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第一章 ヒューマニア王国
第33話 王都魔土術学院入学試験 01
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「え? 魔族対策の防具?」
「そうですね。前回王室を襲った魔族が放っていた邪気や呪念術と、人族が唱える魔土術とでは若干相性が悪いように感じました。聖属性の魔土術で結界を張ってしのぐことはできましたし、父さんが規格外の剣術とパワーで勝ちはしましたが、それは例外ですから。魔族の方が一般の王族騎士より遥かに強いです。
その差を埋められるような防具と武器を……と考えています」
「もし、それが可能ならすごい事になるわ……」
ミラ王女がノアの言葉に心を踊らせた。これまでのガイアの歴史において、人族が魔族に勝利したことは過去に一度もない。人族がここまで生存できている理由は弱いなりに知恵を活用して文明を築いた事、多種族と平和協定を結んで争いを回避した事、そしてガイアの遥か西に位置する厳しい環境のヒューマニア王国までわざわざ侵略を企てる種族がいなかったことなどが挙げられる。
そして今回、魔族はついに動いたのだ。どのような意図があったのかは不明だが、ヒューマニア王国の支配を虎視眈々と狙っている魔族がいつ襲ってくるかわからない。ミラ王女や国王にとって、頭の痛い問題だった。
そんな状況をガラッと変えるような奇跡をもし起こせるなら……
「ノア、その防具と武器の開発はどのような見通しで進めているの?」
「え? いや、流石にアイデアも材料も足りていませんから、暫くは何もご報告できません。ダンジョンで取れたアイテムを研究に活用するという状況ですからね」
残念そうなミラ王女の顔を見てノアが話を続ける。
「でも、魔王軍は暫く攻めて来ませんよ。だから大丈夫です。王国の戦力アップは必ず実現できます」
「どうしてすぐに攻めてこないと言い切れるの?」
「ノエビラ魔王国があまりにも遠いからです。魔土の力を借りる事ができない魔族がヒューマニア王国まで進軍する手段があるとすれば、おそらくワープするか、移動能力が優れた鳥系魔獣を使うかくらいです。しかしそれはこちらが索敵系の魔土術を使えばすぐに探知できますから、人族が警戒している今この時期は流石に魔族も動きにくいはずです」
「まぁ、確かにね」
「更に前回四大魔軍長に圧勝したわけですから、大軍を率いて直ぐに攻めてくることは避けるはずですよ。おそらく体制を整えてからもう一度魔人軍長のグルテナスが来るでしょう。以前よりもパワーアップしてね」
鍛冶場で作業しながら淡々と話すノアを見ていると何故か安心してしまうミラ王女であった。
そしていよいよ魔土術学院の入学試験当日を迎える。
「ノア、準備はいい? そろそろ行くよ」
「あ! もうそんな時間! すみません!」
図書の間で読書に夢中になっていたノアは試験を受ける準備をすっかり忘れていた。慌てて用意してティア達と学院へ向かう。ロイ達は知名度があり過ぎて騒ぎになるため、同行せずに王宮で待つ事にした。ミラ王女とヘンドリックがティアとリリアナ王女の保護者の代わりとして試験会場に足を運ぶ。
正門を通過して学院敷地内へと入ったところで馬車を降りるノア達。
高級魔土でできた巨大な塔がノアの目を惹く。王都の広大な敷地の中央に建つ有機的な形をした魔土術学院塔。まるで樹木の力強い根と幹部分をメタファーにして造られたような美しい造形だ。植物が存在しないヒューマニア王国だからか、そのシンボリックな存在がノアの心を鷲掴みにして離さない。
「まさか僕がこの魔土術学院の塔に登れる日が来るなんて思わなかったなぁ」
ノアがボ~ッと建物を眺めていたその後ろで周囲が騒ついていた。それもそのはず、二人の王女が突然魔土術学院に現れたのだ。一気に人集りができてしまった。
「おい、あれリリアナ王女だよな?」
「まさか王女も試験を受けるの?」
一気に注目を集めてしまった。落ち着かせるために一旦試験会場へ急ごうとするミラ王女の前に態度がデカ過ぎる男女が現れた。
「おい、そこの下民! 邪魔だからどけ!」
ノアを押し退けてミラ王女とリリアナ王女の前で片膝をついてお辞儀する2人。兄に対する失礼な態度に怒ったティアだったが、ノアに笑顔で止められて我慢する。
「ミラ王女、リリアナ王女、初めまして。私は上級貴族のダッサーイ家、長男で17歳のヘッポコット・ダッサーイです」
「同じく長女、15歳のヘタレカ・ダッサーイです」
「……ど、どうも。では私たちはこれで……」
ミラ王女もリリアナ王女も苦手そうなキャラクターだ。先を急ごうとするミラ王女の行く手を阻むように回り込み、ヘッポコットがアピールを続ける。
「今年で学院3年となる私と今年入学となるヘタレカは貴族の中でも特に優秀と評判でして、私は卒業後、あの最強の王国騎士団に入団すると決めております。ヘタレカも学院史上最も優れた魔土術士として近い未来王国に名声をもたらすでしょう!」
「そ、それは楽しみですね。では私たちはこれで——」
ザザッと行く手を阻むヘッポコット。段々とミラ王女もイラついて表情が曇って来た。
「ですので! ここでより親睦を深めておくのが双方にとっても良い事だと思いまして。そう思うだろ? 我が妹ヘタレカよ」
「勿論ですわヘッポコットお兄様。さぁ、リリアナ王女。そんな薄汚い不愉快な下民の女が側にいては王族の価値が下がってしまいますわ。ワタクシと共に行きましょう! 試験会場までお連れしますわ」
強引に腕を引っ張ってリリアナ王女を連れて行こうとするヘタレカにミラ王女とティアの我慢が限界に達する。
「あなた達いい加減に——」
「いますぐ私の友達、ティアに謝ってください」
「「「へ?」」」
意外なところから声が出た。リリアナ王女本人がヘタレカの手を振りほどいて怒りの形相で命令する。
「な、な、何をおっしゃるのですかリリアナ王女。こんな下民に頭を下げるなど貴族のワタクシができるわけ——」
「早く! いますぐ私の友達、ティアに謝って」
その場にいた全ての人間が驚く。あの怖がりで人見知りのリリアナ王女が静かに……そして強烈なオーラを放って怒っている。
「さ、さてはあなた達下民! 王女様に何か良からぬことを。なんと許せない——」
ゴゴゴゴゴゴ…… 上空にとんでもない竜巻が……リリアナ王女が右腕を上空へ伸ばし、掌を開けて竜巻をコントロールし始める。焦るミラ王女がリリアナを止めようとしたが、リリアナ自身にも風の防御魔土術が掛かっていて全く近づけない。
「リリアナ! やめなさい! 急にどうしたのよ!」
ヘタレカに向かってリリアナ王女が更に圧力をかける。
「今すぐティアに謝りなさい!」
「え、え? そ、そんな……ワタクシはただ……」
竜巻が徐々にヘタレカに近づいてきた。
「お、お兄様助けて!」
「う、うわ~! 助けて~!」
真っ先に逃げ出すヘッポコット。巨大竜巻に腰を抜かすヘタレカ。真上で強烈な風のエネルギーを放つ竜巻。怒りで我を失ったリリアナは意識が完全に飛んでいる。もう誰にも止められない。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさ……」
額から血が出るほどティアに何度も土下座するヘタレカだったが、リリアナ王女の動きは止まらない。これはマズイと思ったノアがティアに指示を出す。
「ティア! やばいぞ! そこのヘタレさんをバリアで守れ! 僕はあの竜巻をなんとかする! ミラ王女も自身をバリアで守ってください!」
「「う、うん! わかった!」」
そして意識を失ったリリアナ王女が右腕をヘタレカに向かってゆっくり振り下ろす。
「……リリートルネード」
「そうですね。前回王室を襲った魔族が放っていた邪気や呪念術と、人族が唱える魔土術とでは若干相性が悪いように感じました。聖属性の魔土術で結界を張ってしのぐことはできましたし、父さんが規格外の剣術とパワーで勝ちはしましたが、それは例外ですから。魔族の方が一般の王族騎士より遥かに強いです。
その差を埋められるような防具と武器を……と考えています」
「もし、それが可能ならすごい事になるわ……」
ミラ王女がノアの言葉に心を踊らせた。これまでのガイアの歴史において、人族が魔族に勝利したことは過去に一度もない。人族がここまで生存できている理由は弱いなりに知恵を活用して文明を築いた事、多種族と平和協定を結んで争いを回避した事、そしてガイアの遥か西に位置する厳しい環境のヒューマニア王国までわざわざ侵略を企てる種族がいなかったことなどが挙げられる。
そして今回、魔族はついに動いたのだ。どのような意図があったのかは不明だが、ヒューマニア王国の支配を虎視眈々と狙っている魔族がいつ襲ってくるかわからない。ミラ王女や国王にとって、頭の痛い問題だった。
そんな状況をガラッと変えるような奇跡をもし起こせるなら……
「ノア、その防具と武器の開発はどのような見通しで進めているの?」
「え? いや、流石にアイデアも材料も足りていませんから、暫くは何もご報告できません。ダンジョンで取れたアイテムを研究に活用するという状況ですからね」
残念そうなミラ王女の顔を見てノアが話を続ける。
「でも、魔王軍は暫く攻めて来ませんよ。だから大丈夫です。王国の戦力アップは必ず実現できます」
「どうしてすぐに攻めてこないと言い切れるの?」
「ノエビラ魔王国があまりにも遠いからです。魔土の力を借りる事ができない魔族がヒューマニア王国まで進軍する手段があるとすれば、おそらくワープするか、移動能力が優れた鳥系魔獣を使うかくらいです。しかしそれはこちらが索敵系の魔土術を使えばすぐに探知できますから、人族が警戒している今この時期は流石に魔族も動きにくいはずです」
「まぁ、確かにね」
「更に前回四大魔軍長に圧勝したわけですから、大軍を率いて直ぐに攻めてくることは避けるはずですよ。おそらく体制を整えてからもう一度魔人軍長のグルテナスが来るでしょう。以前よりもパワーアップしてね」
鍛冶場で作業しながら淡々と話すノアを見ていると何故か安心してしまうミラ王女であった。
そしていよいよ魔土術学院の入学試験当日を迎える。
「ノア、準備はいい? そろそろ行くよ」
「あ! もうそんな時間! すみません!」
図書の間で読書に夢中になっていたノアは試験を受ける準備をすっかり忘れていた。慌てて用意してティア達と学院へ向かう。ロイ達は知名度があり過ぎて騒ぎになるため、同行せずに王宮で待つ事にした。ミラ王女とヘンドリックがティアとリリアナ王女の保護者の代わりとして試験会場に足を運ぶ。
正門を通過して学院敷地内へと入ったところで馬車を降りるノア達。
高級魔土でできた巨大な塔がノアの目を惹く。王都の広大な敷地の中央に建つ有機的な形をした魔土術学院塔。まるで樹木の力強い根と幹部分をメタファーにして造られたような美しい造形だ。植物が存在しないヒューマニア王国だからか、そのシンボリックな存在がノアの心を鷲掴みにして離さない。
「まさか僕がこの魔土術学院の塔に登れる日が来るなんて思わなかったなぁ」
ノアがボ~ッと建物を眺めていたその後ろで周囲が騒ついていた。それもそのはず、二人の王女が突然魔土術学院に現れたのだ。一気に人集りができてしまった。
「おい、あれリリアナ王女だよな?」
「まさか王女も試験を受けるの?」
一気に注目を集めてしまった。落ち着かせるために一旦試験会場へ急ごうとするミラ王女の前に態度がデカ過ぎる男女が現れた。
「おい、そこの下民! 邪魔だからどけ!」
ノアを押し退けてミラ王女とリリアナ王女の前で片膝をついてお辞儀する2人。兄に対する失礼な態度に怒ったティアだったが、ノアに笑顔で止められて我慢する。
「ミラ王女、リリアナ王女、初めまして。私は上級貴族のダッサーイ家、長男で17歳のヘッポコット・ダッサーイです」
「同じく長女、15歳のヘタレカ・ダッサーイです」
「……ど、どうも。では私たちはこれで……」
ミラ王女もリリアナ王女も苦手そうなキャラクターだ。先を急ごうとするミラ王女の行く手を阻むように回り込み、ヘッポコットがアピールを続ける。
「今年で学院3年となる私と今年入学となるヘタレカは貴族の中でも特に優秀と評判でして、私は卒業後、あの最強の王国騎士団に入団すると決めております。ヘタレカも学院史上最も優れた魔土術士として近い未来王国に名声をもたらすでしょう!」
「そ、それは楽しみですね。では私たちはこれで——」
ザザッと行く手を阻むヘッポコット。段々とミラ王女もイラついて表情が曇って来た。
「ですので! ここでより親睦を深めておくのが双方にとっても良い事だと思いまして。そう思うだろ? 我が妹ヘタレカよ」
「勿論ですわヘッポコットお兄様。さぁ、リリアナ王女。そんな薄汚い不愉快な下民の女が側にいては王族の価値が下がってしまいますわ。ワタクシと共に行きましょう! 試験会場までお連れしますわ」
強引に腕を引っ張ってリリアナ王女を連れて行こうとするヘタレカにミラ王女とティアの我慢が限界に達する。
「あなた達いい加減に——」
「いますぐ私の友達、ティアに謝ってください」
「「「へ?」」」
意外なところから声が出た。リリアナ王女本人がヘタレカの手を振りほどいて怒りの形相で命令する。
「な、な、何をおっしゃるのですかリリアナ王女。こんな下民に頭を下げるなど貴族のワタクシができるわけ——」
「早く! いますぐ私の友達、ティアに謝って」
その場にいた全ての人間が驚く。あの怖がりで人見知りのリリアナ王女が静かに……そして強烈なオーラを放って怒っている。
「さ、さてはあなた達下民! 王女様に何か良からぬことを。なんと許せない——」
ゴゴゴゴゴゴ…… 上空にとんでもない竜巻が……リリアナ王女が右腕を上空へ伸ばし、掌を開けて竜巻をコントロールし始める。焦るミラ王女がリリアナを止めようとしたが、リリアナ自身にも風の防御魔土術が掛かっていて全く近づけない。
「リリアナ! やめなさい! 急にどうしたのよ!」
ヘタレカに向かってリリアナ王女が更に圧力をかける。
「今すぐティアに謝りなさい!」
「え、え? そ、そんな……ワタクシはただ……」
竜巻が徐々にヘタレカに近づいてきた。
「お、お兄様助けて!」
「う、うわ~! 助けて~!」
真っ先に逃げ出すヘッポコット。巨大竜巻に腰を抜かすヘタレカ。真上で強烈な風のエネルギーを放つ竜巻。怒りで我を失ったリリアナは意識が完全に飛んでいる。もう誰にも止められない。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさ……」
額から血が出るほどティアに何度も土下座するヘタレカだったが、リリアナ王女の動きは止まらない。これはマズイと思ったノアがティアに指示を出す。
「ティア! やばいぞ! そこのヘタレさんをバリアで守れ! 僕はあの竜巻をなんとかする! ミラ王女も自身をバリアで守ってください!」
「「う、うん! わかった!」」
そして意識を失ったリリアナ王女が右腕をヘタレカに向かってゆっくり振り下ろす。
「……リリートルネード」
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