世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

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フォンブラウ領、反乱!? その1

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「今、領主様の御屋敷で不穏な動きがあるとの情報が入っているのですよ。」
ギルドの受付嬢が、そっと教えてくれた情報によれば、国王の政策に不満を持つ者たちが、国王の弟でもあるフォンブラウ公爵に対し、何かを企てている節があるというのだ。
特に、今夜行われる園遊会が怪しいという。

一応、冒険者ギルドは、各国にあるが中立の立場と言う関係上、その国への内政不干渉を貫いているため、領主や国王と言えども、得た情報をリークすることは出来ない。
ただ、あくまでも建前であって、その地の領主や国王の人柄などによっては、こっそりと裏から情報を流したり、このように関係のある冒険者に情報を与えたりして、伝わる様にしていたりする。
「ありがとう。気を付けることにするわ。」
エルザはそう言いながらギルドを後にすることにした。
まだ天井に突き刺さっている男を、助けようと必死な集団と、楽しそうに盛り上がっている酒場の集団が、非常に対照的なのが心に残った。


「どこ行くの?」
「ん、服飾屋さん。」
「何で?」
「ユウのドレスを買いに。」
「なんで? 」
「今夜の領主様の園遊会に忍び込むためよ。……なんか嫌な予感がするのよ。」

エルザの『いやな予感』はよく当たる。正確に言えば、「嫌な予感」というより「~しなければならない」という焦燥感にかられると言った方が正しく、エルザが冒険者として旅に出なければ、と思い立ったのもそのせいだった。
神殿にいた神官長は、それは『神託』の一種だろうというのだが、『神託』であるのならもっとはっきりと伝えて欲しいと不満に思うエルザだったりする。

「ドレスならあるよ?」
「あるの?何で持ってるの?」
「昔、シルヴィにもらった。……結局着る機会はなかったけど。」
「……じゃぁ、それ着よっか。宿に戻ろ。」
エルザはしんみりというユウの手を握り、宿への道をゆっくりと歩く。
「シルヴィはね、私に誕生パーティに出て欲しいって言ってたの。だけど、結局そのパーティが開かれることがなかったの……私が滅茶滅茶にしたから。」
「うん、でもシルヴィさんは怒ってないと思うよ。」
「……なんでエルにそんなことがわかるの?」
「わかるよ。だって今の時代にまで『暁の聖女神様マリア・シルヴィア』のお言葉が残ってるんだもの。」
「シルヴィの言葉?」
「うん、シルヴィア様はね、こうお言葉を残してるの……。」

『世界に残された人々よ。この前人未到の大災害は、確かに宵闇の女神ユースティアによって引き起こされた。しかし、原因はユースティアにはなく、人々の欲の深さがもたらしたものだという事を覚えておいて欲しい。あの子が……あの優しかったユースティアがなぜ怒ったのか?あの慈悲深いユースティアをあれだけ怒らせたのは何だったのか?そして、世界が滅亡の危機に瀕していて、それでもなお自分たちが生きている意味を、よく考えて欲しい。私はこの後、しばしの眠りにつきますが、目覚めた後、同じ過ちを犯していないことを切に願っています。』

「……シルヴィそんなこと言ってたんだ。それより、そんな昔の言葉が残ってるのってすごい。」
「うん、この国の最高神殿の奥深くで発見されたの。当時は、まだ古代語が読める神官が多くいたし、一緒に発見された代々の聖女様の記録からも、そのことが記載されていたから、本物だと認定されたのね。解読されてからは、各地の神殿に代々伝わる様になってるのよ。」
「そうなんだ……でも、シルヴィが聖女神って……ぷっ。」
ユウは何かを思い出したかのように噴き出す。
小さく笑いながら、昔を思い出しているユウを優しく見守るエルザ。
きっと暁の

女神さまも、ユウのこんな顔が好きだったんだろうなと思う。
ユウには笑っていて欲しい、シルヴィアが常にそう思っていたという事を、何故だかエルザにはわかる気がした。



……これは想定外だった。
エルザは困っていた。
園遊会に紛れ込むため、目立たないようにと正装をして忍び込んだまでは良かったのだが……。

「見かけない顔ですが、どちらのお嬢様で?よろしければ私と一曲……。」
ユウの周りに群がる長蛇の列。
先程から、男たちがひっきりなしに声をかけてきているのだ。
そしてその様子を遠巻きに眺める女たち。
嫌でも噂が広がってしまうだろう。
ちなみに、群がる男たちに対して、ユウは艶やかな微笑み一つで誘いを躱している。

光の加減で、銀色にも金色にも見える謎素材のドレスは、見たこともないデザインだがユウによく似合っている。まるでユウの為だけにあつらえたと言っても過言ではない。
実際、当時、大国の姫であるシルヴィアが、金と時間に糸目をつけず、ユースティアに似合うものを、と、あらゆる伝手を使い、最高の素材、最高の品質、最高の技術で作らせたものであるからして、ユウに似合わないわけがなかった。
その見たこともない神秘的ともいえる不思議なデザイン、ユウの謎めいた微笑み、艶やかな姿などが相まって、聖女か舞い降りた女神か、という感じで、躱されても躱されても誘いが後を絶たないのである。

……普段は、寝坊助で物臭で引き籠るのが大好きだって言っても、誰も信じないよねぇ。
エルザは何も言えず、広間の壁際で、そっとユウを眺めていた。
すると、ユウが静々と近寄ってくる。
「どうしたの?1曲ぐらい踊ってきてもいいのよ。」
「嫌。踊るならエルと。」
「えっと、それは……。」
ユウとダンス……ちょっと楽しそう、と一瞬考えるが、慌てて頭を振る。
今日はそんなことをしに来たのではないのだ。
ユウが男性貴族たちにモテるのであれば、そこからさり気なく情報を引き出してほしいところだけど……。
「どうでもいいけど、少し変。」
「変って?」
「エルは感じない?場の雰囲気。」
「場の雰囲気って言われても……。」
エルザはあたりを見回すが、おかしいと思えるところは見当たらない。
しいて言えば、護衛の兵士が物々しい感じがするぐらいだが、こういう社交界での経験がないエルザは、それなりの貴族が大勢いるから、護衛も多いののだろう、という位にしか考えていなかった。

「こういう場では、そろそろホストが出てくるもの。なのにホストどころか代理の者も近くにいない。」
「そう言うものなの?」
エルザはもう一度周りを見回す。
今日のホストと言えば、当然ご領主様だ。
しかし、ご領主夫妻はおろか、代理を務める息子も、その場を取りまとめる執事も、その場の安全を確保する近衛騎士もいない。
言われてみれば確かにおかしかった。
「ユウ、一緒に来て。」
不意にエルザの頭の中に警鐘が鳴る。
急がなければならないと焦燥にかられる。
エルザは、広間を出て、中庭に出ると、ドレスを脱ぎ捨て、いつもの装備へと着替える。
そのまま中庭の奥へと走り出すエルザ。
中ほどの少し陰になるところに大きな木が植えてある。
「よかった。あのままだわ。」
エルザはジャンプして樹の上へと駆け上がる。
その後を何も言わずについていくユウ。

普通であれば、この樹を登るのにそれなりの時間を要するものだが、二人の装備にかけてある身体強化の効果によって、今の二人ならこれぐらいは軽いものだった。

「うん、大丈夫ね。」
エルザは、窓の下まで伸びた枝を伝って、2階のバルコニーへ降り立つ。
このバルコニーの向こうの部屋は使われていない物置と化しているのをエルザは知っていた。
そして、一見厳重にロックが掛かっているように見える窓が、その実、ちょっとした細工で簡単に開くことも……。
「ユウ、行くよ。」
エルザは、窓際で、ごそごそしてたかと思うと、難なく窓を開け、そのまま室内へと身を躍らす。ユウも何も言わずに後をついていく。
「ご領主様の部屋はここをまっすぐ行った突き当りの階段の上よ。」
エルザは、音もたてずに走りながら、後に続くユウにそう告げた。

◇ ◇ ◇

「ぐっ……ムっ……。」
ベッドの上に横たわる壮年の男性。鍛え抜かれ、幾多の修羅場を潜り抜けてきた精悍な顔も、今では蒼褪め、やつれて普段の見る影もない。
ベッドを取り囲むようにして見守る数人の人々の顔は憔悴しきっていた。
「旦那様、これを……きっと助かりますぞ。」
初老の男性が、小瓶の口を、ベッドの上の男性の口元まで持っていく。
飲み干す力もないのか、大半を零しながら、それでも喉が、ゴクゴクと動くのを見て、少しだけ空気が弛緩する。
「今、主治医が解毒薬を作成しております。今しばらく頑張って下され。」
「そ……うか……、手間……を……か……け……る。」
ベッドの上の男は、途切れ途切れに話し出す。
「旦那様、無理をせず、今は安静にして下され。すぐに良くなります。」
初老の男はそう言うが、ベッドの上の男性の命の灯があとわずかであることは、誰の目にも明らかだった。
「よ……い……。エト……ルシャ……ンは……いる……か?」
「ハイ、父上、ここに。」
エトルシャンと呼ばれた若者は、枕元に駆け寄り、父の手を握る。
「俺の……亡き……後……は、領地の……事は……グフッ。」
「父上っ!」
「領地の……ミリィの……知恵……を借り……よ。オルドの……力……に……頼れ。……シュゲイ……ルの……忠告……に……耳を……傾け……よ。……ゴフッ、ゴフッ……。」
「父上っ、わかりましたからもう喋らないでくださいっ!」
「ゴフッ……人は……一人では何も……できん。……しか……し、……力を……借り、……まと……め……上げ……る……ことが……。」
そこまで言って、男は意識を失う。
「父上ぇぇぇ~~~~!」
「早くポーションをっ!」

泣きすがる若者、慌てふためく周りのもの達を押しのけ、妙齢の女性が、侍女に支えられながら、男の眠るベッドへ近づく。
「あなた………まだ早いですわよ。」
女性は男の手を握り、祈りを込める。
女性の手から、淡い光が溢れ、男の身体の中へ吸い込まれていく。
「……ミ……リィ……。そこ……に……居……るの……か……。」
「えぇ、あなた。私はここにいますよ。」
「エル……リー……ゼに……すまぬ……と……。」
「嫌です。……御自分でお伝え下さいませ。」
ミリィと呼ばれた女性の頬を涙が伝い、こぼれ落ちる。
「ミリィ……愛して……いる……。」
男の身体から急速に力が抜けていく。
「イヤっ!あなたっ、あなたっ!………エメルッ!」
必至に体を揺さぶるミリィ。しかし男の身体はそれに応えることはない。

「ふふふっ、誠に痛ましい限りですが、これからは、この私……ぶっ!」
バタンッ!
扉が大きく放たれ、何かを言い掛けていた男が挟まれつぶされる。
「させないっ!女神の奇跡を……ヒール!」
飛び込んできた少女が癒しの魔法を放つ。

「エル………リーゼ………様?」
少女の姿を見た初老の執事がそうつぶやくのだった。
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