勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第二章 勇者のスローライフ??

カフェ「紗旧葉須」の謎

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「ぶぅ~……。」
 私は不機嫌さを隠そうともせず、その場に座り込んでいた。
「まぁまぁ、ミカ姉、そんなに拗ねないでよ。」
 私の膝の上に乗っているクーちゃんがそう言って宥めてくる。
「拗ねてないもん。」
 ……ウソです、目一杯拗ねてます。
 私は膝の上のクーちゃんをギュッと抱きしめる。
 ミュウ曰く、今日のクーちゃんは生贄との事だった。

「仕方がないでしょ、ミカゲは気を失っていたんだし、私達が出席しないと収まりもつかなかったんだから。」
 呆れたようにミュウが言う。
 私が拗ねている理由、それが、さっきまで開かれていた祝勝祈念のパーティに三人だけで出席してきていたって事。
 目が覚めた時、誰もいなかったあの寂しさと、パーティに行っている旨が記された書置きを見た時の何とも言えない焦燥感覇道説明すれば分かってくれるのかなぁ。

「大体、ミカゲはああいうの苦手でしょ。起きていたとしても行かないじゃない。」
「それはそうだけど、違うのっ。」
「別にミカゲを蔑ろにしているわけじゃないよ。だからこうやって、目覚めたって連絡を貰ったらすぐ帰ってきたでしょ。」
「それはそうだけど……。」
 確かにミュウの言う通り、私が起きてから程なくして三人は帰ってきたんだけど。
 今も帰ってきた時のまま着替えもせずに私の相手をしていてくれる。

「ハイハイ、拗ねないの。」
 ミュウが私をクーちゃん毎抱きしめる。
「うぅ……ミュウ、ドレスが皴になるよ。」
「ドレスよりミカゲの方が大事……でしょ?」
「うぅ……何か誤魔化されてる気がする。」
「お姉ちゃん、ごめんね。まだ怒ってる?」
 クーちゃんが瞳に涙を浮かべながら見上げてくる。
 分かってる……これはクーちゃんの演技だって事、最近分かり始めたのよ。 
 それにミュウのこの過剰なまでのスキンシップもね……だけど……。
「うぅ……誤魔化されてあげるわよ……。」
 拗ねているのも、この辺りが潮時だよね。



「ふわぁぁ~~……、おはよ。」
「ミカゲ、おはよ。よく眠れた?」
「ウン、クーちゃんとマリアちゃんのおかげでね。」
 昨夜は私を放置したお詫びという事で、みんなで一緒に寝たのよ。
 お陰で私は幸せ~……って、まぁミュウは途中で逃げ出したんだけどね。
「だって暑苦しいでしょ。」
 私がそう言うと、ミュウは事も無げにそう言ってくる。
 違うのよ、暑苦しいとかそういうんじゃないのよ。
 ミュウはそういう、心の機微とかそういうのが分かってないと思うのよ。
「分かってるから逃げたのよ……。」
 ミュウが何か呟いていたけど、声が小さすぎて聞こえなかった。

「それでマリアとクーは?」
「ウン、まだ寝てる。昨日は私に我儘で振り回しちゃったからね、ゆっくり寝かせておいてあげて。」
「それはいいけど……アンタ、我がままって分かっているんだったら少しは自重しなさいよっ!」
「それはイヤ。」
 自重なんて、この間ポイって捨てちゃったもんね。
「イヤって……まぁ、しょうがないか。」
「そうそう、難しい事は置いといて、今日はどうしようか?」
「どうって……もう一つの依頼の事忘れてない?」
「ほへっ?」
 私はパンを加えたままミュウを見る。
 もう一つの依頼って……何かあったっけ?

「はぁ……新店舗の調査依頼。その顔は完全に忘れてるね。」
「あ、あぁ!大丈夫、オボエテイルヨ……。」
「何故カタコト、で何故目を逸らす?」
 しばらくミュウが私を見つめて来るけど、私は視線を逸らせたまま固まる。
「はぁ……まいっか。それで、昨日色々聞いてきたんだけどね……。」

 ミュウの話によれば、カフェ紗旧葉須は冒険者、特に男たちの間では大人気のカフェらしい。
 らしい、というのは、訊ねた皆が皆、申し合わせたかのように口をつぐむからなんだって。

「知らねぇ、俺は何も知らねえ。「紗旧葉須」なんて名のカフェなんて俺は知らねえ。」
「はぁん?「紗旧葉須」なんてカフェは知らねぇなぁ。」
「あぁ、俺に何でも聞きなよ……「紗旧葉須」……い、イヤっ、何も知らないよ。そんなカフェあったかなぁ?」
 ……等など、さっきまで容器に話しかけてきた男達は、紗旧葉須の名前を出した途端、一斉に口が堅くなるんだって。

「あからさまに怪しいのよね。」
「それって女の人の冒険者は?カフェなら女の人の方が詳しいよね?」
「うん、女の人にはマリアが聞き込みをしてたんだけどね……。」
「呼びました?」
 ちょうどいいタイミングで、マリアちゃんが起きてきた。
「あ、マリアちゃんおはよう。もういいの?」
「ミカゲさん、おはようございます。昨夜は素敵な夜でしたわ。」
 うっとりとした表情でマリアちゃんが見つめてくる。
 そういう誤解を招きそうな言い方はやめて欲しいなぁ。
 ただ、一晩中ギュっとしてただけでしょ。

「丁度昨日の事を話してたのよ。マリアの方はどうだった?」
「そうですわね……あ、ありがとうございます。」
 マリアちゃんの前にハーブティを置く。
「女性の冒険者たちの話ですね。彼女達から聞けたのは……。」
 
 マリアちゃんの話によれば、男性冒険者とは違い「紗旧葉須」という名のカフェの存在すら知らない人たちが多いみたい。
 ただ、ある女性冒険者の言によれば、男性冒険者の間でだけ広まっているカフェがあるらしいって事を教えて貰えたの。
 その人も、仲良くしている男性冒険者たちが話しているのを盗み聞きした程度で詳しくは知らないらしく、その後問い詰めてみたけど教えてもらえなかったらしい。

「どうやら、殿方の間で箝口令を敷かなくてはならない位の機密事項らしいですわ。」
「そうなると女性ばかりの私達だと、情報を仕入れるのに苦労しそうね。」
「それでも、何とかしないとね。」
 その後、私達はどうやって情報を集めようかと話合っているうちに時間は過ぎていった。

 ◇

「よし、クーちゃんがんばって。」
 前から冒険者が歩いてくる。
「う、うん、がんばるね。」
 タッタッタッタッタ……とクーちゃんが走り出して、べチャっと男性冒険者の前で倒れる。
「ウン、嬢ちゃん大丈夫か?」
 冒険者は膝をついてクーちゃんを助け起こす。
「あ、ありがとう、おにぃちゃん。」
 顔を真っ赤にしながら俯きがちに御礼を言うクーちゃん。
 冒険者も照れたように顔を赤く染めている。
「き、気を付けるんだぞ。」
「あ、待って。」
 顔を真っ赤にしながら去ろうとしている冒険者のマントの裾をクーちゃんが掴んで引き留める。
「ん?どうした?」
「紗旧葉須っていうカフェに連れて行って……お願い、おにいちゃん。」
 破壊力100%のクーちゃんのお願いだよ。
 これに対抗できる人なんていないはず。

「あ、おっ、くっ、おっ、おっ、俺は知らねぇ!」
 冒険者の男はかなり狼狽しながらも、クーちゃんを振り払って逃げていった。
「失敗か。」
「ゴメンね、うまくできなかった。」
「ううん、クーちゃんは悪くないよ。クーちゃんのお願いを振り払うあの男が悪いんだからね。……今度会ったら吹き飛ばしてあげる。」
「わわっ、ダメだよ、ミカ姉。そんな事しないでよねっ。」
「まぁ、次の作戦があるからね。」

 ◇

「あのぉ……。」
 ミュウが、ポッと頬を染めながらうつむく。
「いいじゃんか、誘ってきたのはそっちだろ?」
「えぇ、でも……。」
 うぅ……ミュウが可愛いよぉ。
 くそぉ、あの男ども……。
「ミカ姉、押さえて、押さえてね、ほら、ミュウお姉ちゃんが。」
 クーちゃんに言われてミュウの方を見る。
 男の冒険者がミュウの肩を抱き寄せると、ミュウはさらに頬を染めてモジモジとし出す。
「じゃぁ、一つだけお願い聞いてくれる?」
「あぁ、何だって、聞いてやるぜ。」
「紗旧葉須っていうお店の事……。」
「俺は何も知らねぇっ!」
 男は脱兎のごとく駆け出し、あっという間に姿が見えなくなった。

「私にここまでやらせて、逃げるとかっ!」
 ミュウがおこである……ミュウによるハニトラ作戦失敗。

 ◇

「マリアさん、俺、俺っ……もうっ……。」
 男がマリアちゃんに抱き着こうとしている。
「そこまでよっ!」
 私達が男の背後から姿を現す。
「な、何だ、お前達はっ!」
「なんだっていいでしょ?それより、ウチのマリアに手を出そうとしてタダで済むと思ってないよね?」
「そ、それは……クッ!」」
「私達の質問に大人しく正直に答えてくれれば見逃してあげるわ。」
 私は手の平に火球を出して見せつける様にしながら脅す。
「くっ……何が知りたい。」
「紗旧葉須っていうお店……。」
「知らねえよっ!」
 いきなりクーちゃんに襲い掛かると見せかけ、ミュウが援護に回ろうと動いた隙をついて逃げ出す男。
 私達の包囲を抜け出すなんて、中々出来る人だったみたい。
 まぁ、視界から消える前に私が火球を放ったから、髪の毛半分は燃やしてあげたんだけどね。

 マリアちゃんを囮にした美人局作戦失敗……。

 ◇

「やっぱり正攻法で行くべきなのよ。」
 私は冒険者の男たちが集まっている所に向かって歩き出す。
「あのぉ……。」
「ん?なんだ?」
 一人の男が振り返り私の方を見る。
 その背後で数人の男たちが何やらひそひそと話している。
「単刀直入に聞くわ!紗旧葉須……。」
「知らねぇよぉ~~~~。」
 男達は蜘蛛の子を散らす様に逃げ出していった。
 その場にポツンと残された私……正面から聞き出す作戦、失敗。

 ◇

「あぁ~~~~~、もう、なんなのよっ!」
 私は頭を掻き毟りながら叫ぶ。
「ホントにねぇ……。」
 ミュウも疲れたように溜息を吐く。

「あのぉ、お姉ちゃん達……。」
 落ち込む私達のクーちゃんが声をかけてくる。
「ん、なぁに、クーちゃん。」
「えっと場所を知るだけなら商業ギルドに行けば分かるんじゃぁ?」
「いや、そんな簡単にわかったら、こんな苦労しないでしょ。」
「分からなかったの?」
 クーちゃんに聞かれて、私は考える。
 そう言えば、調べたわけじゃないよね。
 私とミュウは顔を見合わせる。

「な、謎の施設だから、そう簡単にわからないわよね?」
「そ、そうだよね。でも一応……。」
「そうね、一応……ね。」
 結局、他の作戦が思いつかなかったので、一応、という事で商業ギルドに向かう事にしたのよ。

 ◇

「あった……。」
「あったねぇ。」
 オシャレな建物を目の前にして、私達は立ちすくむ。
「あの苦労は一体何なのよ。」
「まぁまぁ……。」
 落ち込むミュウを慰めるマリアちゃん。
 気持ちはわかる……私だって叫び出したいぐらいなんだからね。
 先にミュウが落ち込んでしまったから、却って冷静になれたんだけどね。

「うーんと『紗・旧・葉・須 ♡』って書いてあるから間違いないね。」
 クーちゃんが掛札を見て確認する。
「このままこうしていても仕方がないから、取りあえず入ってみようか?」
 私はまだ落ち込んでいるミュウを抱き起して、一緒に中へと足を踏み入れる。

 カラーン、カラ―ン……。
 涼しげな音のドアベルが響く。
「いらっしゃいませ♪」
 可愛らしい姿のウェイトレスさんが私達を席へと案内する。
「ご注文は何になされますか?」
「……じゃぁ、アフタヌーンセットを人数分。」
 私達はメニューを見ながらそう注文する。

 注文したものが来るまで店内を見回してみる。
 特に何の変哲もない、普通のカフェだけど……。
「普通ですわね。」
「そうね、人の出入りは少ないみたいだけど、この時間ならおかしくもないわね。」
「ウン、でも……。」
「なぁに、クー、何か気になる事でも?」
 浮かない顔のクーちゃんにミュウが訊ねる。
 そっかぁ、クーちゃんも気付いてるんだね、って事は私の気のせいってわけでもないわけね。
「えっとね、なんか変なの。何がって言われるとわかんないんだけど……。」
「それって……。」
「あ、ミュウ、ストップ。」
 私はアフタヌーンセットを持ってくるウェイトレスさんの姿を見て、会話を終わらせる。

「ごゆっくりどうぞ♪」
 ニッコリと笑ってお辞儀するウェイトレスさん。
 その姿が見えなくなるのを待ってミュウが聞いてくる、
「で、どういう事?」
「まぁ、取りあえず頂こうよ。……ウン、美味しぃ。」
 私は運ばれてきたお菓子を一口食べ、お茶に口をつける。
「ミュウお姉ちゃん、美味しいよ。」
 クーちゃんも口をつけ、ミュウにも食べるように促す。
「分かったわよ……。」
 ミュウも諦めてアフタヌーンセットに口をつける。
「……悔しいけど、美味しいわね。」
 ミュウのそんなセリフに、みんなで笑いながら楽しい午後の一時を過ごす私達だった。
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