世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

Red

文字の大きさ
40 / 88

引きこもり聖女の学園生活 その1

しおりを挟む
「むぅ……。」
「むぅ、じゃないの、早く起きて。」
エルザはベッドでぐずるユウを引っ張り起こす。
「エルたん、ひどぃ……。」
「酷くないっ!今日から学園に行くって言ってるでしょ。」
「……行ってらっしゃい。そしておやすみなさい。」
そう言ってベッドに潜ろうとするユウをエルザは引っ張り出す。
「ユウも行くのよ。ほら、早く着替えて。」
「むぅ~~。」
ユウは渋々と顔を洗い朝の身支度を始める。
その間にエルザは身の回りのものを整理する。

学園生は基本的に寮生活が義務付けられている。
とはいうものの、エルザたちが所属する冒険者課程は、色々な諸事情が絡み合っているため、寮生活の義務から外れている。
だからといって寮に住めないわけではないので、エルザとユウは今日から寮に入ることになっていた。

「えっと、ユウ、何してるの?」
いつの間にか身支度を終えたユウが、背後からエルザの髪を弄っている。
「ん、エルたん学園デビューにふさわしい髪形を……。」
「もぅ、それはユウの方でしょうが。」
エルザは作業の手を止めて、ユウを鏡の前に座らせる。
そして手際よくユウの髪を結いあげていった。
「ハイできた。」
「むぅ……可愛い。」
「ん、とっても可愛いわよ。」
エルザはそう言いながら自分の髪も手早くまとめる。
「エルたんのポニテ……きゃわわ。是非これをつけて。」
エルザの髪形を見たユウが、そんなことを言って大きなリボンを取り出す。
「つけてって、ちょっと大きくない?……まいっか。」
ユウの真剣な眼差しに、余計な事を言うのを諦めたエルザは、言われるがままにリボンをつける。
鏡で見ると、やはりリボンが大きいと思うが、似合わなくもないので満足する。
「さぁ、そろそろ行くわよ。」
身支度を終えた後、最後の片づけを手早く終えて、エルザはユウの手を引きながら宿を出る。

「むぅ……学園、面倒。」
学園へ行く道すがら、そんなことを言い出すユウ。
「面倒って言っても仕方がないでしょ。一応王様からの依頼なんだから。」
「依頼?どんなの?」
「あー、そう言えばユウには説明してなかったっけ?」
エルザが国王に会いに行ったとき、ユウはいつものように『面倒』の一言で宿に引き籠っていたことを思い出す。
最も、その後しばらくエルザも引き籠っていた事実があるので、あまりユウの事を責めることが出来ないのだが。
「えっとね、ん~、どこから話せばいいのかなぁ。」
エルザは国王との話を思い出しながら、ユウへどう説明すればいいかを考える。
「面倒だから結論だけ。」
「もぅ、ユウったら。……結論だけ言えば、私たちはある男の子と仲良くなるのよ。」
エルザがそう言った途端、周りの気温が急激に下がる。
「それが国王の命令?」
「えっと、命令じゃなくて依頼ね。」
「どっちでも同じ。私がいるのにエルたんに男を近づける?」
「えっと、ちょっと、ユウ……。」
「エルたん、依頼者が居なくなれば依頼は無効だよね?」
「そうだけど……って待ってっ!どこ行くの、何する気?」
「国王を消してくる。依頼者が居なくなれば問題ない。」
「問題あるからっ!とにかく落ち着いてっ!」
エルザはユウを羽交い絞めにしながらユウを宥める。
結局、荒ぶるユウを落ち着かせ、宥めるために、往来でキスをする羽目になったが、まぁ、国が亡ぶよりはマシだろう、と無理やり納得するのだった。

「とにかく、ちゃんと説明するから落ち着いて聞いてね。」
学園内にあるカフェテラスで、ユウにスイーツを食べさせながら説明を始めるエルザ。
「えっと、ユウは『テンイシャ』って聞いたことある?」
「テンイシャ?なにそれ?美味しいの?」
「多分美味しくないと思うけど……。」

遥かな昔、魔王が現れ、眷属である魔族と共に世界を荒らし、猛威を振るっていた時代があった。
人々は、当然魔王打倒のために戦ったが、魔王どころか、魔族にさえ敵わず、恐怖におびえながらひっそりと暮らす日々が続いた。
そんなある日、どこからともなく『勇者』を名乗るものが現れる。
『勇者』は打倒魔王を掲げ、志を同じくする勇気ある者達を集め、仲間とともに魔王軍へと反旗を翻す。
紆余曲折を経て、勇者が魔王を倒したのは、最初に勇者が現れてから20年がたった頃だった。
その後、勇者はある国の姫を娶り、新たな国を建国したという。
その国が、我が国だという国家が数多く存在するあたり、どこまで本当の話かは分からないが、とにかく、勇者が魔王を倒したという事だけは事実らしい。
そした、魔王が再びこの世に姿を現すと、時を同じくして勇者、もしくはそれに準ずる者が現れ魔王を倒すという事が繰り返されている、と歴史には残されている。

「それでね、国王様……というか、歴史を調べていた魔導師様が言うには、この勇者って言うのは『テンイシャ』じゃないかって言うのよ。」
エルザはそこで一旦言葉を切りユウを見る。
……よかった、起きてる。
「元々ね、『テンイシャ』って言うのは、この世界に迷い込んできた人なんだって。それでね、『テンイシャ』は、『普通の人を凌駕する力がある』『知らない知識を豊富に持っている』『無類の女好き』……っていう共通の特徴があるんだって。勿論個人差はあるらしいんだけどね。」
エルザはそこまで言ってからユウを見てあることに思い当たる。
宮廷魔導師からこの話を聞いてずっと引っかかっていたことだ。
『普通の人を凌駕するような力』を持っていて『知らない知識』があって、トドメに『私に執着してくる』人物にエルザは心当たりがある。

「あのね、その……、ユウって『テンイシャ』なの?」
「エルたんおばか?」
「酷いっ!だって、あてはまるから仕方がないでしょうがっ!きっと国王様たちもそう思ってるよっ。」
思えば、国王様や宮廷魔術師がユウの事について何も言及してこず、そのまま受け入れているような口ぶりがおかしいと思っていた。
話によれば、この国にも過去幾度か『テンイシャ』は現れているという。ユウの事を『テンイシャ』だと思っているのであれば、あの態度も頷ける。

「テンイシャって、つまり『召喚されしもの』の事だよね。」
「召喚されしもの?」
「うん、簡単に言えば、別の世界の力ある存在をこの世界に呼ぶの。それに応えて呼ばれたものが『召喚されしもの』なのよ。研究によれば、世界を渡り、新たな世界へ適応するときの影響で、その世界では過剰なまでの力を有することになるってことなんだけど……。」
「ごめん……、ちょっと、何言ってるかわかんない。」
「あ、うん、エルたんは分からなくていいよ。ちょっと難しかったね。」
「うっ、ユウにバカにされてる。」
いいこいいこ、と、ユウに頭を撫でられながら項垂れるエルザ。

「それで、その『召喚されしもの』が今回の依頼とどう関係があるの?」
ユウはひとしきり頭を撫でて満足したのか、今はパフェと格闘しながら聞いてくる。
「あ、うん。今、魔王が復活しているんじゃないかって噂は知ってる?」
「知らない。興味ない。」
「……だよねぇ。まぁ、とにかく、魔王が復活しているのなら何かの手を打たなければならないの。そして各国で、最近『テンイシャ』と思われる人物の目撃証言も多くなってきているらしいのね。それが魔王が復活している証拠だって言う人も多いの。魔王が復活したから勇者が呼ばれたんだって。」
「ふーん、それで?」
興味なさそうに相槌をうつユウ。ユウの興味は目下、目の前のパフェにしかないらしい。
「この学園にね、『テンイシャ』じゃないかと思われる生徒がいるらしいの。私たちへの依頼は、その男の子に近付いて、『テンイシャ』かどうか探ること。」
「その子が『テンイシャ』だったらどうするの?燃やす?」
「燃やさないよっ!……取り敢えず暫くは様子見かな。その子がこの国に味方してくれるかどうか………。先日もね『テンイシャ』と思われる人物が、その国のお姫様を攫って行ったっていう話が流れてきたからね、もし、国に対して非協力的なら………。」
「燃やす?」
ユウの問いかけに答えることは出来なかった。
そう、非協力的なら、国家のために………。
そこまで考えて、エルザは国王様と会ってからずっと引っかかっていた事の本質に気づく。
国王様やその側近達はユウの特異性を知っている。
超古代文明の生き残りだなんて、普通に考えたら馬鹿らしいと思えることでも『テンイシャ』という存在があるのなら話は違ってくる。
………国王様達は、ユウのことを『テンイシャ』だと思っている。何も言ってこないのは、私が側にいるため?私がいればユウが離れていくことはないと思われている?

何のことはない、ユウに対する監視と重石の役目を知らずの内に負わされていたってことだ。
そして今回の依頼は『テンイシャ』同士を、直接接近させることにより、新たな『テンイシャ』の思惑の確認及び確保、場合によっては排除をしやすくためだと思われる。
エルザは、国王からの依頼を受けた後、なぜあれほどやる気がなくなったのか、その理由をはっきりと自覚した。
全ては、ユウを都合よく利用するため、その為に自分はとても都合がいい、ただそれだけの為……。
無意識にそのことを感じ取ったから、あれだけやる気がそがれ、行動するのが億劫になったのだ。
そして、自覚した今、やる気のパラメーターがどんどん下がっていくのがわかる。

「うん、もうどうでもいいかも……ユウ、この国燃やす?」
「うーん、それがエルたんの希望ならやってあげるけど……いいの?」
突然、落ち込み投げやりになるエルザに、不審げな表情で聞き返すユウ。
「うーん、希望ってわけじゃないけどぉ、ユウのやりたいようにさせてあげたいかなぁって。」
「……エルたん、重症。とりあえず、泊まる場所に移動しよ?」
「あー、うん、寮ね。うん、いこっか。」
エルザはふらふらと立ち上がり、学園の寮に向けて歩き出す。
その後を、心配そうに気遣いながらついていくユウ。

「えっとね、ユウ。色々ゴメンね。この後私を好きにしていいから許してね。」
「……エルたん、ちょっと変。」
「うん、変かも……ごめんね。」
「……とりあえず、寮?でお話聞いてあげるから、そこまで頑張ろ?ねっ。」
ユウは、急に態度がおかしくなったエルザをいたわりながら、寮への道を進むのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...