グランサンクチュア 〜地底天空都市の伝説〜

大森六

文字の大きさ
5 / 55
第一章 ヒューマニア王国

第5話 無詠唱の魔土術

しおりを挟む
「ノア、ティア~! F級ダンジョンに行くわよ」

「「は~い!」」


 リリカが二人を呼んで行こうとしているF級のダンジョンとは一般の人族が自由に入って良いと王国が定めている安全なダンジョンである。

 F級ダンジョンは生活に必要なものが貨幣を支払うことなく採取できる場であり、ブロッカの庶民にとってはまさに大地の恵なのだ。



 早速3人は近くのF級ダンジョンへ向かった。中に入ると多くの平民が手探りでモグっている。野菜が採れて喜ぶ者や衣類の原料となる植物の葉などを求めてせっせとモグる者たち。更には主婦たちの世間話が始まったり……

 ダンジョンは人族の日常に欠かせない存在であり、そういった意味でもそのダンジョンを生み出すガイアは「母なる大地」なのだろう。

 ちなみに、F級ダンジョンは資格を持ったモグラーが探掘してはならないと王国が定めている。あくまで、庶民のための場なのだ。


「さて、どの辺りがいいかしら。ノア、薬草が欲しいからちょっと調べてもらっていい?」

「オッケー。任せて!」


 そういってノアが地面に手を触れる。

「サーチライト!」

 地面の比較的浅いソイラの層で薬草がどのあたりにあるかを探る。

「あった! 母さん、あの辺りにあるよ! 素モグりしてくるね」

「はいはい。ありがとうね。ほんとあの子、どうやってあんな魔土術を体得したのかしら……」

 ティアが不満そうな顔でノアの方を見ている。

「お兄ちゃんばっかり……」

「ティア、私たちはあっちで粘質のローソイラを集めましょう。そろそろ食器を新しくしたいわ。あとでティアのファイアで作ってくれる?」

 ティアの表情がパァッと明るくなる。

「うん! 任せて!」


 せっせと必要なものを採取して3人笑顔で帰宅した。


 * * *


 次の日、リリカはノアとティアに魔土術を教えることにしてブロッカ地域の広場に向かった。

「魔土術とは誰でもいろんな術を使えるというわけではないの。人それぞれが持つ属性というものがあってね。使える属性に制限があるの。例えば、お母さんは火と水と風を使えるわ。それはお母さんが持っているマナによって決められる」

 静かに頷いてリリカの話を聞く二人。


「あなたたちも15歳になった時、王都リトルガイアの大聖堂で大地神から神託<オラクルム>を受けることができるわ。その時に自分の属性を知ることができるのよ」

「ティアもお母さんと同じがいい!」

 ティアを撫でながらリリカは笑顔で頷く。

「ティアにもきっとお母さんと同じ、もしくはそれ以上の才能があるわ!」

 ノアが珍しく自身の手のひらを見つめて何か思い詰めているような表情をしている。


 ノアはロイとリリカの実の子ではないと知っている。それは幼少期にすでに2人から聞かされていたからだ。ただ、その時ノアは全てを受け入れて笑顔でありがとうと言った。あの表情をリリカは忘れることができなかった。

「ノア……どうしたの?」

「あ、いやなんでもないよ。僕はどんな属性なんだろうって思って……」


「あなたはきっと私たちの想像を超えるものを神から与えられると思うわ」
 笑顔でリリカがそう答える。


「母さんたちの想像を超えるもの?」

「うん。あの時天から降りてきたノアをみてなんとなくだけどそう思ったわ。そして私とロイは決めたのよ。グランサンクチュアの神から授かったノアを私たちの子供として立派に育て上げるって。だからノアはきっと私たちの小さな想像なんか超えてもっとすごいことを成し遂げるってね。勿論、ティアと一緒にね!」


「え? ティアと一緒に? ティアとずっと一緒なのはしんどいなぁ」

「ちょっと、お兄ちゃんそれどういう意味よ!」

「あははは、冗談だよ、冗談」


「さぁ、魔土術の練習よ。二人ともあの的に向かって撃ってみて」

「「はい!」」

 ガイアに触れることでその魔素の力を利用して魔土術を解き放つ。それはどの属性でも同じ原理だ。

「まずはティアからね」

 ティアは詠唱えいしょうして両手をまとに向かって突き出す。

「ファイア!」

 ボワっとそれなりの炎が的に命中する。

「すごいわ! ティアもうそんなに火属性を扱えるなんて」

 嬉しそうにするティア。そしてリリカがノアに水属性で的をめがけて打つように指示する。

水槍すいそう!」

 ノアの手のひらからものすごい勢いで細くて長く、そして鋭い水柱が的に向かって飛び出す。あまりの鋭さに大きな的の真ん中を貫いてしまった。 的の中央部以外はまだティアの炎が残っている。手のひらサイズの大きさだが威力とスピードが桁違いだった。

「……へ?」

「ティアの火が……」

「ん? あ、ごめん。ちゃんと消したほうがいいよね……ウォーター」

 適度な量の水が的にかかって鎮火する。


「ちょっ、ちょっと待ってノア! 今の何?  ってなんなの? しかも無詠唱むえいしょうってどういうこと⁈」

「あ、やっぱり術名が変だったかな? もうちょっと考え直すよ」

「いや、そこじゃない! あの威力!」

「え? 水属性と風属性を掛け合わせて撃ったんだ」


 ティアが泣きそうな顔で言う。

「お兄ちゃん、全部強すぎ!」



 その日の夜、リリカはガイア調査から帰ってきたロイに昼間の出来事を話した。
 ロイのリアクションは大きくない。むしろそうだろうなくらいのものだった。

「正直言って、ティアの状況ですら普通の9歳の子供と比べられないほどに優秀なの。今日だって30m先の的にファイアを当てたのよ」

「すごいじゃないか! 俺が子供だった頃よりもすごいぞ……そんなティアがノアと比較してしまうから自信を無くしているわけか」


 ため息をついて頷くリリカ。そして解決策が無いとばかりにロイがここ一ヶ月のノアの規格外武勇伝をリリカに聞かせる。



「実は最近はE級ダンジョンを無双し過ぎて冒険者ギルドとモグラーギルドからクレームがきたんだ。『なんでA級の冒険者がE級ダンジョンで戦っているんだ』ってね」

「はぁ? それってロイが助けたわけではなくて? あのノアが一人でモンスターを?」

 静かに頷くロイ。

「いや、モンスターを蹴散らすだけならまだいいんだけど……どんどんアイテム見つけちゃってさ。今度はモグラーたちから『なんでA級モグラーがE級にきてモグってるんだ』って……トッドさんなんかは笑ってモグラーの申し子とかモグラー革命とか言ってるくらいさ」


「試しにこの前トッドさんに相談してD級ダンジョンも初めて入ってみたんだけどさ、やっぱり無双しちまったんだ。あはっ、あははは……はぁ~やばいなぁ」


 ノア本人は至って礼儀正しくルールを守っていたものの、周りとのレベルの違いが問題となってしまったようだ。仕方がない。E級を出歩く冒険者やモグラーは生活に余裕があるわけではない。皆生きるために必死なのだ。そこで全ての宝をごっそりと持っていかれては困るということだろう。


「王都に目をつけられたら面倒だわ……」

「せめて魔土術学院に入るまでは平穏でいさせてやりたかったんだけどなぁ……」

「で、どうするの?」

 リリカが丸投げでロイに重い問題をぶん投げる。


「いや、もうお達しがきてるんだよ。ギルドから。特別に試験受けて資格を取れって」


「冒険者ギルド?」


「いや、両方。モグラーも」


「「……はぁ」」


「「どうしよう……」」



 この時、ロイとリリカは気づいていなかった。ティアが部屋の外で二人の話を聞いていたことを。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...