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魔法が蔓延る、僕らの日々にて。
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明日からまた、休みが与えられる。
そう思えば、今日までの苦労は報われると僕はそう思った。
報告書を書き上げ、それを提出して荷物をまとめて帰る。あとはそれだけの作業なので考え事をしながらでも出来る。
だから僕は、自然と明日のことへと意識が移る。
今日の休憩のとき、スマホにメッセージが来ていた。
それは彩音からの連絡で、簡潔に言えば明日会いたい。との事だ。
当然僕の答えはイエス。だって、好きな人に会える機会だ。無駄にするわけには行かない。
と、言っても僕は意気地無し。結局は、なにも出来ないグズなんだ。
「なんとかなんないかなーこの性格……」と、呟くことは何度もあるけど治そうとはせず、すこしずつ、彩音との距離を見てる感じである。
まぁ、とりあえず。
そんな思考を巡らせながら仕事を片付けて、僕は帰路に着いた。
その道中は特に問題はなく、自宅に到着。それから風呂に入り、ご飯を食べ、そしてベットに身を投げる。
「……明日は……少しは近づけるかな……?」
そう、一人呟きながら目をつむる。
彩音との距離が近づけば、いいんだけどな……そう思いながら、今日もまた眠りに着いた。
ピピピピピッ……ピピピピピッ……
スマホに設定しておいたアラームが起動する音を耳にして、僕は目を覚ました。
不思議と眠気はなく、さっさとなにか行動せねばと何故か思った。
とりあえずご飯を食べて、洗面所で顔を洗い、新しい服に着替える。
着替え終えてからは、スマホを弄る。
時間の話を昨日してなかったからとりあえず、何時に向かえばいいのか。とのメッセージを送信して、その後はニュースアプリやゲームなどを開いてある程度時間を潰していた。
そうこうしていたら、通知音がなった。
彩音からのメッセージ。内容はいつでも来てもいいとのこと。
なら、もう今から向かってもいいとのことなので、今からもうそっち行くね。と返信して、家を出る。
彩音の家はここから一駅遠く、バスとかを利用すれば早いのだろうが、そんなことでお金を使いたくないから徒歩で向かう。
そして歩き始めて数十分。
特に問題は発生せず、彩音の家に到着。
1つ深呼吸をしてから、インターフォンを押す。
そうすると、インターフォンからちょっと待ってて。と、彩音の声が聞こえる。
だからすこし待っていたら、玄関が開かれ「やっほー涼太」と、私服姿の彩音が現れた。
「よう、彩音。んでなんの用?」
「あ……えっと……その、中で話をしたいんだけど……だめ?」
「いや、問題はないよ」
「ん……じゃ、上がって」
と、家に上がることを促されたので家に上がらせて貰う。
「じゃ、先私の部屋行ってて」と、彩音はそう言いキッチンのある方向へと向かった。
……男子を部屋に一人置いておくのは、流石になにかと来るものはないのだろうか……? と思いながら記憶をたどり、側にあった階段を上る。
確か、二回に上がって奥の部屋が彩音の部屋だ。と、思いながら足を運ぶ。
そして彩音、と可愛らしく書かれたプレートが飾られてるドアを見つけて、記憶が合ってたことに安堵しつつ、久しぶりの彼女の部屋、ということで緊張が僕の身体に走った。
あぁ、本当になんでこんなところで緊張するのかな……と、思いながらドアノブに手をかけ、開ける。
中の様子は昔とは変わっていて、右手にベットとクローゼット、左手に勉強机と本棚があり、中央に小さな丸机が1つあった。
まぁ、とりあえずこの小さな机の近くに近づき、腰を下ろして彩音を待つことにする。
と、思っていたら「お待たせ~」と言いながら彩音が部屋に入ってきた。
トレーの上に乗せてきたお茶とお菓子の袋を丸机の上に置いて僕の居る横に腰を下ろした。
「んで、話って?」
「うん。その話なんだけどさ……」
彩音は1つ間を開けて、続けてこう言う。
「すこし、甘えさせて」
「……んえ?」
変な声が出た。そりゃそうだ。いきなり意中の女の子にそんなことを言われたら誰だって驚くと思う。
まぁ、その所為か頭がすこしフリーズした。
その最中に彩音は僕の膝に頭を滑らせて、僕の膝上を確保した。
「え、えぇ……」
「しばらくこうさせて、そしたらもう一個の話をするから」
とのことなので、彼女は僕の膝の上で寝っ転がる。
……これいつまでやるのだろうか……? そう疑問に思うが、僕はまぁ、この状況はいいんじゃないのか、と思ったのでこのままにしておくことにした。
「ねぇ、私の、私の友達の話なんだけどさ」
そう、話を切り出されたのは数分経った頃だった。
「あのね、その子片思いをしてるの。それで相談されて……どうすれば距離は縮むのかなーって、涼太は、どう思う……?」
「なるほど? つまり今回は相談事でなにかあったって訳なのか?」
「あーうん。そんな感じ」
まぁ、確かに。彩音は昔から相談とかによく乗ってあげてるから、そういう時の話をしても変なことは無いのだろう。
けど、どこか、変だ……何故か、何故か他人事では無いような気が……
まぁでも、とりあえず僕の考えを答える。
「そうだな、僕はとりあえず当たって砕けて欲しいかなーとか?」
「当たって砕ける?」
「うん。なんていうか、何事もやらなきゃ始まらないし、勇気があれば直ぐに距離は縮められると思うよ、僕は」
とか、そんなことを言った。
僕は僕は、と何度もそんなことを言ったけれども、一番それが出来てないのは当の本人。
当たって砕けるも、なにも出来てない。勇気もなにも、僕にはない。
本当にそんなことが出来るのなら、簡単に僕は君にこの思いを──
「涼太」
そう、考えていたら彩音に名を呼ばれた。
「なに?」
「うん、わかった。じゃ、今からそうしてみるね」
「うん……うん?」
魔法もなにも使ってないのに、彩音の発する空気が変わった感じがした。
「涼太」
「……なに?」
「……あのね、私ね、実言うと……あの、涼太のことが──」
そこから先、なにも言わなくてもわかるだろう。こんなセリフだ。もう予想できる。
本当に、僕はなにもしなかった。けど、彼女は変わった。進もうとした。
それがこの結果だ。そしてこの言葉だ。
これは、誉めるべきことだろう。そしてその言葉に答えるべきだろう。
だけど、臆病で、莫迦で、何故か欲張りな僕は、こうすることしか思いつかなかった。
「彩音」
「……なに?」
「ごめん、それは──」
「……え?」
彼女の額に手を当てる。
「え、ちょ、涼太?」と彩音は言葉を発するが、それは無視だ。
これは僕の我儘だ。そしてこれは、彼女にとってとてつもなく迷惑な行為だろう。
それでも、それでも僕は僕から変わりたかったから、そのチャンスを消されたくないから──
「記憶よ、飛んで。そして還れ」
僕だけの、たった僕だけの特権を使用した。
そう思えば、今日までの苦労は報われると僕はそう思った。
報告書を書き上げ、それを提出して荷物をまとめて帰る。あとはそれだけの作業なので考え事をしながらでも出来る。
だから僕は、自然と明日のことへと意識が移る。
今日の休憩のとき、スマホにメッセージが来ていた。
それは彩音からの連絡で、簡潔に言えば明日会いたい。との事だ。
当然僕の答えはイエス。だって、好きな人に会える機会だ。無駄にするわけには行かない。
と、言っても僕は意気地無し。結局は、なにも出来ないグズなんだ。
「なんとかなんないかなーこの性格……」と、呟くことは何度もあるけど治そうとはせず、すこしずつ、彩音との距離を見てる感じである。
まぁ、とりあえず。
そんな思考を巡らせながら仕事を片付けて、僕は帰路に着いた。
その道中は特に問題はなく、自宅に到着。それから風呂に入り、ご飯を食べ、そしてベットに身を投げる。
「……明日は……少しは近づけるかな……?」
そう、一人呟きながら目をつむる。
彩音との距離が近づけば、いいんだけどな……そう思いながら、今日もまた眠りに着いた。
ピピピピピッ……ピピピピピッ……
スマホに設定しておいたアラームが起動する音を耳にして、僕は目を覚ました。
不思議と眠気はなく、さっさとなにか行動せねばと何故か思った。
とりあえずご飯を食べて、洗面所で顔を洗い、新しい服に着替える。
着替え終えてからは、スマホを弄る。
時間の話を昨日してなかったからとりあえず、何時に向かえばいいのか。とのメッセージを送信して、その後はニュースアプリやゲームなどを開いてある程度時間を潰していた。
そうこうしていたら、通知音がなった。
彩音からのメッセージ。内容はいつでも来てもいいとのこと。
なら、もう今から向かってもいいとのことなので、今からもうそっち行くね。と返信して、家を出る。
彩音の家はここから一駅遠く、バスとかを利用すれば早いのだろうが、そんなことでお金を使いたくないから徒歩で向かう。
そして歩き始めて数十分。
特に問題は発生せず、彩音の家に到着。
1つ深呼吸をしてから、インターフォンを押す。
そうすると、インターフォンからちょっと待ってて。と、彩音の声が聞こえる。
だからすこし待っていたら、玄関が開かれ「やっほー涼太」と、私服姿の彩音が現れた。
「よう、彩音。んでなんの用?」
「あ……えっと……その、中で話をしたいんだけど……だめ?」
「いや、問題はないよ」
「ん……じゃ、上がって」
と、家に上がることを促されたので家に上がらせて貰う。
「じゃ、先私の部屋行ってて」と、彩音はそう言いキッチンのある方向へと向かった。
……男子を部屋に一人置いておくのは、流石になにかと来るものはないのだろうか……? と思いながら記憶をたどり、側にあった階段を上る。
確か、二回に上がって奥の部屋が彩音の部屋だ。と、思いながら足を運ぶ。
そして彩音、と可愛らしく書かれたプレートが飾られてるドアを見つけて、記憶が合ってたことに安堵しつつ、久しぶりの彼女の部屋、ということで緊張が僕の身体に走った。
あぁ、本当になんでこんなところで緊張するのかな……と、思いながらドアノブに手をかけ、開ける。
中の様子は昔とは変わっていて、右手にベットとクローゼット、左手に勉強机と本棚があり、中央に小さな丸机が1つあった。
まぁ、とりあえずこの小さな机の近くに近づき、腰を下ろして彩音を待つことにする。
と、思っていたら「お待たせ~」と言いながら彩音が部屋に入ってきた。
トレーの上に乗せてきたお茶とお菓子の袋を丸机の上に置いて僕の居る横に腰を下ろした。
「んで、話って?」
「うん。その話なんだけどさ……」
彩音は1つ間を開けて、続けてこう言う。
「すこし、甘えさせて」
「……んえ?」
変な声が出た。そりゃそうだ。いきなり意中の女の子にそんなことを言われたら誰だって驚くと思う。
まぁ、その所為か頭がすこしフリーズした。
その最中に彩音は僕の膝に頭を滑らせて、僕の膝上を確保した。
「え、えぇ……」
「しばらくこうさせて、そしたらもう一個の話をするから」
とのことなので、彼女は僕の膝の上で寝っ転がる。
……これいつまでやるのだろうか……? そう疑問に思うが、僕はまぁ、この状況はいいんじゃないのか、と思ったのでこのままにしておくことにした。
「ねぇ、私の、私の友達の話なんだけどさ」
そう、話を切り出されたのは数分経った頃だった。
「あのね、その子片思いをしてるの。それで相談されて……どうすれば距離は縮むのかなーって、涼太は、どう思う……?」
「なるほど? つまり今回は相談事でなにかあったって訳なのか?」
「あーうん。そんな感じ」
まぁ、確かに。彩音は昔から相談とかによく乗ってあげてるから、そういう時の話をしても変なことは無いのだろう。
けど、どこか、変だ……何故か、何故か他人事では無いような気が……
まぁでも、とりあえず僕の考えを答える。
「そうだな、僕はとりあえず当たって砕けて欲しいかなーとか?」
「当たって砕ける?」
「うん。なんていうか、何事もやらなきゃ始まらないし、勇気があれば直ぐに距離は縮められると思うよ、僕は」
とか、そんなことを言った。
僕は僕は、と何度もそんなことを言ったけれども、一番それが出来てないのは当の本人。
当たって砕けるも、なにも出来てない。勇気もなにも、僕にはない。
本当にそんなことが出来るのなら、簡単に僕は君にこの思いを──
「涼太」
そう、考えていたら彩音に名を呼ばれた。
「なに?」
「うん、わかった。じゃ、今からそうしてみるね」
「うん……うん?」
魔法もなにも使ってないのに、彩音の発する空気が変わった感じがした。
「涼太」
「……なに?」
「……あのね、私ね、実言うと……あの、涼太のことが──」
そこから先、なにも言わなくてもわかるだろう。こんなセリフだ。もう予想できる。
本当に、僕はなにもしなかった。けど、彼女は変わった。進もうとした。
それがこの結果だ。そしてこの言葉だ。
これは、誉めるべきことだろう。そしてその言葉に答えるべきだろう。
だけど、臆病で、莫迦で、何故か欲張りな僕は、こうすることしか思いつかなかった。
「彩音」
「……なに?」
「ごめん、それは──」
「……え?」
彼女の額に手を当てる。
「え、ちょ、涼太?」と彩音は言葉を発するが、それは無視だ。
これは僕の我儘だ。そしてこれは、彼女にとってとてつもなく迷惑な行為だろう。
それでも、それでも僕は僕から変わりたかったから、そのチャンスを消されたくないから──
「記憶よ、飛んで。そして還れ」
僕だけの、たった僕だけの特権を使用した。
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