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歌劇場に滑り込んで、腹持ちのいい小さな焼き菓子と果実水を買ってもらった。
開演するまでホールで飲食していいらしい。
客として来るのは初めてだ。
「終わったら食事に行こう。夕食になるけど」
じゅわっと蜜とバターが染み出す焼き菓子を二人で急いで食べる。
こんなに美味しいのにせかせか食べてもったいない。
果実水を飲んで一息ついたころ、余裕ができたイズールは周囲の視線にあれ?と思った。
見覚えのある1級文官の男女が近づいてくる。
顔見知りだが話したことはない。
「アドル、ピンを贈ったの?」
「そうだよ」
女性が値踏みするようにイズールを見た。
「ミザドラが泣いちゃうわ」
「それは申し訳ない」
泣いちゃうのは良くない。
自分も予備のピンくらいならある。
「ピン、お返しいたしますよ?」
なぜだか周囲が固まってしまった。
その後ずっとアドルが不機嫌だったが、開演とともに少しずつ笑顔が戻った。
セイランの琴の演奏はやっぱり素晴らしい。
つま弾かれる荘厳な、軽やかな、陽気な、哀しい、美しいメロディに観客が酔いしれている。
最後に子どもたちを合奏させ、それに合わせて弾かれた明るい曲が特に良かった。
名残惜しく、席を立ちたくなくて、座ったままでいるとそっと人がやって来る。
「よろしければ楽屋へどうぞ」
導かれた楽屋ではセイランとネリーが笑顔で迎えてくれた。
「まあ、おめでとう!イズールのお相手は竜使いの騎士様なの?」
セイランの珍しい大声をイズールは慌てて打ち消す。
「ちがうわ、今日だけつきあっていただいたのよ」
「だって胸にピンなんてつけて」
「……ピンがどうしたの?」
二人にびっくりした顔をされる。
「私たちはいただいて何個か持っているけれど……」
「それはすごいね」
「使わないと言ったけれど、お願いだから返さないでくれと言われてしまって」
「それもすごいね」
感心するアドルと困っちゃうわ、という二人に文官として言う。
「それは国の魔術具だから本人が管理するべきではないかしら?」
二人がとまどって、すぐに笑いだした。
アドルがさらに困っている。
自分は何かやらかしたらしい。
やはり庶民の田舎者である。
「私が言っていいのかしら?王都の人なら誰でも知っていると思っていたけれど」
セイランは銀の瞳を愉快そうに細めて言った。
「竜使いの騎士は意中の人に求婚の意味でピンを贈るのよ、自分の相手だっていう印なの」
「……えっ?!」
振り返るとアドルが恥ずかしそうに顔をそむけていた。
開演するまでホールで飲食していいらしい。
客として来るのは初めてだ。
「終わったら食事に行こう。夕食になるけど」
じゅわっと蜜とバターが染み出す焼き菓子を二人で急いで食べる。
こんなに美味しいのにせかせか食べてもったいない。
果実水を飲んで一息ついたころ、余裕ができたイズールは周囲の視線にあれ?と思った。
見覚えのある1級文官の男女が近づいてくる。
顔見知りだが話したことはない。
「アドル、ピンを贈ったの?」
「そうだよ」
女性が値踏みするようにイズールを見た。
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「それは申し訳ない」
泣いちゃうのは良くない。
自分も予備のピンくらいならある。
「ピン、お返しいたしますよ?」
なぜだか周囲が固まってしまった。
その後ずっとアドルが不機嫌だったが、開演とともに少しずつ笑顔が戻った。
セイランの琴の演奏はやっぱり素晴らしい。
つま弾かれる荘厳な、軽やかな、陽気な、哀しい、美しいメロディに観客が酔いしれている。
最後に子どもたちを合奏させ、それに合わせて弾かれた明るい曲が特に良かった。
名残惜しく、席を立ちたくなくて、座ったままでいるとそっと人がやって来る。
「よろしければ楽屋へどうぞ」
導かれた楽屋ではセイランとネリーが笑顔で迎えてくれた。
「まあ、おめでとう!イズールのお相手は竜使いの騎士様なの?」
セイランの珍しい大声をイズールは慌てて打ち消す。
「ちがうわ、今日だけつきあっていただいたのよ」
「だって胸にピンなんてつけて」
「……ピンがどうしたの?」
二人にびっくりした顔をされる。
「私たちはいただいて何個か持っているけれど……」
「それはすごいね」
「使わないと言ったけれど、お願いだから返さないでくれと言われてしまって」
「それもすごいね」
感心するアドルと困っちゃうわ、という二人に文官として言う。
「それは国の魔術具だから本人が管理するべきではないかしら?」
二人がとまどって、すぐに笑いだした。
アドルがさらに困っている。
自分は何かやらかしたらしい。
やはり庶民の田舎者である。
「私が言っていいのかしら?王都の人なら誰でも知っていると思っていたけれど」
セイランは銀の瞳を愉快そうに細めて言った。
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「……えっ?!」
振り返るとアドルが恥ずかしそうに顔をそむけていた。
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