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最終兵器歌姫
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今日はアドルの定期連絡が遅いな、と思っていたのだ。
紺の魔石が不吉に光る。
イズールはバンッと即座に魔石を押した。
「メドジェ軍の急襲あり!至急国王に報告されたし!」
普段とはまるで違うアドルの声にイズールの肌が粟立った。
金の魔石にすぐさまつなぐ。
その直後、第3団の団長の赤の魔石が光った。
「メドジェ軍の急襲あり!至急国王に報告されたし!」
(……一斉蜂起!)
小さなこぜりあいが偶然続いたということではない。
辺境の各地でメドジェ族を中心とした部族が連携を取り合い軍となり、奪われた自分たちの領土を一気に取り戻しに来たのだ。
魔獣の軍にわずかな竜使いの騎士と衛兵がどれだけ対抗できるのか。
このまま王都まで進軍してくるかもしれない。
いや、何よりもアドルだ。
求婚もしていないのに、待っていると言っただけなのに。
金色の王の魔石につないだ2個の魔石は光り続けている。
どんな会話が交わされているか分からない。
今この時にアドルが死ぬかもしれないということしか分からない。
(もう、これしか手段がない!)
イズールは椅子から立ち上がると素早く緊急放送の拡声の魔術具を取り出し、光る3つの魔石につけた。
王都と辺境一帯に自分の声が広がるはずだ。
(ずいぶん長く歌っていないけれど、大丈夫かしら)
太く震える声を長く出す。
手拍子はメーユとは全く違う変拍子。
最も強い魔獣である、青い空と同じ色の瞳を持つ狼の誕生を祝う歌。
狼は元気に育って民を守れ、民は穏やかに勤勉に生きよと諭す平和を願い自然と共に生きるメドジェの歌だ。
父さんが教えてくれたのははるか昔だから、間違いもあるかもしれない。
けれど、この歌は伝わるはずだ。
そして。
(里心を出させまくってやる!)
歌い終わるとすぐさま次の歌を歌い始める。
澄んで柔らかい不思議に伸びると言われた声、ほら、みんなお聴きなさい。
戦を忘れるほど。
王都メーユに昔から伝わる祭の歌だ。
公演で披露された練習しつくした歌だ。
華やかな歌劇場、また行きたいでしょう?
みんな無事に戻って来てちょうだい。
(戦なんて馬鹿馬鹿しいでしょう?)
歌い終わると緊急放送の魔術具を止めた。
どうなったかは分からないが、力が抜けてすとんと椅子に座り込む。
小さな部屋の向こうに人がつめかけているのが分かる。
マリベルが必死に止めてくれていたようだが、ついにドアが乱暴に開けられ、薄暗い小さな部屋に顔を知らない竜使いの騎士たちが頭を突っ込んできた。
茶色の髪に灰色の瞳、だぶついた制服の自分を見て首をかしげる。
「……お前は?」
「2級文官のイズールと申します」
「先ほどの緊急放送は?」
イズールが腹に力を入れ、口を開きかけた瞬間。
「コトリ様は無事に送ってきたよ!」
ふわふわのはちみつ色の長い髪を揺らした、美貌の人があらわれる。
「リーリシャリム、なぜここにいる」
「国賓の対応は俺の役目だよ。今回コトリ様には元メーユ国宰相で現ハポン国王妃ある母上の指示により緊急対応に応えてもらった。コトリ様は国の宝だ、保護している。場所は言えない」
きびきびと答え、いたずらっ子の笑みを浮かべる。
「お前ら、コトリ様に求婚しに来たんだろう?」
「う、うるさい!身重じゃなかったら殴るところだぞ!」
「ばっか、お前、勤務なんだよ、勤務。コトリ様がいらっしゃるならちゃんと前もって言っておいてくれよ」
一目会いたかった、と言いながら引き返していく騎士たちの背中を見て、マリベルがふうっ、と大きく息を吐く。
「お手柄よ、リー」
「……気持ち悪い!」
「果実水を持って来るわね」
「何でもいい……」
寄りかかるリーリシャリムをイズールはそっと支えた。
椅子を譲るとでれっと身体を崩す。
かなり無理をしたのであろう。
「一時停戦になったって、グノンから母さんに連絡がきたんだ」
「……良かった!」
「イズールはお父さんの命の恩人だねぇ」
まだ目立たないお腹に話しかける。
「さあ、大風呂敷を広げたからにはたたまなきゃ。母上に相談だ」
マリベルから果実水を受け取りながらリーリシャリムが言うのでびっくりする。
あれが全部口から出まかせだったなんて。
「まあ、良かった。ちょうど誰に提出しようかと迷っていた資料があったのよ」
リーリアムラー様が一番だわ、とマリベルがモノクルをかけなおしてにっこりする。
「戦なんかとっとと終わらせて、私も早くルルファスの子どもを抱きたいわ」
紺の魔石が不吉に光る。
イズールはバンッと即座に魔石を押した。
「メドジェ軍の急襲あり!至急国王に報告されたし!」
普段とはまるで違うアドルの声にイズールの肌が粟立った。
金の魔石にすぐさまつなぐ。
その直後、第3団の団長の赤の魔石が光った。
「メドジェ軍の急襲あり!至急国王に報告されたし!」
(……一斉蜂起!)
小さなこぜりあいが偶然続いたということではない。
辺境の各地でメドジェ族を中心とした部族が連携を取り合い軍となり、奪われた自分たちの領土を一気に取り戻しに来たのだ。
魔獣の軍にわずかな竜使いの騎士と衛兵がどれだけ対抗できるのか。
このまま王都まで進軍してくるかもしれない。
いや、何よりもアドルだ。
求婚もしていないのに、待っていると言っただけなのに。
金色の王の魔石につないだ2個の魔石は光り続けている。
どんな会話が交わされているか分からない。
今この時にアドルが死ぬかもしれないということしか分からない。
(もう、これしか手段がない!)
イズールは椅子から立ち上がると素早く緊急放送の拡声の魔術具を取り出し、光る3つの魔石につけた。
王都と辺境一帯に自分の声が広がるはずだ。
(ずいぶん長く歌っていないけれど、大丈夫かしら)
太く震える声を長く出す。
手拍子はメーユとは全く違う変拍子。
最も強い魔獣である、青い空と同じ色の瞳を持つ狼の誕生を祝う歌。
狼は元気に育って民を守れ、民は穏やかに勤勉に生きよと諭す平和を願い自然と共に生きるメドジェの歌だ。
父さんが教えてくれたのははるか昔だから、間違いもあるかもしれない。
けれど、この歌は伝わるはずだ。
そして。
(里心を出させまくってやる!)
歌い終わるとすぐさま次の歌を歌い始める。
澄んで柔らかい不思議に伸びると言われた声、ほら、みんなお聴きなさい。
戦を忘れるほど。
王都メーユに昔から伝わる祭の歌だ。
公演で披露された練習しつくした歌だ。
華やかな歌劇場、また行きたいでしょう?
みんな無事に戻って来てちょうだい。
(戦なんて馬鹿馬鹿しいでしょう?)
歌い終わると緊急放送の魔術具を止めた。
どうなったかは分からないが、力が抜けてすとんと椅子に座り込む。
小さな部屋の向こうに人がつめかけているのが分かる。
マリベルが必死に止めてくれていたようだが、ついにドアが乱暴に開けられ、薄暗い小さな部屋に顔を知らない竜使いの騎士たちが頭を突っ込んできた。
茶色の髪に灰色の瞳、だぶついた制服の自分を見て首をかしげる。
「……お前は?」
「2級文官のイズールと申します」
「先ほどの緊急放送は?」
イズールが腹に力を入れ、口を開きかけた瞬間。
「コトリ様は無事に送ってきたよ!」
ふわふわのはちみつ色の長い髪を揺らした、美貌の人があらわれる。
「リーリシャリム、なぜここにいる」
「国賓の対応は俺の役目だよ。今回コトリ様には元メーユ国宰相で現ハポン国王妃ある母上の指示により緊急対応に応えてもらった。コトリ様は国の宝だ、保護している。場所は言えない」
きびきびと答え、いたずらっ子の笑みを浮かべる。
「お前ら、コトリ様に求婚しに来たんだろう?」
「う、うるさい!身重じゃなかったら殴るところだぞ!」
「ばっか、お前、勤務なんだよ、勤務。コトリ様がいらっしゃるならちゃんと前もって言っておいてくれよ」
一目会いたかった、と言いながら引き返していく騎士たちの背中を見て、マリベルがふうっ、と大きく息を吐く。
「お手柄よ、リー」
「……気持ち悪い!」
「果実水を持って来るわね」
「何でもいい……」
寄りかかるリーリシャリムをイズールはそっと支えた。
椅子を譲るとでれっと身体を崩す。
かなり無理をしたのであろう。
「一時停戦になったって、グノンから母さんに連絡がきたんだ」
「……良かった!」
「イズールはお父さんの命の恩人だねぇ」
まだ目立たないお腹に話しかける。
「さあ、大風呂敷を広げたからにはたたまなきゃ。母上に相談だ」
マリベルから果実水を受け取りながらリーリシャリムが言うのでびっくりする。
あれが全部口から出まかせだったなんて。
「まあ、良かった。ちょうど誰に提出しようかと迷っていた資料があったのよ」
リーリアムラー様が一番だわ、とマリベルがモノクルをかけなおしてにっこりする。
「戦なんかとっとと終わらせて、私も早くルルファスの子どもを抱きたいわ」
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