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第三章 勇者の遺跡巡り
増えるロリ!?
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「イヤっ!離してっ!」
私は大声を上げるが、誰も聞いてくれない。
それどころか、私を引っ張る手の力を籠めるのだった。
「力づくでいう事聞かせようとしても無駄だからねっ。身体は奪えても心までは奪えないって事を思い知りなさいよっ。」
更に言い募る私を見て、私の腕を引っ張っていた相手は「はぁ……。」と大きなため息を吐く。
その隣にいる人物……私を罠に嵌めた張本人だ……も、同じ様に溜息を吐きつつ口を開く。
「ミカ姉、そろそろ諦めようよ。そろそろ帰らないと、本当にマズいんだし。」
そう言って私の顔を覗き込むクーちゃん。
「大体、『もうお仕事イヤー!』って言ってたのはミカゲでしょ。喜びなさいよ。」
そう言いながら私を引きずっているのはミュウ。
「違うのっ、お仕事が嫌なんじゃなくて、ケモミミ達をモフる時間が取れないのが嫌だったのよっ。だから、もっとモフる時間をぉぉぉ……。」
しかし私の悲痛な叫びは無視される。
代わりに側にいるマリアちゃんが答えてくれる。
「でも、ミカゲ様は充分堪能してらしたではありませんか?……私というものがありながら、ケモミミ如きに……。」
笑顔なのに、なぜか笑っていないマリアちゃんの眼が、ちょっと怖い。
現在、私はマリアちゃんの魔法によって自由を奪われている為、首一つ動かせない。
本来であれば、いくらマリアちゃんと言えども、私の魔法抵抗を上回る事はないんだけどね、クーちゃんが膝の上に乗って来てね、こういうのよ。
「お姉ちゃんお疲れだよね?マリアお姉ちゃんに頼んでリラックスできる魔法を掛けてもらうから受け入れてくれゆ?」
普段嫌がっているネコミミカチューシャをつけて、少し舌ったらずな調子で言うクーちゃんに違和感を覚えつつも、その可愛らしさに思わず頷いちゃったのが運のツキ。
普段なら、自動的にレジストする魔法も、自ら受け入れると思ってしまえば、簡単にかかっちゃうのよね。
で、マリアちゃんの魔法を快く受け入れた私は、現在身体中の力が入らず、喋る事しかできない状態なわけ。
ある意味リラックスしている状態と言えなくもないけど……絶対違うよね?
『ミュウ様、転送ルームの準備が出来ました。』
「ニコちゃん、ありがとう。留守は頼むね。……ほら、行くよっ。」
少し機械的な調子が残るニコちゃんの声に答えたミュウは、再び私を引きずって、奥の部屋へと移動する。
その後から、クーちゃんとマリアちゃんも続いて部屋の中に入ってくる。
クーちゃんは、最後に振り返って見送りに来たニコちゃんに手を振って声をかける。
「皆の事、よろしくね。」
『イエス、クミン。……マスターミカゲのお早いお帰りをお待ちしております。』
ニコちゃんがそう答えると同時に部屋の扉が閉まり、ブーンと、何処からともなく何かが作動する音が聞こえる。
「すぐにもどって来るからねぇー!あいる、びー、ばっくぅぅぅ……。」
私の叫び声を遺して、その部屋から一切の気配が消え失せる。
転移が無事に行われたのを確認したニコは、そのまま屋敷の広間に移動し、そこに集まっている獣人の女性たちに声をかける。
「マスターは、しばらく留守にされますが、皆さんの仕事に変わりはありません。いつ戻られても良い様に屋敷の管理をお願いいたします。」
その声に、ニコと同じメイド服を着た少女たちから、安堵しつつ残念がる様な空気が広がる。
獣人たちにとって、ミカゲの存在は、絶対的な指導者であり支配者だった。
しかし、ここで働く少女たちにとっては、絶対的でありながらも、その寵愛を受ければ優しく甘やかしてくれる、癒されるべきご主人様でもあるのだ。
特に、セルアン族でない獣人たちにしてみれば、立場を気にしなくていい数少ない場だったりするので尚更だった。
その為、この屋敷で働きたいという女性はセルアン族、獣人族を問わず後を絶たず、中には噂を聞きつけたヒューマン族の女性も、隣のアスカの街からやってくる事もある。
そのような雑多な応募者を選別するのも、ニコの重要な役目だった。
世間一般では『獣人』と一まとめにされているが、その実態は様々である。
姿形だけを見ても、ミミや尻尾と言った一部の部位を除けばヒューマン族と全く変わらない者もいれば、獣がそのまま二足歩行をしているような者たちもいる。
それになりより、大きく違うのが、一般の獣人とセルアン族との違いだった。
見た目はほとんど変わりないが、セルアン族は魔族であり、その体内には強大な魔力を宿している者が多く、その魔力を使って『獣化』する事が出来る。
一般的な獣人たちは、『先祖返り』と呼ばれる一部を除き、魔法が使えない為『獣化』が出来ない。それが、一般の獣人と魔族であるセルアン族の大きな違いだった。
獣人は、セルアン族達がヒューマン族と交わり、代を重ねて行った結果、魔族の血が薄まった種族であるため、セルアン族にしてみれば同胞として分け隔てなく接しているが、獣人たちにしてみれば、同じでありながらも、自分達にない強大な力を持つ種族として、一段上に見ている。
その為、どうしても獣人たちは、セルアン族に対する劣等感というものが僅かながらに存在し、セルアン族にしても、そう言う目で見られているうちに、優越感というものが出てくる。
だから、長い年月が経つ内に「セルアン族に獣人が従属」しているという心理がお互いの中に芽生えてしまっていた為、獣人たちは、何事にも一歩引き、セルアン族に譲るのが当たり前のようになっていた。
しかし、ミカゲが指導者に君臨した以後、マスターであるミカゲの下、セルアン族も獣人も立場が一緒……というより、ミカゲがセルアン族と獣人を全く区別していない……なので、各自の能力、ひいてはミカゲに気に入ってもらえるかどうかが、各々の立ち位置を決める様になっていた。
一例を挙げれば、ミカゲと以前から交流のあったドンというクマの獣人は、セルアン族のフォクシーやリカルドと同様に、ミカゲとの直接交渉が出来る立場にいるし、ミカゲに反旗を翻したバークレイは、セルアン族でありながらも、なんの力も特権もない扱いを受けている。
そして、この屋敷で働くメイドたちは、彼ら以上にミカゲの恩恵を受けている為、この屋敷で働けることがそのままステータスになっていた。
実際、、メイド長に就任したスターフォックスのミリィは、一部に於いて族長であるリカルドより、強い権限を持っていたりする。
ミカゲの寵愛を受けるという事は、つまりそう言う事だった。
ただ、寵愛を受ける事だけを目的にしてミカゲに近付いても上手く行かない。
そう言う下心を持ってミカゲに近付いた者たちは、漏れなく、散々弄ばれた末に屋敷から放り出されている。
噂では、普段ミカゲがするグルーミングではなく、口に出せないほど破廉恥な事がマリア主導で行われるという事で、それを聞いたメイドたちは、顔を蒼褪めさせながらも、納得と言った風に頷き合うのだった。
つまりは、誠心誠意、自分の持つ能力をフル稼働して、ミカゲの為に奉仕するのが種背への一番の早道という事になる……女性にとっては。
男性の獣人たちは、男嫌いのミカゲに「それでも有能」と認めて貰わないと、口すら聞いてもらえないのだから、かなり過酷な状況に陥ってたりするのだが、そんなことに配慮できるミカゲではない。
その為、ミカゲの長期不在は、セルアン族、獣人の男女皆にとって、立場や思惑の違いは有れど、重要な出来事であることに間違いはなかった。
◇
「……ぅぅぅぅ。」
私の言葉が終わらない内に、一瞬で周りの風景が変わる。
さっきまでは何もない殺風景な部屋だったのが、床や壁に様々な魔法陣が描かれ、幾つか魔道具が備え付けられた『ソレっぽい』部屋に変わっている。
そして部屋の扉が静かに開く。
「ハァ、理解はしていても、実際に体験すると驚きね。」
私を引きずりながら部屋の外に出たミュウが感嘆の声を漏らす。
そこは見慣れたエルザード領にある拠点のターミナルルーム。
ただ、そのコンソールの前に見慣れない人物がいた。
「あなた誰?」
見た目は小柄な女の子。どことなくニコちゃんに似てるけど、彼女より愛嬌があって表情も豊かだ。
それに加え、彼女の頭には可愛らしい三角耳が生えている……獣人の女の子が、ここに入り込めるわけがないんだけど……と思いながら声をかける。
「あ、ご挨拶が遅れました。この姿では初めましてですね。私は人工精霊SN2785200021875AISYSTEMVer.3.01……アイです。」
「「「「アイちゃん!?」」」」
私達の言葉が重なる。
それだけ驚いたのだ。
喋り方も反応も、細かい所作一つとっても、人間と何ら変わりがない。
ニコちゃんが時々見せるぎこちなさも、アイちゃんには見受けられないので、目の前の女の子が作り物と言われても、到底信じられなかった。
「はい、そうです。人工精霊SN251700800135515AISYSTEMVer.3.02……通称ニコとの情報共有が可能になったため、私もサプリメンタルボディを作ってみました。ミカゲの好みに合うように作成したのですが……いかがでしょうか?」
そう言って、じっと見つめてくるアイちゃん。
私はまだ立てないから近くにいるミュウやクーちゃんとの比較から推測するしかないんだけど、背丈はクーちゃんより一回り小柄。
ニコちゃんに対抗したのか、同じようなゆるふわウェーブのかかった、銀色の髪。
そしてそこから覗く可愛いネコミミ。
少し大きめの瞳が、クルクル動く様は、思わず頭を撫でたくなってしまう。
今は手も動かせないから出来ないんだけどね。
とにかく、いえる事はただ一つ……可愛い!
「……マリアちゃん、いい加減魔法解いてくれないかな?このままじゃアイちゃんをギュって出来ないよぉ。」
だから、私はアイちゃんに応える代わりに、マリアちゃんにそう言った。
「いえ、マリア様、出来ればいましばらくそのままで……折角の機会ですからぜひ私にご奉仕させてくださいな。」
マリアちゃんが何か言う前に、アイちゃんがそう言って、私の身体を抱きかかえ上げる。
「……えっと、何で私お姫様抱っこされてるのかな?かなぁ?」
小柄なアイちゃんが私をお姫様抱っこしている姿というのは、凄くアンバランスで、それだけに、何故か怪しい雰囲気を伺わせる。
「それはもちろん、寝室へお運びする為です。長旅でお疲れのミカゲ様には、ゆっくりと寛いでいただきませんと。……もちろん、しっかりご奉仕もさせて頂きますからご安心ください。」
そう言うアイちゃんの眼が怪しく光る。
「えっと、……ご奉仕って……私この身体が自由になればそれが一番ゆっくり出来るんだけどなぁ……。」
「大丈夫です。私一生懸命勉強しましたから。きっとご満足いただける筈です。」
「勉強って……。」
「ハイ、過去から現在の様々な文献を精査し、実際に街へ行き様々な営みをこの目で見て、体験してフィードバックしております。また、ご奉仕に至ってはサキュバスのセシリアに色々御教授いただきました。」
アイちゃんはどうやら、このボディをより人間らしく見せるために、色々奮闘していたらしい。
その結果が、殆ど人間と見分けのつかない自然な動きとして表れてるんだろうけど……今、さらりと重要な事言わなかった?
「サキュバスのセシリアって……あの人もうこの街に来てるの?」
ミュウも気付いたらしく、アイちゃんに確認の声をかける。
「ハイ、既に『カフェ紗旧葉須』の店舗も出来ていて今はOpen待ち状態です。そうそう、セシリアが、出来ればOpen前にミカゲ様に会いたいと言ってました。」
「そ、それなら、早く行かないとね、ねっ?」
私は祈る様にマリアちゃんを見つめるけど、マリアちゃんは何やらブツブツ呟いていて、私の事が目に入っていない様だった。
「大丈夫です。紗旧葉須には明日行けば問題ありません。それより今は、ミカゲ様へのご奉仕を。」
「サキュバス直伝のご奉仕ですか……一考の余地はあるかも……。」
呟くマリアちゃんと、抱きかかえられたままの私の姿を、クーちゃんが痛ましげに見ているが、介入しようとは思っていないらしい。
「ミュウ、助けてぇ!」
私は最後の砦とばかりにミュウに助けを求める。
「いいじゃないの。ゆっくりしておいでよ。私も疲れたから休ませてもらうわね。」
ミュウはそう言ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
「えっと、あはは……お姉ちゃん、頑張って。」
クーちゃんもそう言い残してミュウの後を追うように出て行ってしまう。
「では、ミカゲ様、寝室へご案内いたしますね。」
「いやぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~……。」
私の叫び声を残して、アイちゃんに抱きかかえられたまま、寝室へと連行されるのだった。
私は大声を上げるが、誰も聞いてくれない。
それどころか、私を引っ張る手の力を籠めるのだった。
「力づくでいう事聞かせようとしても無駄だからねっ。身体は奪えても心までは奪えないって事を思い知りなさいよっ。」
更に言い募る私を見て、私の腕を引っ張っていた相手は「はぁ……。」と大きなため息を吐く。
その隣にいる人物……私を罠に嵌めた張本人だ……も、同じ様に溜息を吐きつつ口を開く。
「ミカ姉、そろそろ諦めようよ。そろそろ帰らないと、本当にマズいんだし。」
そう言って私の顔を覗き込むクーちゃん。
「大体、『もうお仕事イヤー!』って言ってたのはミカゲでしょ。喜びなさいよ。」
そう言いながら私を引きずっているのはミュウ。
「違うのっ、お仕事が嫌なんじゃなくて、ケモミミ達をモフる時間が取れないのが嫌だったのよっ。だから、もっとモフる時間をぉぉぉ……。」
しかし私の悲痛な叫びは無視される。
代わりに側にいるマリアちゃんが答えてくれる。
「でも、ミカゲ様は充分堪能してらしたではありませんか?……私というものがありながら、ケモミミ如きに……。」
笑顔なのに、なぜか笑っていないマリアちゃんの眼が、ちょっと怖い。
現在、私はマリアちゃんの魔法によって自由を奪われている為、首一つ動かせない。
本来であれば、いくらマリアちゃんと言えども、私の魔法抵抗を上回る事はないんだけどね、クーちゃんが膝の上に乗って来てね、こういうのよ。
「お姉ちゃんお疲れだよね?マリアお姉ちゃんに頼んでリラックスできる魔法を掛けてもらうから受け入れてくれゆ?」
普段嫌がっているネコミミカチューシャをつけて、少し舌ったらずな調子で言うクーちゃんに違和感を覚えつつも、その可愛らしさに思わず頷いちゃったのが運のツキ。
普段なら、自動的にレジストする魔法も、自ら受け入れると思ってしまえば、簡単にかかっちゃうのよね。
で、マリアちゃんの魔法を快く受け入れた私は、現在身体中の力が入らず、喋る事しかできない状態なわけ。
ある意味リラックスしている状態と言えなくもないけど……絶対違うよね?
『ミュウ様、転送ルームの準備が出来ました。』
「ニコちゃん、ありがとう。留守は頼むね。……ほら、行くよっ。」
少し機械的な調子が残るニコちゃんの声に答えたミュウは、再び私を引きずって、奥の部屋へと移動する。
その後から、クーちゃんとマリアちゃんも続いて部屋の中に入ってくる。
クーちゃんは、最後に振り返って見送りに来たニコちゃんに手を振って声をかける。
「皆の事、よろしくね。」
『イエス、クミン。……マスターミカゲのお早いお帰りをお待ちしております。』
ニコちゃんがそう答えると同時に部屋の扉が閉まり、ブーンと、何処からともなく何かが作動する音が聞こえる。
「すぐにもどって来るからねぇー!あいる、びー、ばっくぅぅぅ……。」
私の叫び声を遺して、その部屋から一切の気配が消え失せる。
転移が無事に行われたのを確認したニコは、そのまま屋敷の広間に移動し、そこに集まっている獣人の女性たちに声をかける。
「マスターは、しばらく留守にされますが、皆さんの仕事に変わりはありません。いつ戻られても良い様に屋敷の管理をお願いいたします。」
その声に、ニコと同じメイド服を着た少女たちから、安堵しつつ残念がる様な空気が広がる。
獣人たちにとって、ミカゲの存在は、絶対的な指導者であり支配者だった。
しかし、ここで働く少女たちにとっては、絶対的でありながらも、その寵愛を受ければ優しく甘やかしてくれる、癒されるべきご主人様でもあるのだ。
特に、セルアン族でない獣人たちにしてみれば、立場を気にしなくていい数少ない場だったりするので尚更だった。
その為、この屋敷で働きたいという女性はセルアン族、獣人族を問わず後を絶たず、中には噂を聞きつけたヒューマン族の女性も、隣のアスカの街からやってくる事もある。
そのような雑多な応募者を選別するのも、ニコの重要な役目だった。
世間一般では『獣人』と一まとめにされているが、その実態は様々である。
姿形だけを見ても、ミミや尻尾と言った一部の部位を除けばヒューマン族と全く変わらない者もいれば、獣がそのまま二足歩行をしているような者たちもいる。
それになりより、大きく違うのが、一般の獣人とセルアン族との違いだった。
見た目はほとんど変わりないが、セルアン族は魔族であり、その体内には強大な魔力を宿している者が多く、その魔力を使って『獣化』する事が出来る。
一般的な獣人たちは、『先祖返り』と呼ばれる一部を除き、魔法が使えない為『獣化』が出来ない。それが、一般の獣人と魔族であるセルアン族の大きな違いだった。
獣人は、セルアン族達がヒューマン族と交わり、代を重ねて行った結果、魔族の血が薄まった種族であるため、セルアン族にしてみれば同胞として分け隔てなく接しているが、獣人たちにしてみれば、同じでありながらも、自分達にない強大な力を持つ種族として、一段上に見ている。
その為、どうしても獣人たちは、セルアン族に対する劣等感というものが僅かながらに存在し、セルアン族にしても、そう言う目で見られているうちに、優越感というものが出てくる。
だから、長い年月が経つ内に「セルアン族に獣人が従属」しているという心理がお互いの中に芽生えてしまっていた為、獣人たちは、何事にも一歩引き、セルアン族に譲るのが当たり前のようになっていた。
しかし、ミカゲが指導者に君臨した以後、マスターであるミカゲの下、セルアン族も獣人も立場が一緒……というより、ミカゲがセルアン族と獣人を全く区別していない……なので、各自の能力、ひいてはミカゲに気に入ってもらえるかどうかが、各々の立ち位置を決める様になっていた。
一例を挙げれば、ミカゲと以前から交流のあったドンというクマの獣人は、セルアン族のフォクシーやリカルドと同様に、ミカゲとの直接交渉が出来る立場にいるし、ミカゲに反旗を翻したバークレイは、セルアン族でありながらも、なんの力も特権もない扱いを受けている。
そして、この屋敷で働くメイドたちは、彼ら以上にミカゲの恩恵を受けている為、この屋敷で働けることがそのままステータスになっていた。
実際、、メイド長に就任したスターフォックスのミリィは、一部に於いて族長であるリカルドより、強い権限を持っていたりする。
ミカゲの寵愛を受けるという事は、つまりそう言う事だった。
ただ、寵愛を受ける事だけを目的にしてミカゲに近付いても上手く行かない。
そう言う下心を持ってミカゲに近付いた者たちは、漏れなく、散々弄ばれた末に屋敷から放り出されている。
噂では、普段ミカゲがするグルーミングではなく、口に出せないほど破廉恥な事がマリア主導で行われるという事で、それを聞いたメイドたちは、顔を蒼褪めさせながらも、納得と言った風に頷き合うのだった。
つまりは、誠心誠意、自分の持つ能力をフル稼働して、ミカゲの為に奉仕するのが種背への一番の早道という事になる……女性にとっては。
男性の獣人たちは、男嫌いのミカゲに「それでも有能」と認めて貰わないと、口すら聞いてもらえないのだから、かなり過酷な状況に陥ってたりするのだが、そんなことに配慮できるミカゲではない。
その為、ミカゲの長期不在は、セルアン族、獣人の男女皆にとって、立場や思惑の違いは有れど、重要な出来事であることに間違いはなかった。
◇
「……ぅぅぅぅ。」
私の言葉が終わらない内に、一瞬で周りの風景が変わる。
さっきまでは何もない殺風景な部屋だったのが、床や壁に様々な魔法陣が描かれ、幾つか魔道具が備え付けられた『ソレっぽい』部屋に変わっている。
そして部屋の扉が静かに開く。
「ハァ、理解はしていても、実際に体験すると驚きね。」
私を引きずりながら部屋の外に出たミュウが感嘆の声を漏らす。
そこは見慣れたエルザード領にある拠点のターミナルルーム。
ただ、そのコンソールの前に見慣れない人物がいた。
「あなた誰?」
見た目は小柄な女の子。どことなくニコちゃんに似てるけど、彼女より愛嬌があって表情も豊かだ。
それに加え、彼女の頭には可愛らしい三角耳が生えている……獣人の女の子が、ここに入り込めるわけがないんだけど……と思いながら声をかける。
「あ、ご挨拶が遅れました。この姿では初めましてですね。私は人工精霊SN2785200021875AISYSTEMVer.3.01……アイです。」
「「「「アイちゃん!?」」」」
私達の言葉が重なる。
それだけ驚いたのだ。
喋り方も反応も、細かい所作一つとっても、人間と何ら変わりがない。
ニコちゃんが時々見せるぎこちなさも、アイちゃんには見受けられないので、目の前の女の子が作り物と言われても、到底信じられなかった。
「はい、そうです。人工精霊SN251700800135515AISYSTEMVer.3.02……通称ニコとの情報共有が可能になったため、私もサプリメンタルボディを作ってみました。ミカゲの好みに合うように作成したのですが……いかがでしょうか?」
そう言って、じっと見つめてくるアイちゃん。
私はまだ立てないから近くにいるミュウやクーちゃんとの比較から推測するしかないんだけど、背丈はクーちゃんより一回り小柄。
ニコちゃんに対抗したのか、同じようなゆるふわウェーブのかかった、銀色の髪。
そしてそこから覗く可愛いネコミミ。
少し大きめの瞳が、クルクル動く様は、思わず頭を撫でたくなってしまう。
今は手も動かせないから出来ないんだけどね。
とにかく、いえる事はただ一つ……可愛い!
「……マリアちゃん、いい加減魔法解いてくれないかな?このままじゃアイちゃんをギュって出来ないよぉ。」
だから、私はアイちゃんに応える代わりに、マリアちゃんにそう言った。
「いえ、マリア様、出来ればいましばらくそのままで……折角の機会ですからぜひ私にご奉仕させてくださいな。」
マリアちゃんが何か言う前に、アイちゃんがそう言って、私の身体を抱きかかえ上げる。
「……えっと、何で私お姫様抱っこされてるのかな?かなぁ?」
小柄なアイちゃんが私をお姫様抱っこしている姿というのは、凄くアンバランスで、それだけに、何故か怪しい雰囲気を伺わせる。
「それはもちろん、寝室へお運びする為です。長旅でお疲れのミカゲ様には、ゆっくりと寛いでいただきませんと。……もちろん、しっかりご奉仕もさせて頂きますからご安心ください。」
そう言うアイちゃんの眼が怪しく光る。
「えっと、……ご奉仕って……私この身体が自由になればそれが一番ゆっくり出来るんだけどなぁ……。」
「大丈夫です。私一生懸命勉強しましたから。きっとご満足いただける筈です。」
「勉強って……。」
「ハイ、過去から現在の様々な文献を精査し、実際に街へ行き様々な営みをこの目で見て、体験してフィードバックしております。また、ご奉仕に至ってはサキュバスのセシリアに色々御教授いただきました。」
アイちゃんはどうやら、このボディをより人間らしく見せるために、色々奮闘していたらしい。
その結果が、殆ど人間と見分けのつかない自然な動きとして表れてるんだろうけど……今、さらりと重要な事言わなかった?
「サキュバスのセシリアって……あの人もうこの街に来てるの?」
ミュウも気付いたらしく、アイちゃんに確認の声をかける。
「ハイ、既に『カフェ紗旧葉須』の店舗も出来ていて今はOpen待ち状態です。そうそう、セシリアが、出来ればOpen前にミカゲ様に会いたいと言ってました。」
「そ、それなら、早く行かないとね、ねっ?」
私は祈る様にマリアちゃんを見つめるけど、マリアちゃんは何やらブツブツ呟いていて、私の事が目に入っていない様だった。
「大丈夫です。紗旧葉須には明日行けば問題ありません。それより今は、ミカゲ様へのご奉仕を。」
「サキュバス直伝のご奉仕ですか……一考の余地はあるかも……。」
呟くマリアちゃんと、抱きかかえられたままの私の姿を、クーちゃんが痛ましげに見ているが、介入しようとは思っていないらしい。
「ミュウ、助けてぇ!」
私は最後の砦とばかりにミュウに助けを求める。
「いいじゃないの。ゆっくりしておいでよ。私も疲れたから休ませてもらうわね。」
ミュウはそう言ってさっさと部屋を出て行ってしまった。
「えっと、あはは……お姉ちゃん、頑張って。」
クーちゃんもそう言い残してミュウの後を追うように出て行ってしまう。
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