勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第一章 勇者の旅立ち

勇者の旅立ち?

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「では、改めて勇者様にご挨拶させていただきますわ。私アルーシャ王国、国王フィリップ17世の娘、第一王女のイルマと申します。勇者様にお目にかかれて光栄ですわ。」
 お姫様……イルマは優雅に一礼すると席に座る。
 ここは王宮内のティーサロン……謁見の間みたいに男の人に囲まれていると、私がまた暴走するといけないという事で、イルマの発案によりここに場所を移したのだ。
 そして党の王様は私から3M離れた別のテーブルに座っており、その間にはメイドさん達が壁を作っていてくれる。
「ワシ王様なのに……。」と呟いているのは皆聞こえないことにしたようだ。
 そして私の膝の上には案内してくれた幼いメイドちゃんが座っている。
 この子をギュっとしていればなぜか落ち着くので、ここにいてもらっている。

「私はミカゲ……その、勇者様って言うのやめない?自分の事じゃないみたいで反応に困る。」
 私がそう言うと、勇者様は勇者様なのに、とちょっと困った顔をしていたが、頷いてくれる。
「それで、私が勇者ってどういう事?」
 私がそう言うと、奥の方でガタッと言う音が聞こえる。
「ワシが話そう、勇者よ!そもそも……。」
「ヒィッ!」
 突然聞こえてきた声に私は身を竦める。
 腕の中のメイドちゃんをギュっと抱きしめると、よしよし、と頭を撫でてくれる。

「お父様は、もうあっちへ行ってらしてください!」
 イルマ姫が、父親であるフィリップ17世を追い立てる。
「ワシ王様なのにぃ……。」と言う声がだんだん遠ざかっていく……どうやらメイドさん達の手によって追い出されたようだ。
 よしっ、悪は滅びた!これで怖いものは無いわ。
 私がこぶしを握って小さくガッツポーズをしていると、イルマ姫はそんな私を見て微笑んでいた。
 ……やだ、何か恥ずかしぃ。

「そ、それで、私が勇者ってのは……。」
 私は慌てて話題をすり替える。
「クスッ……そうですね、わが国にはこんな言い伝えがあります。『大いなる魔が世界を覆いし時、魔を撃ち砕き光が差し込む……その光は勇者となりて世界を光と変えるだろう。』……と。そして今より15年前、世界各国で魔獣たちの動きが活発になり、魔王が復活したと騒がれたのです。」
「魔王?復活??」
 なんか、途端に話が大きく……と言うか胡散臭くなってきたよ。

「えぇ、魔王は不滅の存在で、何人たりとも倒すことは出来ないそうです。唯一対抗できるのは勇者様のみ。それも完全に滅することは出来ず、封印するのが精一杯。時間が経てば封印が解け、魔王は甦ります。その為、勇者様は御自分の血脈を受け継ぐものに、言い伝えと神より授かりし装備を残したと言われます。しかしながら何百年、何千年と時が経つ間に装備の行方は知れなくなり、伝承も欠損歪みが酷く、今ではさっきの一文のみしか残っていません。勿論、これまでにも何度か魔王の復活はあり、その都度時の勇者様が魔王を封印してくれていますので、その時のことなどは記録に残っていますから、何とかなるのですが……。」
 ふーん、つまり魔王が甦ると勇者が現れて封印し直すって事でいいのかな?
「それで、それと私に何の関係があるの?」
 私がそう言うとイルマ姫は私の手を握り、私の眼を覗き込んでくる。
 ……って近いよ。
「今から15年前……魔王復活と騒がれた年のある晩の事です。その夜は星の光一つ指す事の無い闇に覆われていました。そしてその時、空を切り裂くような眩い一筋の光が流れ落ちたのです!占術士たちは口々に言いました……勇者の誕生だ、と。」 
 イルマ姫の眼がランランと輝いている……って言うか近いよっ!
 既に鼻と鼻が触れ合っていて、もう少しで唇が触れ合いそうな距離まで近づいているのに、興奮したイルマ暇はお構いなしだ。
「私達王家のものは初代勇者の血を引くものとして、歴代の勇者の導き手としての役割を担ってますの。私が送り出した勇者様が世界を救う……とても素敵な事じゃないですか?」 私を見つめるイルマ姫の目が潤んでいる。
 その顔を見て素直に綺麗だなと思っていると段々と近づいてきた。
 私の顔にイルマ姫の吐息がかかる……ってホント近すぎ……これ以上はヤバいよ。
 イルマ姫が目を閉じ唇を突き出してくる……あーダメだ、これはもう手遅れかぁ。
 初めてってわけじゃないし、イルマ姫は女の子だし、まいっかぁと、私は諦めて流れに身を任せる。

「そこまで!」
 唇が触れるか触れないかと言う所でストップがかかる。
 私の膝の上に乗っていたメイドちゃんがイルマ姫を押し返す。
「姫様興奮しすぎ!勇者様に失礼。」
「あ、あはっ、あはっ……。」
 我に返ったイルマ姫が顔を赤くして視線を逸らす。
「つまり、15年前に現れた光こそ、あなたが誕生した知らせであり、15の誕生日を迎え成人したあなた……ミカゲが勇者として旅立つ時なのです。そして私は勇者の導き手としてあなたが行くべき道を指し示すのが役目。」
 えっと、つまり私が勇者で15年前に生まれて、誕生日を迎えて成人したから魔王をやっつけに旅に出ろ、とそういうわけですか……。
 あれ?でも私は17歳の筈じゃぁ……。

「えっとね、人違いって事は無いかなぁ?」
 私はそう言ってみるが、「ないです!」ときっぱり言い切られてしまう。
「先程ミカゲが使った魔法……風の魔法と癒しの魔法療法使えるのは勇者様だけです。」
 正確には大賢者と呼ばれる一部の魔導士たちは癒し系の魔法も使えるそうだが、私が使ったのとは質が違うとのことだった。
「しかもあれだけの魔力量は勇者様ならではです。普通の人であれば魔力が枯渇して今頃はまだベッドの中ですわよ?」
「そんなこと言われても、私は魔法を使った覚えないし……。」
 さっきのも無意識に暴走したのであって、今使えと言われてもどうすればいいか分からないのだ。
「大丈夫です、私が教えて差し上げますわ。旅するのに基本的な魔法は使えた方がいいですからね。手取り足取り、優しく教えて差し上げますわ。」
 そう申し出てくるイルマ姫。
 正直言ってありがたい申し出だった。

「後は、そうですわね……私達、導き手である王家のものには、その人が勇者かどうかがわかるんですの。これはもう理屈ではなく、魂が引かれ合うかの様に分かるんですのよ。」
 そう言いながらすり寄ってくるイルマ姫。
 この子、可愛いんだけどひょっとしてソッチの気があるのでは?
 私は答えを求めるかのようにメイドちゃんに視線を向けるが、メイドちゃんは同情の色を濃くした眼を私に向けた後、フイっと視線を逸らす。
 って、それどういう意味なの?
 ちゃんと否定してよぉぉぉぉ。

 ◇

 あれから1週間が過ぎた。
 私はお城の中に部屋を用意してもらって過ごしていたが、まぁ、夜は、その……イルマ姫と一緒のベッドで寝ちゃってたりして……あ、誤解しないでよね、私とイルマ姫は、そういう関係じゃないからね。
 私はあの事件から不眠症気味になった……寝ると必ずあの悪夢を見るから怖いのだ。
 だから、悪夢を見ても、あれは夢なんだ、と慰めてくれる相手が傍にいないと寝る事が出来ない。
 初日に悪夢におびえて寝れないでいる私を、イルマ姫はベッドに誘ってくれて、ずっと抱きしめていてくれたおかげで、私はゆっくりと寝る事が出来るようになった。

 そんな感じで、寝食を共にすることで私とイルマ姫は、従来の親友だったかのように仲良くなれたので、この一週間は無駄じゃなかったと思う。

 そして今、私はイルマ姫の指導の下、魔法の修業に励んでいた。

「ミカゲはやっぱりすごいですわ。流石は勇者様ですわね。」
「そんなことないよ……なんとなく分かるって感じだから。ちゃんと理解して教える事の出来るイルマ姫の方が凄いよ。」
 実際イルマ姫の教え方は的を射ていて、凄く分かりやすかった。
 イルマ姫がいなかったら、魔力の流れを感じる、という事が理解できなかったと思う。
 まぁ、魔力の流れを理解したら、後はイメージしたものを放出する、と言う感じであっという間に魔法が使えるようになったのだが、イルマ姫に言わせると、普通はそんな風に魔法は使えないそうだ。
 「イメージ」する為と「放出」するために、詠唱とワードが必要になるそうなのだが、まぁ、出来ちゃうんだからそういうものだと思ってもらうしかないよね。


「明日はミカゲの出発の日かぁ、……淋しくなるね。」
 休憩をしていると、ポツリとイルマ姫がそんな事を言う。
「私だって……イルマ姫と離れたくないなぁ。」
「その様な事おっしゃらないでくださいまし、あなたは世界の、人類の希望なのですよ。でも、無理はしないでね……私の勇者様。」
 イルマ姫はそう言って私の頬に口づける。

「さぁ、今夜はミカゲの旅立ちを祈念してのパーティだからね。沢山楽しもうね。」
 しんみりした雰囲気を吹き飛ばすかのようにイルマ姫が明るく言う。
「えー、イヤ。私パスね。」
「そんな事と言われたら困るぅ……ミカゲ、お願いっ!」
 手を合わせて頭を下げるイルマ姫の様子を見ていると少し罪悪感を感じる。
 でもなぁ……。
「王様とか、王子様とか、宰相とかヘンな貴族のボンボンとか、とにかく男の人が一杯来るんでしょ?私自分を抑える自信ないよ。」
 イルマ姫の指導のおかげで魔力の流れと言うものを知り、コントロールできるようになったが、それだけに今度は自在に魔力を操れるようになったというわけで、男の人が不用意に近付いてきたら、ピンポイントでその人に向けて魔法が発動されるという自信があるけど、魔法を抑えるなんてことは出来ないと思う。
「ん?被害は男の人だけに向かうから、それでもいいのか。」
「よくないよっ!」
 イルマ姫からすかさずツッコミが入る。
 こんな楽しい時間が過ごせることに感謝かな……誰にかは分からないけど。

 でも、15歳かぁ……15年前に私が生まれたと言うイルマ姫の言った言葉を思い出す。
 たぶん色々と世界の事情があるのだろうけど、私はこの世界で15歳からやり直すことになったのは間違いないらしい。
 あの地獄の15歳……記憶を消すことは出来ないけど、15歳をやり直せるのならば……何か違った世界が見えるかもしれない。
 私はこれから辿る自分の道が明るく照らされる様にと、誰ともなしに祈ってみた。

 ◇

「では勇者ミカゲよ、王からの心ばかりの支度金を受け取り、それで装備を整えて旅立つがよい。」
 イルマ姫が王様の代わりに私にそう伝えてくる。
 私はその革袋を恭しく受け取る……けど軽いよ?
 空っぽじゃないの?
 私はそう思ってイルマ姫を見るが、彼女は視線を逸らしていた。
 中をそっと見てみると銀貨が1枚だけ入っている。
 もう一度イルマ姫を見るが、彼女は視線を逸らしたまま、音の出ない口笛を吹く真似をしていた。

「どういうことかなぁ?」
 銀貨一枚で何を支度せいって言うんじゃ!
 そんな気持ちを込めてイルマ姫に聞いてみる。
「し、仕方がないのよ。勇者の支度金は1000Gって言い伝えで決まっているんだから。」「1000G?」
「古の単位よ。銅貨1枚が10Gと言われてるわ。」
 ウン、よく分かった……言い伝えには物価の上昇と言うものが加味されていないんだね。
「もういいわよ……後はこっちで何とかするわよ。」
 私の姿が見えなくなるまで見送ってくれたイルマ姫に感謝をしつつ、そのままお城を後にする。
  

「さて、旅立ちの前にやっておくことは……っと、そうだ。」
 私は思い出したかのようにギルドへ足を向ける。
 世界を旅するなら冒険者の登録はしておいた方がいい。

「って事で登録お願いしまぁす。」
 私はギルドのお姉さんに声をかける。 
 一応イルマ姫から話が行っているみたいで、私がギルドに入ると皆がズササッと距離を空けてくれる……お陰で私を中心として半径5m以内の空間が出来ていた。 
「はい、これで大丈夫よ。」
 受付のお姉さんが苦笑しながらギルドカードを渡してくれる。
 元々細かい手続きは済んでいて最終登録の段階で止まっていたのだから早いものである。「ミカゲちゃん、聞いたわよぉ。」
 手続きが終わった後受付のお姉さんが話しかけてくる。
「聞いたって、何を?」
「ウン、王様の前で無差別テロを起こしたとか、国民のアイドルイルマ姫を寝所に連れ込んで篭絡したとか……イロイロよ。」
 可笑しそうに笑いながらそう言ってくる。
「だから、ほら……皆も遠巻きにしてるでしょ?ミカゲちゃんに関わってトラブルに巻き込まれたくないからよ。」
 私の周りに人がいないのは、イルマ姫が話しを通してくれていたわけじゃなく、私の悪評が広まっていた結果だったらしい……知らないでおきたかったよ。

「それでね、本来なら一緒に冒険する人達を紹介したいところなんだけど、そういうわけで誰も紹介できないのよ、ごめんね。」
 なんでも、歴代の勇者はこのギルドで一緒に旅をする仲間を募ってから旅立っていったという事。
 なのでイルマ姫からも「いい人をお願いね。」と頼まれていたそうなのだが、ねじ曲がった私の悪評が邪魔をして、誰も成り手がいなかったらしい。   
「あー、別にいいよ、旅の仲間なんて気を使うだけだし。それより、旅するにあたっての注意事項とかあれば教えて欲しいな。」
 私にしてみれば、気の置けない誰とも分からないような人の事より、これから先についての情報の方がよほど重要だ。
 そうしてお姉さんから聞き出した情報は以下の通りだった。

 まずは旅支度を整える事。
 武器や防具は当然として、旅するのに必要な必須アイテム……野営時のテントとか寝袋とか食事用の食器とかそう言う日用品ね。
 それから警戒用トラップなどの防護グッズ……野営してるときに不意打ちを喰らわないようにするための色々な道具なんだって。
 その中の一つの『結界石』は虫や小動物なんかは近寄れない簡易結界を張れるから、旅するには必須アイテムなんだって。
 後は薬草やポーション類……ただこれはそれなりに値が張るから気を付けて、と言われた。
 これらのアイテムはギルドでも取り扱っているというので、お勧めに従って購入することにする……が、全部で銅貨50枚と言われた。
 イルマからもらった支度金の半分……私はダメ元で交渉してみる。

「お姉さん……私お金無いの。」
 受付のお姉さんの手を握り、胸元迄引き寄せてから、お姉さんを上目使いで見あげる。
 その時、瞳に涙を溜め、潤ませるのがポイントだ。
「そうはいっても……ねぇ。」
 お姉さんは動揺しかなり困っている様子……コレならイケるかも?
「私、いきなり勇者とか言われて、魔王と戦えって言われて……でも貰ったお金は銀貨一枚で、手伝ってくれる人もいないの……だからお願い!」
 私の必死のお願いが功を奏したのか、お姉さんは困り顔で「仕方がないわね」と言ってくれた。
 やったね、私の可愛さの勝利だね……「手伝ってくれる人がいない~」の辺りで、お姉さんが顔を引きつらせていたけど、関係ないよね?

「此方の不手際と言うわけでもありませんが、ミカゲさんに仲間を紹介できなかったことは事実なので、その保証として『初心者冒険セット』を特別に銅貨五枚でお譲りします……それでいいですね?」
 そう言ってくるお姉さんの顔が怖かったので、私はコクコクと頷くしかできなかった。
 お姉さんの表情と、周りから聞こえるひそひそ話の内容から推測するに、私はお姉さんに対して『ギルドの不祥事を王家に通報されたくなかったら道具を安くしろ!』と脅したことになっているらしい……どうしてこうなった?

 私は道具を受け取ると、逃げるようにしてギルドを出る。
 出口までの間に聞こえた他の冒険者たちの「流石は王家を脅した大テロリストだぜ!」と言う言葉が胸に突き刺さっていた……テロリストじゃないモン。

 私はそのまま街中を歩き回る事にする。
 よく考えたらこの世界に来てからほとんど街中を見てなかったのよね。
 なので観光を兼ねながら色々と見て回る事にした。

 だってねぇ、日本にいた頃は色々あって学校の修学旅行でさえ行った事が無かったのよ? 異世界とは言え、私にとって初めての別の土地。
 勇者とか魔王とか、大変な事に巻き込まれてるけど、私の力じゃどうしようもない事だしね。
 どうせ日本に帰れないのなら、この世界を楽しまなくちゃ人生損してるというものだわ。
 
 ウン、15歳のやり直し、人生のやり直し……私は今度こそ楽しく生きていくんだ!
  
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