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第二章 勇者のスローライフ??
孤児院を救おう~後編~
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クーちゃんが毒消し草を指して聞いてくる。
「うーん、さっきの薬草と条件が違うからねぇ……一応とっておこうか。」
「分かった。」
クーちゃんは頷くと、毒消し草の周りを囲む様に掘りだしていく。
普通、採集するときはそんな事をしない。
必要な葉の部分だけをちぎって必要なだけ摘むのだ。
そうすれば、何日か置けばまた葉が生えてくるので再度採集する事が出来るからだ。
こんな風に根毎掘り出すのは採集のタブーとされているが、まぁ、この森は私達のホームと言っても差し支えないからOKなの。
「大体集まったね、後は最後の大物……いるといいけど。」
私はクーちゃんを伴って森の奥の水場へと足を向ける。
「ミカ姉、アレ……。」
クーちゃんが先に見つけたらしく、私の袖を引っ張り、ある一点を指さす。
「いるねぇ、雄雌いるから丁度良かった。」
クーちゃんが指さした先を見て私は口元が緩む。
そこにいるのは「ユニフォー」と呼ばれる魔獣だった。
ユニフォーの外見を一言で表すなら「牛の角が生えた、ホルスタイン柄のユニコーン」というのが一番ピッタリくる。
額に生える三本の角、この角を使って攻撃してくるかなり獰猛な魔獣なのだが、中央の角を斬り落とすと、打って変わったように大人しくなる。
ユニフォーの肉は大変美味であり、ユニフォーの乳は大変栄養価が高く、乳を使った乳酸品はその肉と共に高級食材として高く取引されている。
その為、中央の角を斬り落としたユニフォーを家畜として育てている酪農家も多い。
「クーちゃん、私がバインドで動きを止めるから、素早く角を斬り落としてね。」
「う、うん。」
クーちゃんは緊張で体が凝り固まっているみたいで、私への返事もおぼつかない。
「大丈夫だよ、クーちゃんに渡したその剣なら、どれだけ堅い角でもチーズみたいにスパって斬っちゃうからね。」
「う……ん……、上手く使えるかなぁ。」
「大丈夫、心配なら、ちょっと練習してみよ。」
「ウン……。」
クーちゃんは剣を抜くと両手で持ってゆっくりと目を閉じる。
クーちゃんの手から魔力が剣に流れ込み、その刃が仄かに輝く。
しばらくしてからクーちゃんは目を開けて、手の中の剣を見る。
「これでいいんだよね?」
「ウン上手上手。後は戦いながら魔力を維持する必要があるけど、今回は角を切るだけだからこれで十分。気を付けるのはためらわない事ね。」
「うん、がんばる。」
私の言葉にクーちゃんは何度も頷く。
「じゃぁ、いいかな?……バインド!」
私はクーちゃんが頷くのを確認すると、水を飲んでいるユニフォーに向けて魔法を放つ。
「いきますっ!」
クーちゃんは茂みから飛び出してユニフォーへ向けて走り出す。
私の魔法にかかり、動けなくて地面に転がるユニフォー。
その角を掴んで、中央の一角を斬り落とすクーちゃん。
スパッ、と軽々と斬り落としたクーちゃんは手ごたえがなかったことに首を傾げながらももう一体のユニフォーの角を斬り落とす。
「クーちゃん、上手だったよ。」
私は近寄ってクーちゃんを褒めるついでに、斬り落とした角を拾い上げて収納する。
あまり知られていないけど、ユニフォーの角は薬の素材になるのよ。
どんな薬かと言われると、あまり大きな声じゃ言えない、大人の薬なんだけどね。
だからクーちゃんに教えるのはまだ早いのです。
「後はこの子達を連れて帰るんだよね。」
「そうだよ、バインドを解く前に首に縄を付けてね。」
私はクーちゃんにそう言って縄を渡す。
万が一の事を考えて、私は魔法をすぐ使えるようにするため、ユニフォーを引いて連れ帰るのはクーちゃんの役目だ。
「うん、大丈夫……ミカ姉、魔法を解いて。」
クーちゃんに言われて私はバインドを解除すると同時に、万が一暴れ出したときの為に、魔力を充填する。
ユニフォーはむくりと起き上がり、キョロキョロと辺りを見回している。
「移動するよ、こっちへ来て。」
クーちゃんはユニフォーに指示を出しながら縄を引いて歩きだす。
ユニフォーはそんなクーちゃんの後を大人しくついていく。
「ねぇ、ミカ姉。ユニフォーならウチに4頭いるけど、この子達はどうするの?あまり増やしても大変って言ってなかったっけ?」
そう、既にウチにはユニフォーがいるので、この2頭はウチには必要ないけど、私の計画には必要なものなのよ。
「ウン、コレは孤児院に持って行くのよ。」
「そっかぁ、2頭いれば毎日ユニ乳が飲めるね。孤児院の子達も喜ぶよ。」
ユニフォーの行き先を知りクーちゃんはとても喜んでいた。
「そうだね、そろそろ繁殖期も終わるころだから丁度良かったかな?」
ユニフォーは雌雄同体の魔獣で、繁殖期にのみ一部の個体が雄となって繁殖する。
繁殖期が過ぎればすべての個体が雌となり子育てをするという一風変わった魔獣なのだ。
なので、繁殖期が過ぎれば2頭のユニフォーから乳が採れるので、孤児院の食卓を彩ってくれることは間違いない。
「でも、あの子達、ちゃんとお世話できるのかな?」
「それをこれから教えに行くんだよ。クーちゃんも手伝ってね。」
「ウン、私頑張るね。」
私が孤児院を救うために考えたのは特に変わった事ではなく、土地があるんだから自給自足をさせればいいのでは?という事だった。
とはいっても何の知識もない子供たちに畑仕事などは無理なので、私が考えたのはハーブ園なのよ。
ハーブなら結構適当でもそれなりに育つし、薬草など含めて薬の素材になるものが多いから街での需要はかなりあるし、私が買い取ってもいいしね。
まぁ、ユニフォーについては、土を耕したり、雑草の処理をさせたりなど「いれば便利かな?」という程度だったので、捕獲できたのはラッキーだったのよ。
取りあえず、孤児院の前に広がる土地を耕して、私とクーちゃんが集めたハーブ類を、種類別に植える。
土地の一角は、ユニーフォーを世話するための小屋を建て、餌となる雑草を生やしておく。
後は毎日ハーブ園とユニフォーの世話をして、ハーブが収穫できるようになったら街に売りに行く。
ユニフォーの乳も、毎日絞って、孤児院で使用しない分は売りに行けば生活の足しになる筈。
ゆくゆくは乳製品を加工したり、ハーブを調合して薬にしてから売りに行けばもっと稼ぐ事が出来ると思うのよ……将来の話だけどね。
……という事を孤児院の管理者であるシスターサレアに説明する。
既にクーちゃんはスザンヌさんと一緒に、孤児院の子供たちを引き連れて土地の耕し方やユニフォーの世話の仕方などを説明しに行っている。
「私もハーブは定期的に欲しいからね、ここから買わせてもらうよ。」
「その……何と申していいいか……ありがとうございます。」
シスターサレアは深々と頭を下げる。
「頭をあげてよ、大した事してるわけじゃないし。頑張るのは孤児院の子達なんだよ。」
「それでも、生きる道を示した頂いたことに変わり有りませんから。」
何度か、同じやり取りを繰り返して、ようやくシスターサレアは頭をあげてくれた。
「あの、ミカゲさんは何故そこまでしてくださるのでしょうか?こう言っては何ですが、ミカゲさんとこの孤児院は縁も所縁もございませんよね?」
「うーん、まぁ、マリアちゃんが少しでもかかわってるからって言うのもあるけどね、……しょうがないじゃない、現状を見ちゃったんだから。」
「それはどういう……。」
意味が分からないと首をかしげるシスターサレア。
まぁ、分からないよね、私の個人的な問題だから。
「んとね、こことは違う遠い国の話なんだけど、私も孤児院にいた事があるのよ。そこでの生活は最低限保証はされていたけどね、私も幼い弟妹達もいつもお腹を空かせていたのよ。だから、空腹の辛さはよく分かってるつもり。そして、食べる事に困らなくなった今、私の目の前に困っている子供たちが現れたならね、何とかしてあげたいと思うのはおかしい事かな?」
「いえ、このような良き出会いに回り逢えた事を女神様に感謝します。」
そう言って、シスターサレアは再度深く頭を下げたのだった。
◇
「大変ですっ!シスターサレア!」
孤児院の子供たちに色々教え、そろそろお暇しようかと言ってたところにスザンヌさんが飛び込んでくる。
スザンヌさんは、今後の取引の為に商業ギルドに行ってたはずだけど、何かあったのかな?
「慌ててどうしたのです。何かあったのですか?」
「マリアさんが、マリアさんが貴族に捕らえられています!」
「どういうことっ!」
私は思わずスザンヌさんの胸ぐらをつかんで持ち上げる。
身体強化がかかっている今の私なら、これぐらいは容易いんだけど、間違ってもスザンヌさんのようなか弱い女性にする事ではなかった。
「ミカ姉、放して!スザンヌさんが苦しそうだよ。」
クーちゃんから制止の声を聞いて、頭に上った血が少し下がる。
と同時に慌ててスザンヌさんを放す。
「ご、ごめんね、つい、カーッとなって……。」
「ゴホッ、ゴホッ……いいんです、お気持ちはわかりますから。」
苦しそうにしながらも、にこやかに私の謝罪を受け入れてくれるスザンヌさん。
「それはそうと、マリアちゃんが貴族に捕らわれているってどういうこと?」
私は改めてスザンヌさんに聞いてみる。
「それなんですが、私が商業ギルドの帰りに広場を通りがかると、縛られているマリアさんを見かけたのです。」
スザンヌさんが、周りの人から話を聞いてみると、マリアちゃんはある貴族の屋敷の前で、騒いでいたとのことで捕まったらしい。
どのような騒ぎか、という事が明らかにされていない辺り、貴族の横暴さが伺えるというのが大衆の総意だったが、お貴族様に逆らうと物理的に首が飛ぶので、誰も声が出せないらしい。
話では、そのまま貴族の屋敷に連れて行かれるとのことで、シスターサレアに急ぎ報告するために、スザンヌさんは慌てて帰ってきたらしい。
「私行って来る、クーちゃんはここで待ってて。」
「ミカ姉、危ないよ。行くなら私も!」
「クーちゃんは待ってて!」
危ないのは分かってる、そんな場所にクーちゃんを連れて行く気はない。
「シスターサレア、スザンヌさん、クーちゃんをお願いね。」
私はそう言うと孤児院を飛び出して、街中の貴族の屋敷が立ち並ぶ場所を目指す。
どこに連れて行かれたのか分からないけど、マリアちゃんの気配を追っていけば行先はわかる。
程なくして、屋敷の中に連れ込まれようとしているマリアちゃんを見つけた。
「待ちなさい!マリアちゃんをどうする気!」
「あん何だお前は?」
マリアちゃんの傍にいる兵士の男が誰何してくる。
「誰でもいいでしょ、マリアちゃんを放しなさい!」
「ここをゲーマルク子爵の屋敷と知っての所業か?貴族に逆らえばどうなるか分かって行ってるんだろうな。」
「そんなの知らないわよっ、いいからマリアちゃんを放しなさいっ!」
私と兵士が睨み合う。
「騒がしいですね、何事ですか?」
これ以上は埒が明かないと、魔力を溜めようとしていた時、門が開き中から初老の男性が出てくる。
「はっ、ミンツ様。ご命令通り街を騒がす者を捕らえたのですが、この者が解放せよと言いがかりをつけてきて……。」
「フム、あなた様は?」
兵士に言われて、ミンツと呼ばれた男性が私を見る。
「その子の友達よ。マリアちゃんは何も悪い事をしていないわ。だから早く解放しなさいよ。」
「そうは申されましても、主の命がありますので……どうですかな、取りあえず中で詳しいお話でも。」
そう言ってミンツさんは屋敷の中へと誘う。
正直に言えば、素直にマリアちゃんを開放してもらえるとは思っていないから最終的には実力行使しかないと思っているけど、出来れば穏便に話し合って解決できればとも思っているので、私は黙ってその言葉に従う事にした。
「うーん、さっきの薬草と条件が違うからねぇ……一応とっておこうか。」
「分かった。」
クーちゃんは頷くと、毒消し草の周りを囲む様に掘りだしていく。
普通、採集するときはそんな事をしない。
必要な葉の部分だけをちぎって必要なだけ摘むのだ。
そうすれば、何日か置けばまた葉が生えてくるので再度採集する事が出来るからだ。
こんな風に根毎掘り出すのは採集のタブーとされているが、まぁ、この森は私達のホームと言っても差し支えないからOKなの。
「大体集まったね、後は最後の大物……いるといいけど。」
私はクーちゃんを伴って森の奥の水場へと足を向ける。
「ミカ姉、アレ……。」
クーちゃんが先に見つけたらしく、私の袖を引っ張り、ある一点を指さす。
「いるねぇ、雄雌いるから丁度良かった。」
クーちゃんが指さした先を見て私は口元が緩む。
そこにいるのは「ユニフォー」と呼ばれる魔獣だった。
ユニフォーの外見を一言で表すなら「牛の角が生えた、ホルスタイン柄のユニコーン」というのが一番ピッタリくる。
額に生える三本の角、この角を使って攻撃してくるかなり獰猛な魔獣なのだが、中央の角を斬り落とすと、打って変わったように大人しくなる。
ユニフォーの肉は大変美味であり、ユニフォーの乳は大変栄養価が高く、乳を使った乳酸品はその肉と共に高級食材として高く取引されている。
その為、中央の角を斬り落としたユニフォーを家畜として育てている酪農家も多い。
「クーちゃん、私がバインドで動きを止めるから、素早く角を斬り落としてね。」
「う、うん。」
クーちゃんは緊張で体が凝り固まっているみたいで、私への返事もおぼつかない。
「大丈夫だよ、クーちゃんに渡したその剣なら、どれだけ堅い角でもチーズみたいにスパって斬っちゃうからね。」
「う……ん……、上手く使えるかなぁ。」
「大丈夫、心配なら、ちょっと練習してみよ。」
「ウン……。」
クーちゃんは剣を抜くと両手で持ってゆっくりと目を閉じる。
クーちゃんの手から魔力が剣に流れ込み、その刃が仄かに輝く。
しばらくしてからクーちゃんは目を開けて、手の中の剣を見る。
「これでいいんだよね?」
「ウン上手上手。後は戦いながら魔力を維持する必要があるけど、今回は角を切るだけだからこれで十分。気を付けるのはためらわない事ね。」
「うん、がんばる。」
私の言葉にクーちゃんは何度も頷く。
「じゃぁ、いいかな?……バインド!」
私はクーちゃんが頷くのを確認すると、水を飲んでいるユニフォーに向けて魔法を放つ。
「いきますっ!」
クーちゃんは茂みから飛び出してユニフォーへ向けて走り出す。
私の魔法にかかり、動けなくて地面に転がるユニフォー。
その角を掴んで、中央の一角を斬り落とすクーちゃん。
スパッ、と軽々と斬り落としたクーちゃんは手ごたえがなかったことに首を傾げながらももう一体のユニフォーの角を斬り落とす。
「クーちゃん、上手だったよ。」
私は近寄ってクーちゃんを褒めるついでに、斬り落とした角を拾い上げて収納する。
あまり知られていないけど、ユニフォーの角は薬の素材になるのよ。
どんな薬かと言われると、あまり大きな声じゃ言えない、大人の薬なんだけどね。
だからクーちゃんに教えるのはまだ早いのです。
「後はこの子達を連れて帰るんだよね。」
「そうだよ、バインドを解く前に首に縄を付けてね。」
私はクーちゃんにそう言って縄を渡す。
万が一の事を考えて、私は魔法をすぐ使えるようにするため、ユニフォーを引いて連れ帰るのはクーちゃんの役目だ。
「うん、大丈夫……ミカ姉、魔法を解いて。」
クーちゃんに言われて私はバインドを解除すると同時に、万が一暴れ出したときの為に、魔力を充填する。
ユニフォーはむくりと起き上がり、キョロキョロと辺りを見回している。
「移動するよ、こっちへ来て。」
クーちゃんはユニフォーに指示を出しながら縄を引いて歩きだす。
ユニフォーはそんなクーちゃんの後を大人しくついていく。
「ねぇ、ミカ姉。ユニフォーならウチに4頭いるけど、この子達はどうするの?あまり増やしても大変って言ってなかったっけ?」
そう、既にウチにはユニフォーがいるので、この2頭はウチには必要ないけど、私の計画には必要なものなのよ。
「ウン、コレは孤児院に持って行くのよ。」
「そっかぁ、2頭いれば毎日ユニ乳が飲めるね。孤児院の子達も喜ぶよ。」
ユニフォーの行き先を知りクーちゃんはとても喜んでいた。
「そうだね、そろそろ繁殖期も終わるころだから丁度良かったかな?」
ユニフォーは雌雄同体の魔獣で、繁殖期にのみ一部の個体が雄となって繁殖する。
繁殖期が過ぎればすべての個体が雌となり子育てをするという一風変わった魔獣なのだ。
なので、繁殖期が過ぎれば2頭のユニフォーから乳が採れるので、孤児院の食卓を彩ってくれることは間違いない。
「でも、あの子達、ちゃんとお世話できるのかな?」
「それをこれから教えに行くんだよ。クーちゃんも手伝ってね。」
「ウン、私頑張るね。」
私が孤児院を救うために考えたのは特に変わった事ではなく、土地があるんだから自給自足をさせればいいのでは?という事だった。
とはいっても何の知識もない子供たちに畑仕事などは無理なので、私が考えたのはハーブ園なのよ。
ハーブなら結構適当でもそれなりに育つし、薬草など含めて薬の素材になるものが多いから街での需要はかなりあるし、私が買い取ってもいいしね。
まぁ、ユニフォーについては、土を耕したり、雑草の処理をさせたりなど「いれば便利かな?」という程度だったので、捕獲できたのはラッキーだったのよ。
取りあえず、孤児院の前に広がる土地を耕して、私とクーちゃんが集めたハーブ類を、種類別に植える。
土地の一角は、ユニーフォーを世話するための小屋を建て、餌となる雑草を生やしておく。
後は毎日ハーブ園とユニフォーの世話をして、ハーブが収穫できるようになったら街に売りに行く。
ユニフォーの乳も、毎日絞って、孤児院で使用しない分は売りに行けば生活の足しになる筈。
ゆくゆくは乳製品を加工したり、ハーブを調合して薬にしてから売りに行けばもっと稼ぐ事が出来ると思うのよ……将来の話だけどね。
……という事を孤児院の管理者であるシスターサレアに説明する。
既にクーちゃんはスザンヌさんと一緒に、孤児院の子供たちを引き連れて土地の耕し方やユニフォーの世話の仕方などを説明しに行っている。
「私もハーブは定期的に欲しいからね、ここから買わせてもらうよ。」
「その……何と申していいいか……ありがとうございます。」
シスターサレアは深々と頭を下げる。
「頭をあげてよ、大した事してるわけじゃないし。頑張るのは孤児院の子達なんだよ。」
「それでも、生きる道を示した頂いたことに変わり有りませんから。」
何度か、同じやり取りを繰り返して、ようやくシスターサレアは頭をあげてくれた。
「あの、ミカゲさんは何故そこまでしてくださるのでしょうか?こう言っては何ですが、ミカゲさんとこの孤児院は縁も所縁もございませんよね?」
「うーん、まぁ、マリアちゃんが少しでもかかわってるからって言うのもあるけどね、……しょうがないじゃない、現状を見ちゃったんだから。」
「それはどういう……。」
意味が分からないと首をかしげるシスターサレア。
まぁ、分からないよね、私の個人的な問題だから。
「んとね、こことは違う遠い国の話なんだけど、私も孤児院にいた事があるのよ。そこでの生活は最低限保証はされていたけどね、私も幼い弟妹達もいつもお腹を空かせていたのよ。だから、空腹の辛さはよく分かってるつもり。そして、食べる事に困らなくなった今、私の目の前に困っている子供たちが現れたならね、何とかしてあげたいと思うのはおかしい事かな?」
「いえ、このような良き出会いに回り逢えた事を女神様に感謝します。」
そう言って、シスターサレアは再度深く頭を下げたのだった。
◇
「大変ですっ!シスターサレア!」
孤児院の子供たちに色々教え、そろそろお暇しようかと言ってたところにスザンヌさんが飛び込んでくる。
スザンヌさんは、今後の取引の為に商業ギルドに行ってたはずだけど、何かあったのかな?
「慌ててどうしたのです。何かあったのですか?」
「マリアさんが、マリアさんが貴族に捕らえられています!」
「どういうことっ!」
私は思わずスザンヌさんの胸ぐらをつかんで持ち上げる。
身体強化がかかっている今の私なら、これぐらいは容易いんだけど、間違ってもスザンヌさんのようなか弱い女性にする事ではなかった。
「ミカ姉、放して!スザンヌさんが苦しそうだよ。」
クーちゃんから制止の声を聞いて、頭に上った血が少し下がる。
と同時に慌ててスザンヌさんを放す。
「ご、ごめんね、つい、カーッとなって……。」
「ゴホッ、ゴホッ……いいんです、お気持ちはわかりますから。」
苦しそうにしながらも、にこやかに私の謝罪を受け入れてくれるスザンヌさん。
「それはそうと、マリアちゃんが貴族に捕らわれているってどういうこと?」
私は改めてスザンヌさんに聞いてみる。
「それなんですが、私が商業ギルドの帰りに広場を通りがかると、縛られているマリアさんを見かけたのです。」
スザンヌさんが、周りの人から話を聞いてみると、マリアちゃんはある貴族の屋敷の前で、騒いでいたとのことで捕まったらしい。
どのような騒ぎか、という事が明らかにされていない辺り、貴族の横暴さが伺えるというのが大衆の総意だったが、お貴族様に逆らうと物理的に首が飛ぶので、誰も声が出せないらしい。
話では、そのまま貴族の屋敷に連れて行かれるとのことで、シスターサレアに急ぎ報告するために、スザンヌさんは慌てて帰ってきたらしい。
「私行って来る、クーちゃんはここで待ってて。」
「ミカ姉、危ないよ。行くなら私も!」
「クーちゃんは待ってて!」
危ないのは分かってる、そんな場所にクーちゃんを連れて行く気はない。
「シスターサレア、スザンヌさん、クーちゃんをお願いね。」
私はそう言うと孤児院を飛び出して、街中の貴族の屋敷が立ち並ぶ場所を目指す。
どこに連れて行かれたのか分からないけど、マリアちゃんの気配を追っていけば行先はわかる。
程なくして、屋敷の中に連れ込まれようとしているマリアちゃんを見つけた。
「待ちなさい!マリアちゃんをどうする気!」
「あん何だお前は?」
マリアちゃんの傍にいる兵士の男が誰何してくる。
「誰でもいいでしょ、マリアちゃんを放しなさい!」
「ここをゲーマルク子爵の屋敷と知っての所業か?貴族に逆らえばどうなるか分かって行ってるんだろうな。」
「そんなの知らないわよっ、いいからマリアちゃんを放しなさいっ!」
私と兵士が睨み合う。
「騒がしいですね、何事ですか?」
これ以上は埒が明かないと、魔力を溜めようとしていた時、門が開き中から初老の男性が出てくる。
「はっ、ミンツ様。ご命令通り街を騒がす者を捕らえたのですが、この者が解放せよと言いがかりをつけてきて……。」
「フム、あなた様は?」
兵士に言われて、ミンツと呼ばれた男性が私を見る。
「その子の友達よ。マリアちゃんは何も悪い事をしていないわ。だから早く解放しなさいよ。」
「そうは申されましても、主の命がありますので……どうですかな、取りあえず中で詳しいお話でも。」
そう言ってミンツさんは屋敷の中へと誘う。
正直に言えば、素直にマリアちゃんを開放してもらえるとは思っていないから最終的には実力行使しかないと思っているけど、出来れば穏便に話し合って解決できればとも思っているので、私は黙ってその言葉に従う事にした。
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