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引きこもり聖女と辺境の村 その4
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「マジな話?」
「ウン、今までは推測だったけど、あなた達のおかげで確信に変わったわ。」
ミヤコの問いかけにそう答えるエルザ。
「私達の話って、いったいどの辺が?」
「まず、小麦が少し値上がりしてるらしいって言ってたでしょ?収穫時期でもないこんな中途半端な時期の価格変動はどこかで大量に消費してるって事でしょ?それに盗賊被害が多くなってるって事も。治安が悪くなるのは為政者の力が弱まってる証拠よ。戦争で追われてきたか、この辺りの辺境迄取り締まる余裕がないと思ったか分からないけど、以前までそんなに被害がなかったのに、急に被害が増えたって事は、そう言う事だと思うのよ。」
「うーん、でも、それだけじゃ根拠には弱くない?たまたまかもしれないし。」
ミヤコは、頷きつつも、まだ納得いかないって顔をしている。
「そうね、とどめはカズトの言った奴隷商の話よ。奴隷が増えるって事は、何処かで奴隷になる人が増えるって事。飢饉などで生活が困窮してって事もあるけど、今の時期にそれはないわ。だとすると、大掛かりな犯罪組織を壊滅させたか、もしくは……。」
「戦争で捕らえた人を奴隷にする……って事ね。」
「そう言う事。一つ一つの事例はたまたまで済むかもしれないけど、それが3つ重なったら、偶然っていう方が難しいよね?」
「まぁ、そうね。」
ミヤコが頷く。
「でも、その戦争と俺達にどんな関係があるんだ?」
「それよっ!その事でずっと悩んでいるのよっ!どうしたらいい?もう引き籠っていい?」
それまで黙っていたカズトが口を開くと、突然エルザが喚き、ミヤコに胸ぐらをつかんで喚きだす。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。」
ミヤコはエルザを引き離し、膝の上にのせる。
ようやく話が本題に差し掛かろうとしているのに、当の本人がこれでは話が進まない。
「とにかく、落ち着いて、ね。ゆっくりでいいから、何が問題なのか話してよ。」
「ウン。」
エルザが頷いたとき、入り口の方から声が聞こえる。
「ミヤコ、ズルい!」
ユウが駆け寄ってきて、エルザを抱き上げ、自分の膝の上に乗せて座る。
「エルたんはここ。」
「別にどこでも良いじゃない。」
「だからここでも良い。問題ない。」
「はいはい。それでエルちゃん?」
ユウに呆れた視線を向けた後、エルザに話の続きを促す。
「うぅ……。引きこもりたいよぉ。めんどくさいよぉ。働きたくないよぉ。」
「……昔の自分を見てるようで胸が痛い。」
「私はあそこまで酷くなかったわよ?」
ユウにしがみついて駄々をこねるエルザを見ながら、カズトとミヤコがぼそぼそと喋る。
「エルたん可愛い。いいよ、お家にいてね。私がずっと面倒見てあげるね。」
「うん、うん……ユウ、大すきぃ。」
状況がそんなに酷いのか、やや幼児化しているエルザを、ユウが満面の笑顔で甘やかす。
「ユウ、エルちゃんを甘やかすのはいいけど、エルちゃん引き籠ったら誰がごはん作るの?」
「ミヤコでしょ?」
「私が出て行ったら?」
「…………。」
ここにきて、ユウも引き籠りがどういう状況を招くのかを理解したらしい。
「エルたん、頑張れ。」
「うっわぁ、すごい掌返し。」
「エルたん辛いかもしれないけど、引きこもってばかりいても何も解決しないよ?」
「ブーメランだな。」
「そこ、うっさい。……エルたん、手伝ってあげるから元気出して、ねっ?」
小声で突っ込むミヤコとカズトを視線だけで黙らせ、愚図るエルザを説得するユウ。
いつもとは逆の光景に、ため息を吐くカズトとミヤコだった。
「手伝ってくれるの?」
しばらくしてからエルザが顔を上げ、ユウの目を見ながら訊ねる。
「任せて。」
「どうやって?」
「エルたんを悩ませる元凶を断つ。」
「……具体的には?」
「国を亡ぼすの。元が無くなれば万事解決。」
「解決じゃないっ!」
エルザはユウの膝から飛び降りると、どこからともなく取り出したハリセンでユウの頭を叩く。
「痛い……。」
「何でもかんでも破壊すればいいってもんじゃないのっ!」
「……エルちゃんが元気を取りもどした。これもユウちゃんの計算?」
「いや、素じゃないのか?」
ユウとエルザのやり取りを見ながら、やはり小声で話す二人。
計算でも天然でも、取り敢えずエルザが元気を取り戻したのは良いことだとミヤコは思った。
「取り乱してごめんね。どこまで話したんだっけ?」
騒ぎに巻き込まれないように、どこかに隠れていたクロが、みんなのお茶を入れ直した後、黒猫の姿に戻って、エルザの膝の上に乗る。
そんな黒の毛並みを撫でながらエルザがみんなに頭を下げる。
「あ、ううん、いいよいいよ。……べリア王国とガリア王国で戦争が起きているかもしれないってことと、それが私たちにどう関係してくるのかってところで話は止まってるよ。」
「そうね……。色々複雑になって混乱しちゃったから、整理するためにもひとつづつ順番に話すね。」
「うん、そうしてくれると助かる。」
「まず、私たちは、エルザーム王国から別の大陸にある、このべリア王国に飛ばされてきた。」
「うんうん。」
「でも、私だけでなく、殆どの人は海の向こうに大陸があるなんて知らない。たぶん、こっちの大陸の人も同じだと思うのよ。」
「うん、それで?」
「つまり、海の向こうには何もないから、当然そこまで行く船がない。でも私たちが帰るには海を渡らなくては始まらない……つまり、真っ当な状況では帰れないのよ。」
「……なぁ、帰らなきゃいけないのか?」
エルザの話を聞いていたカズトが、不思議そうな表情で訊ねてくる。
「バカね、エルちゃんはあっちの国にご両親がいるのよ?帰りたいに決まってるじゃない。」
「あ、そっか、そうだよな。悪い。」
ミヤコがカズトに冷たい視線を向けると、カズトも言いたいことに気づき、素直に謝罪を口にする。
「あ、えっ、えっと、……二人は帰りたくないの?」
二人にの様子を見てエルザは戸惑いながら訊ねる。
「あー、うん、エルちゃんには悪いけどね、どっちでもいいかなぁって。」
「俺達、偶々あの国にいただけだからな。愛着沸くほど長くいたわけじゃないし、別れ難いような深い付き合いがあったわけでもないしな。」
あっさり言うミヤコとカズトを見て、エルザはがっくりと肩を落とす。
「そうなんだぁ……私ずっとみんなを帰さなきゃって考えてたから……よかったよぉ。」
「あー、ひょっとしてエルちゃんを悩ませて他の私たちのせい?ごめんね。」
「あ、ううん、いいの、それだけじゃないから。それに少し肩の荷が下りてすっきりしたよ。」
エルザは、ミヤコたちに笑顔を向ける。
「そうすると、当面の問題は一つね。」
「一つなの?」
「うん、色々あるけど、大きなのは一つ。これをどうするか決めないと、その後の予定が成り立たない。」
「そうなんだ。ちなみにそれって、どういうの?」
「うん、この村に留まるか出て行くか、ってこと。」
エルザの言葉にミヤコとカズトの動きが一瞬止まる。
二人とも、しばらくはこの村にいるものとばかり思っていたため、エルザの言葉は衝撃的だった。
「どういう事かなぁ?」
「うん、簡単に言うとね、私たちの目的は王都に帰る事じゃない?まぁ、それはそんなに急がなくてもよくなったから置いておくとして、もう一つの目的はマリア・シルヴィア様の遺跡を探すことでしょ?」
「そうだっけ?」
「なんか、そんなこと言ってたか?」
「シルヴィは静かに眠らせておこう。」
三人はキョトンとした顔で首を傾げる。
「アンタらねぇ、ってか、ユウはそれでいいの?」
エルザはユウに突っ込むが、ユウは大きなあくびをして興味なさそうにそっぽを向く。
「うぅ哀れな元マスターにゃ。」
それを見て、クロが小さく呟く。
「……まぁいいわ。どちらにしても、帰るためにはマリア・シルヴィア様の遺跡を探す必要があるのよ。」
「何で?」
「ミヤコ、私たちがここに来たきっかけ覚えてる?」
「ここに来たって……転移装置の事?」
「そう、スクールダンジョンに隠されていた遺跡も、跳んだ先の遺跡もマリア・シルヴィア様が絡んでいた。つまり、マリア・シルヴィア様に関連する遺跡の中には、無期王の国へ渡る転移装置がある可能性が高いってことよ。いくらなんでも、こっちに来るだけの道しかないって言うのはおかしいからね。向こうに行く道だってある筈よ。」
「うーん、言われてみれば……そうかも知れないねぇ。」
ミヤコとカズトは成程と頷く。
ユウは興味がないのか、クロのひげを引っ張って遊んでいる。
「でも、シルヴィアちゃんの遺跡ってどこにあるの?」
ミヤコが聞いてくる。
「それが問題なのよ。現時点ではどこにあるかわからないから、まずはそれを探すところから始めるのよ。」
「うっわぁ……気が遠くなる話ねぇ。」
ミヤコは思わず天を見上げるがそこには最近見慣れ初めて高い天井とステンドグラスがあるだけだった。
「そこで最初の話に戻るのね。つまり、この村にとどまって腰を据えてじっくる情報を集めるのがいいのか、この村を出て、情報を求めて各地を放浪するのがいいのか……どっちがいいと思う?」
「……当てもなく彷徨うのは、かなりストレスたまりそうだな。」
「その代わり、各地に行くんだから情報は集まりやすそうよ?」
「うーん、たしかに、この田舎での情報収集も限界はあるか。でもなぁ……。」
カズトとミヤコが、口々に思ったことを話始める。
「ユウはどう思う?」
エルザはユウにも意見を求めてみた。
「可愛い女の子がいればどっちでもいい。」
「………。」
「……間違えた、エルたんがいればどっちでもいい。」
ユウはエルザの無言の圧力に耐えかね、慌てて言い直す。
あまり大きな違いはないのだが、ま、いっかと、エルザはあきらめてミヤコたちの方を見ると、ミヤコたちの会話もループしていた。
「一応ね、村長さん達には引き止められてはいるわ。村に残ってもらえたら出来るだけの便宜は図るとも言ってくれている。帰るのを急がなくてもいいのなら、ある程度こっちの大陸に慣れるまでは、ここを拠点に動くのもアリだと思うの。だけどね、戦争の事があるからね、留まるなら、巻き込まれることもも考慮しないといけないわ。」
「うーん、でも、ここって王都からかなり外れた田舎なんだよね?ここまで戦火来ると思う?」
「そうだよなぁ。戦略的に何の価値もない立地だし、気にすることないんじゃないか?」
「甘いっ!」
楽観的なミヤコたちに、エルザが反論を言いかけたところで、それを遮るかのようにユウの声が響く。
「甘すぎる。直接の影響はなくても、戦争の影響は出てくる。食べ物が入ってこなくなったり、偏ったものしか売れなくなったり、また、鉄などの戦争物資の材料になるものは手に入れにくくなったり……。」
ユウの言葉にミヤコたちは項垂れる。
「それに、逃げ出した兵隊とか、食い詰めて生活出来なくなった者たちなどが盗賊化する。そいつらが狙うのは、ここのような辺境の村。ここなら足が付きにくい。」
「そっか……最近被害が急激に増えてるって言ってたもんね。」
ユウの言葉に、ミヤコが頷く。
「ま、そういう事よ。だから留まるならそういう事にも対処することを頭に入れて行動する必要があるの。」
エルザは、ユウの言葉を引き継ぐ。
「だったら、やっぱりこの村を出て行くのがいいんじゃね?」
「それも一理あるんだけどね。」
カズトの言葉に頷きつつ、デメリットを話し出す。
「この村から離れると、身軽になるし、情報も集めやすいかもしれないけど、単純にお金がかかるわ。」
食事代はもちろんのこと、寝泊りする宿代や、旅の間の消耗品の補充など、ここにいるよりはるかに高い金額が出て行くことになるだろう。
幸い、ユウが持っていた古代金貨がそれなりのレートで換金できたため、1ヶ月ほどは大丈夫だが、それでも手持ち金には限りがあることに変わりはない。
「向こうの様な冒険者ギルドみたいなのがあればいいけど、なかったら、お金稼ぐ方法から探さないといけないのよ。」
「うー、結局、世の中、金なのか。」
「そういう事よ。」
ミヤコがカズトの肩をポンポンと叩く。
そして、エルザに向かって話し出す。
「問題は色々あるかもしれないけど、私はこの地に留まるのがいいと思うわ。」
「それはどうして?」
「私たちが、こっちの大陸の情報を何も持ってないのが大きな理由よ。どんな国がある以前に、私達って、この国の事すら知らないわけでしょ?だったら、まずは基礎知識だけでも覚える必要があるわ。その間だけでもここに留まることが出来るならその分安上がりでしょ?」
ミヤコの言葉は納得できるものであり、カズトもそれがいい、と頷いている。
「じゃぁ、まずはこの村にとどまって、情報を集めることからね。」
エルザがいうと、皆が一斉に頷く。
「……エルたん、話がまとまったならご飯。……おなかすいた。」
「ハイハイ、手早く作るからもう少し待ってなさい。……クロ、手伝って。」
「了解にゃ。」
緊張感のないユウの言葉に苦笑しながら台所スペースに向かうエルザ。
その後ろ姿を見ながら「……これで、いいんだよね?」と小さく呟くミヤコ。
自分の発言が発端とはいえ、この村に留まることが決定した直後に、なんとも言えない悪寒が背筋を走り抜けた気がしたのだ。
「うん、気のせいよ、きっと……。」
ミヤコは小さな声でつぶやくと、エルザの手伝いをするために立ち上がり、台所へと向かうのだった。
「ウン、今までは推測だったけど、あなた達のおかげで確信に変わったわ。」
ミヤコの問いかけにそう答えるエルザ。
「私達の話って、いったいどの辺が?」
「まず、小麦が少し値上がりしてるらしいって言ってたでしょ?収穫時期でもないこんな中途半端な時期の価格変動はどこかで大量に消費してるって事でしょ?それに盗賊被害が多くなってるって事も。治安が悪くなるのは為政者の力が弱まってる証拠よ。戦争で追われてきたか、この辺りの辺境迄取り締まる余裕がないと思ったか分からないけど、以前までそんなに被害がなかったのに、急に被害が増えたって事は、そう言う事だと思うのよ。」
「うーん、でも、それだけじゃ根拠には弱くない?たまたまかもしれないし。」
ミヤコは、頷きつつも、まだ納得いかないって顔をしている。
「そうね、とどめはカズトの言った奴隷商の話よ。奴隷が増えるって事は、何処かで奴隷になる人が増えるって事。飢饉などで生活が困窮してって事もあるけど、今の時期にそれはないわ。だとすると、大掛かりな犯罪組織を壊滅させたか、もしくは……。」
「戦争で捕らえた人を奴隷にする……って事ね。」
「そう言う事。一つ一つの事例はたまたまで済むかもしれないけど、それが3つ重なったら、偶然っていう方が難しいよね?」
「まぁ、そうね。」
ミヤコが頷く。
「でも、その戦争と俺達にどんな関係があるんだ?」
「それよっ!その事でずっと悩んでいるのよっ!どうしたらいい?もう引き籠っていい?」
それまで黙っていたカズトが口を開くと、突然エルザが喚き、ミヤコに胸ぐらをつかんで喚きだす。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ。」
ミヤコはエルザを引き離し、膝の上にのせる。
ようやく話が本題に差し掛かろうとしているのに、当の本人がこれでは話が進まない。
「とにかく、落ち着いて、ね。ゆっくりでいいから、何が問題なのか話してよ。」
「ウン。」
エルザが頷いたとき、入り口の方から声が聞こえる。
「ミヤコ、ズルい!」
ユウが駆け寄ってきて、エルザを抱き上げ、自分の膝の上に乗せて座る。
「エルたんはここ。」
「別にどこでも良いじゃない。」
「だからここでも良い。問題ない。」
「はいはい。それでエルちゃん?」
ユウに呆れた視線を向けた後、エルザに話の続きを促す。
「うぅ……。引きこもりたいよぉ。めんどくさいよぉ。働きたくないよぉ。」
「……昔の自分を見てるようで胸が痛い。」
「私はあそこまで酷くなかったわよ?」
ユウにしがみついて駄々をこねるエルザを見ながら、カズトとミヤコがぼそぼそと喋る。
「エルたん可愛い。いいよ、お家にいてね。私がずっと面倒見てあげるね。」
「うん、うん……ユウ、大すきぃ。」
状況がそんなに酷いのか、やや幼児化しているエルザを、ユウが満面の笑顔で甘やかす。
「ユウ、エルちゃんを甘やかすのはいいけど、エルちゃん引き籠ったら誰がごはん作るの?」
「ミヤコでしょ?」
「私が出て行ったら?」
「…………。」
ここにきて、ユウも引き籠りがどういう状況を招くのかを理解したらしい。
「エルたん、頑張れ。」
「うっわぁ、すごい掌返し。」
「エルたん辛いかもしれないけど、引きこもってばかりいても何も解決しないよ?」
「ブーメランだな。」
「そこ、うっさい。……エルたん、手伝ってあげるから元気出して、ねっ?」
小声で突っ込むミヤコとカズトを視線だけで黙らせ、愚図るエルザを説得するユウ。
いつもとは逆の光景に、ため息を吐くカズトとミヤコだった。
「手伝ってくれるの?」
しばらくしてからエルザが顔を上げ、ユウの目を見ながら訊ねる。
「任せて。」
「どうやって?」
「エルたんを悩ませる元凶を断つ。」
「……具体的には?」
「国を亡ぼすの。元が無くなれば万事解決。」
「解決じゃないっ!」
エルザはユウの膝から飛び降りると、どこからともなく取り出したハリセンでユウの頭を叩く。
「痛い……。」
「何でもかんでも破壊すればいいってもんじゃないのっ!」
「……エルちゃんが元気を取りもどした。これもユウちゃんの計算?」
「いや、素じゃないのか?」
ユウとエルザのやり取りを見ながら、やはり小声で話す二人。
計算でも天然でも、取り敢えずエルザが元気を取り戻したのは良いことだとミヤコは思った。
「取り乱してごめんね。どこまで話したんだっけ?」
騒ぎに巻き込まれないように、どこかに隠れていたクロが、みんなのお茶を入れ直した後、黒猫の姿に戻って、エルザの膝の上に乗る。
そんな黒の毛並みを撫でながらエルザがみんなに頭を下げる。
「あ、ううん、いいよいいよ。……べリア王国とガリア王国で戦争が起きているかもしれないってことと、それが私たちにどう関係してくるのかってところで話は止まってるよ。」
「そうね……。色々複雑になって混乱しちゃったから、整理するためにもひとつづつ順番に話すね。」
「うん、そうしてくれると助かる。」
「まず、私たちは、エルザーム王国から別の大陸にある、このべリア王国に飛ばされてきた。」
「うんうん。」
「でも、私だけでなく、殆どの人は海の向こうに大陸があるなんて知らない。たぶん、こっちの大陸の人も同じだと思うのよ。」
「うん、それで?」
「つまり、海の向こうには何もないから、当然そこまで行く船がない。でも私たちが帰るには海を渡らなくては始まらない……つまり、真っ当な状況では帰れないのよ。」
「……なぁ、帰らなきゃいけないのか?」
エルザの話を聞いていたカズトが、不思議そうな表情で訊ねてくる。
「バカね、エルちゃんはあっちの国にご両親がいるのよ?帰りたいに決まってるじゃない。」
「あ、そっか、そうだよな。悪い。」
ミヤコがカズトに冷たい視線を向けると、カズトも言いたいことに気づき、素直に謝罪を口にする。
「あ、えっ、えっと、……二人は帰りたくないの?」
二人にの様子を見てエルザは戸惑いながら訊ねる。
「あー、うん、エルちゃんには悪いけどね、どっちでもいいかなぁって。」
「俺達、偶々あの国にいただけだからな。愛着沸くほど長くいたわけじゃないし、別れ難いような深い付き合いがあったわけでもないしな。」
あっさり言うミヤコとカズトを見て、エルザはがっくりと肩を落とす。
「そうなんだぁ……私ずっとみんなを帰さなきゃって考えてたから……よかったよぉ。」
「あー、ひょっとしてエルちゃんを悩ませて他の私たちのせい?ごめんね。」
「あ、ううん、いいの、それだけじゃないから。それに少し肩の荷が下りてすっきりしたよ。」
エルザは、ミヤコたちに笑顔を向ける。
「そうすると、当面の問題は一つね。」
「一つなの?」
「うん、色々あるけど、大きなのは一つ。これをどうするか決めないと、その後の予定が成り立たない。」
「そうなんだ。ちなみにそれって、どういうの?」
「うん、この村に留まるか出て行くか、ってこと。」
エルザの言葉にミヤコとカズトの動きが一瞬止まる。
二人とも、しばらくはこの村にいるものとばかり思っていたため、エルザの言葉は衝撃的だった。
「どういう事かなぁ?」
「うん、簡単に言うとね、私たちの目的は王都に帰る事じゃない?まぁ、それはそんなに急がなくてもよくなったから置いておくとして、もう一つの目的はマリア・シルヴィア様の遺跡を探すことでしょ?」
「そうだっけ?」
「なんか、そんなこと言ってたか?」
「シルヴィは静かに眠らせておこう。」
三人はキョトンとした顔で首を傾げる。
「アンタらねぇ、ってか、ユウはそれでいいの?」
エルザはユウに突っ込むが、ユウは大きなあくびをして興味なさそうにそっぽを向く。
「うぅ哀れな元マスターにゃ。」
それを見て、クロが小さく呟く。
「……まぁいいわ。どちらにしても、帰るためにはマリア・シルヴィア様の遺跡を探す必要があるのよ。」
「何で?」
「ミヤコ、私たちがここに来たきっかけ覚えてる?」
「ここに来たって……転移装置の事?」
「そう、スクールダンジョンに隠されていた遺跡も、跳んだ先の遺跡もマリア・シルヴィア様が絡んでいた。つまり、マリア・シルヴィア様に関連する遺跡の中には、無期王の国へ渡る転移装置がある可能性が高いってことよ。いくらなんでも、こっちに来るだけの道しかないって言うのはおかしいからね。向こうに行く道だってある筈よ。」
「うーん、言われてみれば……そうかも知れないねぇ。」
ミヤコとカズトは成程と頷く。
ユウは興味がないのか、クロのひげを引っ張って遊んでいる。
「でも、シルヴィアちゃんの遺跡ってどこにあるの?」
ミヤコが聞いてくる。
「それが問題なのよ。現時点ではどこにあるかわからないから、まずはそれを探すところから始めるのよ。」
「うっわぁ……気が遠くなる話ねぇ。」
ミヤコは思わず天を見上げるがそこには最近見慣れ初めて高い天井とステンドグラスがあるだけだった。
「そこで最初の話に戻るのね。つまり、この村にとどまって腰を据えてじっくる情報を集めるのがいいのか、この村を出て、情報を求めて各地を放浪するのがいいのか……どっちがいいと思う?」
「……当てもなく彷徨うのは、かなりストレスたまりそうだな。」
「その代わり、各地に行くんだから情報は集まりやすそうよ?」
「うーん、たしかに、この田舎での情報収集も限界はあるか。でもなぁ……。」
カズトとミヤコが、口々に思ったことを話始める。
「ユウはどう思う?」
エルザはユウにも意見を求めてみた。
「可愛い女の子がいればどっちでもいい。」
「………。」
「……間違えた、エルたんがいればどっちでもいい。」
ユウはエルザの無言の圧力に耐えかね、慌てて言い直す。
あまり大きな違いはないのだが、ま、いっかと、エルザはあきらめてミヤコたちの方を見ると、ミヤコたちの会話もループしていた。
「一応ね、村長さん達には引き止められてはいるわ。村に残ってもらえたら出来るだけの便宜は図るとも言ってくれている。帰るのを急がなくてもいいのなら、ある程度こっちの大陸に慣れるまでは、ここを拠点に動くのもアリだと思うの。だけどね、戦争の事があるからね、留まるなら、巻き込まれることもも考慮しないといけないわ。」
「うーん、でも、ここって王都からかなり外れた田舎なんだよね?ここまで戦火来ると思う?」
「そうだよなぁ。戦略的に何の価値もない立地だし、気にすることないんじゃないか?」
「甘いっ!」
楽観的なミヤコたちに、エルザが反論を言いかけたところで、それを遮るかのようにユウの声が響く。
「甘すぎる。直接の影響はなくても、戦争の影響は出てくる。食べ物が入ってこなくなったり、偏ったものしか売れなくなったり、また、鉄などの戦争物資の材料になるものは手に入れにくくなったり……。」
ユウの言葉にミヤコたちは項垂れる。
「それに、逃げ出した兵隊とか、食い詰めて生活出来なくなった者たちなどが盗賊化する。そいつらが狙うのは、ここのような辺境の村。ここなら足が付きにくい。」
「そっか……最近被害が急激に増えてるって言ってたもんね。」
ユウの言葉に、ミヤコが頷く。
「ま、そういう事よ。だから留まるならそういう事にも対処することを頭に入れて行動する必要があるの。」
エルザは、ユウの言葉を引き継ぐ。
「だったら、やっぱりこの村を出て行くのがいいんじゃね?」
「それも一理あるんだけどね。」
カズトの言葉に頷きつつ、デメリットを話し出す。
「この村から離れると、身軽になるし、情報も集めやすいかもしれないけど、単純にお金がかかるわ。」
食事代はもちろんのこと、寝泊りする宿代や、旅の間の消耗品の補充など、ここにいるよりはるかに高い金額が出て行くことになるだろう。
幸い、ユウが持っていた古代金貨がそれなりのレートで換金できたため、1ヶ月ほどは大丈夫だが、それでも手持ち金には限りがあることに変わりはない。
「向こうの様な冒険者ギルドみたいなのがあればいいけど、なかったら、お金稼ぐ方法から探さないといけないのよ。」
「うー、結局、世の中、金なのか。」
「そういう事よ。」
ミヤコがカズトの肩をポンポンと叩く。
そして、エルザに向かって話し出す。
「問題は色々あるかもしれないけど、私はこの地に留まるのがいいと思うわ。」
「それはどうして?」
「私たちが、こっちの大陸の情報を何も持ってないのが大きな理由よ。どんな国がある以前に、私達って、この国の事すら知らないわけでしょ?だったら、まずは基礎知識だけでも覚える必要があるわ。その間だけでもここに留まることが出来るならその分安上がりでしょ?」
ミヤコの言葉は納得できるものであり、カズトもそれがいい、と頷いている。
「じゃぁ、まずはこの村にとどまって、情報を集めることからね。」
エルザがいうと、皆が一斉に頷く。
「……エルたん、話がまとまったならご飯。……おなかすいた。」
「ハイハイ、手早く作るからもう少し待ってなさい。……クロ、手伝って。」
「了解にゃ。」
緊張感のないユウの言葉に苦笑しながら台所スペースに向かうエルザ。
その後ろ姿を見ながら「……これで、いいんだよね?」と小さく呟くミヤコ。
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「うん、気のせいよ、きっと……。」
ミヤコは小さな声でつぶやくと、エルザの手伝いをするために立ち上がり、台所へと向かうのだった。
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久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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