかな?」穏やかな声が耳に響く。
「はい、とっても」
「そう。よかった。僕のところに来る気はない?」
「あなたは、僕を必要としてくれているんですか?」
「もちろん。一条社長のようなことはしないよ」
「……わかりました」
「では、週末に迎えに行きます」
通話が切れると同時に、アオは深く息を吐き出した。胸の奥でわだかまっていた思いが、重く沈んでいく。
週末までにカナメから依頼されている残された仕事をすべて終えなければならない。それに、それ以降はもう関われないことを伝えなければならない。
イルジオンに退職届を出すために、アキトにも連絡をしなければ。タクミや、毎日一緒に散歩したシエルとも、もう会えなくなるかもしれない。やるべきことが山積みだ。
その夜。
「どうして? どうしてここを出ていくんですか!」
ダイチが声を荒らげ、必死に引き止めようとした。
「僕がいると、みんなに気を遣わせてしまうから。でも、僕を必要としてくれる場所が見つかったんだ」
アオはできるだけ明るく説明した。
「どこに行くのか、聞いてもいい?」
タクミが穏やかな声で問いかける。
アオは首を横に振りながら
「迷惑がかかるといけないから。でも、落ち着いたら遊びに来ます」
とだけ伝えた。
二人はそれ以上、無理に問い詰めようとはしなかった。
週末まで時間は限られていた。アオは朝方まで作業を続け、依頼された案件をひとつずつ仕上げていった。疲れ果てるたびに、シエルの頭を撫でることが心の支えになった。柔らかな毛並みに触れるだけで、不思議と心が落ち着く。
すべての仕事を終え、カナメにメッセージを送った。仕事を完了したこと。これから連絡が取れなくなること。そして、リョクのことを頼むこと。
アキトには、退職届を送信した。おそらく神宮寺のもとへ行けば、このスマホも手放すことになるだろう。レイとの写真を眺めながら、そう思った。
震えるように息を吐き、ただ静かにスマホを伏せる。シエルが足元に寄り添い、心配そうに顔を覗き込んでいた。
アオは小さく微笑み、彼の頭を撫でた。
「大丈夫。ありがとう」
そのぬくもりを最後の支えにしながら、アオは目を閉じた。
朝はいつも、シエルと散歩に出る。まだ少し冷たい風が吹く道を、シエルは楽しげに尻尾を振りながら駆け回る。時折こちらを振り返り、遅れないかと気遣うように足を止める。
散歩を終えると、タクミが用意してくれる温かな朝食を摂る。タクミとダイチとの他愛もない会話も心地よい。
朝食を終えれば、仕事の時間だ。オンラインでカナメと連絡を取り合い、積み残した案件を片づけていく。その間もシエルは傍を離れず、アオの足元に寄り添い続けてくれた。
——ピロン。
不意に通知音が鳴った。差出人は知らない名前だ。開くと、動画が添付されていた。
そこに映っていたのは、レイの姿だ。彼の隣に寄り添うように立っているのは高階。ふたりは腕を組み、レセプションパーティの会場を進んでいく。
笑顔を交わし合い、ひそやかに言葉を交わす様子は、ただの秘書と社長という関係をはるかに超えている。アオは動画を拡大し、レイの表情を食い入るように見つめてしまう。
「あ……」
レイの微笑む姿に胸が締めつけられ、思わず小さく息が漏れた。
その時、スマホが震えた。誰からかはすでに予想がついていた。
「もしもし」
「神宮寺です。プレゼントは気に入ってくれたかな?」穏やかな声が耳に響く。
「はい、とっても」
「そう。よかった。僕のところに来る気はない?」
「あなたは、僕を必要としてくれているんですか?」
「もちろん。一条社長のようなことはしないよ」
「……わかりました」
「では、週末に迎えに行きます」
通話が切れると同時に、アオは深く息を吐き出した。胸の奥でわだかまっていた思いが、重く沈んでいく。
週末までにカナメから依頼されている残された仕事をすべて終えなければならない。それに、それ以降はもう関われないことを伝えなければならない。
イルジオンに退職届を出すために、アキトにも連絡をしなければ。タクミや、毎日一緒に散歩したシエルとも、もう会えなくなるかもしれない。やるべきことが山積みだ。
その夜。
「どうして? どうしてここを出ていくんですか!」
ダイチが声を荒らげ、必死に引き止めようとした。
「僕がいると、みんなに気を遣わせてしまうから。でも、僕を必要としてくれる場所が見つかったんだ」
アオはできるだけ明るく説明した。
「どこに行くのか、聞いてもいい?」
タクミが穏やかな声で問いかける。
アオは首を横に振りながら
「迷惑がかかるといけないから。でも、落ち着いたら遊びに来ます」
とだけ伝えた。
二人はそれ以上、無理に問い詰めようとはしなかった。
週末まで時間は限られていた。アオは朝方まで作業を続け、依頼された案件をひとつずつ仕上げていった。疲れ果てるたびに、シエルの頭を撫でることが心の支えになった。柔らかな毛並みに触れるだけで、不思議と心が落ち着く。
すべての仕事を終え、カナメにメッセージを送った。仕事を完了したこと。これから連絡が取れなくなること。そして、リョクのことを頼むこと。
アキトには、退職届を送信した。おそらく神宮寺のもとへ行けば、このスマホも手放すことになるだろう。レイとの写真を眺めながら、そう思った。
震えるように息を吐き、ただ静かにスマホを伏せる。シエルが足元に寄り添い、心配そうに顔を覗き込んでいた。
アオは小さく微笑み、彼の頭を撫でた。
「大丈夫。ありがとう」
そのぬくもりを最後の支えにしながら、アオは目を閉じた。
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