黒騎士で平凡な生活を送るはずの俺が、王位を継いでしまう物語

蜜みかん

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とある導士の記憶

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「何が神様だ!俺は絶対に、そんな地味で面倒なモンにはなんないからなっ!」

そう叫び、大きな荷物を纏めて神殿から青年が飛び出してきた。
頬に鳥のような刺青があるその青年は、まるで魔導士が好んで着そうな黒いローブに身を包み、憎い敵でも見るように出てきた神殿を睨みつけた。

その入り口には険しい顔をした黒髪の男が腕を組み仁王立ちをしている。

「今すぐお戻りください、でなければ力ずくでも戻っていただきますよ?」

「へぇ?やって見れば?兄上が何を言ったのか知らないけど…俺はもうこの神殿に戻るつもりは無い、俺は世界を守るヒーローになるんだ!」

そう青年が宣言をすると同時に、男の方から”ブチっ””と何かが切れる音が聞こえた。
だが、青年には聞こえていないようでさらに続ける。

「俺は自由に世界を廻って、困っている人間たちを助けて回るんだ。ふふん、どうだ?かっこいいだろう?と、言う事だから。じゃーな、俺の育った愛しの神殿。(よっしゃー、かっこよく決まったぜ!)」

キメ顔のまま、青年は男に背を向け意気揚々と立ち去ろうとしたその時、ガッシリと強く肩をつかまれ後ろへと引き戻された。勿論、掴んでいるのはあの黒髪の男だ。
心なしか、背後から冷気のようなものが流れているのは気のせいだろうか?いや、気のせいではない。

「な~に~が~、”俺の愛しの神殿”だゴルァ…!わがままもいい加減にしろよ、ルナ‼ガキみたいな事を言ってトワ様を困らせるのはやめろ、困っている人間を助ける前に、自分の兄の悩みの種を失くしたらどうだ?あぁん?」

「あだだだだだだっ!痛い痛い痛い‼えっ⁉なにコレ⁉めっちゃ痛いんだけど!骨折、骨折するからコレ!ボキってイクやつだから‼」

「ほぉ?それは大変だ、ならば別の場所を掴まねばなぁ?」

掴まれていた場所は、肩からその上の頭へと移り、青年に見事なアイアンクローをかます男。

「いや、もう掴まなくていい…って!うぎゃあぁぁぁぁぁぁーっ!頭がわれるぅぅぅぅっ‼」

「さぁ、こんな痛い思いをしたくないのであれば、バカな夢を追い求めてないでさっさと神殿に戻りますよ!」

「ふざけんな、このっ、朴念仁め‼離せよコノヤロウ‼」

「あ゛?」

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁーっ‼」

朴念仁と言われ、それにムカついた男はさらにルナの頭を掴む握力を強めた。
ミシミシと頭が軋む音が聞こえ、このままでは頭が割れるのではないかと思ったルナは顔を青くした。

いくら神ではあれど、体が傷つけば痛いのだ。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい‼もうしません、言いませんから‼だから離して!許してください‼」

「……ちっ、また今度言いやがりましたら頭潰しますからね?」

「物騒‼なにこの人、本当に神に仕える神職者か⁉」

漸く解放された(というか投げられた)ルナは、痛む頭を押さえながら男を見た。

「さぁ、もう懲りたでしょうルナ様。帰りますよ」

「分かったよ……、なぁ~んて言うわけないだろう?バァカ‼」

「なっ⁉」

男がルナの反省した表情に納得し背を向けた一瞬の隙を狙い、ルナは持っていた杖を振るって、下界へと移動できる魔法を発動させた。

「俺は俺の夢を叶えるんだ!誰にもその邪魔はさせない、俺は自由に生きるんだっ‼」

「ふざけた事を…、待てっ‼」

「ふんっ‼待てと言われて待つバカがいるかよ‼」

男がルナを捕まえようと腕を伸ばしたが、ルナが消える方が早く、その手は空しく空を切っただけだった。

「くっそぉぉぉーっ‼あのクソガキ‼」

ルナを取り逃がしたことを悔しがる男、あまりにも悔しすぎて地面を勢いよく踏むと、地面に亀裂が入り綺麗に舗装された道が割れた。

そんな彼の側に、優美な服を着た美しい青年が現れにこりと微笑んだ。

「おやおや、どうしたのですかそんなに荒れて。またルナにやられましたか?」

「トワ様…、えぇそうです。私が油断したばかりにルナ様を”また”取り逃がしました。」

うなだれる男に、トワが笑って頷く。

「えぇ、君の悔しがる声が聞こえていましたから大体の察しはついていましたよ。」

「お恥ずかしい限りです」

「ふふふ、そんなに気に病むことはありませんよ。あの子もよい年頃です、自立をするために様々なものを見聞きし、体験することが成長するためには必要です。ですから、いつまでもこの神殿に縛り付けてばかりいてはルナの成長を妨げてしまいます。」

少し寂しいですが仕方ありません、と、トワが言うと、男は諦めたように短く嘆息した。

「分かりました…、貴方様がそうおっしゃるのであれば私は何も言いますまい。」

「ありがとう、でも…もし、僕に何かあれば…その時は…」

「トワ様‼それ以上はお止め下さい」

顔を顰めこれ以上聞きたくないとでもいう様に言葉を遮る男、そんな男にトワは優しく彼の震える手を包み込んだ。

「僕は弱いから、いつか君やゼウス、そしてルナを頼らなければならない時が来るだろう。今だって君とゼウスに頼っている部分が多い、年々自分の神力が弱まっている事も実感しているさ。この神力が尽き眠りについた時、僕が目覚めるまでにこの世界を管理してもらわなければならないから、だからその時は…よろしく頼むよレクター。」

そう悲しげにトワが微笑むと同時に、男、レクターは目を覚ました。

「夢を見ていたのか…」

随分と昔の夢を見ていたものだ、と思いながらレクターは身を起こした。側では自分と同じような異国風の導士服を着た子供がすやすやと寝息を立てている。

時より辺りが揺れるのは、ここが船の中である事を証明している。
室内にある時計を見れば、分針が目的の港へ到着する時刻の30分前を指していた。

「そろそろ降りる準備をしなければいけませんね、マオ、起きなさい。」

「ん~…」

起きる様子のないことが分かり、しばらく寝せておくことにした。もし起きなくても、自分が抱えて船を降りればいい事だ。

「全く、今頃どこで何をしているのやら。見つけ出しだらただじゃおきませんからね‼」

眉間に皺を寄せ、すっかり癖になってしまった溜息を吐き、レクターは下船の支度を始めたのだった。




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