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引きこもり聖女のお仕事 ゴブリン退治 その4
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「わぁ、うようよいるねぇ。」
エルザが感嘆の声を上げる。
「わかるの?」
ミラが訝し気に聞いてくる。
それも仕方がない事だろう。まだ森の中にも入っていないのだ。
これから森の中に入り、どこにあるかもわからないゴブリンの巣を、警戒しながら探そう、という時にそんなことを言われれば、誰だって訝しむだろう。
「あ、うん、さっきまでは、何かに邪魔されていたみたいでよくわからなかったけど、ここまでくれば、気配と大体の数や方向は分かるよ。」
エルザはネコミミをみょみょさせながら言う。
「それでどんな感じなの?」
「えーとね……うーん、ここから右手方向にたくさんの気配。少し離れたところに少数の気配がいくつか……。やっぱり何かに邪魔されてるみたいで、詳細までは分からないです。」
「そう?でも、方向が分かっただけでも助かるわ。」
「んっと、右手方向3㎞先にゴブリンの群れ。たぶんそこが巣。数は大体100ぐらい?あと、離れた気配は見張りだと思う。5匹づつが定期的に回ってる。」
ミラの言葉にかぶせるようにユウが言う。
「わかるのっ?」
「範囲を絞れば、これくらいのジャミングはわけない。高精度の探知魔法は冒険者必須のスキル。」
「「「いやいやいや。」」」
当たり前のような顔で言うユウに全員が首を振る。
「あのねユウ。今の時代、そこまでの探知魔法使える人いないのよ。(……このアイテムだって、バレたらヤバいぐらいのシロモノなんだからね。)」
エルザは、ユウに小声でそう告げるが、ユウは余りよく分かっていないようだった。
「そんなことより、数だ。100匹いるって本当なのか?」
「それは本当みたい。私じゃ詳細までは分からないけど、気配の大きさから考えたらそれ以上でもおかしくないわ。」
拗ねてしまったユウに代わってエルザが答える。
「そうか………。取りあえず目視できるところまで移動しよう。」
ユウとエルザの言葉を聞いて、しばらく考え込んでいたマイケルが決断を下した。
「確かに100はいそうね……どうする?」
小高くなっている場所から見下ろしたミラがマイケルの指示を仰ぐ。
下からは、樹木が邪魔になり目視しづらいが、上からは下の様子が丸見えという、絶好の場所を見つけたエルザ達。眼下には巣と覚しき洞窟があり、その前の広場にゴブリン達が、思い思いの姿でくつろいでいる。
また、近くにボロいテントがいくつか張ってあり、そこと洞窟を行ったり来たりしている者もいる。
外にいるのは大体30匹程度。出入りしている者が、延べ数で20匹前後。洞窟やテントに籠もって姿を現さないものや、見張りでこの場から離れている者を含めれば100匹近くいると思って間違いないだろう。
「どうするか……ギルドの情報と違い過ぎるから、ここで引き上げてもペナルティはないし、普通なら戻って応援を呼ぶべきなんだが。」
「でも、応援呼んでいる間に村の被害が大きくなるわね。」
マイケルの言葉にミラが続ける。
ゴブリンの巣の規模が大きくなりすぎているのだ。現に家畜が襲われる頻度が多くなっており、村人に被害が出るのは時間の問題だろう。
「やるしかないだろう。」
今まで黙っていたメイデンが口を開く。
その手にはすでに斧を構えていて、やる気十分だった。
「でもね、100匹よ。それにホブゴブリンも交じってるし、ゴブリンシャーマンだって何匹いるか。」
ためらいがちに言うミラ。
眼下にいるゴブリンの中に、一回り体の大きい個体が数体混じっている。おそらくホブゴブリンだろう。
ゴブリンだけならば烏合の衆と変わらず、たとえ100率いたとしても、やりようによっては全滅させるだけの力が『銀の翼』にはある。しかし、その中にホブゴブリンが混じっているとなると話は違ってくるのだ。
ホブゴブリンは、他のゴブリンより頑強で、知恵も回る。烏合の衆であるゴブリンでも、ホブゴブリンに率いられればそれなりの戦士に代わる。それだけ集団を率いるリーダーの存在というのは大きいのだ。
そして、シャーマンの存在。ゴブリンの中には稀に魔力が強く、魔法が使える個体が現れる。彼らは力こそ他のゴブリンより劣る存在ではあるが、それを補う知恵があり、何より魔法が使える。
人族でも魔法使いの存在というのは大きく、最弱のファイアーボールでさえ、それが使える魔法使いは、戦士3人分と同等の戦力と考えられている。強力な魔法が使えるようになるほど、その戦力差は比例して大きくなっていく。つまり、ファイアーボールが使えるゴブリンシャーマンが10人いたとしたら、戦力としては30人分として換算することになり、ゴブリンシャーマンの技量によっては、現在の100対5ではなく150対5、200対5ともなりえるのだ。
勿論、ミラも魔法使いなので、戦力差はもっと縮まるのだが、それでも不利な状況に変わりはない。
「面倒。焼き払って、早く帰ろ?」
飽きてきたのか、ユウがそんなことを呟く。
「焼き払うって、そんな簡単に言ううけどな……。」
「出来ないっ!出来ないからねっ!……ユウもそんなこと言っちゃダメっ!」
ユウの呟きを聞き咎めたマイケルが何かを言いかけるが、それを遮る様にエルザが叫んで止める。
「エルザちゃん、声大きい。」
「あっ、ごめん……でも、本当にできませんから。」
「わかってるよ。あのゴブリンを一掃するような魔法はミラでも使えないからな。……しかし魔法か……。」
マイケルが何やら思案にふける。
エルザも、ユウが勝手な事をしないように、その身体を抱きしめながら、どうすればいいかを考える。
……一番妥当なのは、街まで急いで戻ってギルドに応援を出すことよね。
自分たちがEランクの駆け出しであること、Dランクパーティである銀の翼が一緒であることを考慮したとしても戦力的に厳しい事を考えれば、その選択を選ぶべきだと理性が考えるが、それでは村人たちが助からないと感情が訴える。
……じゃぁ、戦うとして、勝ち目はあるの?
勝つだけなら簡単だ。それこそユウに頼めばいい。ユウの魔法なら、この辺りを一瞬にして荒野に変えてくれるだろう。勿論、其処に生あるものの存在はなくなるが。
だからその選択肢はとれない。だとすれば……。
「あの、少しいいですか?」
エルザは考え付いた事を銀の翼たちに話すことにする。
「えっと、まずは見回りに出ているゴブリンたちを、奇襲で各個撃破していくのはどうでしょう?」
「その理由は?」
エルザの言葉の先をマイケルが促す。
「ゴブリンたちを全滅させるのが最終目的ですよね?だったら、本拠を攻めている間に、逃げられてしまっては困りますし、逆に、放置したことで、背後から襲われる危険もあります。」
「でも、見張りが戻ってこないと警戒されない?」
「それも目的の一つです。」
「どういうこと?」
「見張りがいつまでたっても戻ってこないと、当然警戒するでしょう?そうしたらどういう行動をとると思いますか?」
「それは……見張りをより多く出すだろうな。」
「うーん、逆に、あの洞窟に籠って防御を固めるかもしれないわよ?」
「……。」
マイケルとミラがそれぞれの意見を出す。メイデンは黙って頷くだけであり、ユウはエルザに抱きかかえられた状態で眠りこけている。
「どちらになっても問題ないんですよ。見張りを出すなら、その都度各個撃破していけばいいですし、洞窟に籠ってもらえるなら、洞窟内に魔法を打ち込むなり、入口を崩落させて閉じ込めるなり出来ます。問題があるとすれば、あの洞窟が、どこか別のところに繋がっているかどうかってことですけど……。」
「その心配はないだろう。」
エルザの懸念をメイデンが打ち払う。
「あの洞窟は、昔の坑道の跡地だ。内部でどれだけ枝分かれしているかはわからないが、坑道が向こう側に抜けることはないからな。」
メイデンの話では、昔はこの辺り一帯で鉄が採れていたらしく、ザバナの村も鉱夫達の拠点として栄えていたというのだ。そして、当然ながらそれらを管理する者がいて、管理する側にしてみれば、別の入り口があるのは好ましくない。別の入り口があれば、管理者の目を盗んで持ち出そうとする者が絶えないからだ。
だから、別の出入り口があれば、そちらにも管理する者を置くか、その出入り口を塞ぐのが普通で、この坑道に関しては、別の場所に管理を置いたという資料は残っておらず、結論として、別の出入り口はない、という事だった。
「なるほどな。各個撃破で数を減らし、巣に追い込んで、一気に殲滅か……えげつないけど効果的ではあるな。」
……えげつないって言われちゃったよ。別に普通の戦略だよね?
エルザは声に出さずにそう呟く。
「そうと決まったら、こちらの戦力の確認だ。俺とメイデンは見ての通り前衛でミラが後衛の魔法使いだが、嬢ちゃんは前衛でいいのか?」
マイケルが、エルザの腰のショートソードを見ながら言う。
「そうですね。後ユウは基本的に後衛支援と考えてください。」
「そっちの嬢ちゃんは何が出来るんだ?」
「アイテムによる支援と……少しの回復魔法が使えます。後は、ご存じの通り、探知魔法が使えます。」
ウソは言っていない。ただ黙っているだけで。
本当は、この辺り一帯を荒野に変えることが出来るほどの魔法も使えるが、そんなことを言っても信じないだろうし、言う必要もない。
「よし、じゃぁミラとそっちの嬢ちゃんは、ここで見張りを。俺たち前衛3人が見張りのゴブリンを各個撃破していく……準備が出来次第行動開始だ。」
マイケルの言葉に全員が頷く。
「ユウ、起きて。お仕事よ。」
「う~ん……働いたら負けなの。」
「何言ってるのよ。早く起きなさい。」
「オハヨーのチュー……。」
「出来るわけな……むぐっ。」
寝ぼけた?ユウに口を塞がれるエルザ。
ユウは、しばらくの間エルザの口内を責め立て味わってから唇を離す。
「うん、起きた。」
「な、な、何すんのよっ!」
「エルたん、真っ赤。きゃわわ~。」
顔を真っ赤にしながら怒鳴るエルザを、ユウはギュッと抱きしめていなす。
「えっとね、どうでもいいけど、そろそろ……。」
ミラが、ほんのりと頬を染めながら二人の間に割って入る。
ちなみにマイケルもメイデンもそれが礼儀とでもいうかのように顔を背けていた。
「ここから2時の方向1kmぐらい先に5匹。ホブ1交じってる。」
「……うん、私にもわかった。じゃぁ行ってくるね。」
エルザはユウにそう言うと、マイケル達と共に、ゴブリンの見張りのいる方向へと駆け出して行った。
「じゃぁ、私たちはしばらくここで待機ね。」
「面倒。」
「我慢してね。」
ミラはユウの態度に軽い苛立ちを覚えつつも、それを出すのは大人げないと思い、自制する。
「ところでユウちゃん?」
「なに?」
「ユウちゃんなら、巣の中にいるゴブリンたちの内訳ってわかるんじゃない?」
ミラはそう言いながら、どうしてさっきまでそのことに思い当たらなかったのだろうと、疑問に思う。
「うーん……テントの中、2~3匹づついる。洞窟の中、固まっているからはっきり言えないけど、30匹ぐらい。さらに奥に大きな気配が1匹。」
「……ってことは、見えるゴブリンたちを合わせて80匹前後ってわけね。シャーマンはいるの?ホブゴブリンの数は?」
「ゴブリンシャーマンは、テントの中に3匹。洞窟の中に5匹。見張りで出ている中に2匹。ホブゴブリンは洞窟の中に5匹、見張りの中に各1匹。」
「見張りの出ているのは何グループあるの?」
「今エル達が向かった2時方向に2グループ。他に4時の方向と8時の方向、11時の方向に各1グループづつ。」
「なるほどね。じゃぁ、巣に奇襲をかけるときはシャーマンを先に殺らないといけないわね。」
「ん。」
言葉少なく頷くユウを見ながら、ミラは驚きを外に出さないように必死になって自制していた。
……なんなの、この娘。なんで、そんなことまでわかるのよ。高精度の探知魔法って言ってたけど、高精度とかいうレベルじゃないわよ。
……これは、下手に係るとヤバいわ。受けるんじゃなかったかも。
ユウの能力を目の当たりにしたミラは、この依頼の裏にあるもののきな臭さを感じ取り、この依頼が終わったら、即座に遠くへ逃げることを提案しよう、と心に決めるのだった。
一方そのころのエルザたち。
「あれだな。……まずは、俺とメイデンで、あのホブゴブリンを抑える。その間に、嬢ちゃんは他のゴブリンを殺ってくれ……任せれるか?」
目の前にいるゴブリンの数は、ユウの言った通り5匹。ホブゴブリンが1匹に普通のゴブリンが4匹。シャーマンがいなくてよかったと、胸を撫で下ろしながら頷くエルザ。
「じゃぁ、行くぞ。」
「まってください。」
飛び出そうとするマイケルを慌ててエルザが押しとどめる。
「私が向こうから弓矢で1匹を射ます。お二人はその混乱に乗じて飛び出してください。」
エルザはゴブリンたちの背後の茂みを指さしながらそう告げた。
正直、4匹を相手にするのはつらい。せっかくの奇襲なので、初手で1匹は仕留めたいと思ったのだ。
「あ、あぁそうだな。頼めるか?」
「任せてください。」
エルザはそう言いながら音もたてずに移動する。
所定の位置に着くと、エルザは深呼吸をしてから弓矢を構える。
この矢を放てば戦闘開始だ。飛び出して行って一番近いあのゴブリンに切りかかる。
あの二人がホブゴブリンを抑えてくれるから、その間に残り2匹を仕留めればおしまいだ。
いくらホブゴブリンと言っても3人がかりであれば造作もなく倒せるだろう。
エルザは、再度大きく息を吸い、狙いを定め……矢を放つ。
それが、この後長い時間がかかるゴブリン討伐開始の合図だった。
エルザが感嘆の声を上げる。
「わかるの?」
ミラが訝し気に聞いてくる。
それも仕方がない事だろう。まだ森の中にも入っていないのだ。
これから森の中に入り、どこにあるかもわからないゴブリンの巣を、警戒しながら探そう、という時にそんなことを言われれば、誰だって訝しむだろう。
「あ、うん、さっきまでは、何かに邪魔されていたみたいでよくわからなかったけど、ここまでくれば、気配と大体の数や方向は分かるよ。」
エルザはネコミミをみょみょさせながら言う。
「それでどんな感じなの?」
「えーとね……うーん、ここから右手方向にたくさんの気配。少し離れたところに少数の気配がいくつか……。やっぱり何かに邪魔されてるみたいで、詳細までは分からないです。」
「そう?でも、方向が分かっただけでも助かるわ。」
「んっと、右手方向3㎞先にゴブリンの群れ。たぶんそこが巣。数は大体100ぐらい?あと、離れた気配は見張りだと思う。5匹づつが定期的に回ってる。」
ミラの言葉にかぶせるようにユウが言う。
「わかるのっ?」
「範囲を絞れば、これくらいのジャミングはわけない。高精度の探知魔法は冒険者必須のスキル。」
「「「いやいやいや。」」」
当たり前のような顔で言うユウに全員が首を振る。
「あのねユウ。今の時代、そこまでの探知魔法使える人いないのよ。(……このアイテムだって、バレたらヤバいぐらいのシロモノなんだからね。)」
エルザは、ユウに小声でそう告げるが、ユウは余りよく分かっていないようだった。
「そんなことより、数だ。100匹いるって本当なのか?」
「それは本当みたい。私じゃ詳細までは分からないけど、気配の大きさから考えたらそれ以上でもおかしくないわ。」
拗ねてしまったユウに代わってエルザが答える。
「そうか………。取りあえず目視できるところまで移動しよう。」
ユウとエルザの言葉を聞いて、しばらく考え込んでいたマイケルが決断を下した。
「確かに100はいそうね……どうする?」
小高くなっている場所から見下ろしたミラがマイケルの指示を仰ぐ。
下からは、樹木が邪魔になり目視しづらいが、上からは下の様子が丸見えという、絶好の場所を見つけたエルザ達。眼下には巣と覚しき洞窟があり、その前の広場にゴブリン達が、思い思いの姿でくつろいでいる。
また、近くにボロいテントがいくつか張ってあり、そこと洞窟を行ったり来たりしている者もいる。
外にいるのは大体30匹程度。出入りしている者が、延べ数で20匹前後。洞窟やテントに籠もって姿を現さないものや、見張りでこの場から離れている者を含めれば100匹近くいると思って間違いないだろう。
「どうするか……ギルドの情報と違い過ぎるから、ここで引き上げてもペナルティはないし、普通なら戻って応援を呼ぶべきなんだが。」
「でも、応援呼んでいる間に村の被害が大きくなるわね。」
マイケルの言葉にミラが続ける。
ゴブリンの巣の規模が大きくなりすぎているのだ。現に家畜が襲われる頻度が多くなっており、村人に被害が出るのは時間の問題だろう。
「やるしかないだろう。」
今まで黙っていたメイデンが口を開く。
その手にはすでに斧を構えていて、やる気十分だった。
「でもね、100匹よ。それにホブゴブリンも交じってるし、ゴブリンシャーマンだって何匹いるか。」
ためらいがちに言うミラ。
眼下にいるゴブリンの中に、一回り体の大きい個体が数体混じっている。おそらくホブゴブリンだろう。
ゴブリンだけならば烏合の衆と変わらず、たとえ100率いたとしても、やりようによっては全滅させるだけの力が『銀の翼』にはある。しかし、その中にホブゴブリンが混じっているとなると話は違ってくるのだ。
ホブゴブリンは、他のゴブリンより頑強で、知恵も回る。烏合の衆であるゴブリンでも、ホブゴブリンに率いられればそれなりの戦士に代わる。それだけ集団を率いるリーダーの存在というのは大きいのだ。
そして、シャーマンの存在。ゴブリンの中には稀に魔力が強く、魔法が使える個体が現れる。彼らは力こそ他のゴブリンより劣る存在ではあるが、それを補う知恵があり、何より魔法が使える。
人族でも魔法使いの存在というのは大きく、最弱のファイアーボールでさえ、それが使える魔法使いは、戦士3人分と同等の戦力と考えられている。強力な魔法が使えるようになるほど、その戦力差は比例して大きくなっていく。つまり、ファイアーボールが使えるゴブリンシャーマンが10人いたとしたら、戦力としては30人分として換算することになり、ゴブリンシャーマンの技量によっては、現在の100対5ではなく150対5、200対5ともなりえるのだ。
勿論、ミラも魔法使いなので、戦力差はもっと縮まるのだが、それでも不利な状況に変わりはない。
「面倒。焼き払って、早く帰ろ?」
飽きてきたのか、ユウがそんなことを呟く。
「焼き払うって、そんな簡単に言ううけどな……。」
「出来ないっ!出来ないからねっ!……ユウもそんなこと言っちゃダメっ!」
ユウの呟きを聞き咎めたマイケルが何かを言いかけるが、それを遮る様にエルザが叫んで止める。
「エルザちゃん、声大きい。」
「あっ、ごめん……でも、本当にできませんから。」
「わかってるよ。あのゴブリンを一掃するような魔法はミラでも使えないからな。……しかし魔法か……。」
マイケルが何やら思案にふける。
エルザも、ユウが勝手な事をしないように、その身体を抱きしめながら、どうすればいいかを考える。
……一番妥当なのは、街まで急いで戻ってギルドに応援を出すことよね。
自分たちがEランクの駆け出しであること、Dランクパーティである銀の翼が一緒であることを考慮したとしても戦力的に厳しい事を考えれば、その選択を選ぶべきだと理性が考えるが、それでは村人たちが助からないと感情が訴える。
……じゃぁ、戦うとして、勝ち目はあるの?
勝つだけなら簡単だ。それこそユウに頼めばいい。ユウの魔法なら、この辺りを一瞬にして荒野に変えてくれるだろう。勿論、其処に生あるものの存在はなくなるが。
だからその選択肢はとれない。だとすれば……。
「あの、少しいいですか?」
エルザは考え付いた事を銀の翼たちに話すことにする。
「えっと、まずは見回りに出ているゴブリンたちを、奇襲で各個撃破していくのはどうでしょう?」
「その理由は?」
エルザの言葉の先をマイケルが促す。
「ゴブリンたちを全滅させるのが最終目的ですよね?だったら、本拠を攻めている間に、逃げられてしまっては困りますし、逆に、放置したことで、背後から襲われる危険もあります。」
「でも、見張りが戻ってこないと警戒されない?」
「それも目的の一つです。」
「どういうこと?」
「見張りがいつまでたっても戻ってこないと、当然警戒するでしょう?そうしたらどういう行動をとると思いますか?」
「それは……見張りをより多く出すだろうな。」
「うーん、逆に、あの洞窟に籠って防御を固めるかもしれないわよ?」
「……。」
マイケルとミラがそれぞれの意見を出す。メイデンは黙って頷くだけであり、ユウはエルザに抱きかかえられた状態で眠りこけている。
「どちらになっても問題ないんですよ。見張りを出すなら、その都度各個撃破していけばいいですし、洞窟に籠ってもらえるなら、洞窟内に魔法を打ち込むなり、入口を崩落させて閉じ込めるなり出来ます。問題があるとすれば、あの洞窟が、どこか別のところに繋がっているかどうかってことですけど……。」
「その心配はないだろう。」
エルザの懸念をメイデンが打ち払う。
「あの洞窟は、昔の坑道の跡地だ。内部でどれだけ枝分かれしているかはわからないが、坑道が向こう側に抜けることはないからな。」
メイデンの話では、昔はこの辺り一帯で鉄が採れていたらしく、ザバナの村も鉱夫達の拠点として栄えていたというのだ。そして、当然ながらそれらを管理する者がいて、管理する側にしてみれば、別の入り口があるのは好ましくない。別の入り口があれば、管理者の目を盗んで持ち出そうとする者が絶えないからだ。
だから、別の出入り口があれば、そちらにも管理する者を置くか、その出入り口を塞ぐのが普通で、この坑道に関しては、別の場所に管理を置いたという資料は残っておらず、結論として、別の出入り口はない、という事だった。
「なるほどな。各個撃破で数を減らし、巣に追い込んで、一気に殲滅か……えげつないけど効果的ではあるな。」
……えげつないって言われちゃったよ。別に普通の戦略だよね?
エルザは声に出さずにそう呟く。
「そうと決まったら、こちらの戦力の確認だ。俺とメイデンは見ての通り前衛でミラが後衛の魔法使いだが、嬢ちゃんは前衛でいいのか?」
マイケルが、エルザの腰のショートソードを見ながら言う。
「そうですね。後ユウは基本的に後衛支援と考えてください。」
「そっちの嬢ちゃんは何が出来るんだ?」
「アイテムによる支援と……少しの回復魔法が使えます。後は、ご存じの通り、探知魔法が使えます。」
ウソは言っていない。ただ黙っているだけで。
本当は、この辺り一帯を荒野に変えることが出来るほどの魔法も使えるが、そんなことを言っても信じないだろうし、言う必要もない。
「よし、じゃぁミラとそっちの嬢ちゃんは、ここで見張りを。俺たち前衛3人が見張りのゴブリンを各個撃破していく……準備が出来次第行動開始だ。」
マイケルの言葉に全員が頷く。
「ユウ、起きて。お仕事よ。」
「う~ん……働いたら負けなの。」
「何言ってるのよ。早く起きなさい。」
「オハヨーのチュー……。」
「出来るわけな……むぐっ。」
寝ぼけた?ユウに口を塞がれるエルザ。
ユウは、しばらくの間エルザの口内を責め立て味わってから唇を離す。
「うん、起きた。」
「な、な、何すんのよっ!」
「エルたん、真っ赤。きゃわわ~。」
顔を真っ赤にしながら怒鳴るエルザを、ユウはギュッと抱きしめていなす。
「えっとね、どうでもいいけど、そろそろ……。」
ミラが、ほんのりと頬を染めながら二人の間に割って入る。
ちなみにマイケルもメイデンもそれが礼儀とでもいうかのように顔を背けていた。
「ここから2時の方向1kmぐらい先に5匹。ホブ1交じってる。」
「……うん、私にもわかった。じゃぁ行ってくるね。」
エルザはユウにそう言うと、マイケル達と共に、ゴブリンの見張りのいる方向へと駆け出して行った。
「じゃぁ、私たちはしばらくここで待機ね。」
「面倒。」
「我慢してね。」
ミラはユウの態度に軽い苛立ちを覚えつつも、それを出すのは大人げないと思い、自制する。
「ところでユウちゃん?」
「なに?」
「ユウちゃんなら、巣の中にいるゴブリンたちの内訳ってわかるんじゃない?」
ミラはそう言いながら、どうしてさっきまでそのことに思い当たらなかったのだろうと、疑問に思う。
「うーん……テントの中、2~3匹づついる。洞窟の中、固まっているからはっきり言えないけど、30匹ぐらい。さらに奥に大きな気配が1匹。」
「……ってことは、見えるゴブリンたちを合わせて80匹前後ってわけね。シャーマンはいるの?ホブゴブリンの数は?」
「ゴブリンシャーマンは、テントの中に3匹。洞窟の中に5匹。見張りで出ている中に2匹。ホブゴブリンは洞窟の中に5匹、見張りの中に各1匹。」
「見張りの出ているのは何グループあるの?」
「今エル達が向かった2時方向に2グループ。他に4時の方向と8時の方向、11時の方向に各1グループづつ。」
「なるほどね。じゃぁ、巣に奇襲をかけるときはシャーマンを先に殺らないといけないわね。」
「ん。」
言葉少なく頷くユウを見ながら、ミラは驚きを外に出さないように必死になって自制していた。
……なんなの、この娘。なんで、そんなことまでわかるのよ。高精度の探知魔法って言ってたけど、高精度とかいうレベルじゃないわよ。
……これは、下手に係るとヤバいわ。受けるんじゃなかったかも。
ユウの能力を目の当たりにしたミラは、この依頼の裏にあるもののきな臭さを感じ取り、この依頼が終わったら、即座に遠くへ逃げることを提案しよう、と心に決めるのだった。
一方そのころのエルザたち。
「あれだな。……まずは、俺とメイデンで、あのホブゴブリンを抑える。その間に、嬢ちゃんは他のゴブリンを殺ってくれ……任せれるか?」
目の前にいるゴブリンの数は、ユウの言った通り5匹。ホブゴブリンが1匹に普通のゴブリンが4匹。シャーマンがいなくてよかったと、胸を撫で下ろしながら頷くエルザ。
「じゃぁ、行くぞ。」
「まってください。」
飛び出そうとするマイケルを慌ててエルザが押しとどめる。
「私が向こうから弓矢で1匹を射ます。お二人はその混乱に乗じて飛び出してください。」
エルザはゴブリンたちの背後の茂みを指さしながらそう告げた。
正直、4匹を相手にするのはつらい。せっかくの奇襲なので、初手で1匹は仕留めたいと思ったのだ。
「あ、あぁそうだな。頼めるか?」
「任せてください。」
エルザはそう言いながら音もたてずに移動する。
所定の位置に着くと、エルザは深呼吸をしてから弓矢を構える。
この矢を放てば戦闘開始だ。飛び出して行って一番近いあのゴブリンに切りかかる。
あの二人がホブゴブリンを抑えてくれるから、その間に残り2匹を仕留めればおしまいだ。
いくらホブゴブリンと言っても3人がかりであれば造作もなく倒せるだろう。
エルザは、再度大きく息を吸い、狙いを定め……矢を放つ。
それが、この後長い時間がかかるゴブリン討伐開始の合図だった。
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ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
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