魔石交換手はひそかに忙しい

押野桜

文字の大きさ
上 下
22 / 59

なんてったってアドル

しおりを挟む
食堂にあらわれたアドルはあっという間に人に囲まれた。

「辺境はつまらなかっただろ?また遊びに行こう」
「ああ、楽しみだな」
「美味しい食事とお酒を出す店を見つけたの。きっとあなた好みよ」
「それはぜひ教えて」
「一緒に行ってくれなくてはだめよ」

待っていてもきりがないので、先に食事を取ってきて食べよう、とルルファスが言う。
美貌のリーリシャリムが隣に座るのはやはりきまりが悪いが、まあ仕方ない。
すっぴんにモノクル、そっけなく髪をくくっただけのマリベルの胆力がうらやましい。
ルルファスとグノンが皿を運んできてくれた。
白身魚と野菜の蒸し物と、腸詰と根菜の煮物だ。
マリベルとリーリシャリムの好物らしい。
イズールは好き嫌いがないのでありがたく食べる。
ホカホカのパオツをリーリシャリムが二つに割って、片方差し出してくれた。

「女の子には少し大きいでしょう」
「ありがとう」

心づかいが嬉しい。これはもてるであろう。
一緒にほの甘いパオツを食べながら顔を見合わせてニコニコしていると、耳のそばで

「待たせたかい?」

と、声がしてびっくりした。
振り向くととても近くにアドルの顔がある。
リーリシャリムがいたずらっ子の顔をしていた。

「本当に待ったよ。食べ終わっちゃった。俺たちは帰るよ?」

イズールもパオツを飲み込んで席を立つ。

「一人で食べるのは寂しいよ。イズール、座っていてくれないかな」
「時間がもうないの。ああ、これをもらって欲しいんだけど」

さりげなく見えるように心がけて、イズールは4枚のチケットを取り出した。

「……こんな貴重なもの、悪いな」
「いただきものなのよ。嫌ならリーと行くわ」
「いや、ちゃんと予定を空けるよ!」

……そんなに人気なのね、と、分からないチケットを改めて見た。
しおりを挟む

処理中です...