16 / 88
引きこもり聖女のお仕事 ゴブリン退治 その1
しおりを挟む
「お二人にぴったりの依頼があるの。」
にこやかに笑いながら、1枚の依頼書を見せるギルド受付嬢のネリア。
「内容はゴブリン退治。村の近くの森に、ゴブリンが巣を作ったらしいの。今のところ家畜が少し被害にあっているぐらいらしいんだけど、人的被害が出るのも時間の問題だわ。」
「それで依頼ですか。でもなんで私たち?」
「えっと、それはね……。」
何故か視線を逸らすネリア。
「ネリアさん?」
「いえ、その、ね、別に引き受けてくれる人が皆無だとか、苦労の割に報酬が少ないとか、そう言うわけじゃ……。」
「つまりそう言うわけなのね。」
「エル、まとめて焼けばすぐ終わる。」
「やめてくださいっ!ゴブリンの巣がある森は、その村人たちの大事な収入源にもなってるんですっ!」
「面倒ならヤダ。」
ネリアの言葉を聞いた途端、急にやる気をなくすユウ。
……ゴブリン退治かぁ。初心者冒険者の定番と言えば定番なんだけどね。今の話を聞く限り、ユウじゃないけどかなりめんどくさそうね。
「でも、村人たちも困ってるんですよ。何とかお願いできませんか?」
「でもねぇ……。」
エルザが渋っていると、ネリアが新たな提案をしてくる。
「じゃぁこうしましょう。依頼を引き受けてくださったら、報酬とは別に私から、ギルド秘蔵のバスソルトを差し上げます。お肌がスベスベ艶々になる極上品ですよ。」
「やるっ!ユウもいいよね?」
「え~。面倒。」
「面倒じゃないの。人助けよ、人助け。」
「人助けぇ?何それ、美味しいの?」
「美味しいわよっ!ちょっと行くだけで極上のバスソルトが手に入るのよっ!」
「ん~……、じゃぁ、エルが一緒にお風呂に入ってくれるなら行く。」
「いつも入ってるじゃない。」
「でも最近身体洗わせてくれない。」
「それはあんたが、色々、その……って、とにかく行くの決めたからねっ!……ネリアさん、詳しくは明日聞くわ。」
お風呂云々のあたりで、酒場にいる男性冒険者たちが耳をそばだてているのに気付き、恥ずかしくなったエルザは、顔を赤く染めながら、ユウを引きずるようにしてギルドを出ていった。
「見たか、今の?」
「あぁ、頬を真っ赤に染めて、可愛かったなぁ。」
「ユウ様が『エルたん』と呼ぶのもわかるぜ。」
「今日もいいものが見れた。乾杯しようぜっ!」
「あぁ、我らが女神さまに乾杯だ!」
「「「「「「おうっ!」」」」」」
「あらあら、やっぱり二人は人気者ね。」
盛り上がる冒険者たちを見ながら、にっこりと微笑むネリアだった。
カランカラーン。
ギルドの扉が開くと、備え付けられていたドアベルが涼やかな音を鳴らす。
「いらっしゃい。エルザちゃん、ユウ様、今日はゆっくりなのね。」
「あ、うん、ユウの説得に手間取って……。」
そう呟くエルザの顔が何故か赤い。
「エルたん、きゃわわだった。」
「「「「「「そこのところ詳しくっ!」」」」」」
ユウの呟きに、なぜか盛り上がる酒場の冒険者たち。
「と、とにかくっ!昨日のゴブリン退治の詳細をお願いしますっ!」
「ハイハイ、えっと、依頼が来てるのはザバナの村ね。馬車で二日ほど行ったところにあるわ。それと……。」
ネリアさんから聞いた情報をまとめると、ザバナの村でゴブリンが目撃されたのは20日ほど前、その時は村で飼っているベガスが数羽持って行かれたそうだ。
その後も、2~3日おきに家畜が襲われたり、畑が荒らされたりしているらしい。
ギルドでは依頼を受けた際の状況報告、被害状況などから、20匹ぐらいの群と推測し募集をかけたと言うことだった。
「ゴブリン退治って人気がないのよ。臭いし、汚いし、素材が取れるわけでもない。それでもって、偶に知恵の回る個体がいたりして討伐が厄介な割に報酬が安いから。後油断すると酷い目に遭うからね……特に女性は。」
「私のエルたんに手をかけたら、ゴブリンという種族は1匹残らずこの世界から排除する。」
ネリアの言葉に物騒な宣言をするユウ。
コレは、私がヘマしたら、冗談抜きで世界が崩壊する前触れになるかもしれない。エルザはそう思うと軽く身震いをする。
「ま、まぁ、とにかく頑張ろ。」
エルザは引きつった声でそれだけを言う。
「あ、エルザちゃん、それでなんだけどね……。」
ネリアが少し言いにくそうに口ごもる。
「なんですか?」
「えっと、実はね……、」
(この依頼、合同ってことになったのよ。)
ネリアさんが口を近づけて小声で囁いてくる。
(何でそんなことになったんですか?)
エルザも思わず小声で囁き返す。
(仕方がないのよっ!上から捻じ込まれたんだもの。)
(はぁ、それでどんな人たちなんですか、その相手。)
(もうすぐ来ることになってるわ。Dランクの将来有望なルーキーよ。)
(Dランクって……私とユウはEランクですよ?Dランクの人が引き受けてくれるなら、私たちいらないんじゃぁ?)
(それがそうじゃないから困って……あ、来た、あの子たちよ。)
ネリアの声に入り口を振り返るエルザ。
……なんか、チャラい感じ。ユウと一騒動起こしそうだなぁ。
などと思っていたら、さっそく、チャラい男がユウに話しかけていた。
どうやら、あの男がリーダーらしい。
止めに入ろうと行こうとしたら、同じパーティの女性が割って入って、リーダーの男を説教し始めた。
その間に、ユウはこちらにやってきて、私の陰に隠れる。
「あ、ごめんね。私は『銀の翼』の魔導士ミラ。そしてこっちが斧戦士のメイデン、で、あっちで拗ねているのがリーダーのマイケルよ。今回の依頼終了までよろしくね。」
そう、明るく言ってくるミラ。
ミラに言われて大人しくなったあたり、この『銀の翼』というパーティーの実質的なリーダーは、このミラさんなのかもしれない、とエルザは思った。
「あ、はいよろしくお願いします。私はエルザ。一応ショートソード使いで、こっちはユウ。……ほら、ユウ挨拶。」
しかしユウは少しだけ顔をのぞかせるとすぐエルザの陰に隠れる。
「ごめんなさい、彼女ちょっと人見知りで……。」
「あぁ、さっきこっちのバカが声かけてたから怖がらせちゃったのかも。ごめんね、ユウちゃん。」
「……エル、この人は?」
「うん、私もさっき知ったんだけど、一緒にゴブリン退治に行く人よ。」
「……じゃぁ、私、家で寝てていい?」
「ダメ、朝約束したでしょ。報酬先払いしてるんだから。」
「……うぅ、エルたん可愛かったから仕方がない。」
「えっと、そろそろ話し進めていいかな?」
エルザとユウの会話を黙って聞いていたミラが、口を挟んでくる。
「あ、すみません。そう言えば、何で『銀の翼』の皆さんが一緒に?」
「それはなぁ、お前たちEランク二人じゃ荷が重いだろうってことで俺らが呼ばれたんだよ。」
ミラとの話に割り込んでくるマイケル。
「感謝しな。まぁ、お前たちは俺たちの活躍を後ろで黙ってみてりゃいいんだ。楽な仕事だろ?」
「えぇ、まぁ、そう言う事なら……。」
「はははっ!まぁ大船に乗った気でな。それより、この後一緒に食事でもどう?親睦を深めるためにさぁ?」
そう言いながらエルザの肩に腕を回してくるマイケル。
マズい、とエルザが思った時はすでに遅く、マイケルはユウの手によって宙に舞っていた。
「あ、あの、これ使ってください。出発は午後からでいいですねっ、街の入り口で待ってますからっ、ではっ!」
エルザはミラにポーションを渡し、ユウを抱えるようにしてギルドを飛び出すのだった。
◇
「馬車、揺れるし遅い。」
「ユウ、しーっ、しーっ。」
「アハッ、確かに揺れるけど、我慢してね。」
ユウの失礼な発言を、笑って流すミラを見て、よくできた人だと感心するエルザ。
「ミラさん、ゴメンナサイ。ユウはちょっと世間知らずなので……。」
「いいのいいの、気にしないで。確かに馬車の揺れは慣れないと厳しいからね。かといって歩くには距離があり過ぎるからね。」
「……ショックアブソーバーがない、緩衝機構も考えられてないし、車輪も木枠そのまま、こんなので我慢なんて考えられない……。」
ユウがブツブツ言っていたかと思うと突然立ち上がる。
「止めてっ!」
「あん?」
「止めろって言ってる。」
「あ、はい。」
御者台から何事かと覗き込むマイケルを睨みつけるユウ。それに黙って従うマイケル。
ギルドで吹き飛ばしたことによって、変な上下関係が出来たっぽい。
「えっと、ユウちゃん、どうしたの?」
「馬車に我慢できない。改造する。」
「改造って……えっ?」
「みんなは15㎞先の魔獣でも狩ってきて。」
「15kmって、行くだけで日が暮れるよっ!」
昼過ぎに街を出たので、今日は途中の森の傍で野営をするつもりだったが、15km先と言えばその野営予定地付近だったりする。
魔獣がいるなら安全のためにも狩るべきなのだが、今ここから向かうのはあまりにも意味がなさすぎだ。
「ユウ、改造ってどれだけかかるの?」
「ん~、15分ぐらい?」
ユウが、馬車の下に潜り込みながら言う。
「早っ!ってか、15分じゃ、15㎞も移動できないよっ!」
「じゃぁ、おやつ用意して待ってて。」
「ハイハイ。チーズケーキでいい?」
「イチゴの気分。」
「ハイハイ、分かったわ。」
エルザはユウにそう答えると、少し離れた場所にアイテム袋からテーブルを取り出す。そして、コンロに火をつけ、やかんをセットする。
お湯が沸くのを待つ間にティーセットを取り出し、ティーカップをテーブルの上に並べていく。
「あ、あの、エルザちゃん?」
そのあまりにもの手際の良さに、何も言えず見守っていたミラが、我に返り声をかける。
「あ、ミラさん。お茶の好みってあります?今回はユウの好きなカミル茶を用意してるんですけど?」
「あ、うん、カミル茶は私も好きよ。……じゃなくてっ。」
「お茶請けはイチゴのショートケーキですが、クッキーもありますよ。」
「えっ、ケーキなの?」
「ハイ、もうすぐお茶が入るので、よかったら座って待っててくださいね。」
「あ、うん。」
テーブルに大人しく座るミラを見て、どうしようか悩んでいたマイケルとメイデンは、仕方がなさそうに席に着く。
お湯が沸騰する直前にコンロからやかんを上げ、茶葉を入れたティーポットにお湯を注ぐ。
カミル茶を美味しくいただく為の適温は沸騰する直前、東方のリマ茶だと40度ぐらいがいいと言われている。お茶の入れ方ひとつとっても茶葉の違いでこれだけ温度の差があるから、覚えるまでに大変苦労した。
その甲斐あって、今のエルザはお茶を入れるのには自信がある。
「は、どうぞ。」
三人の目の前に入れたてのカミル茶とケーキ、クッキーを差し出す。
「あ、ありがと。」
「あぁ。」
「……。」
三人は差し出されたお茶に口をつけ、ケーキを食し始める。
誰一人声を発しないが、そのフォークの動きから、満足していることがわかるので、エルザは小さくガッツポーズをする。
正直な話、ユウは何を出しても美味しいとしか言わないので、気を使われているのではないかと、少しだけ気にしていたのだ。
「ケーキ……イチゴ……。」
「あ、ユウ終わったの?」
「うん、イチゴ……。」
「ちゃんとあるよ。はい。」
ユウの目の前に大きめのイチゴのケーキを置く。
「わーい。」
「待った!」
早速食べようとするユウを押しとどめる。
「ちゃんと手を拭いてから。」
エルザは、土に塗れたユウの手を綺麗に拭い取り、ついでに顔に付いた泥を拭ってやる。
「ハイ、綺麗になったよ。」
「ありがと。……うん、美味し。」
「よかった。上手く出来てるかちょっと心配だったの。」
「いつものより美味しいよ。……はい、あーん。」
ユウはケーキを一切れフォークでとり差し出してくる。
「あーん……ウン美味しい。お返し、あーん。」
「あーん、もぐもぐ……。」
美味しいと言い合っている二人を見ながら『銀の翼』の面々は黙って顔を見合わせる。
「なぁ、俺たちの存在、忘れられてないか?」
「というより、二人だけの世界に完全に入ってるねぇ。」
「……。」
突然意味もなく発生したお茶会で、エルザとユウは二人の世界を作り出し、『銀の翼』の面々が生暖かく見守り、こっちの世界に戻ってきて改めて出発するまでに1時間の時間を要したのだった。
にこやかに笑いながら、1枚の依頼書を見せるギルド受付嬢のネリア。
「内容はゴブリン退治。村の近くの森に、ゴブリンが巣を作ったらしいの。今のところ家畜が少し被害にあっているぐらいらしいんだけど、人的被害が出るのも時間の問題だわ。」
「それで依頼ですか。でもなんで私たち?」
「えっと、それはね……。」
何故か視線を逸らすネリア。
「ネリアさん?」
「いえ、その、ね、別に引き受けてくれる人が皆無だとか、苦労の割に報酬が少ないとか、そう言うわけじゃ……。」
「つまりそう言うわけなのね。」
「エル、まとめて焼けばすぐ終わる。」
「やめてくださいっ!ゴブリンの巣がある森は、その村人たちの大事な収入源にもなってるんですっ!」
「面倒ならヤダ。」
ネリアの言葉を聞いた途端、急にやる気をなくすユウ。
……ゴブリン退治かぁ。初心者冒険者の定番と言えば定番なんだけどね。今の話を聞く限り、ユウじゃないけどかなりめんどくさそうね。
「でも、村人たちも困ってるんですよ。何とかお願いできませんか?」
「でもねぇ……。」
エルザが渋っていると、ネリアが新たな提案をしてくる。
「じゃぁこうしましょう。依頼を引き受けてくださったら、報酬とは別に私から、ギルド秘蔵のバスソルトを差し上げます。お肌がスベスベ艶々になる極上品ですよ。」
「やるっ!ユウもいいよね?」
「え~。面倒。」
「面倒じゃないの。人助けよ、人助け。」
「人助けぇ?何それ、美味しいの?」
「美味しいわよっ!ちょっと行くだけで極上のバスソルトが手に入るのよっ!」
「ん~……、じゃぁ、エルが一緒にお風呂に入ってくれるなら行く。」
「いつも入ってるじゃない。」
「でも最近身体洗わせてくれない。」
「それはあんたが、色々、その……って、とにかく行くの決めたからねっ!……ネリアさん、詳しくは明日聞くわ。」
お風呂云々のあたりで、酒場にいる男性冒険者たちが耳をそばだてているのに気付き、恥ずかしくなったエルザは、顔を赤く染めながら、ユウを引きずるようにしてギルドを出ていった。
「見たか、今の?」
「あぁ、頬を真っ赤に染めて、可愛かったなぁ。」
「ユウ様が『エルたん』と呼ぶのもわかるぜ。」
「今日もいいものが見れた。乾杯しようぜっ!」
「あぁ、我らが女神さまに乾杯だ!」
「「「「「「おうっ!」」」」」」
「あらあら、やっぱり二人は人気者ね。」
盛り上がる冒険者たちを見ながら、にっこりと微笑むネリアだった。
カランカラーン。
ギルドの扉が開くと、備え付けられていたドアベルが涼やかな音を鳴らす。
「いらっしゃい。エルザちゃん、ユウ様、今日はゆっくりなのね。」
「あ、うん、ユウの説得に手間取って……。」
そう呟くエルザの顔が何故か赤い。
「エルたん、きゃわわだった。」
「「「「「「そこのところ詳しくっ!」」」」」」
ユウの呟きに、なぜか盛り上がる酒場の冒険者たち。
「と、とにかくっ!昨日のゴブリン退治の詳細をお願いしますっ!」
「ハイハイ、えっと、依頼が来てるのはザバナの村ね。馬車で二日ほど行ったところにあるわ。それと……。」
ネリアさんから聞いた情報をまとめると、ザバナの村でゴブリンが目撃されたのは20日ほど前、その時は村で飼っているベガスが数羽持って行かれたそうだ。
その後も、2~3日おきに家畜が襲われたり、畑が荒らされたりしているらしい。
ギルドでは依頼を受けた際の状況報告、被害状況などから、20匹ぐらいの群と推測し募集をかけたと言うことだった。
「ゴブリン退治って人気がないのよ。臭いし、汚いし、素材が取れるわけでもない。それでもって、偶に知恵の回る個体がいたりして討伐が厄介な割に報酬が安いから。後油断すると酷い目に遭うからね……特に女性は。」
「私のエルたんに手をかけたら、ゴブリンという種族は1匹残らずこの世界から排除する。」
ネリアの言葉に物騒な宣言をするユウ。
コレは、私がヘマしたら、冗談抜きで世界が崩壊する前触れになるかもしれない。エルザはそう思うと軽く身震いをする。
「ま、まぁ、とにかく頑張ろ。」
エルザは引きつった声でそれだけを言う。
「あ、エルザちゃん、それでなんだけどね……。」
ネリアが少し言いにくそうに口ごもる。
「なんですか?」
「えっと、実はね……、」
(この依頼、合同ってことになったのよ。)
ネリアさんが口を近づけて小声で囁いてくる。
(何でそんなことになったんですか?)
エルザも思わず小声で囁き返す。
(仕方がないのよっ!上から捻じ込まれたんだもの。)
(はぁ、それでどんな人たちなんですか、その相手。)
(もうすぐ来ることになってるわ。Dランクの将来有望なルーキーよ。)
(Dランクって……私とユウはEランクですよ?Dランクの人が引き受けてくれるなら、私たちいらないんじゃぁ?)
(それがそうじゃないから困って……あ、来た、あの子たちよ。)
ネリアの声に入り口を振り返るエルザ。
……なんか、チャラい感じ。ユウと一騒動起こしそうだなぁ。
などと思っていたら、さっそく、チャラい男がユウに話しかけていた。
どうやら、あの男がリーダーらしい。
止めに入ろうと行こうとしたら、同じパーティの女性が割って入って、リーダーの男を説教し始めた。
その間に、ユウはこちらにやってきて、私の陰に隠れる。
「あ、ごめんね。私は『銀の翼』の魔導士ミラ。そしてこっちが斧戦士のメイデン、で、あっちで拗ねているのがリーダーのマイケルよ。今回の依頼終了までよろしくね。」
そう、明るく言ってくるミラ。
ミラに言われて大人しくなったあたり、この『銀の翼』というパーティーの実質的なリーダーは、このミラさんなのかもしれない、とエルザは思った。
「あ、はいよろしくお願いします。私はエルザ。一応ショートソード使いで、こっちはユウ。……ほら、ユウ挨拶。」
しかしユウは少しだけ顔をのぞかせるとすぐエルザの陰に隠れる。
「ごめんなさい、彼女ちょっと人見知りで……。」
「あぁ、さっきこっちのバカが声かけてたから怖がらせちゃったのかも。ごめんね、ユウちゃん。」
「……エル、この人は?」
「うん、私もさっき知ったんだけど、一緒にゴブリン退治に行く人よ。」
「……じゃぁ、私、家で寝てていい?」
「ダメ、朝約束したでしょ。報酬先払いしてるんだから。」
「……うぅ、エルたん可愛かったから仕方がない。」
「えっと、そろそろ話し進めていいかな?」
エルザとユウの会話を黙って聞いていたミラが、口を挟んでくる。
「あ、すみません。そう言えば、何で『銀の翼』の皆さんが一緒に?」
「それはなぁ、お前たちEランク二人じゃ荷が重いだろうってことで俺らが呼ばれたんだよ。」
ミラとの話に割り込んでくるマイケル。
「感謝しな。まぁ、お前たちは俺たちの活躍を後ろで黙ってみてりゃいいんだ。楽な仕事だろ?」
「えぇ、まぁ、そう言う事なら……。」
「はははっ!まぁ大船に乗った気でな。それより、この後一緒に食事でもどう?親睦を深めるためにさぁ?」
そう言いながらエルザの肩に腕を回してくるマイケル。
マズい、とエルザが思った時はすでに遅く、マイケルはユウの手によって宙に舞っていた。
「あ、あの、これ使ってください。出発は午後からでいいですねっ、街の入り口で待ってますからっ、ではっ!」
エルザはミラにポーションを渡し、ユウを抱えるようにしてギルドを飛び出すのだった。
◇
「馬車、揺れるし遅い。」
「ユウ、しーっ、しーっ。」
「アハッ、確かに揺れるけど、我慢してね。」
ユウの失礼な発言を、笑って流すミラを見て、よくできた人だと感心するエルザ。
「ミラさん、ゴメンナサイ。ユウはちょっと世間知らずなので……。」
「いいのいいの、気にしないで。確かに馬車の揺れは慣れないと厳しいからね。かといって歩くには距離があり過ぎるからね。」
「……ショックアブソーバーがない、緩衝機構も考えられてないし、車輪も木枠そのまま、こんなので我慢なんて考えられない……。」
ユウがブツブツ言っていたかと思うと突然立ち上がる。
「止めてっ!」
「あん?」
「止めろって言ってる。」
「あ、はい。」
御者台から何事かと覗き込むマイケルを睨みつけるユウ。それに黙って従うマイケル。
ギルドで吹き飛ばしたことによって、変な上下関係が出来たっぽい。
「えっと、ユウちゃん、どうしたの?」
「馬車に我慢できない。改造する。」
「改造って……えっ?」
「みんなは15㎞先の魔獣でも狩ってきて。」
「15kmって、行くだけで日が暮れるよっ!」
昼過ぎに街を出たので、今日は途中の森の傍で野営をするつもりだったが、15km先と言えばその野営予定地付近だったりする。
魔獣がいるなら安全のためにも狩るべきなのだが、今ここから向かうのはあまりにも意味がなさすぎだ。
「ユウ、改造ってどれだけかかるの?」
「ん~、15分ぐらい?」
ユウが、馬車の下に潜り込みながら言う。
「早っ!ってか、15分じゃ、15㎞も移動できないよっ!」
「じゃぁ、おやつ用意して待ってて。」
「ハイハイ。チーズケーキでいい?」
「イチゴの気分。」
「ハイハイ、分かったわ。」
エルザはユウにそう答えると、少し離れた場所にアイテム袋からテーブルを取り出す。そして、コンロに火をつけ、やかんをセットする。
お湯が沸くのを待つ間にティーセットを取り出し、ティーカップをテーブルの上に並べていく。
「あ、あの、エルザちゃん?」
そのあまりにもの手際の良さに、何も言えず見守っていたミラが、我に返り声をかける。
「あ、ミラさん。お茶の好みってあります?今回はユウの好きなカミル茶を用意してるんですけど?」
「あ、うん、カミル茶は私も好きよ。……じゃなくてっ。」
「お茶請けはイチゴのショートケーキですが、クッキーもありますよ。」
「えっ、ケーキなの?」
「ハイ、もうすぐお茶が入るので、よかったら座って待っててくださいね。」
「あ、うん。」
テーブルに大人しく座るミラを見て、どうしようか悩んでいたマイケルとメイデンは、仕方がなさそうに席に着く。
お湯が沸騰する直前にコンロからやかんを上げ、茶葉を入れたティーポットにお湯を注ぐ。
カミル茶を美味しくいただく為の適温は沸騰する直前、東方のリマ茶だと40度ぐらいがいいと言われている。お茶の入れ方ひとつとっても茶葉の違いでこれだけ温度の差があるから、覚えるまでに大変苦労した。
その甲斐あって、今のエルザはお茶を入れるのには自信がある。
「は、どうぞ。」
三人の目の前に入れたてのカミル茶とケーキ、クッキーを差し出す。
「あ、ありがと。」
「あぁ。」
「……。」
三人は差し出されたお茶に口をつけ、ケーキを食し始める。
誰一人声を発しないが、そのフォークの動きから、満足していることがわかるので、エルザは小さくガッツポーズをする。
正直な話、ユウは何を出しても美味しいとしか言わないので、気を使われているのではないかと、少しだけ気にしていたのだ。
「ケーキ……イチゴ……。」
「あ、ユウ終わったの?」
「うん、イチゴ……。」
「ちゃんとあるよ。はい。」
ユウの目の前に大きめのイチゴのケーキを置く。
「わーい。」
「待った!」
早速食べようとするユウを押しとどめる。
「ちゃんと手を拭いてから。」
エルザは、土に塗れたユウの手を綺麗に拭い取り、ついでに顔に付いた泥を拭ってやる。
「ハイ、綺麗になったよ。」
「ありがと。……うん、美味し。」
「よかった。上手く出来てるかちょっと心配だったの。」
「いつものより美味しいよ。……はい、あーん。」
ユウはケーキを一切れフォークでとり差し出してくる。
「あーん……ウン美味しい。お返し、あーん。」
「あーん、もぐもぐ……。」
美味しいと言い合っている二人を見ながら『銀の翼』の面々は黙って顔を見合わせる。
「なぁ、俺たちの存在、忘れられてないか?」
「というより、二人だけの世界に完全に入ってるねぇ。」
「……。」
突然意味もなく発生したお茶会で、エルザとユウは二人の世界を作り出し、『銀の翼』の面々が生暖かく見守り、こっちの世界に戻ってきて改めて出発するまでに1時間の時間を要したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる