世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

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引きこもり聖女と新居 その5

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キィン!ブンッ!ブンッ!ガスッ!
「グゥ……ガツ……。」
倒れたコボルトの胸に剣を突き刺すと、コボルトの身体から力が抜ける。
「ご主人様、お疲れ様です。」
物陰に隠れていたモエナが、素早く寄ってきて、倒れたコボルトの解体を始める。
とはいっても、コボルトから取れる素材は牙と爪と毛皮ぐらいなもので、程度がよくても銅貨3~7枚程度にしかならない。

カズトは解体をモエナに任すと、コボルトの持っていた装備の確認をする。
コボルトの装備の殆どは、汚れた布に、こん棒か、壊れかけのナイフもしくは片手剣だ。これらを持って帰っても銅貨1枚にもならない。
ただ稀に「コボルトナイフ」と呼ばれる武器を所持していることがある。
とはいっても二束三文の品ではあるが、まともに使えるだけ、手に入れておいて損はない品である。
そして、このコボルトナイフを収集しているマニアというものがいて、たまに、コボルトナイフの納品という依頼もあったりするので、その時の為に集めている。
現在12本のコボルトナイフを手に入れており、今モエナが解体に使っているのもそのうちの一つだったりする。

モエナを手に言れてから1週間。
今のところ何一つ問題なく過ごすことが出来ていた。
一つ問題を上げるとするならば、髭の小鹿亭の看板娘、ソニアの態度が少しよそよそしくなったことぐらいだろうか?

当初は緊張のあまり、会話すらままならなかったモエナも、最近ようやく慣れてきて、普通の会話が成り立つようになってきていた。
迷宮でも、コボルトやゴブリンといったなるべく弱い魔物、それも1匹のみに狙いを定め、カズトが剣を振り回して倒すことを繰り返して、順調に経験を積んでいる。
運悪く2匹の魔物と遭遇した時には、モエナが盾を構え、ひたすら防御に徹している間に、カズトがもう1匹を倒し、即座にモエナの下に駆け付けるようになっている。
そして3匹以上の時は、迷わず一目散に逃げだすのだ。
こうして1日の大半を迷宮で過ごしているうちに、余裕とまでは行かないが、何とか怪我を負わずに倒せる程度には戦闘も慣れてきた。

そう、カズトたちはこの1週間の殆どを迷宮内で過ごしていた。
朝起きて朝食を取った後、すぐに迷宮に潜り、アイテムなどが一杯になるころ、一度外に出て換金してから食事休憩を取る。
一息入れた後、再び迷宮に潜り、夕刻まで迷宮の探索を続ける。
その後は、ギルドにてその日の成果の記録をしてもらった後、宿に戻って食事して寝る。
ひたすらその繰り返しだった。

なぜそこまでして迷宮に潜り続けているのか?
モエナを買ったおかげで所持金が心許なく、稼がなければならないという切実な事情もあるのだが、それ以上に、カズトがモエナと二人っきりでどう接すればいいのか分らない、というのが一番の理由だった。

その点、迷宮の中であれば「大丈夫か?」「疲れてないか?」「そっちは気を付けて」など、必要最低限の事務的な会話だけで済むし、戦闘が始まれば、余計なことなど考えている暇もない。
だからカズトでも、普通に行動できている(と、本人だけが思っている)というわけだ。
そして何より、モエナを買った一番の理由は、ハーレムの一人目として、えっちぃ行為に及ぶためだったのだが、DTを拗らせているカズトなだけに、どう行動していいかわからず、「迷宮探索で疲れた」と自らに言い訳をしている……つまりヘタれているのだ。

「モエナ、そっちはどうだ?」
「ハイ、ご主人様。解体終わりました。魔石も少し大きかったですよ。」
「そうか。少し早いが今日は切り上げよう。最近少しハードだったから少しは休まないとな。」
カズトはそう言いながら、迷宮の出口に向かって歩き出す。

……今日こそは、ヤるぞ。今夜をもって脱DTするんだ。
カズトはついに実行に移すんだ、と、朝からの決意が鈍らないように、ぐっとこぶしを握り締める。
思えば、この2~3日は、そのことばかり考え、いざと言う段階でヘタレて寝たふりをする、という事が続いていた。
だから今夜こそは必ず決める、と息巻いていた。
何といってもカズトには秘策があった。これで決めなきゃ男じゃねぇ、と、決意も新たにカズトは迷宮を抜け出したのだった。

「えっと、これでいいでしょうか?」
「ん、まぁこれくらいあればいいだろ。」
「でもどうして食料を?宿で食事出ますよね?」
モエナが、買い込んだ食料を見ながら首を傾げる。
「まぁ、そうなんだが。何というか……、モエナが1週間頑張ってくれただろ?だから俺たち二人っきりでささやかながらにもパーティを……って思ったんだが、いやか?」
「いえ、嬉しいです。ありがとうございます。」
モエナは目に涙を浮かべながら笑顔を向けてくれる。
その純粋な笑顔を見てカズトの心がチクリと痛む。

モエナに行ったことは間違いではない。
だが、一番の目的は、モエナに酒を飲まし酔わすことであり、自分自身も酒を飲んで勢いをつけようというものだ。
酒の勢いを借りて、そのまま行為にもつれ込もうと考えているので、外での食事は都合が悪いため、食料を買い込んで部屋でパーティーを、と考えたのである。

そんなカズトのゲスい考えを知らないモエナは、笑顔を振りまきながら、他愛の無い話をカズトに振ってくる。
いつもは、もう少しおどおどしている感じなのだが、今日はそれがない。それほど嬉しかったのだろう。
モエナが喜んでくれて嬉しい、と、カズトも笑顔を返すのだった。

◇ ◇ ◇

「……ねぇ、で結局私らはいつまで、あんたののろけを聞いていればいいわけ?」
ミヤコが冷たい視線で、カズトを見る。
「あ、いや、のろけというわけじゃなくて……。」
「エロリ。」
あたふたするカズトにユウが一言突き刺す。
「いや、モエナは3つしか年が違わなくて、……そもそも何もしてないんだぞ。」
「ふっ、ヘタレのDT。」
「うぉいっ!言ってはならぬことをっ!」
心を抉る言葉を投げかけるユウに対し、拳に魔力を纏わせるカズト。
「いい加減にしなさい!」
しかし、ミヤコにフライパンで頭を叩かれ、、集めた魔力が霧散する。
「それで?アンタの脱DT話が聞きたいんじゃないわよ。」
「いや、だからな、……できなかったんだよ。」
「はぁ?」
「だから出来なかったのっ!してないのっ!」
カズトが心の奥底から絞り出すように告げる。
「くっそぉ、なんでなんだよぉ……。」

カズトがその後、ぽつぽつと話した内容を繋ぎ合わせるとこういう事らしい。
酒の勢いを借りてモエナに迫ったカズトだが、モエナに抵抗され、酒が入っていたせいで判断力が鈍っていたカズトは奴隷に対して強制命令を告げる。
つまり、抵抗せずに大人しく受け入れろ、と。
しかし、モエナはその命令に必死に抵抗し大声を上げ、何事かと、飛び込んできた宿の主人によって捕らえられ衛兵へと突き出された。
そして、訳が判らないまま、王都へと連行され、何故か判らないが、学園へと放り込まれた、という事だった。

「あんたアホ?」
「何でだよっ。大体、奴隷は主人の命令に逆らえないんじゃないのか?」
ミヤコの蔑んだ目にひるむことなく睨み返しながらカズトが言う。
「そんなこと私が知るわけないじゃない。……どうなの?」
ミヤコは、こめかみを抑えているエルザに視線を向ける。
「あ、うん、なんかね、今の話で、色んなことが繋がった気がするわ。」
「どういうこと?」
「うん、まぁ、後で説明するけど、取り敢えず今の話から分かったことは、まず、そのモエナちゃんは一般奴隷だから、カズトが捕まるのは当然ってこと。」
「「一般奴隷?」」
ミヤコとカズトが口をそろえて聞き返してくる。
「あ、うん、犯罪奴隷や裏で取引される闇奴隷以外は、普通、そう呼ばれてるけど……。異世界の……っていうか、ミヤコたちの世界の奴隷制度って、今のカズトが言った感じなの?人権も考慮せず、家畜のように扱っているの?」
「あー、うん。実はよく知らない。私たちの世界に奴隷制度ってすでに廃れていて、昔はそういう事もあったって聞いたぐらいで。」

ミヤコの答えを聞いてエルザは少し考えてから、この世界の奴隷について説明を始める。
「えっとね、多分この世界の奴隷ってミヤコやカズトが考えているのと違うと思うのよ。奴隷になるのは、基本態には食べていけなくなって、親に売られた子供や、自らの身体を差し出して対価を得る人たちなんだけど、一応その人権は保障されているの。奴隷を買った人は、奴隷の衣食住や健康管理の義務が課せられているから、むやみやたらと虐待みたいなこと出来ないのよ。」
ここまでは分かる?と二人に確認すると、二人はコクコクと頷く。
「それに犯罪奴隷じゃない限り、奴隷契約時に出来る事、出来ない事の契約が交わされるのよ。出来る事が多い奴隷程付加価値も高く、買い手も多くつくわ。」
「出来ない事?」
「そう、今回のカズトの話の場合だと、夜のご奉仕についてがそれにあたるわ。
勿論、そう言う事もOKというのであれば買い手もつきやすいけど、当然価格も高くなる。逆にNGだと中々買ってもらえなくなるけど、それ以外の付加価値があれば問題ないわ。その上相応の合意がない限り、そう言うことは出来ない、主人が無理やり迫ってきた場合も拒否権があり、訴えることも出来るってわけ。だから、まだそういう事に慣れてなく、他のスキルに自信があればNGにする奴隷も多いのよ。」

「そうなんだねぇ。」
エルザの説明を聞いて、ミヤコは納得したように頷くが、カズトは逆に憤慨する。
「なんだよそれっ!聞いてないぞ。」
「聞いてないって言っても、契約躱したんでしょ?契約書にちゃんと記載されていたはずよ。だからモエナちゃんが拒否するのは当然だし、それを無視して無理やり迫ったカズトは捕まった。」
「ふーん、でも、よくカズトが無事でいたよね?犯罪なんでしょ?」
カズトがショックを受けて落ち込んでいるのを無視して、ミヤコが疑問を口にする。
「ウン、まぁ、運がよかったというのもなんだけど、カズトが奴隷に無理やり迫ったのが幸いしたんだと思うの。」
「どういうこと?」
「あのね、さっき説明したことは、子供でも当たり前のように知っている事なの。だからたとえ奴隷といえども、その意思を無視して迫ることは犯罪……むしろ、相手が主人に逆らえない奴隷だからこそ、重度の強姦罪とされるのよ。だから普通ならそんな事はしない。ましてや町中の宿屋でなんかでは特にね。だけど、もし、その行為に及ぼうとしたものが、その事を知らなければ?」
「誰もが知っている犯罪行為を知らずにする人がいるの?」
「いるでしょ?」
そう言ってカズトを指さすエルザ。

「実はね、昔からたまにそういう犯罪を犯すものがたまにいるのよ。そして捕らえて調べると、そのすべてが……。」
「転移者……って事ね。」
「そう、何故か、異世界のテンイシャの男性は、奴隷の女性を買って、そういう行為に及びたがるのが多いらしいのよ。だから、カズトの行いが、きっと王宮に届いて、様子を見るために学園に入れて、その監視に私が選ばれた……って事ね。」
「成程、運がよかったのね。」
「そうね、国が他の街まで捜索の手を伸ばしていたのがよかったと思うのよ。」
「捜索?」
「ウン、「勇者」の捜索。少し前にね北方の国が魔族によって王都を乗っ取られたって事件があったの。その後何とか取り返したらしいんだけど、当時の王様は戦死、お妃さまと王女様は魔族に捕らえられて行方知れず、唯一の跡継ぎの王子さまは戦後のゴタゴタで幽閉されているんだって。この事件の裏に、魔王復活が絡んでいるんじゃないかって話なの。」
「へぇ~。魔王の復活ねぇ。だから勇者なの?」
「そう、実は『魔王』も「勇者」も異世界からの転移者じゃないかっていう説があってね、魔王が転移してきているのなら勇者も転移してきているっていうのよ。」
「カズトが勇者ぁ?」
ミヤコがカズトを見て、手と首を振る。」
「ないわ~。」
「ないわ~」
ユウがその真似をする。

「まぁ、勇者が性犯罪者なんてレッテルを張るわけにもいかないから、その場で断罪せずに王都に連れてこられたのよ。でも……。」
まぁまぁ、とエルザはミヤコ達を宥め、そしてカズトに視線を向けると、静かに問いかける。
「ねぇ、何であなた達はみんな奴隷の女の子を買ってえっちぃ事しようとするの?娼館じゃダメなの?」
「うっ、それは……。」
「こいつらがみんなヘタレだからよ。」
口ごもるカズトの代わりにミヤコが答える。
「まともに女の子を口説く勇気もないくせに、プライドだけは立派。だから自分が絶対に優位に立てる相手、自分に絶対に逆らえない相手……つまり奴隷相手じゃないとそう言うことが出来ないってわけ。」
「クッ、うるせぇなぁっ!ヘタレで悪かったなっ!どうで俺がDTだからってバカにしてんだろっ!だから女ってやつは。」
カズトが突然立ち上がり叫びだす。

「ん、これアゲル。」
そんなカズトにユウが銀貨を数枚渡す。
「ん?なんだこれ。」
「この試験終わったら、そのお金で娼館行くといい。エルたんの側に置いとくと危ない。」
「クッ、バカにしやがってッ!」
カズトが魔導機械の方に行く。
「どいつもこいつもっ!」
「あっ、ダメっ!」
ユウが止めようとするが一歩遅かった。
カズトは目に前に合ったレバーを思いっきり下げる。
ユウが転移装置を起動させるためのものと言っていたレバーだ。

「えっ?」
「まだ魔力不安定なのに……ダメ暴走する。」
我に返って狼狽えるカズトを突き飛ばし、装置を見ていたユウが、諦めてその場を離れエルザにしがみつく。
「気を付けて、どこに跳ぶか分からない。」
「えっ、そんなっ。」
慌ててミヤコが駆け寄ってくる。
遅れてカズトが寄ろうとしたとき、その場に魔力が溢れ改り、その空間を光の粒子で包む込む。

一瞬の静寂の後、光は消え去り、真っ暗な空間が戻ってくるが、その場には誰も居なかった……。
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