ナイトメア・プリンセス 〜愚かな人間達に裁きを下すと宣う夢魔の姫君は、どう見てもオスに負ける為のカタチをしてる〜

ギフテッド赤ちゃん

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第4話:主従関係 〜高貴なるプリンセスと下劣な豚〜

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【悪魔】
 神々が最初に創造した人間『原初人』の片割れ。
 第二世代の人類である我々が『動く物』と『神』の合成体であるとされる一方、原初人は『神』が単独で創造した上位人種であると言われている。
 『恐ろしき竜』と同じ時代を生きたとされるが、乳海攪拌の際に巨神ルボザの指示のもと肉体を捨て異界『夢』へと旅立ったとされる。
 尚、本書で語られる真話の悪魔とキリンジ教で語られている『悪魔』は同一の存在であるという説が現在支配的である。


 ぎゃぁあああああ!!! わぎぃいぃいいぃーーーうぁああぁあああ!!!! ぎぇええええええ!!!

 「魔神に繋がる情報は0、釣り糸には誰もかからない……」

 苦痛と悔恨の悲鳴がこだまする白銀の終身監獄、コツコツと居丈高にヒールを鳴らして歩くのは只1人の刑務官にして夢魔の姫君――“ナイトメア・プリンセス”ルサーリア。

「残ってるS級以外の囚人候補ストックは危険度Aの『相撲取り』、入室許可の取れない『切り裂き魔』……」

 苛立たしげな独り言が静かな監獄内に響く、悲鳴が止んだのだ。 囚人クズ共の起床時間である。
 『従人キャスト』或いは『囚人ゴミクズ』となった者にも当然目覚めは訪れる。 しかしこころ魄抽夢デイドロームに捕われたままの従人キャストにとっては“現実”こそが“夢”であり、夢見主が定める設定によっては彼等は“現実”での出来事を認識できずに、自身が永遠に夢の中にいるように感じられる。

「もうそんな時間……ちょうどいいわ」

 例えば魄抽夢デイドローム内で従人キャスト命令オーダーを刻み、現実世界でも奴隷にしていた一富士わさお等の現実派夢見主は現実の記憶を残し、体感時間を上手く調整してあくまで夢は夢であると従人キャストに認識させてようと務める。
 そして当然、ルサーリアの夢幻魄誅夢デッドリーム・デイドロームは前者のパターン。
 囚人ゲス共は自身が起きていた事を認知できず、白日夢でも見てるかのようにこころ無いまま現実で過ごす束の間の起床時間休憩時間を一切認識できない。
 言うまでなく夢幻魄誅夢デッドリーム・デイドロームの体感時間は現実の10倍であるが、そもそも起床を認識できない以上、それを知っているのはただ一人起床する事を許された豚原フトシのみである。

「………成果は?」

 監獄最奥の檻の前でルサーリアは足を止めて尋ねる。 他の囚人ゴミの起床時間に合わせて、豚原は眠り牢獄へと帰ってくるのだ。

「は、はいいい! ポスターを見る人は次第に増え、噂は広まりつつあります! 接続数も増えておりますかぁああ?」

「チッ……」

 夢魔の姫君が舌打ち。 
 豚原の策を受け入れてから、確かにルサーリアの夢を見る者は鰻登りに増えた。
 しかし一般人からの接続が増えても意味がない、ルサーリアが自身でも撤廃できぬ“無制限入室許可設定”の対象に定めたのは、悪魔と契約し魄抽夢デイドロームを授かった者――“ドミネイター”だけなのだから。
 そして、いくら狩れるドミネイターがいないからと言って豚原のような卑劣漢に起床休憩アメを与えているこの現状を、ナイトメア・プリンセスは快く思っていなかった。
 夢魔の姫君が囚人ゴミに授けるのは鞭だけである。

「情報は……?」

 恐ろしく冷たく高圧的だが可愛いらしさを隠しきれぬ声が響く。 現在収監されている6人の囚人カスの内、豚原だけがこのドS気取りのメスガキお嬢様めいたボイスを聞いて尚へりくだり続ける事ができた。
 もちろんその下劣な欲望は全て見透かされているのだが、彼は拷問歯車に粉砕されている最中も常に口先上ではルサーリアを讃え続け、そして悲鳴を上げながらも献策を続けてきた。
 そうして豚原はこの地獄の監獄の中で一時の安らぎを手にしたわけだ。
 ゆえに今回も当然完璧な土下座態勢を取り報告を済ませる。

「な、ないでふううう! スミマセン、スミマセン! スミマセ……あぁ角が伸びておられる!!  やっ、やったのですか? でしたら其奴の情報を是非!!」

 無能な情報屋ブタは目敏くルサーリアの魔力総量を示す可愛らしい角がほんの僅かに伸びている事に気づく。
 ドミネイターを収監する度、夢魔の姫君は力を増しその角は長く固くなるのだ。
 
「クッ……見つかったのは偶然、数百人単位の接続がある泡があるから確認したら偶々見つかっただけよ……」

 ルサーリアが吐き捨てるように述べた、高貴なる姫君は報連相の必要さを理解しているが、それでも囚人ゲス豚原ブタから話しかけられる事に酷い屈辱感を覚える。 もし時間が有限でなければ、こんな汚らわしい豚に協力を求めはしないだろう。
 しかし、時間は無いのだ――――。

「あ、もう一つあります! 魄抽夢デイドロームの外観は変えられないんですか!? ここは……ここは外観が怖過ぎます」

「オマエ……チッ! 何が言いたいわけ!?」

「い、いくら姫さまの情報を流して扇動しても、監獄に……それも他人の魄抽夢デイドロームに攻め込む者がいるとは思えないんです!」

そして豚原は気色悪い笑みを浮かべ続けた。

「もっと女の子らしいお部屋に改装しましょう! ふわっふわのお布団にピンクの絨毯、クマさんのぬいぐるみ! こ、これと無制限入室許可が組み合わされば……!!!」

「オマエっ!!」

 ルサーリアが顔を真っ赤にして怒る。
 豚原がナメている事が開示情報ステータスを見るまでもなくわかったからだ。
 そう、豚原は既にルサーリアが焦っている事も、正論に逆らえるほど我儘に振る舞えぬ事も、苛立ち任せに豚原を蹴っても自身の非力さを証明するだけなので手出しができない事も、まるっと全部お見通しだ。

「スミマセンスミマセン! お、怒らないでください! コレ以上の上作は無いんですよ、ゆえに! ゆえに!」

 それでも渾身の土下座と1mmの反抗心も感じさせない全力の平謝りができるのが豚原の強み。
 そして彼の齎した策――撤廃不可能の無制限入室許可を発行したルサーリアの魄誅夢デイドロームへ、ルサーリア狩りという名目で豚原が集めたドミネイターの集団を侵攻させるという策――は、自身を囮に使うという許しがたい屈辱をルサーリアへ与えたが、しかしまさしく一撃必殺の最上策であもあった。
 もしも侵攻されればソレは圧倒的有利な自身の魄誅夢ホームでの戦い、何人いようがその瞬間に収監ジェイルロック確定。 
 そして――例え入室せずとも一度でも接続つながれば相手の魄抽夢デイドロームを逆探知も可能なのだ。
 豚原に話を聞くか、ポスターに興味を抱くか、ドミネイターにルサーリアの情報を掴ませる事にはそれだけの価値があった。

「チッ……外観設定は変更できない。 オマエが、その下劣な妄想で獲物を誘き寄せなさい! 以上よ!」

 ルサーリアが怒り任せに手を振り下ろすと、豚原は歯車の中へと落ちていき挽肉めいて攪拌された。
 その悍ましき光景よりももっと悍ましく下劣な欲望を豚原が抱いている事も、彼が本気でルサーリア狩りを成し遂げようとしてる事も、ルサーリアは全て知っている。
 しかし屈辱に身を焦がし、自身を犯し汚そうとする卑劣漢を使ってでも、夢魔の姫君には為さなければならない使命がある。

「ふぅ、流石に……イライラするわね……まったく!」

 ルサーリアは白銀の玉座へと腰掛けると、苛立たしげに脚を組みながら1人ごちった。




――――――――――連れて来い。


――――――――――貴様が連れて来るのだ。


――――――――――聞いているのか茶羽ゴウキ。

――――――――――我は貴様と誓約を結んでも構わんのだ。


――――――――――わかっておろうな? 


――――――――――もし代わりの誓約者が見つからければ




「クソっ! 畜生っ! 巻き込まれた!! あの役立たずが!!」

 とある高級マンションの一室、豪華な室内に携えられた高価な調度品と家具家電の数々を目につく限り破壊しながら、茶羽ゴウキは吠えた。

「先生に任せりゃよかった! 起きるまで待ちゃよかった!! こんな無能なんか放っておきゃ良かったんだチクショー!!!」

 そしてその怒りは遂に主原因である田島アキラこと一富士わさおへ向けられる。
 白昼夢でも見ているかのようにボケーっとつっ立つ生き人形じみたわさおを、茶羽は必殺のゴキブリパンチ、ゴキブリキックで叩きのめした。

「1日で! 1日でコレだぞ!! 完全に夢の住人になっちまいやがった! どんだけ現実嫌いなんだよ、どんだけ夢でヤりまくったんだよ!!」

 彼は“先生”を見ているから知っていた。
 夢見主の中には夢こそ現実とする者がおり、それらが総じて現実世界においては廃人同然となる事を。
 そう、彼は夢魔の姫君も夢幻魄誅夢デッドリーム・デイドロームも知らない。 ただわさおが文字通り“夢に現を抜かしてる”と思い込んでいる。
 そういう思い違いがあったにしろ、とにかく彼はあの白銀の無限牢獄に捕らわれる事はなくなる。
 夢事業にはちょっとうるさい下級魔王『ヴァプラ』をも唸らせる逸材を発見する事によって――――。

 

ハッキョーーーーイ………のこったぁあカンカンカンカンカンカーーーーン!!!!

 取り組み開始の合図とほぼ同時に決着のゴングが鳴る。 プロ相撲でよく見られる――否、プロ相撲序二段『肉達磨海』の取組みにおいてのみよく見られるお馴染みの光景である。
 故に同じ嫐山部屋の力士達は彼を責めない、叱らない。 しかしドラフト2位で角界入りした皆殺部屋の新米精鋭力士チャカは違った。

「なんだテメーゴラさっきの取組みはオラぁ! ナメてっと殺すぞゴラァ!!」

 プロ相撲をナメる輩はゆるさねぇ! そんな魂の叫びが聞こえてくる。 本来はとても礼儀正しい純真な若者であり正しい意味で先輩力士から可愛がられるチャカではあるが、彼は遥かに年上であるベテランと言えども、無気力取組みを続け365802連敗と言うギャグみてぇな不名誉大記録を打ち立てた肉達磨海だけは絶対に許せなかった。

「やめろチャカ!!  抗争になっぞ!」
「エッヂさん、けど肉達磨海あいつがいる限りプロ相撲はギャグっす!! 誰かがやらねば俺がチャーーーチャカカカカカカカ!!!」

 先輩力士の静止を振り切り、チャカの機関銃の如きツッパリラッシュが火を吹いた!!
 まともに浴びれば大型力士ですらたぶん絶命すると噂される殺人連打、そんなほぼ必殺のフィニッシュムーブを肉達磨海はあろう事か――――

ズガガガンガガンガーーーン!!!!

「「「「に、肉達磨海関ーーーー!!!!」」」」

 全身で受け止めた――と言えば聞こえはいいが防御姿勢すら取らずただ突っ立っていただけである。
 当然その巨体は全身複雑骨折し後方へ大きく吹き飛ばされた。
 言わずもがな肉達磨海関は重度のドミネイターであるのだが、そんな事を知らないギャラリー達はてんやわんやの大騒ぎ。

「違っ、俺はそんなつもりじゃ……」

 張本人であるチャカすらもが顔面蒼白になって震えていた。 余りにも一方的過ぎる私刑制裁、これでは団体間抗争に持ち込む事すら不可能。 双方の部屋の親方達は手で目を覆い天を仰ぎ見るしかなかった。

 そして翌日――――メブキ町の公衆トイレで首を吊ったチャカの死体が発見された。
 ひらがなしか書けない筈の彼がほぼ漢文で書かれた遺書を添えていた事を、“国内一の無能”と称されるメガトウキョウ圏警は「辞書引いたんでしょ、最後くらい」と説明した。
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