世界を破滅させる聖女は絶賛引き籠り中です

Red

文字の大きさ
61 / 88

引きこもり聖女のサバイバル その2

しおりを挟む
「大分出来てきたわね。」
背後から声を掛けられ、振り向くエルザ。
「あ、ミヤコ、お帰り。」
「とりあえず、今夜は屋根の下で寝れる。」
「うん、いい感じね。」
ミヤコは目の前の建物を見る。

試験を受けていた王都のダンジョンから、見知らぬ場所に転移されて4日が経とうとしている。
今いる場所から脱出するのに、まだまだ時間がかかるとみたので、ゆっくり腰を据える場所が必要、とユウとエルザが言い出して作り始めた拠点だ。
基本的には、ユウの『家屋創造《クリエイト・ホーム》』という、土系と空間系の魔法によって作っているのだが、何分、今のユウは魔力が枯渇寸前であり、途切れ途切れにしか魔法が使えないので時間がかかる。
そのユウのサポートをしつつ、細かい場所の調整をエルザが行っている。
進行が遅いと言っても、作り始めたのが昨日からであり、1日でそれなりの外見と寝室、それに浴室が出来上がっているあたり、普通に家を建てるより遥かに速い。

「でも、家を建てると言って、最初に作るのがお風呂って言うのもねぇ。」
ミヤコがチラッとエルザを見ると、エルザは顔を赤く染める。
「いいでしょ。寝るのはどこでも問題ないけど、お風呂がないのは耐えられないのよっ。」
「まぁね、気持ちはわかるんだけどさ。」
……お風呂より、安全に寝られる場所の確保の方が先だと思うんだけどねぇ。

「エルたんの言う事は常に正しい。」
「ハイハイ、そうね。正しい、正しい。……先にお風呂貰うわよ。」
ユウを頭を撫でていなしながら、ミヤコは浴室へと向かう。
なんだかんだ言っても、お風呂に入れるのは嬉しい。ミヤコだって年頃の女の子なのだ。
……サバイバルって言っても、身体は綺麗にしたいものね。

「はぁ~、やっぱりいいわねぇ。」
暖かいお湯に身体を沈める、それだけで疲れが溶け出していくようだ。
「私たちも入るよぉ。」
ミヤコがお湯に浸かってしばらくすると、ユウとエルザも入ってくる。
「作業は一段落?」
「うん、取り敢えず、私たちの寝室は使えるよ。」
「結界石を置いて来たから誰も近寄れない。ゆっくりできる。」
「それならいいわね。久しぶりにのんびりできそう。」
ミヤコは何かを忘れている気がしたが、お湯に浸かってクタァ~としていては、思考もままならない。

「今夜からはベッドが使える。」
「まだ使えないよ。ベッドが使えるようになるのは明日。」
「ぶぅ~。」
「仕方がないでしょ。今夜は我慢しなさい。」
ミヤコは、エルザとユウのやり取りを微笑ましく見守りながら、何を忘れてるんだっけ?と、頭の隅で考えつつ、お湯の心地よさに身を委ねるのだった。



「どうせ、俺の存在なんか……。」
隅でいじけるカズト。

ミヤコたちがお風呂から上がり、食事の用意でも始めようかとした時、ふと窓の外に目を向けると、そこには何もない空間に遮られるように手を突き、へばりついているカズトの姿が目に入ってきた。
ミヤコはそこで初めて、忘れていたのはカズトの存在だという事に気づいたのだった。

「どうせ俺の部屋だってないんだろ。」
見かけはそれなりの小屋に視線を向け、また床を弄るカズト。
確かに、あの小屋にはエルザたち女の子用の部屋しかできていないのだが……。

「ちゃんとカズトの寝る場所もある。」
「ホントかっ!」
「抜かりない。専用の一軒家を用意した。」
ユウはそう言いながら小屋の裏へと案内する。
入り口から見て裏手にあたるその場所には確かに家が出来ていた……小さかったが。
その家の正面には出入口が一つ。中に入ると何もない空間が……。
カズトが座って多少余裕のある高さ、カズトが横になってギリギリ練れる広さ。
「確かに雨風はしのげるけどな……。」
「文句ある?こんなに大きいのに。」
「いや、文句ありありだろ?」
「そうだよ、ユウ。これじゃ可哀想だよ。」
カズトの援護を始めるエルザに、少しだけ身を竦めるユウ。
「ちゃんとこれもつけてあげないと。」
エルザはアイテム袋から何かを取り出し、入口の上に取り付け、何やらゴソゴソとしている。

「……これで良し。立派な家の完成だよ。遠慮せずに使ってね。」
エルザが、やり遂げた、というような満足そうなほほえみを浮かべて、カズトを見る。

『カズのいえ』

エルザが一生懸命やっていたのは、そう書かれたプレートを付ける事だった。
「……犬小屋か。」
そう、カズトにあわせてあるので、サイズこそ大きくはあるが、それは紛れもない『犬小屋』だった。
「くぅん……。」
カズトは、何か、色々と諦めた表情で、その家の中へ入っていくのだった。



「ンッと……こっちはこんな感じか。」
「あ、こっち側行き止まり。だけど泉があったわ。」
地図に色々書きこんでいると、ミヤコが地図の一端を指さして言う。
「あ、うん、じゃぁ、行き止まり……と。」
ミヤコからの情報を、新たに地図に書き加えていく。
「どう?何かわかった?」
「うーん、少なくても外じゃないのは確かみたいね。」
エルザは、地図を見ながらミヤコに答える。
強制的に飛ばされてきたここは、なんとも言えない場所だった。
ミヤコやカズトが最初に飛ばされたところは、何処かの迷宮のような作りだったらしいが、合流した広場や、今いるこの辺りは、一見すると何処かの森の中に見える。

「そういう迷宮もあるって言われたらそれまでなんだけどね。」
ミヤコがそう言うが、エルザは何かを考えているのか応えようとしない。
「何か気になる事でも……あっ。」
「どうしたの?何かあった?」
突然のミヤコの叫び声に、驚いて顔を上げるエルザ。
「あ、ううん、カズトに付けていたクーちゃんがいきなり強制帰還してきたから、ちょっと驚いただけ。」
「強制帰還?あっちで何かあったのかな?ちょっと行ってみようか?」
「あっ、ちょっと待って。……クーちゃんが行くなっていってる。」
「行くなって……でも今カズト一人なんでしょ?」
「あ、うん、一応念のためにってバニィとシェードが後をつけてるから……って、あ大丈夫みたい。今シェードから連絡が入ったわ。もうすぐこっちにもどってくるわよ。」
「そう……ならいいけど。」
エルザは、立ち上がりかけていた腰を下ろしてカズトが調査に向かったあたりの地図を見る。

カズトが向かったのは、今いる位置から南西の方、迷宮っぽい作りになっているブロックだ。
その方面には、カズトが最初に飛ばされた場所もあり、途中途中、魔物がひしめいている小部屋があったというので、詳しい調査に向かったのだ。
勿論、カズト一人では危険なので、ミヤコが召喚獣のクーちゃんをつける事にしたのだ。
カズトにしても、一人よりは心強く、しかも、正体が蜘蛛とはいえ、人型の美少女と一緒というのは心躍るものがある為、喜んで出かけて行ったのだ。
ミヤコの「女ならなんだっていいのか?」という呟きや、ユウの「エロリ、キモっ!」という呟きがカズトの耳に届いていなかったのは、彼にとって幸いであった。

「クーちゃん、何があったか教えてくれる?」
エルザが、ミヤコの持つ精霊石に呼びかけると、光の粒子が現れ、人型をかたどっていく。
光の粒子が消え、そこに現れた一人の少女……蜘蛛の精霊のクイーン……クーちゃんだ。
「ウム……アレは、身の毛もよだつ程のおぞましいものじゃった。」

クーちゃんの話では、小部屋のあるフロアに着くまでは、まったく何も問題なく、それどころか魔物1匹の姿も見えず退屈していたんだそうだ。
そして、小部屋の扉をそっと開くと、中の無数の視線がすべてクーちゃんに集中し、次の瞬間には部屋の中から伸びてきた多数の手により、あっという間に捕らえられてしまったとのことだった。
部屋の中にいたのは、屈強なホブゴブリンの群れで、30匹ぐらいはいたそうだ。
いきなりの事で、一瞬何が起きたか分からず、出遅れてしまったカズトだったが、ホブたちが「女だっ!女だっ!」と騒いでいる声に気を取り直して、クーちゃんを救うためにホブゴブリンの群れに飛び込んだそうだが、数匹がかりで押さえつけられ、部屋の外に投げだされたという。
それを見たクーちゃんは、迫りくるホブの群れに身の危険を感じ、このままじゃヤられると魔力の消耗覚悟で、ため込んだ魔力を強制放出して強制償還した、という事らしい。

「じゃから申し訳ないのじゃが、いましばらく妾は役立たずじゃ。」
「あ、うん、気にしないで。無事でよかったよ。」
エルザがそう告げると、クーちゃんは「すまぬ」と一言遺して消えていった。
「何だと思う?」
「分からないけど……カズトが無事ってところが引っかかる。聞いた限りでは、って事になるけど……なんで排除だけなのかな?」
男はいらないから殺す、というのならまだわかる。
だけど、今までカズトが見た魔物たちは、排除するだけで他に何もしてこようとしない。カズトが部屋から出ればそこまでで、後を追う事もしないのだ。

「やっぱり?私もそこがおかしいと思うのよ。今の話でも、カズトが前話してくれた事でも、なんで、『カズトが無事』なのかが分からないわ。そりゃぁ、カズトが死ぬとかより全然マシだけど、どう考えたっておかしいよね。」
「うん、後、あの魔物たちは何で部屋から出てこないのかな?」
「そう、命令されておるんじゃろ。」
精霊石からクーちゃんの声だけが聞こえてくる。
「奴らに捕まった時、奴らから妾と同じ魔力の流れを感じた。奴らは誰かに召喚されているのは間違いなかろう。」
「マジで!?……でもそう考えれば辻褄が合うかぁ。・……どうしたのエルちゃん、難しい顔して。」
「あ、うん、ちょっとね。」
エルザはそれだけ言うと、地図を持って、小屋の中に引っ込んでしまった。




「なぁ、エルちゃんとユウちゃん様子がおかしくないか?」
「アンタにしては、珍しくよく見てるのね。」
「いや、あそこ迄あからさまだと、分からない方がおかしいだろ?」
カズトは小屋の方へ視線を向ける。

ユウは朝から部屋に籠りっぱなしで、食事の時だけ顔を見せている。
今も、さっさと食事を終えると小屋へと籠ってしまった。
普段であれば、何か一言いうエルザだったが、今日は、そのエルザの様子もおかしく、簡単な片付けだけを済ますと、「お風呂に行くね」と言って小屋に行ってしまった。

「はぁ、じゃぁ私もお風呂に入ってくるかなぁ……覗くなよ。」
「だっ、誰が覗くかっ!」
「そう?エルちゃん着やせするタイプでねぇ。触った時の感触も、これがもう、堪りませんわ~。エルちゃん、今も見に行くからねぇ……。あ、バニィ、そいつの見張りよろしくね。」
ミヤコはホーンラビットバニィを召喚して、カズトの近くに残す。

「きゅ?」
小屋の方へそろそろと動き始めるカズトをバニィが咎める。
「な、なんだよ。覗きに行くんじゃねぇぞ。俺の部屋はあっちにあるんだからな。」
うろたえるカズトを冷たい目で見るバニィ。
「そ、そりゃぁ、エルちゃんの元気もないし、なんだったら相談に乗ろうかと様子を見に行くのもやぶさかではないというか……。」
ウサギ相手に必死な言い訳をする男……傍から見れば滑稽そのものである。


「ふぅ、いいお湯だったわ。」
やがて、お風呂から上がったミヤコが涼みに外に出てくると、入り口でちょこんと座って待っているバニィの姿がある。
「あれ、あなた一人?」
不思議に思って周りを見回すと、少し離れた場所で、バニィの電撃を食らい、痺れて動けず倒れているカズトの姿があった。

「あ、そう言う事ね……。バニィ、ありがとうね。」
ミヤコはバニィを抱き上げ、小屋の中に戻る。
倒れているカズトは放置し、入り口に結界石をセットする。
「朝までそうしてなさい……バカ。」
ミヤコは倒れているカズトにそう言い捨てて扉を閉める。

カズトの痺れは解ける事がなく、そのまま朝を迎えるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...