ヘタレ勇者の成り上がり~ボッチにハーレムは厳しいです~

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逃亡生活も楽しいよ?

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「カズトさん、正座、ですっ!」

隠れ家に帰った俺を待ち構えていたのは、鬼のような形相をしたミィナだった。

「えっと、あの……。」

「正座っ!」

「あ、ハイっ!」

ミィナの勢いに押され、思わず正座をして背筋を伸ばす俺。

「いいですかカズトさん。そりゃぁ、毎日私となんかじゃぁ、面白くないのかもしれません。私に飽きて、新しい刺激を求めて、街に行きたくなる気持ちはよくわかりますよ。」

「い、いや、あの、ミィナに飽きるとか、そんなんじゃなくて……。」

「私は知ってるんですっ!今日もレミリアさんとパフェを食べてたでしょ!」

「な、何故知って……。」

俺は慌てて口を抑える。
レミリアというのは、あの受付のおねえさんだ。

「たまの息抜きなら、私も我慢します。でも、でも、レミリアさんと2階に行くなんて……酷いじゃないですかっ!いくら払ったんです?私の事好きって言ってたくせにっ!やっぱりおっぱいですかっ!あのおっぱいにいくら払ったんですかっ!」

「い、いや、ちょっと……だから……。」

泣き叫ぶミィナを宥めるのに1時間の時間を要した。

今は、ミィナを背後から抱きしめている。

ミィナ曰く、優しく包み込んでくれる、この感じが大好き……なのだそうだ。

……ここまでさせておいて、胸一つ触らせてくれないんだよなぁ、この娘。

因みに、何でミィナが今日の事を知っているかと言うと、ギフトの力なんだそうだ。

ミィナの持つギフトの一つ、鑑定眼。

実はこれは鑑定眼なんてものではなく、もっと恐ろしいものだった。

全てを見通す目プロビデンス・アイ』……その能力を使いこなせば、未来まで見ることが出来ると言われている、伝説上のスキル。

鑑定眼なんてものは、その能力の一端……初歩の初歩に過ぎない。

このスキルを極めていけば、アイテムだけでなく、他人の力も数値化してみることも出来るし、目に関することで出来ることがどんどん増えていくのだそうだ。

実際、今のミィナはモノを鑑定するだけでなく、遠視、夜視などが使え、最近になって鳥や、小動物などの眼を通して、遠くのものを見ることが出来る「遠隔同調」も出来るようになったという。

「それで、……その……練習がてらカズトさんを見てたら……。」

俺が街に行ってレミリアさんと楽しそうにカフェに入っていくのを見たという訳らしい。

カフェの窓の外からでは、2階の様子は分からないのだが、2階でやることなんて決まっている。だから怒ったということらしい。

……しかし、自分は指一本触れさせないくせに、他の女とそういう事したら怒るって……理不尽じゃ無いだろうか。

「……むぅ、じゃぁ、もし、私がエッチを許したら、カズトさんは、他の人に色目を使いませんか?大っきいおっぱいに目を奪われたりしませんか?」

ミイナはそう言って俺を睨みつける。

……ない、と言い切れないのが辛い。
だって、大きなお山に目が行くのは男の本能みたいなものなんだよ?

ミィナは、しばらく、むぅっとおてをにらみつけたあと、そっと目をつむり、あごを少しだけ持ち上げる。

……えーと、これは……そういう事……なのか?


俺の中でいつものように悪魔君が『そうだ、チャンスだ!ブチューっといけ、ブチューっと!』などと後押ししてくれる。

そして同時に天使ちゃんが『ダメよ、これは罠よ。流されちゃダメっ!』と、襟首を引っ張って押し留めようとする。

しかし、今回に限っては悪魔くんが優勢だ。

目の前に好みどストライクの美少女が目をつむって待っている。
俺のファーストキスはこの子と……。

おれはミィナの肩に手をおいて顔を近づけていく……。

『そうだ、いけ!男なら決めてみせろ!』

『ダメよ、ダメ、ダメ!早まってはいけないわ!』

……悪いな、天使ちゃん。俺はキスがしたいんだよっ!

『ダメェー!それどころじゃ無いでしょっ!』

あと数ミリというところで、天使ちゃんの心の声で思い出してしまった。

「どうしたの……ってなんで泣いてるのっ!」

いつまで経っても動かない俺を訝しんで、ミィナが目を開け、そして驚く。

「くぅー、キスしたい~!だけど今は逃げないといけないんだぁ~っ!」

俺はミィナにすぐ荷物をまとめるように言うと、俺も手近な家具を片っ端から収納に入れていく。

「ちょ、ちょっと、いきなりどうしたのよ?」

「説明は後で。今はとにかく逃げる準備をするんだ。」

俺は、ミイナにそういいながら、詰め込むだけ詰め込み、持っていけそうにないものは、壊して素材へ還す。

俺のその様子に、ミィナも訝しがりながら荷物をまとめる。

そして、その30分後に二人して、住み慣れた洞窟を後にし、夜が明ける頃には、森の奥を抜けて、街とは反対側の出口付近まで移動したのだった。



「ねぇ、カズトさん。状況は理解したけど、こんなに急ぐ必要あったのかしら?レミリアさんの話では3日後なんでしょ?」

夜通し歩き続けて、休息に向いた場所でベースを張って、数時間。

一眠りして起きたところで、ミィナが疑問を口にする。

ミィナとしては調合途中の素材をすべて捨ててきたことを惜しんでいるらしい。

今日の昼頃には完成する予定だったという。使われている素材の中には、なかなか手に入らないものもあったので、調合が終わってから移動してもよかったのでは?と言っているのだ。

確かに、レミリアさんの話を素直に信じれば、逃げ出す準備に余裕はあった。しかし……。

「なぁ、ミィナ。これを鑑定してもらえるか?」

俺はミィナに、武骨な皮剥ぎナイフを渡す。

「これ?そこそこいい作りのナイフよね?」

ミィナはそう言いながら手に取って鑑定眼を発動させる。

「これは……なんなの?位置特定の魔法?何の意味があるの?」

ミィナは訳が分からない、という顔をしてナイフを返してくる。

「やっぱりな。」

俺はその皮剥ぎナイフを収納にしまい込む。

「これはなぁ、レミリアさんが寄ってけって言った鍛冶屋でもらったもんなんだよ。」


ピーノの鍛冶屋で、教えられたとおりに『ミスリルのナイフをくれ』といったところ、一瞬怪訝そうな顔をした後、『お前さんのような駆け出しにはこれで十分だ』と言って、この皮剥ぎナイフを渡してきた。
そして「これももってけ」と、携帯用溶鉱炉などの初心者用鍛冶道具一式と、旅に必要なものが詰まった、初心者用旅セット一式をもらった。

全部がレミリアさんの仕込みなのか、この頑固そうで人のよさそうな鍛冶師のおせっかいなのかまではわからないが、これからに役立つことは間違いないので、俺はありがたく受け取ってきたのだが……。

「まぁ、どんな魔法がかかっていようが、収納に入ってる限り関係ないからな。」

皮剥ぎナイフにかかっていた「位置特定の魔法」というのは、それがどこにあるかを術者に知らせる、いわば「落とし物」を捜すための魔法である。

貴族が、高価な所有物によく使う魔法だが、このような、無くした場合、買った方が安いし手間もかからないレベルのナイフ如きに使うような魔法ではないので、ミィナが混乱するのも仕方がない。

「これはな、レミリアさんがくれたものなんだよ。」

鍛冶屋云々の話は面倒なので省く。間に鍛冶屋を通しただけで、レミリアさんが俺に渡るように画策していたのは間違いないので、この説明でも問題ない。

「位置特定のかかったアイテムを渡すって……まさか?」

「……思い過ごしならいいんだけどな。」

俺がそう言うと、ミィナは俺にもたれ掛ってきて目を瞑る。

遠隔同調を使う場合、リラックスして、目を瞑る必要が有るそうで、俺はベッド代わりなんだとか……一瞬期待しちゃったじゃないか、コノヤロウ。


「……あー、うん。流石はカズトさんね。」

暫くして目を開けたミィナは、少し複雑そうな顔で俺を見る。

「何かわかったのか?」

「うん……。まず、森の、私達が住んでいた洞窟ね、……取り囲まれてたわ。途中トラップにかかっていた人がいたけど、アレ、カズトさんが仕掛けておいた奴だよね?」

ミィナの見た光景では、拠点にしていた場所を大勢の兵士が取り囲んでいたそうだ。

途中、トラップとかがあったため、さっきの段階では、まだ奥まで踏み込んでいないそうだが、踏み込まれるのは時間の問題だろうとのことだった。

「あとね、街で貴族の人とレミリアさんが一緒にいるのも見てきた……。ねぇ、何でレミリアさんが裏切ってるってわかったの?」

「ミィナの力じゃ、見えはしても声は聞こえないんだったか?」

俺がそう訊ねるとコクンと頷く。

「レミリアさんな、俺に言ったんだよ……好みだって。」

「それって……。」

「俺が好み?そんなわけないだろっ!そう言う事言って近づいてくる女はみんな、俺を騙そうとしてくる奴らばっかりなんだよっ!わかるか?合コンで、好みの女の子が『ねぇ?この後ふたりでゆっくりと……』って誘ってきて、別の店で飲みなおしましょうって誘われてついて行った先が、ボッタクリバーだった時の俺の気持がっ!『キミとなら……いいよ』って言われて入ったホテルで、シャワーを浴びて出てきたら、怖いおにぃちゃんが迎えに来てた時の俺の絶望感とか、わかるのかよっ!」

「そんな、泣かなくても……。」

酷い目に合ったのね、よしよし、と頭を撫でてくれるミィナ。

くぅ、天使だよ、この子……これでエッチさせさせてくれれば……。

「と、とにかくだなぁ、あの時、レミリアさんが、何か企んでるって思ったんだよ。そうしたら貴族が狙ってるって情報だろ?今までレミリアさんがくれた情報に嘘も間違いもなかった。だけど、それが、最後の最後で俺を騙すための布石だったとしたら?」

貴族が森狩りをする、これが嘘という事はあり得ない。そんな嘘をつく意味もメリットもないのだから。

だったら嘘はどこにある?

それは日程しかないだろ?

つまり三日後というのが嘘だとしたら?

レミリアさんでも、森にいる俺達の動向はつかめない。いつの間にかどこかに行っているって事もあり得る。

街中に現れた俺達を捕まえる、なんて無茶をせずに、確実に俺達を捉えるのであれば、俺達が街に現れた直後を狙えばいい。

だから俺が姿を現したタイミングで、貴族に連絡を取ったのだろう。

俺に、貴族が狙っているという情報を流した真意は分からないが、「三日後には追っ手が来る」という虚実交えた情報を流すことで、危機感を煽りつつ、まだ余裕があると思わせ、俺の行動をを誘導したかったのかもしれない。

普通の心理として、三日後には追っ手が来ると言われればすぐに逃げ出そうとするだろう。
しかし、夜の移動は危険が伴う。そして、逃げ出すにしてもそれなりの準備というのが必要となる。
幸いにして追手が動き出すのは三日後だ、今夜はゆっくりと休んで、明日準備をして逃げだしても、十分間に合うだろう……。
普通ならそう考える筈だ。

レミリアから連絡を受けた貴族も、そう考えて、朝には包囲が完了できるように、兵達を動かしたはずだ。

実際、俺もミィナも夜視が使えるから、夜の移動も出来たわけで、もし使えなければ、夜が明けてから動いていただろう。

結果として、夜のうちに動くことが出来たので、何とか逃れることが出来たのだが……まさしく間一髪だった。

ただ、過程はどうあれ、レミリアの情報が俺達を救った、というのは間違いないわけで、俺もミィナも複雑な心境だったが……。


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