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第一章 勇者の旅立ち
目覚めたら異世界??
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暗闇の中、私を追う足音だけが響き渡る。
私は闇雲に逃げるけど、足音はドンドン迫ってくる……そして荒々しい息遣いが間近に迫ってくる。
イヤっ、来ないで!
私は必死になって逃げるが脚が思うように動かず捕まってしまう。
引き裂かれる衣服……私の胸が露わになる。
下卑た笑い声の男たちが、私の身体を弄る。
イヤっ、気持ち悪い……やめてっ、助けて……。
私の叫び声は、口に布みたいな何かを押し込まれることによって遮られる。
むぐっ……むぐぐっ……。
私の下着は既に剥ぎ取られていて男たちの視線に晒されている。
必死に抵抗するが、四肢を押さえつけられていては、身動ぎするだけが精一杯だ。
私のそんな抵抗を見て、男たちが益々悦び下卑た嗤い声をあげる。
覗き込んでくる眼が怖い……厭らしい嗤い声が怖い……体を弄る手が気持ち悪い……誰か、助けてよぉ……。
一人の男が下半身を剥き出しにして私に迫ってくる。
その男の目的は明白だ。
私は無駄だと知りつつも必死の抵抗を試みるが、やはり動く事さえできない。
「イヤぁぁぁぁぁぁ――――――――!」
迫りくる悪夢に私は叫び声をあげる事しかできなかった。
◇
自分の叫び声に驚いて、ガバッと跳ね起きる。
「……夢かぁ、良かった……。」
ホントは良くないんだけどね。
あの事件から二年……私は未だにあの時の悪夢を見る。
あの時は寸前で助けが入り、私の純潔が散らされずに済んだんだけど……。
私は両腕で自分を抱えるようにする……二年たっても、あの時のおぞましさを忘れる事が出来ない。
あの事件の後、助けを呼んでくれた一つ年下の男の子……真司と身体を重ねた。
真ちゃんはずっと一緒にいた幼馴染の男の子……知らない男に散らされるくらいなら、ちょっと気になっている幼馴染に初めてを捧げた方がいい、そんな気持ちと、そして……あんな目にあっても私は男の人を愛する事が出来るのか?と言う不安が、私を行動させた。
結果は……散々だったわ。
一応真ちゃんとは最後までいったけど……恐怖で体は強張るし、途中で吐きそうになるし、何とか隠して演技していたけど……真ちゃんにはバレているよね。
その後も、何度か真ちゃんと一緒に寝たけど……最後までいく事は殆どなかった……よく考えると私って真ちゃんに酷い事してきたのかもね。
でもお陰で、今では普通の生活が出来ようになった……あの頃は真ちゃん以外の人がいるだけで怖くて震えが止まらず、3m以内に男性がいると嘔吐するぐらい他人が怖かったからね。
「真ちゃんにはいつも感謝してるんだよ。」
私はそう呟いてみる……そう言えば、昨晩も真ちゃんと一緒に寝た筈なのに、真ちゃんの姿が見えない。
あんな大声を上げたのに真ちゃんの姿が見えないなんて……。
真ちゃんは私があの悪夢を見て飛び起きるたびに、抱きしめて大丈夫だって言ってくれていた……私はそれでいつも落ち着きを取り戻していたんだけど……。
私はそう考えながら辺りを見回す。
まだ夜が明けきっていないせいで薄暗い部屋の中だったが、暗闇に慣れた目には辺りの様子がはっきりと見える。
見覚えのない天井、見覚えのないベッド、見覚えのない机……と言うかここどこ?
私の部屋でも真ちゃんの部屋でもない。
それどころか、私の住んでいる施設にこんな広い部屋は無いよ。
広いと言っても、見たところ8畳ぐらいの広さだけどね……ただ、私達が住んでいた施設は各個人に割り当てられているのは3畳ぐらいで、ベッドを置いたら他は何も置けないという狭さ。
それでも私は個室だからまだいい方だ。
三つ下の妹たち……未亜ちゃんと望愛ちゃんは二人で一部屋……二段ベットのスペースだけがプライベートスペースだったからね。
だから、こんな広さの部屋はあの施設ではあり得ない……だとしたらここはどこ?
私はある事に思い至って身体を調べる……違和感はない……意識を失っている間に色々されたという事はなさそうで少しホッとし、別の違和感に気づく。
私が着ている物……なにこれ?
木綿で出来た薄手のワンピース……私こんな服持っていない。
それに昨夜は真ちゃんと一緒だったからなにも身に着けていなかったはず……。
という事は、誰かに連れ去られてこの服を着せられた?
そこまで考えて私は身が震えるのを抑えられなくなる。
身体に違和感は無かったけど……大丈夫だよね?何もされていないよね……。
私は落ち着くまで自分の身体を抱え込み、ベッドの片隅で小さくなって震えていた。
◇
どれくらいの時間がたったのだろうか?長い時間だったのかもしれないし、それ程経っていないのかもしれない。
気づけば日はすっかりと登ったようで、部屋の中が明るい。
明るいと先程まで見えなかったものも見えてくる……柔らかな素材のレースのカーテンに、素朴ながらも優しさを感じる机などの調度品。
部屋全体の雰囲気が可愛らしく、女の子の部屋だと一目でわかる。
私は起き上がり、備え付けられていたドレッサーを開けると、そこには薄いピンクと淡いグリーンのワンピースがかけられている。
私はそれを手に取り着替える……申し訳ないとも思ったけど、今着ている薄手のワンピースではあまりにも心もとなく、人前に出るのを避けたかった。
私は着替え終わると部屋の中を見回す……が、これと言って何かあるわけでもなかった。
それらを確認した後、私はドアに近づき、そっとノブを回す……かちゃっ……小さな音をたてて、ドアは何もなかったかのように開く。
どうやら監禁されているわけではなさそうだ。
ドアの外には階下へと続く階段があった。
私はゆっくりと音をたてないようにして階段を下りていく。
部屋のドアをそぉーっと開けて中を覗く。
中には誰もいないようだ。
私はそのままドアを閉めようとすると……
「何してんだい?」
「ひゃいっ!」
急に背後から声がかけられ、私の心臓はビクンッと跳ね上がる。
「なんて声をあげてんだい。起きたのなら朝ごはんの支度を手伝っておくれよ。」
そう言って、ドアを開けて部屋の中に入っていく女性。
どうやらこの先は食堂らしい。
キッチンのところで女性は抱えていた野菜を降ろすと私に向かって、「皿を出しておくれ」と指示してくる。
「あの……あなたは一体……。」
私の声が聞こえたのか、女性は再び振り向く。
「やれやれ、まだ寝惚けてるのかい?自分の母親を忘れるなんて、薄情な娘だよミカゲは。」
その女性は笑いながら言ってくる。
娘……?私が?……この人の?
頭の中で疑問がぐるぐる回る……ただ分かっているのは、この女性が私の事を『ミカゲ』と呼んだことだ。
私は訳が分からないまま、女性に言われるがままに朝ご飯の準備をして、ご飯を食べ、片付ける……。
……私何やってるんだろ。
そんな事を考えていると母親と言う女性が声をかけてくる。
「食べ終わったのなら早く準備しなさい。今日は行く日だろ?」
「行くって……どこへ?」
私はそう聞き返すと、女性はやれやれと言った感じで応えてくれる。
「昨夜も言っただろ?王様の所だよ。まだ寝惚けているのかい?」
王様って……王様ぁっ!?
何で……って言うか王様がいるんだ。
って、待て待て、よく考えろ私……。
まず、これは誰かの仕掛けた壮大なドッキリだという事。
何故なら言葉が通じるしね。
私日本語以外分からないし、実際今まで日本語で話していたし。
だとしたら、真ちゃんも一役買ってるって事になるけど……昨夜は真ちゃんと一緒にいたんだし。
でも、あの事件の事を知っている真ちゃんが、こんなことに協力するとは思えないんだよなぁ。
それに窓から見える景色……どう見ても日本じゃないよね?
外に出てみないと何とも言えないけど、本で見た事のあるヨーロッパの田舎って感じ出し、ドッキリでここまでやる?
うーん、一応保留にしておくけどボツだよね。
次に、これは私の夢というパターン。
ただねぇ、確かに真ちゃんの影響でファンタジー物のラノベを読んだ事あるけど、それだけでここまでリアルな世界観のある夢を見るって、ありえないよね?
ないわー、と言う事でボツ。
そして、最後に考えたくもないけど、まさかとは思うけど、異世界?に飛ばされたパターン。
確か異世界召喚って言うんだっけ?真ちゃんがこういうの好きだったと思うけど……まさか私がねぇ。
ただ、分からないのは、もし異世界に呼び出されたんだとして、何でこの人は私の事を娘だと思っているんだろう?
ウン、やっぱり夢だよ。
たとえ私が見た事が無くても、異常なまでにリアルだったとしても、夢に違いないよ……きっと。
「アンタ、そんなに自分のほっぺた抓んで、痛くないのかい?」
「痛い……。」
おかしな娘だよ……と言う女性をその場において私は2階の部屋へ戻る……たとえほっぺたが痛くたって夢なんだよ。
あのベットでもう一度眠って、そして目が覚めたら、そこは真ちゃんの腕の中。
目が覚めたら、真ちゃんに思いっ切り甘えよう……ちょっと怖いけど、真ちゃんが望むことをしてあげよう。
そう思いながらベットに潜り込む……少し離れているだけなのに、こんなにも真ちゃんの事が気になるなんて……そうだ、真ちゃんも高校生になった事だし、目が覚めたら思い切って「彼女にして」と言ってみようかな?
真ちゃんの驚く顔が目に浮かぶようで楽しみだなぁ。
私はそう考えながら目を閉じる……段々と意識が遠くなり……私は再び眠りについたのだった。
◇
目が覚めた……と言うより起こされた。
「いつまでも降りてこないと思ったら寝ていたなんて、何を考えているんだい。」
母親を名乗る女性が私の服を脱がす。
「あーぁ、そのまま寝るからこんなに皴になっちゃって……今日は別の服にするんだよ。」
ドレッサーから新しいワンピースを取り出してくる。
「髪の毛もグチャグチャじゃないか、全く、幾つになっても世話が焼けるんだから。」
そう言いながら私を座らせ髪を梳き始める。
目覚めは最悪だ……夢だと思って、目が覚めたら戻れると思って……でも現実は変わり映えの無い、見知らぬ世界……知らず知らずのうち、瞳に涙が溜まる。
「いつまでもこうして世話を焼いてあげたいんだけどね……って、泣くんじゃないよ。母さんは大丈夫だからね。」
女性は私が涙ぐんでいるのを、何か別の事と勘違いしたようだった。
「お前はいつも人の影に隠れてばかりだったからねぇ。」
語りながら髪の毛を梳いてくれる……その手の感触が心地いい。
女性が語る私じゃない私……ただ、その言葉の端々には確かに母親の愛情と言うものが感じ取られた。
私にお母さんがいれば、きっとこんな感じだったんだろうな。
「さぁ、その服を着たら降りておいでよ。王様の所に行くんだからね。」
髪の毛をセットし終え、私の唇に軽く紅を引いてくれた女性は、そう言いながら階下へと降りて行った。
私は用意してもらったワンピースに着替え、片隅にあった鏡を見てみる。
鏡は日本にあるような綺麗なものではなく、どこか歪んだ感じで映っていたが、それでも私の姿をしっかり映し出している。
見慣れた私の姿……鏡の質の所為か、いつも見ている自分の姿より痩せている感じもする。
痩せて見える鏡なんて、日本だったらバカ売れするかもね。
そんな事を考えながら階下へと降りる。
そして家の入口で母親だという女性に見送られる。
「身体には気を付けるんだよ。」
涙ぐみながらそう告げる女性を見て、もう会えないんだな、となんとなくそう思った。
だからだろう、私は無意識にその一言を口にしていた。
「行ってきます……お母さん。」
◇
田舎の村……辺りを見回しながら歩いている私の正直な感想だ。
アスファルトじゃなく石畳で舗装された道路。
一歩外れると、膝丈迄ある雑草と、ゴツゴツとした石が転がっていて、大変歩き辛い。
途中にポツリ、ポツリとあるレンガ造りの家屋がここが日本じゃないと主張している。
まぁ、中世ヨーロッパをイメージしたテーマパークという線も無くはないけど……。
そう思うが、道行く人々の服装がそれを否定する。
何より髪の色が日本どころか世界中見てもあり得ないのだ。
キラキラ輝くような金髪や、綺麗なアッシュブロンドなどはともかくとして、今すれ違った人は鮮やかなエメラルドグリーン、向こうから歩いてくる人はこれまた鮮やかなラベンダー……こんな色合いの髪の毛なんて、コスプレ以外で見た事が無いよ。
認めるしかないのかなぁ……ここが異世界だって事。
教えられた通りに北へと歩いていくと、大きな門が見えてきた。
その門の向こうが王宮だという事だが、話によれば、門をくぐって10分以上歩かなければならないらしい。
どんだけ広いんだよ、ひ弱な現代っ子舐めないでよねっ!
と言うわけでタクシープリーズ!……等と言ってみてもそんなものがあるわけもなく、門番さんに変な目で見られるのだった。
「名前と目的を。」
門番さんが近づいてくる……いや、それ以上来ないで。
私はその場で回れ右をして逃げだす。
後方で何か叫んでいる気がしたが、走っている私の耳には届かなかった。
「はぁ……マズかったかなぁ。」
町外れまで走り抜けたところで私はそう呟く。
だって、ねぇ?あんなガタイのいい男の人だよ?
そばに来られたら怖いじゃん。
……って、王様ってよく考えたら男の人だよね?
私まともに話せる気がしないよ……大体なんで王様に会わなきゃいけないの?
…………。
………。
……。
よし、決めた!
王様に会うの止めよう!
こうして私の異世界生活は始まったのだった。
私は闇雲に逃げるけど、足音はドンドン迫ってくる……そして荒々しい息遣いが間近に迫ってくる。
イヤっ、来ないで!
私は必死になって逃げるが脚が思うように動かず捕まってしまう。
引き裂かれる衣服……私の胸が露わになる。
下卑た笑い声の男たちが、私の身体を弄る。
イヤっ、気持ち悪い……やめてっ、助けて……。
私の叫び声は、口に布みたいな何かを押し込まれることによって遮られる。
むぐっ……むぐぐっ……。
私の下着は既に剥ぎ取られていて男たちの視線に晒されている。
必死に抵抗するが、四肢を押さえつけられていては、身動ぎするだけが精一杯だ。
私のそんな抵抗を見て、男たちが益々悦び下卑た嗤い声をあげる。
覗き込んでくる眼が怖い……厭らしい嗤い声が怖い……体を弄る手が気持ち悪い……誰か、助けてよぉ……。
一人の男が下半身を剥き出しにして私に迫ってくる。
その男の目的は明白だ。
私は無駄だと知りつつも必死の抵抗を試みるが、やはり動く事さえできない。
「イヤぁぁぁぁぁぁ――――――――!」
迫りくる悪夢に私は叫び声をあげる事しかできなかった。
◇
自分の叫び声に驚いて、ガバッと跳ね起きる。
「……夢かぁ、良かった……。」
ホントは良くないんだけどね。
あの事件から二年……私は未だにあの時の悪夢を見る。
あの時は寸前で助けが入り、私の純潔が散らされずに済んだんだけど……。
私は両腕で自分を抱えるようにする……二年たっても、あの時のおぞましさを忘れる事が出来ない。
あの事件の後、助けを呼んでくれた一つ年下の男の子……真司と身体を重ねた。
真ちゃんはずっと一緒にいた幼馴染の男の子……知らない男に散らされるくらいなら、ちょっと気になっている幼馴染に初めてを捧げた方がいい、そんな気持ちと、そして……あんな目にあっても私は男の人を愛する事が出来るのか?と言う不安が、私を行動させた。
結果は……散々だったわ。
一応真ちゃんとは最後までいったけど……恐怖で体は強張るし、途中で吐きそうになるし、何とか隠して演技していたけど……真ちゃんにはバレているよね。
その後も、何度か真ちゃんと一緒に寝たけど……最後までいく事は殆どなかった……よく考えると私って真ちゃんに酷い事してきたのかもね。
でもお陰で、今では普通の生活が出来ようになった……あの頃は真ちゃん以外の人がいるだけで怖くて震えが止まらず、3m以内に男性がいると嘔吐するぐらい他人が怖かったからね。
「真ちゃんにはいつも感謝してるんだよ。」
私はそう呟いてみる……そう言えば、昨晩も真ちゃんと一緒に寝た筈なのに、真ちゃんの姿が見えない。
あんな大声を上げたのに真ちゃんの姿が見えないなんて……。
真ちゃんは私があの悪夢を見て飛び起きるたびに、抱きしめて大丈夫だって言ってくれていた……私はそれでいつも落ち着きを取り戻していたんだけど……。
私はそう考えながら辺りを見回す。
まだ夜が明けきっていないせいで薄暗い部屋の中だったが、暗闇に慣れた目には辺りの様子がはっきりと見える。
見覚えのない天井、見覚えのないベッド、見覚えのない机……と言うかここどこ?
私の部屋でも真ちゃんの部屋でもない。
それどころか、私の住んでいる施設にこんな広い部屋は無いよ。
広いと言っても、見たところ8畳ぐらいの広さだけどね……ただ、私達が住んでいた施設は各個人に割り当てられているのは3畳ぐらいで、ベッドを置いたら他は何も置けないという狭さ。
それでも私は個室だからまだいい方だ。
三つ下の妹たち……未亜ちゃんと望愛ちゃんは二人で一部屋……二段ベットのスペースだけがプライベートスペースだったからね。
だから、こんな広さの部屋はあの施設ではあり得ない……だとしたらここはどこ?
私はある事に思い至って身体を調べる……違和感はない……意識を失っている間に色々されたという事はなさそうで少しホッとし、別の違和感に気づく。
私が着ている物……なにこれ?
木綿で出来た薄手のワンピース……私こんな服持っていない。
それに昨夜は真ちゃんと一緒だったからなにも身に着けていなかったはず……。
という事は、誰かに連れ去られてこの服を着せられた?
そこまで考えて私は身が震えるのを抑えられなくなる。
身体に違和感は無かったけど……大丈夫だよね?何もされていないよね……。
私は落ち着くまで自分の身体を抱え込み、ベッドの片隅で小さくなって震えていた。
◇
どれくらいの時間がたったのだろうか?長い時間だったのかもしれないし、それ程経っていないのかもしれない。
気づけば日はすっかりと登ったようで、部屋の中が明るい。
明るいと先程まで見えなかったものも見えてくる……柔らかな素材のレースのカーテンに、素朴ながらも優しさを感じる机などの調度品。
部屋全体の雰囲気が可愛らしく、女の子の部屋だと一目でわかる。
私は起き上がり、備え付けられていたドレッサーを開けると、そこには薄いピンクと淡いグリーンのワンピースがかけられている。
私はそれを手に取り着替える……申し訳ないとも思ったけど、今着ている薄手のワンピースではあまりにも心もとなく、人前に出るのを避けたかった。
私は着替え終わると部屋の中を見回す……が、これと言って何かあるわけでもなかった。
それらを確認した後、私はドアに近づき、そっとノブを回す……かちゃっ……小さな音をたてて、ドアは何もなかったかのように開く。
どうやら監禁されているわけではなさそうだ。
ドアの外には階下へと続く階段があった。
私はゆっくりと音をたてないようにして階段を下りていく。
部屋のドアをそぉーっと開けて中を覗く。
中には誰もいないようだ。
私はそのままドアを閉めようとすると……
「何してんだい?」
「ひゃいっ!」
急に背後から声がかけられ、私の心臓はビクンッと跳ね上がる。
「なんて声をあげてんだい。起きたのなら朝ごはんの支度を手伝っておくれよ。」
そう言って、ドアを開けて部屋の中に入っていく女性。
どうやらこの先は食堂らしい。
キッチンのところで女性は抱えていた野菜を降ろすと私に向かって、「皿を出しておくれ」と指示してくる。
「あの……あなたは一体……。」
私の声が聞こえたのか、女性は再び振り向く。
「やれやれ、まだ寝惚けてるのかい?自分の母親を忘れるなんて、薄情な娘だよミカゲは。」
その女性は笑いながら言ってくる。
娘……?私が?……この人の?
頭の中で疑問がぐるぐる回る……ただ分かっているのは、この女性が私の事を『ミカゲ』と呼んだことだ。
私は訳が分からないまま、女性に言われるがままに朝ご飯の準備をして、ご飯を食べ、片付ける……。
……私何やってるんだろ。
そんな事を考えていると母親と言う女性が声をかけてくる。
「食べ終わったのなら早く準備しなさい。今日は行く日だろ?」
「行くって……どこへ?」
私はそう聞き返すと、女性はやれやれと言った感じで応えてくれる。
「昨夜も言っただろ?王様の所だよ。まだ寝惚けているのかい?」
王様って……王様ぁっ!?
何で……って言うか王様がいるんだ。
って、待て待て、よく考えろ私……。
まず、これは誰かの仕掛けた壮大なドッキリだという事。
何故なら言葉が通じるしね。
私日本語以外分からないし、実際今まで日本語で話していたし。
だとしたら、真ちゃんも一役買ってるって事になるけど……昨夜は真ちゃんと一緒にいたんだし。
でも、あの事件の事を知っている真ちゃんが、こんなことに協力するとは思えないんだよなぁ。
それに窓から見える景色……どう見ても日本じゃないよね?
外に出てみないと何とも言えないけど、本で見た事のあるヨーロッパの田舎って感じ出し、ドッキリでここまでやる?
うーん、一応保留にしておくけどボツだよね。
次に、これは私の夢というパターン。
ただねぇ、確かに真ちゃんの影響でファンタジー物のラノベを読んだ事あるけど、それだけでここまでリアルな世界観のある夢を見るって、ありえないよね?
ないわー、と言う事でボツ。
そして、最後に考えたくもないけど、まさかとは思うけど、異世界?に飛ばされたパターン。
確か異世界召喚って言うんだっけ?真ちゃんがこういうの好きだったと思うけど……まさか私がねぇ。
ただ、分からないのは、もし異世界に呼び出されたんだとして、何でこの人は私の事を娘だと思っているんだろう?
ウン、やっぱり夢だよ。
たとえ私が見た事が無くても、異常なまでにリアルだったとしても、夢に違いないよ……きっと。
「アンタ、そんなに自分のほっぺた抓んで、痛くないのかい?」
「痛い……。」
おかしな娘だよ……と言う女性をその場において私は2階の部屋へ戻る……たとえほっぺたが痛くたって夢なんだよ。
あのベットでもう一度眠って、そして目が覚めたら、そこは真ちゃんの腕の中。
目が覚めたら、真ちゃんに思いっ切り甘えよう……ちょっと怖いけど、真ちゃんが望むことをしてあげよう。
そう思いながらベットに潜り込む……少し離れているだけなのに、こんなにも真ちゃんの事が気になるなんて……そうだ、真ちゃんも高校生になった事だし、目が覚めたら思い切って「彼女にして」と言ってみようかな?
真ちゃんの驚く顔が目に浮かぶようで楽しみだなぁ。
私はそう考えながら目を閉じる……段々と意識が遠くなり……私は再び眠りについたのだった。
◇
目が覚めた……と言うより起こされた。
「いつまでも降りてこないと思ったら寝ていたなんて、何を考えているんだい。」
母親を名乗る女性が私の服を脱がす。
「あーぁ、そのまま寝るからこんなに皴になっちゃって……今日は別の服にするんだよ。」
ドレッサーから新しいワンピースを取り出してくる。
「髪の毛もグチャグチャじゃないか、全く、幾つになっても世話が焼けるんだから。」
そう言いながら私を座らせ髪を梳き始める。
目覚めは最悪だ……夢だと思って、目が覚めたら戻れると思って……でも現実は変わり映えの無い、見知らぬ世界……知らず知らずのうち、瞳に涙が溜まる。
「いつまでもこうして世話を焼いてあげたいんだけどね……って、泣くんじゃないよ。母さんは大丈夫だからね。」
女性は私が涙ぐんでいるのを、何か別の事と勘違いしたようだった。
「お前はいつも人の影に隠れてばかりだったからねぇ。」
語りながら髪の毛を梳いてくれる……その手の感触が心地いい。
女性が語る私じゃない私……ただ、その言葉の端々には確かに母親の愛情と言うものが感じ取られた。
私にお母さんがいれば、きっとこんな感じだったんだろうな。
「さぁ、その服を着たら降りておいでよ。王様の所に行くんだからね。」
髪の毛をセットし終え、私の唇に軽く紅を引いてくれた女性は、そう言いながら階下へと降りて行った。
私は用意してもらったワンピースに着替え、片隅にあった鏡を見てみる。
鏡は日本にあるような綺麗なものではなく、どこか歪んだ感じで映っていたが、それでも私の姿をしっかり映し出している。
見慣れた私の姿……鏡の質の所為か、いつも見ている自分の姿より痩せている感じもする。
痩せて見える鏡なんて、日本だったらバカ売れするかもね。
そんな事を考えながら階下へと降りる。
そして家の入口で母親だという女性に見送られる。
「身体には気を付けるんだよ。」
涙ぐみながらそう告げる女性を見て、もう会えないんだな、となんとなくそう思った。
だからだろう、私は無意識にその一言を口にしていた。
「行ってきます……お母さん。」
◇
田舎の村……辺りを見回しながら歩いている私の正直な感想だ。
アスファルトじゃなく石畳で舗装された道路。
一歩外れると、膝丈迄ある雑草と、ゴツゴツとした石が転がっていて、大変歩き辛い。
途中にポツリ、ポツリとあるレンガ造りの家屋がここが日本じゃないと主張している。
まぁ、中世ヨーロッパをイメージしたテーマパークという線も無くはないけど……。
そう思うが、道行く人々の服装がそれを否定する。
何より髪の色が日本どころか世界中見てもあり得ないのだ。
キラキラ輝くような金髪や、綺麗なアッシュブロンドなどはともかくとして、今すれ違った人は鮮やかなエメラルドグリーン、向こうから歩いてくる人はこれまた鮮やかなラベンダー……こんな色合いの髪の毛なんて、コスプレ以外で見た事が無いよ。
認めるしかないのかなぁ……ここが異世界だって事。
教えられた通りに北へと歩いていくと、大きな門が見えてきた。
その門の向こうが王宮だという事だが、話によれば、門をくぐって10分以上歩かなければならないらしい。
どんだけ広いんだよ、ひ弱な現代っ子舐めないでよねっ!
と言うわけでタクシープリーズ!……等と言ってみてもそんなものがあるわけもなく、門番さんに変な目で見られるのだった。
「名前と目的を。」
門番さんが近づいてくる……いや、それ以上来ないで。
私はその場で回れ右をして逃げだす。
後方で何か叫んでいる気がしたが、走っている私の耳には届かなかった。
「はぁ……マズかったかなぁ。」
町外れまで走り抜けたところで私はそう呟く。
だって、ねぇ?あんなガタイのいい男の人だよ?
そばに来られたら怖いじゃん。
……って、王様ってよく考えたら男の人だよね?
私まともに話せる気がしないよ……大体なんで王様に会わなきゃいけないの?
…………。
………。
……。
よし、決めた!
王様に会うの止めよう!
こうして私の異世界生活は始まったのだった。
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婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
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◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
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