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「オデット……あの、君も最近は……なんか、大人しくなったね」
辿々しく話しかけてきたものの、上から目線の言葉は相変わらずで、オデットは溜息を漏らさずにはいられない。
振り返って声の主を見ると、やはりそこには大っ嫌いな相手が立っていた。
なんとも面倒だと思いながら、オデットは無表情で相手を見上げる。
「お陰様で元気ですよ、前よりも。それより何か用でしょうか?でしたら手短にお願いします」
オデットの気怠げな態度に目の前の男ーーテオドール・マシュー公爵令息は目を見開いた。テオドールは、それまでオデットのこんな冷たい声を聞いた事がなかった。
しかし驚きはすぐに怒りへと変わる。
普段は優しいと評判のテオドールも、反省の色がない元婚約者に対しては、穏やかなままではいられなれなかった。
テオドールは鋭い碧眼をオデットに向ける。
「君は変わらないね。もちろん、悪い意味で。……本当に許してあげるのかい、シェリーシア」
「はいっ。テオ様……私、もう決めたんです……っ」
テオドールの背中に隠れるように立っていた少女ーーシェリーシア・ミレス子爵令嬢が、ビクビクしながらもオデットの前に姿を現した。
庇護欲を誘う見た目でオデットよりも頭一つぶん背の低いシェリーシアは、ゆるふわな桃色の髪を腰のあたりまで伸ばし、濃いピンク色の瞳をうるうるさせている。
小鹿のように震えるシェリーシアの姿は、オデットにとっては滑稽なものでしかなかったが、他生徒たちにとっては悪に懸命に立ち向かう聖女にでも見えているのだろう。
シェリーシアは大きく息を吸い込むと、一気に言葉を出す。
「オデット様っ、最近は意地悪をなさってこないし、反省しているようなので、わたしっ……そろそろ許してあげてもいいですっ!」
シェリーシアの言葉が学園の食堂に響く。ーーそう、オデットたちは学園の食堂にいる。友人の到着を席で待っていたオデットに二人が話しかけてきたのだ。
昼休みの今、食堂は大勢の生徒で溢れかえっているというのに、この二人はそんなことなど気にしない。というよりも、味方が増えるだけ彼らにとっては都合の良い状況であるのだろうから、わざわざ大声なのか。
注目を浴びるのはオデットにとって慣れたことであったが、決して心地よいものではなかった。いつも周りから味方されるのはシェリーシアたちで、オデットに向けられるのは軽蔑や、嘲笑ばかりだから。
「い、今までされたことは……許します。な、仲良くしましょう?」
「どうするんだい、オデット。今、素直に謝罪すれば許してあげるけど……」
シェリーシアの肩を抱きオデットの顔を伺ってくるテオドールの言葉を無視して、オデットは考えに耽る。
そもそも私、悪いことなんにもしてないのよね。浮気を正当化する為に悪者にされたってだけで。
シェリーシアの盛大な勘違いと、テオドールのオデットを諭す優しい言葉遣いが皆に誤解を与えたのは確かだろう。
「オデット、聞いているのかい……?」
まぁ、陰口を叩かれるようになってしまったけれど、信じてくれる人もいるし、気にしなければなんてことない程度よね。
「オデット様、聞いてください……っ」
それに許すって……私が、爪弾きにされた現状にショックを受けているとでも思ったのかしら。そこに手を差し伸べれば、さらに人気が出るものね。こちらは本当に大事な友人が分かって、前より快適なくらいなのに。
「オデット!!」
テオドールの怒鳴り声で、オデットは我に返らざるを得なくなる。
「どうするんだい?謝るのかい?」
目の前の二人は今もオデットの様子を伺っているようであるが、オデットは二人よりもその視線の先に友人を発見したため、軽く目線を二人に戻して早口で言った。
「あ、結構です」
それは強がりでもなんでもなく、心の底から出たオデットの本音であった。
辿々しく話しかけてきたものの、上から目線の言葉は相変わらずで、オデットは溜息を漏らさずにはいられない。
振り返って声の主を見ると、やはりそこには大っ嫌いな相手が立っていた。
なんとも面倒だと思いながら、オデットは無表情で相手を見上げる。
「お陰様で元気ですよ、前よりも。それより何か用でしょうか?でしたら手短にお願いします」
オデットの気怠げな態度に目の前の男ーーテオドール・マシュー公爵令息は目を見開いた。テオドールは、それまでオデットのこんな冷たい声を聞いた事がなかった。
しかし驚きはすぐに怒りへと変わる。
普段は優しいと評判のテオドールも、反省の色がない元婚約者に対しては、穏やかなままではいられなれなかった。
テオドールは鋭い碧眼をオデットに向ける。
「君は変わらないね。もちろん、悪い意味で。……本当に許してあげるのかい、シェリーシア」
「はいっ。テオ様……私、もう決めたんです……っ」
テオドールの背中に隠れるように立っていた少女ーーシェリーシア・ミレス子爵令嬢が、ビクビクしながらもオデットの前に姿を現した。
庇護欲を誘う見た目でオデットよりも頭一つぶん背の低いシェリーシアは、ゆるふわな桃色の髪を腰のあたりまで伸ばし、濃いピンク色の瞳をうるうるさせている。
小鹿のように震えるシェリーシアの姿は、オデットにとっては滑稽なものでしかなかったが、他生徒たちにとっては悪に懸命に立ち向かう聖女にでも見えているのだろう。
シェリーシアは大きく息を吸い込むと、一気に言葉を出す。
「オデット様っ、最近は意地悪をなさってこないし、反省しているようなので、わたしっ……そろそろ許してあげてもいいですっ!」
シェリーシアの言葉が学園の食堂に響く。ーーそう、オデットたちは学園の食堂にいる。友人の到着を席で待っていたオデットに二人が話しかけてきたのだ。
昼休みの今、食堂は大勢の生徒で溢れかえっているというのに、この二人はそんなことなど気にしない。というよりも、味方が増えるだけ彼らにとっては都合の良い状況であるのだろうから、わざわざ大声なのか。
注目を浴びるのはオデットにとって慣れたことであったが、決して心地よいものではなかった。いつも周りから味方されるのはシェリーシアたちで、オデットに向けられるのは軽蔑や、嘲笑ばかりだから。
「い、今までされたことは……許します。な、仲良くしましょう?」
「どうするんだい、オデット。今、素直に謝罪すれば許してあげるけど……」
シェリーシアの肩を抱きオデットの顔を伺ってくるテオドールの言葉を無視して、オデットは考えに耽る。
そもそも私、悪いことなんにもしてないのよね。浮気を正当化する為に悪者にされたってだけで。
シェリーシアの盛大な勘違いと、テオドールのオデットを諭す優しい言葉遣いが皆に誤解を与えたのは確かだろう。
「オデット、聞いているのかい……?」
まぁ、陰口を叩かれるようになってしまったけれど、信じてくれる人もいるし、気にしなければなんてことない程度よね。
「オデット様、聞いてください……っ」
それに許すって……私が、爪弾きにされた現状にショックを受けているとでも思ったのかしら。そこに手を差し伸べれば、さらに人気が出るものね。こちらは本当に大事な友人が分かって、前より快適なくらいなのに。
「オデット!!」
テオドールの怒鳴り声で、オデットは我に返らざるを得なくなる。
「どうするんだい?謝るのかい?」
目の前の二人は今もオデットの様子を伺っているようであるが、オデットは二人よりもその視線の先に友人を発見したため、軽く目線を二人に戻して早口で言った。
「あ、結構です」
それは強がりでもなんでもなく、心の底から出たオデットの本音であった。
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