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引きこもり聖女の学園生活 その2

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「はい、エルたん、ここ座って。これ飲んで。」
学園の寮に着き、部屋を確認して入った後、エルザはユウによってベッドに座らされ、飲み物の入ったカップを手渡される。
エルザは言われるがままに、カップを手に取り、口をつける。
「……美味しぃ。」
「ミモカの葉を煎じたお茶なの……落ち着いた?」
「落ち着いた……けど、落ち着かない。」
「何なの?」
「だって……ユウが、お姉さんみたい……。」
「お姉さんだからね。エルたんが困ってるときぐらいは、ね。」
「……普段からかなり困らされてるんですけど?」
「そんな事より、どうしたの?気になることは全部吐き出すとスッキリするよ。」
エルザが普段の行いについて文句を言うが、ユウは気にしたそぶりもなく、話を変えるかのように聞いてくる。
普段と違って、落ち着きがあり、頼りがいのあるユウの姿と言動に、エルザは、気付けば、今まで感じていたこと、国王や国の思惑についての推測、これからの事に対する不安、ユウへの申し訳なさなどすべてを話していた。

「エルたんは、おバカだねぇ。そんなこと考えていたの?」
「おバカって何よぉ。私はユウの事を思って……。」
「ハイハイ、ありがとうねぇ。でも大丈夫だよ。今に始まった事じゃないし、こう言う事もあろうかと対策も考えてあるしね。」
「対策?」
「ウン、エルたんママにね、お―様や、エルたんパパが考えそうなこと全て伝えてあるし、その対応策も何通りか伝えてあるから。それに何かあれば、エルたん連れて人の手の届かないところに逃げて、魔王にだってなるって脅しておいたから、大抵の事はエルたんママが何とかしてくれるよ。」
「魔王って……。」
……お母様、頑張って。
ユウの無茶ぶりに振り回される母親の姿を想像し、思わず祈らずにはいられないエルザだった。

「それに今回の事だって『召喚されしもの』がいるなら、話を聞いておきたいし、シルヴィの事調べる為にもお―様に話を聞きたいし、丁度いいよ。」
「怒ってないの?」
「怒ってないよ。こんなきゃわわなエルたんも見れたしね。」
そう言ってユウがエルザにのしかかる。
「ちょ、ちょっと、ユウ……。待ってよぉ……。」
「待たない、さっき好きにしていいって言った。」
「言ったけどぉ……ぁん、ダメぇ……。」
獣と化したユウに抗えるわけもなく、エルザはユウが満足するまで弄ばれ、朝になる頃には、色々と考え悩んでいることが馬鹿らしく思えるぐらいには、頭の中がすっきりしていた。


「これからどうするかなんだけど……。」
学園の教室で、エルザはユウに小声で囁く。
ここは、冒険者過程特待生が集められた教室であり、中にはエルザたち以外にも数人が思い思いのグループを作って談笑している。
この中からターゲットとなる『テンイシャ』を探し出し、怪しまれずに接触しなければならないのだ。
「特別コースの人達だけだから人数が絞れているのはいいんだけどね……。」
エルザは周りをそっと伺いながら小さくため息をつく。

冒険者過程には、一般コースと特別コースの二つのコースに分かれている。
一般コースは、幼年クラスから、そのまま冒険者を目指す生徒が、通常の一般教育と並行して冒険者になる為の知識や技術を1から覚えていくもので、初等部を卒業する頃には冒険者見習いとして実践も経験し、中等部卒業時にEランク冒険者として認められることになっている。
成績が良く、在学中に実績を残した者は特別にDランク冒険者と認められる事例もあり、冒険者を目指す子供たちの目標となっている。
通常100人位在籍している冒険者過程だが、その内の殆どは、この一般コースの生徒だ。

対して、エルザたちの属する特別コースは、すでに冒険者登録をしているものの、現在のランクに合わないとされる者達……例えば傭兵経験者などは、戦闘経験だけ見ればCランク並の実力があるのに、ギルドの規定でFランクから始めているとか、冒険者登録をしてそれ程経験がないにもかかわらず、上位ランク並みの実績を上げ、しかし、規定によりランクを上げることが出来ず下位ランクに収まっている者などを救済するために作られたコースであり、ここでは、各自の足りない経験や知識を適正なランク相当まで詰め込み、卒業時に、見合ったランクに昇格させる。
ユウもエルザも現在個人ランクはDランク、パーティーランクとしては実績も足りずEランクではあるが、今までの経歴から考えれば個人・パーティ共にCランク以上あってもおかしくはない実力を備えるまでになっている。
それは、ギルドマスターも認める所で、半年後、無事卒業出来たらCランクに昇格することになっている。

この教室にいる者達はそんな事情を抱えている者がほとんどであり、当然のことながらそれ程数が多いわけでもなく、今この場にいない生徒を合わせても、20人に満たないと聞いている。
「この中から探すのって大変そうね。」
エルザは改めて周りを見てみる。
みんな何気なさを装いながら談笑してはいるが、実戦を経験している者ばかりなので、その姿に隙は伺えず、逆に周りの実力を推し量っている様子がうかがえる。

そんな中、一際異彩を放つのが、エルザたちから離れた場所、教室の片隅でポツンと座っている一人の男子生徒だ。
殺気から見ていると、彼は、周りに知り合いがいないらしく、誰かに話しかけようとして、機会を逃しては落ち込み、しばらくして立ち直り、再度チャレンジをしては失敗し、また落ち込む、という事を繰り返していた。

その様子は珍しいものでもないが、エルザが気になったのは、彼から実戦を経験したという雰囲気が全く感じられないのである。
人は誰であれ、自身の経験したことを元に成長していくため、その挙動にはどこかしら、そういう経験をもとにしたものになるのが普通である。
現に、教室内にいる傭兵上がりと思われる男からは、荒くれ者の多い傭兵の中で生き抜いてきた者らしく、周りを威圧する雰囲気が出ているし、その横でそっと気配を薄くしている者は、レンジャーか探索者の経験があると思われる。
彼らに代表されるように、長年身に着いた習性というものは、隠すと隠さないとかいう以前に自然にその身について回るものだ。
もちろん、熟練のものであれば、そういう気配をうまく隠蔽したり、逆に偽装して誤魔化したりするのだが、それほどの熟練者であればそもそもこんな所にはいない。

そして、件の男子生徒からは、そう言う実践経験からくる所作というものが全く感じられないのだ。それどころか、この世界に住むものなら誰でも持っている警戒心というべきものすら持っていないように見える。つまりは、あまりにも無防備なのだ。
無防備すぎて、逆に何かの罠なのでは?とさえ思うほどだ。
実際に、教室内の何人かは、その男の様子をさり気なく監視していたりする。

「ねぇ、ユウ……。」
「うん、間違いないよ。」
「そっか……。」
ユウも何が言いたいのかわかっていたらしく、それだけの会話で事足りる。
ユウが間違いないと断言するからには、本当に間違いないのだろう。彼が『テンイシャ』だ。
それが分かったところで、もう一つの問題が浮かび上がる。
すなわち「どう接触するか?」という事だ。
彼と自分達では全く接点がない。だからこそいきなり話しかけるのは不自然だし、そもそも何と言って声をかけていいのかもわからない。
さらに言えば、こういう事に関してユウに意見を求めるのは間違っている。

「誰か気になるのかにゃぁ?」
エリザがどう声を掛けようか迷っていると、いきなり後ろから抱き着かれる。
「むぅ、エルたんから離れる。」
抱き着いてきた女生徒を引き剥がそうとするユウ。
「キミも可愛いねぇ。」
エルザに抱き着いてきた女生徒は、ユウを見るなり、エルザから離れてユウを抱きしめる。
「むぅ、離す。」
ジタバタともがくユウだが、女生徒は巧妙にその力を逸らしながらユウを抱きしめ、頬ずりをする。
「えっと、誰?」
ユウを女生徒から引き離しながら訊ねる。
拘束から逃れたユウは、エルザの背中に隠れ、少しだけ顔を出して『シャー!』と威嚇している。
「あ、ごめん、ごめん。私はミヤコ。あなた達が彼の方をずっと見てたからね、恋バナでも聞けるかなぁって思って。」
ミヤコと名乗った少女は、明るい声でそう言う。
「恋バナって、そんなんじゃないしっ。」
「そう?その割には、何か熱心に見つめていたよね?」
ミヤコの眼が細くなる……こちらの真意を探るような目だ。
「あっと、呼ばれてるから、またあとでね。」
ミヤコはふいに視線を逸らすと、奥の方で手を上げているクラスメイトの方に知ってしまう。
「……エルたん、あの娘もそう。」
「ウソっ、ホントに?」
エルザは思わず声を上げ、クラスメイトと何やら楽しげに話すミヤコの姿をマジマジと見つめる。
肩のあたりまで伸ばしている、軽くウェーブのかかったストロベリーブロンドの髪。
少し大きめのクリっとした瞳の色は薄いダークブラウン。
小顔で年相応の幼さと大人っぽさが同居したような顔立ちは、10人いれば8人は「可愛い」と評するであろう。
背丈はユウやエルザより少し高いぐらいだが、胸の大きさはエルザと同じぐらい。
比率の関係でエルザの方がやや大きく見える、といった感じだ。
外見上からは、まったくわからない……そもそも『彼』の方も外見からは何の情報も得ることは出来なかったので、見た目で判断は出来ないという事だろう。

「ねぇ、ユウはなんでわかるの?」
漏れ聞こえてくる会話の内容や、仕草にも不審なところはなく、彼女が『テンイシャ』だと言われてもにわかに信じがたい。
「魔力の流れが異質。」
ユウは一言そう答える。
この世界に召喚される者の殆どは元々魔力を持っていないそうで、魔力はこの世界に馴染むために後付けで無理やり得るそうなのだ。
だから、この世界の人間とは違って、どこか不自然な流れになるのだと、ユウが説明してくれる。
「魔力の流れね……。」
そうは言われても、その流れを見ることのできないエルザには今ひとつピンとこない。
だが、ユウがいい加減な事を言うわけもなく、ユウがミヤコの事を『テンイシャ』だというのであれば、それは間違いないのだろう。
しかし、国王様はテンイシャが二人もいるという事は言ってなかった。
ミヤコの事はすでに把握しているのか、又は国王様たちも気づいていないのか……。
状況が判らない今、下手な報告も出来ないと思うエルザだった。

「ん-、とりあえず『彼』の事は置いといて、まずはミヤコに近づくべきかな?」
「ん、その方がいい。エルたんに男は近づけさせない。」
「女の子だったらいいのかなぁ?」
突然背後から声がして、抱きしめられるエルザ。
抱きしめているのはミヤコだ。
「ダメに決まってるでしょ!」
……ウソっ、全然気配しなかったよ。
平静を装いながら、ミヤコの拘束を振りほどいて向かい合う。
「あなたさっきまで向こうにいなかった?」
「ん、いたよ。でも何か気になってねー……ってキャッ!」
平然と言うミヤコだったが、いきなり悲鳴を上げる。
見るといつの間にか背後に回っていたユウがミヤコの胸を揉みしだいている。
「ん、一応合格。」
「合格って何がっ!」
ユウの魔の手から逃れ、両腕で胸元を隠すようにしているミヤコが涙目で叫ぶ。
「エルたんに近づくなら嫁2号。」
「何わけわからないこと言ってるのよっ。」
「エルたんに触っていいのは、触られる覚悟のあるものだけ。」
ユウが何やらかっこいい事を言っているが、ダメだからね。誰も許可なく触っちゃダメだからね。
このままでは収拾がつかなくなると思ったエルザは、睨み合う二人の間に割り込み、ミヤコに声をかける。
「あ、あはっ、ユウがゴメンねぇ。お詫びに夕食に招待したいんだけど、どう?お互いに色々話し合えば、誤解も解けて仲良くなれると思うの。」
「夕食?そうねぇ……。」
エルザを見るミヤコの眼が、光の加減か、一瞬金色に輝いているように見えた。
「うん、早い方がいいかもね。夕食って事なら私の部屋においでよ。せっかくだから美味しいものご馳走するよ。」
「美味しいもの!?行く。」
美味しいものという言葉につられて、ユウが即座に快諾する。
こうなればエルザに断るという選択肢はない。
どちらにしても深い話をするつもりだったので、慣れた彼女の部屋の方が、彼女も安心できるだろう。

「決まりね。じゃぁ、夕方、待ってるからね。」
ミヤコが部屋の場所を記したメモを渡すと同時に教師が入ってくる。
同時に騒めいていた室内も静まり返る。
今日は学園一日目という事もあって、授業はない。
明日以降の事についての説明を教師がしていくのだが、エルザの頭の中は、ミヤコの事で一杯で、教師の説明する内容は何一つとして入ってこなかった。

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