心のテロップが見える彼女は、今日も勝手にツッコむ

由比ヶ浜入鹿

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03. 推しアクスタと不器用パパ

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# 推しアクスタと不器用パパ



 夕方の中央線。推しイベント帰りの私は、戦利品のアクスタを鞄から取り出す。

 うん、今日も尊い。

 隣に座るスーツ姿のおじさんの頭上に、テロップが浮かぶ。

 【願望:娘と話がしたい】

 え、いきなり重い。というか、娘さんいるタイプのおじさんなのか。

 ——そのとき、手が滑った。

 アクスタが、おじさんの足元に落ちる。

 うそ。

 おじさんがサッと拾い上げる。

「これ、アクター……あ、アクスタか」

 惜しい! いや、そこじゃない。

「あ、ありがとうございます……」

 私は慌てて受け取り、鞄にしまおうとする。やば、このまま馬鹿にされる流れ? 推し活おじさんに説教されるやつ?

「お嬢さんも集めてるの?」

 おじさんが話しかけてくる。頭上に【願望:怖がられたくない】と浮かんでいる。

 いや、怖がってないけど。ちょっと身構えてるだけ。

「あ、はい、推し活ってやつで……」

 おじさんがスマホをチラッと見る。

 ——見えた。

 検索履歴に「推し活 父親 嫌われない」。

 必死か……!

 そこで、ようやく気づく。このおじさん、私を説教したいんじゃない。

「実は娘がいて、最近全然話してくれなくて」

 おじさんが少し困ったように笑う。

「推し活の話、したいんだけど……」

 【願望:あれ何て呼ぶんだっけ】

 グッズの名前から覚えような!

 心の中でツッコミつつ、なんだか放っておけなくなる。

「娘さん、だれかのファンなんですか?」

「ああ、えっと、アイドル? なんかグループの」

 ふわっとしてる。でも、知ろうとしてるのは伝わる。

「私も父と並んだことありますけど」

 ふと、口をついて出た。

「一緒に並ぶだけで、なんか、わかってくれてるんだなって。嬉しかったですよ」

 おじさんの頭上に、新しいテロップが浮かぶ。

 【願望:週末、娘と並んでみるか】

「並ぶ、か」

 おじさんが、少し照れくさそうに笑う。

「……やってみるよ」

 電車が三鷹駅に着く。おじさんが立ち上がり、軽く会釈して降りていく。

 その背中を見送りながら、私は思う。

 なんか、いいことしたかも。

 小さくガッツポーズ。

 【願望:娘さん、わかってあげてね】

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