39 / 55
第一章 ヒューマニア王国
第39話 王都魔土術学院入学試験 07
しおりを挟む
「今後は学院ランク制度を新設します。全員が一斉に受ける試験にそこまで大きな意義はありません。それよりも学院生がいつでも挑戦できる目標となる壁を設ければ良いでしょう。それをクリアしたらそのランクでの卒業が許されるという制度です」
驚きのあまり声が出ない教員たち。あまりにも斬新すぎてちょっとリアクションできない。
「そうですね。この制度を実現するために……まず、学院から率先して授業は行いません。学院生が自主的に学ぶ場を24時間提供するだけにします」
タングス先生が後ろで笑っている。他の先生は話についていくのがやっとという顔をしている。まだ十分に理解していないと思ったミネルヴァ校長が説明を加えていく。
「お馬鹿貴族が8割を占める学院生を相手に講義を開いてもほんの一握りの学院生だけがちゃんと講義を聞いているだけで他の皆は聞かない、伸びない、意味がない状況ですよ。時間の無駄です。やる気のある生徒だけでいいのです。
自主性100%にすることで各々の目標に合わせて学ぶようになっていく。その際に必要であれば学院生を導く。それが教員の役目だと、私は主張します」
教員の表情を見ながらさらに続ける校長。
「ランク制度は階級をブロンズクラス、シルバークラス、ゴールドクラス、プラチナクラスと分けましょう。各々のクラスは更に三つに細分化します。ブロンズA、ブロンズB、ブロンズCという具合ですね。おそらく現在の二年、三年の学院生のほとんどがブロンズCかそれ以下でしょう」
「なるほど。これを魔土術士、魔土戦士、探掘調査士それぞれに適応させるんですね。そして、望んだランクの筆記試験もしくは実技試験をいつでも受けられる。見事に合格できたらそのランクを受け取って卒業もできるし、更なる高みを目指して学院に残って学ぶこともできる……ですかね?」
エミール先生は理解しているようだ。校長が笑顔で頷いている。
「つまり、講義に時間をかける必要はなくなるが、常に学院生からの挑戦を受けて立つような……精神も肉体も屈強な教員が求められるわけだな。面白そうじゃねぇか!」
タングス先生のコメントに他の教員も興味を持ち始める。
「確かに。これはつまり学院生だけでなく、我々教員も日々精進しないとダメな制度ですね。実に面白いですね」
「ただ、学費はどうされるのですか? これだと固定で費用を取るわけにもいきませんしね……」
ミネルヴァ校長が頷きながら回答する。
「はい。おっしゃる通りです。なので学院生から学費は請求しません」
「「「え?」」」
「40%を王国から工面してもらえるように交渉し、残りの60%を三つのギルド(冒険者、商業、モグラー)から提供してもらえるよう交渉しましょう。なぜなら育て上げた人材の就職先はほとんどこの三つのギルドだからです。断ったギルドには人材を提供しないと言えば解決するでしょうし、揉めるのなら国王から言ってもらえばそれでOKです」
(この人……商才もあるな)
教員全員がそう感じた。ミネルヴァ校長には逆らわないほうがいい。
「この方針なら上級貴族から資金を調達するプレッシャーは無くなりますよね。一切助けを借りないわけですから」
「あの~。なんとなく新しいスタートは理解できたのですが、在校生である二年と三年の学院生にもこのシステムを当てはめるのですか? つまり、あまり能力が高くない貴族たちがどのクラスも合格できなかったらどうなるのでしょうか?」
「うん、その場合は入学金を返して強制退学ですね。ランクを獲得できない生徒は沢山出てくると思います。今の怠けたままでしたらね。誇り高い貴族が最も低いランクすら獲得できない落ちこぼれとなればメンツも無くなるから必死で学ぶかもしれませんよ。オホホ……」
「オホホって……まぁ、それが一番良さそうですね」
別の教員が質問する。
「ちなみに本日の試験の難度を次回以降も継続するのですか? 少々難しすぎるような気もしますが……」
ミネルヴァ校長に迷いはない。
「このまま続けましょう! 全く役に立たない見せ掛けの魔土術士や魔土戦士を大量に生み出すのはもう懲り懲り! 少数ではあるが優れた者を輩出する王都魔土術学院、そのほうがヒューマニア王国にとっても良いはずです」
教員全員が頷く。現在のヒューマニア王国の弱体化を築いた貴族を追い出すという校長の決意がはっきりと伝わってきた。
「まぁ、他のことはおいおい考えて行くとして、とりあえず試験のことを話そうぜ。皆待ってるからよ」
タングス先生が受験生の話題に戻す。
「えっと、二次試験の合格者は12名ですね。校長、この12名全員が今月の新入生ということでよろしいですか?」
「そうね。問題ありません。順位はどうなりましたか?」
「首席はノア・グリード、次席にティア・グリード、そしてヘンリー・ブラン、リリアナ・ヴァン・クライトンですね」
「ところで筆記試験の結果はどうだったんですか? あの難問を1時間でどれくらい解けたんでしょうか? しかも3科目も連続で……」
ある教員が何気に聞いた質問に黙りこむ教員たち。
「うん……それなんですがね……あの子がね……」
「え?」
エミール先生が説明する。
「校長先生の想定では1時間で20問解けたら優秀、10問で合格ラインというものでした。それに対し、受験した20名のうち、3教科全てで15問以上解いた受験生が先ほどの総合順位上位に入った4名ですね。特にリリアナ・ヴァン・クライトンは全てで25問解いています。ティア・グリードも2教科で同等の成績ですが探掘調査士では18問と少し下がりました。ヘンリー・ブランは全て20問解いていますね。皆本当に優秀な成績でした」
「それは素晴らしいですね! それにしてもさすが王家ですね。ミラ王女も優秀ですが、まさかリリアナ王女まで才能があるなんて…………ん? 皆さんどうしてそんなに落ち込んでいるんですか?」
教員全員が浮かない表情でどこか遠くを見ている。誰も触れたくない話題なのだろう。
ミネルヴァ校長が仕方ないとばかりに口を開く。
「出題数が足りなくて時間を持て余していた受験生がいたのです」
「……えぇ? 解いたらすぐに問題が出てくるわけですからそんなはずは……」
「だからよ。その問題を全部解いた奴がいるってことだよ。50問全てな!」
「そんなまさか! 校長が出されたあの難題を? 我々教員でも全て完全に解くのは時間があったとしても厳しいのに? 嘘でしょ?」
静まり返る教員たち。校長が再び口を開く。
「ノア・グリード、3科目全て50問です。勿論全て完璧な回答でした。中には私も興奮してしまうような斬新な解き方までありました」
「もはや実技の評価なんて聞く必要ないよな? ノアがダントツだ。モグラーの試験免除で満点なんて今まで聞いたことないぜ。俺はぶっ飛ばされちまうしよ」
重苦しい雰囲気になってしまったところで校長がパンと手を叩く。
全員の視線が校長に向いたところで一言。
「私にとてもいい提案があります」
驚きのあまり声が出ない教員たち。あまりにも斬新すぎてちょっとリアクションできない。
「そうですね。この制度を実現するために……まず、学院から率先して授業は行いません。学院生が自主的に学ぶ場を24時間提供するだけにします」
タングス先生が後ろで笑っている。他の先生は話についていくのがやっとという顔をしている。まだ十分に理解していないと思ったミネルヴァ校長が説明を加えていく。
「お馬鹿貴族が8割を占める学院生を相手に講義を開いてもほんの一握りの学院生だけがちゃんと講義を聞いているだけで他の皆は聞かない、伸びない、意味がない状況ですよ。時間の無駄です。やる気のある生徒だけでいいのです。
自主性100%にすることで各々の目標に合わせて学ぶようになっていく。その際に必要であれば学院生を導く。それが教員の役目だと、私は主張します」
教員の表情を見ながらさらに続ける校長。
「ランク制度は階級をブロンズクラス、シルバークラス、ゴールドクラス、プラチナクラスと分けましょう。各々のクラスは更に三つに細分化します。ブロンズA、ブロンズB、ブロンズCという具合ですね。おそらく現在の二年、三年の学院生のほとんどがブロンズCかそれ以下でしょう」
「なるほど。これを魔土術士、魔土戦士、探掘調査士それぞれに適応させるんですね。そして、望んだランクの筆記試験もしくは実技試験をいつでも受けられる。見事に合格できたらそのランクを受け取って卒業もできるし、更なる高みを目指して学院に残って学ぶこともできる……ですかね?」
エミール先生は理解しているようだ。校長が笑顔で頷いている。
「つまり、講義に時間をかける必要はなくなるが、常に学院生からの挑戦を受けて立つような……精神も肉体も屈強な教員が求められるわけだな。面白そうじゃねぇか!」
タングス先生のコメントに他の教員も興味を持ち始める。
「確かに。これはつまり学院生だけでなく、我々教員も日々精進しないとダメな制度ですね。実に面白いですね」
「ただ、学費はどうされるのですか? これだと固定で費用を取るわけにもいきませんしね……」
ミネルヴァ校長が頷きながら回答する。
「はい。おっしゃる通りです。なので学院生から学費は請求しません」
「「「え?」」」
「40%を王国から工面してもらえるように交渉し、残りの60%を三つのギルド(冒険者、商業、モグラー)から提供してもらえるよう交渉しましょう。なぜなら育て上げた人材の就職先はほとんどこの三つのギルドだからです。断ったギルドには人材を提供しないと言えば解決するでしょうし、揉めるのなら国王から言ってもらえばそれでOKです」
(この人……商才もあるな)
教員全員がそう感じた。ミネルヴァ校長には逆らわないほうがいい。
「この方針なら上級貴族から資金を調達するプレッシャーは無くなりますよね。一切助けを借りないわけですから」
「あの~。なんとなく新しいスタートは理解できたのですが、在校生である二年と三年の学院生にもこのシステムを当てはめるのですか? つまり、あまり能力が高くない貴族たちがどのクラスも合格できなかったらどうなるのでしょうか?」
「うん、その場合は入学金を返して強制退学ですね。ランクを獲得できない生徒は沢山出てくると思います。今の怠けたままでしたらね。誇り高い貴族が最も低いランクすら獲得できない落ちこぼれとなればメンツも無くなるから必死で学ぶかもしれませんよ。オホホ……」
「オホホって……まぁ、それが一番良さそうですね」
別の教員が質問する。
「ちなみに本日の試験の難度を次回以降も継続するのですか? 少々難しすぎるような気もしますが……」
ミネルヴァ校長に迷いはない。
「このまま続けましょう! 全く役に立たない見せ掛けの魔土術士や魔土戦士を大量に生み出すのはもう懲り懲り! 少数ではあるが優れた者を輩出する王都魔土術学院、そのほうがヒューマニア王国にとっても良いはずです」
教員全員が頷く。現在のヒューマニア王国の弱体化を築いた貴族を追い出すという校長の決意がはっきりと伝わってきた。
「まぁ、他のことはおいおい考えて行くとして、とりあえず試験のことを話そうぜ。皆待ってるからよ」
タングス先生が受験生の話題に戻す。
「えっと、二次試験の合格者は12名ですね。校長、この12名全員が今月の新入生ということでよろしいですか?」
「そうね。問題ありません。順位はどうなりましたか?」
「首席はノア・グリード、次席にティア・グリード、そしてヘンリー・ブラン、リリアナ・ヴァン・クライトンですね」
「ところで筆記試験の結果はどうだったんですか? あの難問を1時間でどれくらい解けたんでしょうか? しかも3科目も連続で……」
ある教員が何気に聞いた質問に黙りこむ教員たち。
「うん……それなんですがね……あの子がね……」
「え?」
エミール先生が説明する。
「校長先生の想定では1時間で20問解けたら優秀、10問で合格ラインというものでした。それに対し、受験した20名のうち、3教科全てで15問以上解いた受験生が先ほどの総合順位上位に入った4名ですね。特にリリアナ・ヴァン・クライトンは全てで25問解いています。ティア・グリードも2教科で同等の成績ですが探掘調査士では18問と少し下がりました。ヘンリー・ブランは全て20問解いていますね。皆本当に優秀な成績でした」
「それは素晴らしいですね! それにしてもさすが王家ですね。ミラ王女も優秀ですが、まさかリリアナ王女まで才能があるなんて…………ん? 皆さんどうしてそんなに落ち込んでいるんですか?」
教員全員が浮かない表情でどこか遠くを見ている。誰も触れたくない話題なのだろう。
ミネルヴァ校長が仕方ないとばかりに口を開く。
「出題数が足りなくて時間を持て余していた受験生がいたのです」
「……えぇ? 解いたらすぐに問題が出てくるわけですからそんなはずは……」
「だからよ。その問題を全部解いた奴がいるってことだよ。50問全てな!」
「そんなまさか! 校長が出されたあの難題を? 我々教員でも全て完全に解くのは時間があったとしても厳しいのに? 嘘でしょ?」
静まり返る教員たち。校長が再び口を開く。
「ノア・グリード、3科目全て50問です。勿論全て完璧な回答でした。中には私も興奮してしまうような斬新な解き方までありました」
「もはや実技の評価なんて聞く必要ないよな? ノアがダントツだ。モグラーの試験免除で満点なんて今まで聞いたことないぜ。俺はぶっ飛ばされちまうしよ」
重苦しい雰囲気になってしまったところで校長がパンと手を叩く。
全員の視線が校長に向いたところで一言。
「私にとてもいい提案があります」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冴えない建築家いずれ巨匠へと至る
木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」
かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。
安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。
現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。
異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。
巨乳巫女を信じて送りダスか、一緒にイクか~和の村の事件 総合〜【和風RPG】
シンセカイ
ファンタジー
~参考~
https://ci-en.net/creator/11836
敗戦後に放棄されていた日本の農地が、魔物の瘴気によって再び脅かされていた。
その魔物は土地を「魔族の地」へと変質させる危険な存在で、放置すれば農地だけでなく村や民までもが穢れ、飢餓が広がる可能性がある。
巫女は主への忠誠心と民を守る覚悟を胸に、命をかけて妖魔退治に赴く決意を示す。
だが、戦力は各地に分散しており、彼女一人に任せるのは危険と判断される。
それでも彼女は「自分は神に捧げた存在。消耗品として使ってほしい」と冷静に言い放ち、命令を待つ。
物語は、主が彼女をどう扱うかという重要な選択肢へと分岐していく――。
【信じて送り出すか】
【一緒にいくか】
※複数ルートありますが、ここの掲載媒体の仕様上、複数ルート、複数形式を一つの作品にまとめています見づらいと思いますがご了承ください
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる